『リリカル恭也&なのはTA』






第52話 「終わらない夜」





重苦しい空気が流れる部屋の中、フィアッセは座った椅子の上で小さく身体を動かし迫る緊張感を和らげるように小さく息を吸う。
次の瞬間、唐突に最初に感じたのは轟音。耳を劈くように力強く、けれど身体が震えるような重たい音。
いや、実際に自身の身体が、部屋そのものが震えたのだと気付かされる。
音に続いて視界に広がる煙。目晦ましの為に発炎筒でも焚いたのかと思われるそれは、しかし、妙にざらつき煙もまばらである。
その上、パラパラと細かな音と共に、ガラガラと瓦礫が崩れるような音も伴わせている。
その頃には思わず口元を押さえたフィアッセの視界に薄っすらと人影が見え、声を上げるよりも先に護衛たちが動き出す。
明らかに土埃だと分かるそれと、先程の轟音。
そして、爆発音の発生源が通路に面した扉からではなく、隣部屋に面した壁。
動き出す護衛を見ながら、フィアッセも現状を遅ればせながらも把握する。
隣の部屋から恐らくは爆弾によってこの部屋の壁を吹き飛ばしたのだと。
フィアッセよりも早く現状を把握して動き出していた護衛たちではあったが、それでも犯人にとっては遅すぎる動きだった。
最初に奥に居たリーダーが倒され、続けて扉の前から移動した二人が倒れる。
これを見て、フィアッセの傍に張り付いていた残りの二人が手にしていた銃をようやく発砲する。
リーダーは現状を把握する前にやられ、迎撃にあたる扉に居た二人は侵入者の間にフィアッセが居た為に撃てずに近付くしかなかった。
だが、残った二人は皮肉にも侵入者に仲間が倒された事により、遠慮なく全ての弾を吐き出させる。
フィアッセを後ろに庇い、マガジンが空になるまで撃ち続け、様子を窺う。
その間にも新たなに弾を詰め込め銃口を向けたまま前方を見詰める。
ようやく晴れた土埃の先、侵入者がどうなったかを確認するよりも早く、背後から太い男の声がする。

「残念だったな」

二人が後ろを振り返るよりも早く、男の両腕が振るわれ、残った二人の護衛も血溜まりの中に崩れ落ちる。
それを特に感情もなく見下ろし、男は両手に握った刃付きトンファーに着いた血を払うように一度振り、フィアッセへと振り返る。
気丈に男の視線を受け止め、目を逸らさずに強く睨み返すフィアッセだったが、身体が震えそうになる。
そんな様子を男たちを見る目とは違い、僅かに感情の篭った瞳で見詰めながら男はフィアッセへと手を伸ばし、

「フィアッセから離れろ、ファン!」

扉を蹴破り、エリスが部屋へと転がり込んでくる。
注意を引く為に声を出しながらも、片膝を着いた状態で男目掛けて引き金を引く。
両手に握られた銃から放たれた弾丸を、ファンはトンファーで弾き、エリスと対峙する。
両者共に睨み合う事数瞬、エリスは即座に床を蹴り立ち上がりながら横へと回り込む。
銃口をファンへと向けるも、フィアッセが傍に居る為に引き金を引くまでには至らない。
対するファンはフィアッセを人質にするかと思われたが、寧ろフィアッセの傍を離れる。
フィアッセに逃げないように釘を刺しつつ、エリスへと向かう。
これによって発砲できるようになったエリスが即座に両手の銃を撃つが、またしてもトンファーの前に弾かれる。
それでも打ち続け、ファンが充分に近付き獲物を振り被った所で片方の銃を仕舞い、すぐさま懐に手を入れてナイフを取り出す。
虚を付く事には成功したが、エリスが振るったナイフもファンには通じず、逆に残るトンファーが振るわれる。
が、それを待っていたとばかりにエリスは後ろへと跳びながら持っていた銃を放つ。
両腕が振り切られた所へと銃を連発し、これで致命傷とまでいかなくても無力化は出来ると思ったエリスであったが、それは甘かった。
身を捩り、強引に引き戻した右腕だけで当たる弾だけを見切って弾く。
僅かに態勢を崩しながらもエリスへと視線を飛ばして牽制し、すぐさま態勢を整える。
時間にして数秒と掛かっていない一連の動きにエリスは追撃ができず、思わず唇を噛み締める。
それだけではない。今の攻防でマガジンが空になり、装填しなければならない事態になってしまった。
その上、片手には慣れないナイフを握っており、本来の戦闘スタイルに戻す為には銃と交換しなければならない。
やはり俄仕込みは危険だと思いつつ、銃弾の装填に関しても考える。
が、その隙を付かれる事も考え、エリスはまだ弾があるかのように振る舞い銃口を向ける。
しかし、いつまでもこのままではいられないのはエリス自身がよく分かっていた。
相手はこちらが銃だからと躊躇するような人物ではない。寧ろ、弾が空になった事にさえ気付いている可能性もある。
ナイフはその場に放り捨てればそれで構わないが、いかに素早く弾の充填を行うか。
さてどうしようかと思考を巡らせ始めたその時、ファンがその顔にわざとらしい笑みを浮かべる。
そして、優しげな口調で唐突に語りかける。

