『リリカル恭也&なのはTA』






第46話 「本番まで後少し」





恭也とエリスが改めて協力体制を誓った翌日、この日はリハーサルという事もあって朝からスクール内も喧騒に包まれていた。
そんな準備に忙しく走り回る生徒たちとは違い、スクール内の一室では静かに準備が進められていた。
こちらの準備はコンサート会場の警備の打ち合わせで、また異なる物だが。
改めてエリスから恭也と美由希の護衛の参加が告げられ、現在は見取り図を下に警備の配置や逃走経路などの確認を行っていた。

「エリス、この地下駐車場は?」

「流石に封鎖という訳にはいかないから出入り口に四人ほど配置しているが」

前回の襲撃も地下であった事からエリスもそこは注意していた。
幸いにして入り口が一つである為にそこに人員を配置し、チェックするように指示している。
他にもホールは勿論、通路や階段といった各所にも配置しておりそのチェックと当日の恭也たちの動きについて話し合う。
リハーサルの為に会場へと向かう時間までそれらを入念に行う。

「今日明日のリハーサルで実際の場所を見て、変えるべき所がや気づいた事があったら各自後で報告してくれ。
 それと建物内の不審物に関しては念入りに確認を」

エリスがそう話を締め括ると各自返答を返して動き出す。



会場内でリハーサルを行っているフィアッセたちの元に数人の護衛を残し、恭也たちは会場内を見て回っていた。
死角となる場所の確認や、見取り図だけでなく実際に自分の目で見る事で抜けている箇所がないかを確認する為である。
事前に何か仕掛けられていないのかというチェックもあるが、こちらは別の班が入念にチェックして回っている。

「恭ちゃん、ここ」

コンサートの行われるホールの裏側に当たる通路を歩きながら、美由希は前方に見えてきた階段を指差す。
それに応えるのは恭也ではなく現場の責任者であるエリスだった。

「そこは当日は関係者以外は通行禁止となるし、表からは下の通路を通らないと回って来れないから大丈夫だろう。
 基本、客は正面入り口から入って広間を通ってそのままホールの客席へと向かう事になる。
 注意するのは二階席と更にその上に用意されているVIPルームだが、VIPルームの方は身元が判明しているので問題ない」

「二階へと通じる階段は二箇所だったか」

「ああ。どちらもそう離れてはいないがそれぞれ上と下両方に人員を配置している。
 控え室へと続く通路はさっきの道一本のみだ。両側にこっちも配置済みだ」

事前に聞かされた配置図を思い出し、恭也は一つ頷く。

「どちらかと言うと、控え室からホールまでの移動の間こそ注意が必要だろうな」

「ああ。出来る限り人の出入りを控えてもらっているが、全くなしにはできないしな」

恭也とエリスが幾つか言葉を交わして確認するのを美由希は拗ねたように見る。
先日までは互いにというか、エリスの方が突っ掛かってきて恭也がそれをいなしている感じだったのに、
今日、起きてみたら何故か主にエリスの方の態度ががらりと変わっていたのだ。
昨夜に一体、何があったのかと思わず邪推してしまい、それを慌てて打ち消す。
何も恭也だけに対して態度が変わった訳でもないし、護衛するに辺りくだらないいざこざがなくなるのは良い事である。
ましてや、恭也にとってだけでなく美由希にとってもエリスは幼馴染でフィアッセ同様に姉のような存在だったのだから。
それでもやはりこうして目の前で自分を無視して二人だけで話をされるのを見せられると面白くないものは面白くない。
経験からも今回の護衛の立場からも二人が綿密に打ち合わせするのは納得できるし、
自分はまだその辺りが経験も知識も不足していると自覚しているだけに変に間に入る事も出来ないのだから。
そんな美由希に気付いたのか、恭也がどうしたのか聞いてくるが美由希は何でもないと首を振る。
気持ちを入れ替えるようにそのまま数度頭を振り、よしと気合を入れる。
その仕草をエリスに見られ、目が合うと変わらないなと小さく笑われる。
こちらに来て初めて見たエリスの笑みに、美由希はエリスも変わらないよと思いつつも恥ずかしさに思わず俯く。

「美由希も何か気付いたら遠慮しないで言ってくれ。
 美由希にも期待しているから」

これが恭也なら間違いなく更にからかう所だが、そこは美由希を妹のように可愛がってきたエリスである。
話を変えるようにそう口にする。対する美由希はその気遣いに感謝しつつ、任せてと胸を叩くのだった。



リハーサルは昼食を挟んでも続き、日も暮れ始めた頃にようやくの終わりを見せ始める。
そんな中、不意に恭也の携帯電話が振るえ着信を伝えてくる。
特に問題はないと判断しつつ、エリスに一応断ってから電話を取り出して表示された名前に驚きつつも出る。

「お久しぶりです、美沙斗さん」

恭也の言葉に隣にいた美由希が驚いたように恭也を見るが、恭也は構わず話を続ける。
というのも昨夜に弓華から聞いたばかりの話が頭を過ぎったからである。
僅か一日足らずで何か掴めたのかは分からないが、このタイミングで作戦に従事しているはずの美沙斗からの電話だ。
思わず身構えてしまっても仕方ないだろう。