「その顔、よく覚えているぞ。
 プレゼントは気に入ってもらえたかな、お嬢ちゃん」

ファンの嘲るような笑みとその言葉を聞いた瞬間、エリスの脳裏に自らの幼かった日の姿が甦る。
大勢の大人たちに囲まれ、少し疲れた様子の幼なじみ。
それを眺めながらそんな輪の中から外れ、一人通路を歩いていた時にソレと出会ってしまった。
顔に笑みを張り付け、けれども決して目だけは笑っておらず、幼い自分へと近付いてきた男。
だが、当時の自分に男のそんな細かな所まで気付けるはずもなく、幼なじみが喜ぶだろうと思い受け取ってしまったのだ。
爆弾の入れられたぬいぐるみを。
大人たちに囲まれてつまらなさそうにしているフィアッセの元へと走りそれを渡そうとして、
そこに士郎が大声を上げて近付くのが見えた。
その次の瞬間、大きな物音と抱きつかれる感触、そして、その腕の中で襲い来る衝撃を感じた。
耳がまともに機能しない中、最初に映ったのはいつものように微笑もうとする士郎の顔と、
同じく腕の中に抱かれた自分と同様に何が起こったのかよく分かっていないフィアッセの顔。
そして、士郎の肩越しに見える炎の揺らめき。それに照らされて額から血を流しながらも自分たちを気遣う士郎の優しい眼差し。
気付かなかったとはいえ、それは全て自分のしてしまった事で。
倒れる直前、自分の所為じゃないと士郎は言ってくれたが。
この事件でエリスは父も士郎も亡くし……。
それら全てが一瞬の内に思い出され、エリスは腹の底から声を上げて向かっていく。

「あぁぁぁぁっ!」

作戦も何もない、ただの吶喊。
そのあまりにも無防備な攻撃は、寧ろ反撃してくれと言わんばかりなのだが、エリスは気付かずにファンへと向かう。
ナイフと弾の入っていない銃を鈍器に代えて殴り掛かる。
そんなエリスをトンファーで狙い澄ますファンだったが、腕を振るうよりも先にその腕にフィアッセが飛び付く。

「ちっ」

フィアッセが傷付くことを嫌ったのか、ファンはエリスの攻撃を残った片方のトンファーで全て受け止め、腹を蹴って引き離す。
その際、攻撃を受け止めたトンファーでエリスの首へと追撃を入れる。
対し、フィアッセに対してはそのままにしておき、自由な手を懐へと伸ばして地面を転がったエリスに向けて銃を抜き放つ。
それに気付いたフィアッセがそちらの腕に飛びつこうとするのを押さえ、覗き込むように目を合わせる。

「大事な幼なじみがこれ以上怪我をするのを見たくないのなら、大人しく付いて来い。
 嫌なら……」

言って未だ蹴られた腹を押さえて立てずにいるエリスの傍に銃弾を撃ち込む。
それを見せられ、フィアッセは大人しく首を縦に振るしかなかった。
それを見たファンは満足そうに頷くと、入ってきた時はと変わり、今度は扉から出て行く。
それらの様子をつぶさに見ていたエリスは未だに力の入らない体を何とか起こそうともがき、フィアッセに手を伸ばす。

「ま、待て、ファン……」

何とか搾り出した声にファンは一度だけエリスへと視線を落すも、すぐにフィアッセの腕を引っ張って部屋の外へと出て行く。
遠ざかる足音を聞きながらも、エリスの意識は朦朧とし混濁していく。
闇へと落ちる感覚の中、どこか懐かしい声を聞いたような気がした。



薄暗がりの中を駆けながら恭也は相手の様子を窺う。
こちらへと攻撃を仕掛けてくる素振りはなく、何処かへと誘っているようにも見える。
とは言え、追う側としてはどうする事もできず、その後ろ姿を追うしかない。
前方数メートル先を行くハイノが不意に足を止めてこちらへと振り返ってくる。
用心深く周囲を警戒しながら恭也も足を止め、改めて向かい合う。
ざっと探ってみた所では、新たな増員による待ち伏せなどは感じ取れない。
ならば罠の類かと視線だけで辺りを見渡す。
先程まで駆けていた木々が生い茂る林の中という状況に変化はない。
多少、この辺りは木々もまばらで僅かながらの空間が出来上がっており、月明かりのお蔭で先程よりも視界も良い。
罠を仕掛けるにしてもここに来るまでに通って来た道ではない道の方が見つけ難いのは明らかである。
が、ハイノが止まったのはこの僅かばかり開けた場所である。
得物は手甲である以上、障害物が少しでもない場所を望んだとも思えないが。
その場に踏み込む数歩手前で止まった恭也に対し、ハイノは黙して語らず、ただ構えて見せるだけである。
今までとは違い、左半身を半歩前に出し、身体を曲げて左腕を顔の横半分が隠れるように持ち上げる。
それを盾とするかのように身を屈め、右腕は腰の横にだらりと下げる。
半身状態故に右腕が恭也からははっきりと全てを見る事は出来ない。
試しに投げた飛針は左手で弾かれるも、ハイノはそれ以上は動かない。
カウンター狙いとも取れるその動きに、しかし恭也は動くしかない。
小太刀を手に足を踏み出した瞬間、僅かだがハイノの身体が小さく動く。
次の瞬間、ハイノを中心として一メートルの範囲より外、開けたその場所の地面が下から吹き上げられる。
土煙が上がる中、ハイノは右手に握っていたその手に隠れる程度の大きさの起爆スイッチを放り捨てる。

「悪く思うなよ。これも仕事なんでね」

土埃の向こう側に動く気配がないのを確認しそう嘯くと、視界が開けるのを待ってその場を立ち去ろうとする。
その頭上に影が差し、ハイノが見上げれば落下してくる影が。
影はその勢いそのままにハイノ目掛けて蹴りを繰り出す。
流石にそれを受け止める気にはなれなかったのか、ハイノは後ろへと跳んで躱す。
その後を影も追い縋り、左右の拳を繰り出して攻め立てる。
その攻撃を左手で捌き、右手で反撃を繰り出すハイノから距離を開けて二人は対峙する。
そんな二人を離れた所から見ている者たちがいた。

「どうしてここに?」

自分の頭上を見上げてそう疑問を口にしたのは恭也であった。
問いかけられた大男、ドグはそんな恭也の質問に答える。

「無線で状況を聞いてな。こっちの方が周りを気にせずに好きに暴れられるとあいつが言ってな」

言ってハイノと対峙する女性、スゥを指差す。
こちらの会話が聞こえていた訳ではなく、何となく空気で察したのか、ハイノへと注意を払いながらも軽く手を振ってくる。
それを眺めながら、ドグは感心したように恭也へと話し出す。

「いや、正直地面が爆発した時は駄目かと思ったんだがな。
 まさか、直前に気付いてアレを避けるとは。流石、美沙斗が認めるだけの事はあるな」

最後の言葉に若干、嬉しさを覚えつつも恭也は偶々だと口にする。

「ただ危ないと思って後ろに力いっぱい跳んだだけですよ。
 爆破地点からも少し距離があったのと、爆風のお蔭で大きく吹き飛ばされるだけで済みました。
 小さな傷は幾つかできましたけれどね」