「久しぶりだね、恭也。積もる話なんかもあるだろうけれど、本題に入らせてもらうよ」

美沙斗の言葉にやっぱり何か関係ある事かと話の続きを促す。

「私たちは今日の昼過ぎに着いたばかりなんだけれど、それ以前に先行していた諜報部が幾つかの情報を掴んでね。
 それによれば、今回の恭也たちの護衛の件だけれど、裏で間違いなく龍が手を引いているよ。
 今さっき拠点としている場所を一つ落としたんだけれど、決定的な証拠は出なかったけれど、それらしき物が数点見つかった」

昨日の今日という速さに驚きつつも、恭也は美沙斗の話を黙って聞く。

「計画の詳細や差出人は分からないけれど、報酬と増援に関する物が見つかったんだ。
 弓華から聞いていると思うけれど、その増援というのがスライサーで、報酬にフィアッセ・クリステラを要求する内容の物だった。
 今、諜報部がこの送り主、つまりは計画の実行犯を割り出そうとしているけれど、話からするにあいつだろうね」

「ファンですね」

「多分ね。そんな訳で、私たち警防隊から数人、コンサート会場へと潜入する事が決まった」

美沙斗が連絡してきた意味をここで理解する。
確かに顔も知らない警防隊に浸入されると、敵かどうか判断がつかない。
つまりは事前に顔見せを極秘裏に行いたいという打診だろう。
恭也がそれを理解したと判断し、美沙斗は更に続ける。

「勝手な言い分になるけれど、私たちの任務はあくまでも敵の排除及び、龍の下位組織の壊滅だ。
 故にそちらに行く人員も三人程度だと思うし、護衛までは手が回らない」

「それは元々、こっちの仕事ですからお気になさらずに。
 ですが、一応現場の責任者は別なので聞いてみないと分かりませんが」

という事で、恭也は電話の内容をエリスへと伝える。

「警防隊から応援が来るのは頼もしいな」

「そう楽観は出来ないぞ。さっきも言ったが、彼らは護衛が目的ではないんだ。
 寧ろ連携なども急造では期待できないだろうしな」

「そうだったな。だが、戦力としては正直、ありがたいからな。
 相手の要求が要求な上にどんな手段を使ってくるか分からないんだ。
 なら、こちらもこちらで使えるものは全て使わせてもらうさ」

そう言ってニヤリと笑うエリスに恭也も小さな笑みを返すと美沙斗に了承だと伝える。
その際、エリスから出された条件に対しても口にする。
護衛の邪魔をしない、何よりも優先すべきは護衛対象の安全とする事である。
指示に関しては初めから無理だろうと特に口にはしない。
ただし、この条件だけは絶対に遵守してもらうように告げる。
最悪な話、フィアッセたちの前まで浸入を許したとして、敵の殲滅を優先にされる訳にはいかないのだ。
それは恭也も同様なので、きっちりと言質を取る事にする。
美沙斗から少し待つように言われて数秒、向こうの隊長の同意を得られた事を告げてくる。
こうして、恭也たちは部分的に警防隊と手を組む事となり、その顔見せが急遽明日行われる運びとなったのである。
その後は任務途中という事で美由希と変わる事無く電話を切る。
少し残念そうな美由希だったが、美沙斗の声も残念がっていた事を伝えてやると、少し嬉しそうな表情を見せるのだった。



 ∬ ∬ ∬



さて、話はがらりと変わり恭也たちが護衛に勤しむ地から遠く離れた日本は海鳴。
今日も今日とて夜が明け、高町さん家の娘さん、なのはの一日は朝の鍛錬から始まる。
朝は弱いなのはがレイジングハートの努力によって目を覚まし、魔法と体力づくりを行う。
常ならば恭也か美由希の監視の下で行われるのだが、ここ数日はどちらも居ない。
故に恭也からメニューを伝えられたレイジングハートが代わりに監視をする事になっている。
そう監視である。目を離すとオーバーワークしかねない為、恭也はレイジングハートに強く言い含めておいたのである。
なのはが風呂に入る為に外した隙にこっそりと脱衣所へと忍び込みレイジグハートを持ち出すという事をしてまで。
流石に実行後に思わず頭を抱えたくなったのを押さえ込み、懇々と説いて聞かしたのだ。
その甲斐あってか、主想いのデバイスも最終的には主の為になるという事と、恭也の行動力に敬意を払い監視を承諾したのである。
そんな経緯があるとは露ほども知らないなのはは、初日にして恭也に与えられたメニューをオーバーしそうになり止められる事となる。
お願いしても聞いてくれないレイジングハートに拗ねるなのはであったが、ここでレイジグハートのとっておきが飛び出す。
何の事はない、こんな時の為にと録画されていた恭也の説教映像をただ見せるというだけではあったが。
とは言え、過去にオーバーワークによって右膝を砕いた経験者の言葉でもあり、
何よりその時の周りの者としての記憶もあった事で以降は素直に従うようになったが。
そんなこんなでなのはの日常は兄や姉からの連絡がない事が少々不満ではあるが、それ以外では特に問題なく過ぎていくのであった。





つづく、なの







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