言いつつ、恭也はその時の事を思い返す。
自ら跳んだ事と爆風で茂みの中へと吹き飛んだものの、大きな傷もなくすぐに反撃に転じようとしたその時。
行き成り後ろから肩を掴まれ、咄嗟に攻撃を返してしまった。
が、それは大きな手に受け止められ、それがこのドグのものだった。
恭也が何か言うよりも早く、スゥがドグに命じ、ドグもすぐにそれに応じて行動する。
複雑な命令ではなく、ただドグがスゥを上空に投げただけ。
それにより頭上から強襲を仕掛けたのである。
思い出し思わず苦笑しそうになるのを堪える恭也に、ドグが話を続ける。

「そんな訳でここは俺たちに任せて、お前は会場に戻れ。
 ここは無線の範囲外だから、今の状況も把握できていないだろう」

「何かあったんですか」

「敵さんがかなり内部まで入り込んでいて、戦況が膠着しているらしい。
 前にも言ったが、俺たちは守りながらってのはあまり得意じゃないんでな。
 あっちはお前に任せた」

ドグの言葉に恭也はすぐに頷く。
恭也の目的は敵を倒すことではなく、あくまでもフィアッセを守る事。
故に迷う事なく後を頼むと、すぐさまこの場を立ち去る。
その立ち去る背中を一瞥し、ドグは激しい攻防を繰り広げているスゥの援護をするべく、自らもハイノの下へと赴くのだった。



フィアッセの楽屋に程近い美沙斗には、少し前に聞こえてきた爆発音がしっかりと届いていた。
とは言え、目の前にいる日和はそう簡単に通してくれそうもなくただ報告するしか手立てはない。
逸る気持ちを抑えつつ、美沙斗は何度目かの攻撃を仕掛ける。
フェイントや徹を込めた攻撃を繰り出し、生み出した隙に本命の一撃を叩き込もうとするのだが。

「はぁっ!」

裂帛の気合と共に振るわれる力任せの一撃。
それらの前に全てその攻撃は届かない。その攻撃がフェイントだろうが関係なく、渾身とも思える一撃で弾かれる。
どんなに隙を作り出しても、力のみで操る棒を引き戻し全てに反応して見せる。
二メートルはあると思われる棒故に場所の広さからも満足に振る事も出来ないと考えていたのだが。
その思惑は見事に裏切られている。
別段、操る術が上手いという訳ではない。こちらもまた、力任せな解決法である。
つまり、ただ単に力の限りに振り抜いているだけ。
だが、その力が予想以上で壁に引っ掛かろうとも振り抜き、結果として日和の周辺は壁、床、天井を問わずに幾つもの傷が出来ている。
それでも美沙斗は小太刀を繰り出し、ひたすらに攻撃を繰り返す。
当然、それには狙いがあり、ようやく待ち望んだそれが生まれる。
美沙斗の突撃に対して、横殴りに振られる棒。
それが今までとは違い、壁の途中で振り切られる事なく止まる。
そこには壁だけでなく、柱が配置されており、流石に簡単には振り抜けないようだった。
誘導に成功した美沙斗は止まる事無く、止めを刺すべく小太刀を振るい、

「せいっ!」

「つっ!」

眼前に繰り出された棒の一撃をどうにか受け止める。
流石にそこまで予想していなかった美沙斗は渋面を作るも日和との距離を計る。
対する日和は、今しがた攻撃を繰り出した棒を片手に握り、残った手で壁に埋まったままの棒を引き抜く。

「まさか、真ん中から二つに分かれるようになっているなんて思ってもなかったよ」

「でしょ〜」

美沙斗の言葉にだるそうに返しつつも、日和は二本となった棒を左右に持ちただその場に立つ。
互いに距離を計り、やはり先に動いたのは美沙斗だった。
身を低くして距離を詰め、ニ刀の小太刀を振るう。
対する日和も二本の棒で応戦する。
長さが半分になったからか、多少、一撃の威力は弱くなっているものの、その分小回りが利くのか先程よりも速い。
おまけに刀と違い刃筋を立てる必要もなく、刃を返すといった事を必要としない。
手数や技能こそ美沙斗の方が上だが、単純な力では日和に分がある。
攻守を入れ替えながらの攻防が繰り返される中、日和が不意に蹴りを繰り出す。
咄嗟に腕で庇うのが間に合うものの、態勢が崩れてしまう。
その頭上から棒が振り下ろされる。
そこへ背後から何かが飛来し、日和はそれを払う。
その隙に美沙斗が日和から距離を開ける。

「大丈夫ですか、美沙斗さん」

「ああ、助かったよ、恭也」

日和を襲った何かは恭也の投げた飛針であった。
恭也は美沙斗の隣に立つと、目の前に立つ日和を見ながら美沙斗に問う。

「フィアッセは?」

「分からない。私はここで彼女の相手をしていたからね。ただ、報告した通り、少し前に爆破音がした」

それっきり何もないという。
そう、フィアッセの傍に居るはずの護衛からの報告もないのだ。
フィアッセの居る楽屋に行くには日和の後ろにある通路を通るしかない。

「あー、また増えたー」

「また?」

「爆破音がして暫く後にエリスさんがここを通っていった」

なるほどと頷きつつ、恭也はどうやって通るか考える。

「因みにエリスはどうやってここを?」

小声でそう尋ねる恭也に美沙斗は苦笑を浮かべ、すぐに分かると口にする。
どういう事か聞き返すよりも早く、その答えは分かる事になる。

「二人も相手にするのは面倒臭いから、どっちか一人なら通っても良いよー」

やる気にない口調でそう日和本人が口にする。
思わず何も言えなくなる恭也に対し、美沙斗はほらねと苦笑を見せまま口にする。
やる気がないのなら、それこそ戦う事自体を止めれば良いと思うが、ここで美沙斗が足止めされている以上、それはないのだろう。
ともあれ、行けるのならそれに越した事はないと恭也は美沙斗を見る。
その意を汲み取り、美沙斗はここは任せてと頷く。それを受けて恭也は日和に注意を払いながらもその横を通り抜けていく。
何かするかと最後まで用心していたのだが、思ったよりも簡単に通過出来た事に拍子抜けしつつも恭也は再び気持ちを引き締める。
流石にここから先はそうもいかないと。
そして、恭也は目にする。
フィアッセの楽屋の傍の通路。そこに穴が開いており、下の階へとロープが垂れているのを。
恐らくはここから逃げたのだろう。だとすれば、フィアッセは既に捕らわれたという事か。
熱くなりそうな頭を振り、冷静に状況を見る。
すぐに報告を上げつつ、後を追おうとしまだ部屋の中に気配が一つ残っているのを感じ取る。

「エリスか?」

少し悩んだ後、恭也は楽屋へと踏み込み、その惨状に思わず息を飲む。
大きく開けられた壁の傍には血溜まりが広がり、部屋の中央にも同様のものが見受けられる。
そんな中、唯一動いていたのがエリスだった。
気絶しているらしいが、大きな怪我は見られない。その事に安堵しつつ恭也はエリスに声を掛ける。
やがて、数度目の呼びかけに応えるようにエリスの目が開き、ぼにゃりとやや焦点の合わない目で恭也を見詰める。

「士郎さん……?」

「しっかりしろ、エリス」

「っ……恭也か。すまない。フィアッセを攫われた。
 私はどれぐらい気絶していた。フィアッセは? ファンは?」

「落ち着け。とりあえず、立てるか」

「ああ、問題ない」

恭也の手を借りて立ち上がり、エリスは恭也へと現状をもう一度尋ねる。
が、恭也自身も今、ここに来たばかりで状況は分からない。ただ爆破音から大体どれぐらい時間が経ったのかを伝える。
それを聞き、エリスは自分が気絶してフィアッセが攫われてからまだ数分も経っていないと判断する。

「とりあえず、あそこから下に逃げたのは間違いないんだな、恭也」

「恐らくな。ここから外に出るには必ず美沙斗さんの居た通路を通らないといけないから」

「という事は、今ならまだ間に合うか」

二人は顔を見合わせて頷き合うと、階下へと空けられた穴へと飛び込み、ファンの後を追うのだった。





つづく、なの







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