『リリカル恭也&なのはTA』






最終話 「ひとまずの平穏」






なのはの自室。今、そこでなのはは少しだけ考え事をしていた。
それは昨日、恭也たちがイギリスへと行った事ではなく、

「うーん、何から話せば良いかな。あ、お兄ちゃんが居ない理由からの方が良いかな。
 それから……。ねぇ、レイジングハート、何を話そうか」

フェイトへのビデオレターの内容に付いてだった。
尋ねたなのはへとレイジングハートは助言を与えるべく声を返す。

【マスターの近況をお話してあげれば良いかと思いますよ。きっとそれを楽しみにしていると思います】

「ありがとう、レイジグハート。それじゃあ、撮るよ」

レイジグハートの言葉に笑みを溢すと慣れた手付きでビデオを操作して録画を始める。

「フェイトちゃん、久しぶりです。にゃはは、こうやって改まって挨拶から始めると、まだ緊張しちゃうね。
 えっと、まずは最初にごめんなさい。今回はお兄ちゃんは居ないの。あのね、フィアッセさんってもう一人のお姉ちゃんがね……」

こうしてなのはは話し出す。
まずは恭也不在の理由を簡単に説明し、それから自身にあった出来事などを表情をころころと変えて。
時に身振り手振りまで混じるそんななのはの仕草もフェイトの楽しみの一つだったりするのだが、勿論、これは本人には伝えてない。
言って変に意識されて見れなくなると困ると思ったからなのだが、そんな事は知らずになのはは楽しそうに話していく。
そして、ようやく話に区切りが付いた所で、なのはは徐に寝転がると腹筋を始める。
それを数回した所で動きを止めて、

「えへへ、お兄ちゃんにこうやって鍛錬してもらっているんだよ。
 前までは出来なかった腹筋も今では十回以上出来るようになったんだ。
 あんまり魔法の鍛錬って感じじゃないけれどね」

言って舌を出して笑うなのはを元気付けるように、それまで黙っていたレイジングハートが励ますように話し掛けてくる。

【マスターは強くなってますよ】

「ありがとう、レイジングハート。あ、そうだ。今度、フェイトちゃんの鍛錬も良かったら見せてね。
 どんな事をしているのか見てみたいな。あ、でも無理はしなくても良いからね。
 それから、それから……」

その後はまた世間話へと話題が戻り、なのははフェイトへと語り続けるのだった。

「ふぅ、撮影終わりっと。にゃはは、ずっと喋ってて喉が渇いちゃったよ」

ビデオを止め、なのははキッチンへと向かう。ふと、何となく中庭へと足を向け、そこにある盆栽や花壇を見詰める。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、頑張ってね」

ここには居ない二人に届くようになのはは二人が大切に育てている物へと代わりに声を掛ける。
詳しくは聞いていないが、きっと自慢の兄と姉は同じく姉と慕う女性を助けてくれるという事を疑わず。



 ∬ ∬ ∬



イギリスでのコンサートも全日程を終え、フィアッセたちCSSメンバーは次の地へと向かうべくその準備に追われていた。
その間に今回の襲撃の黒幕も判明し、襲撃を依頼された者たちの証言やその証拠が多数見つかり無事に逮捕された。
同時に依頼された実行犯としてその組織が特定され、こちらも全員がお縄となった。
動機などに関しては現在、取調べの途中との事だが恭也たちにとってはそこよりも他に仲間は居ないという事の方が重要であった。
こうして数日間の護衛は無事に終えたかのように思われたが、幾つかの懸念事項も実は残していた。
その一つに関する者が今も椅子に座りテーブルに突っ伏した状態で寝息を立てている。

「とりあえず、この子に関しては警防隊預かりとなったようだよ。
 何と言うか、精神年齢が低いのが認められたようでね」

同じテーブルに着いた美沙斗が眠る日和を見詰めて苦笑しながら教えると、すかさず美由希が口を出す。

「厳しくするだけは駄目って事だよね、母さん。恭ちゃん、よく聞いててよ。
 厳しく……痛っ!」

「時には厳しくというのも大事だがな。
 まあ、突き放すだけじゃなく、優しく包み込むのも大事というのは分からなくもないがな」

「うぅぅ、私はその優しさに触れた事はあるのでしょうか」

「何を言う。優しさならあるだろう。
 何せ、お前には優しさと愛情を持って厳しくしているじゃないか」

「愛情だなんて、そんな……。じゃなくて、結局は厳しくしてるって言った!」

「気のせいだ」

「違うよ」

「なら幻聴だろう」

「絶対に違うよ!」

「二人ともその辺にしておけ。それで美沙斗さん、お話というのは彼女の件だけですか」

流石にエリスが我慢できなくなったのか、二人を止めて美沙斗へと確認するように尋ねると美沙斗は話を戻す。

「いや、まだもう少しだけあるんだけれど、とりあえずは彼女の処遇について、それで良いか聞いておこうと思ってね」

特に問題も起こさないのなら別に構わないと恭也は美沙斗たち、香港警防隊での今回の事件に関する報告を聞く事にする。
元々、美沙斗たち警防隊がイギリスまでやって来たのは龍というテロ組織の存在を掴んだからに他ならない。
そして、その龍がCSSのコンサートに関わっていると思われる事から美沙斗たちが派遣されたのだ。
だが、今回の逮捕劇で龍という名は一切、表には出てきていない。
実行犯に確かに現地の組織の人間の姿があったのは確かである。
が、その襲撃犯の半数が龍の下位組織の者たちであったにも関わらずである。
とは言え、今回の襲撃に関わった龍の人間は残らず捕まるか、もうこの世には居ない。
龍に関しては拠点を叩いた警防隊側に全てが委ねられた形となったからである。
もっとも依頼者は龍が関わっている事までは知らなかったようだが。
ともあれ、そんな訳で日和の身柄は今後は警防隊に移される事となり、その後はこれからの態度次第となっている。
とは言え、人手不足を常に言われる組織である。日和の実力からすればそのまま入隊となる可能性も高い。
一方、彼女の師であるハイノに関しては一応の取引が認められたとは言え、日和ほどの自由は与えられていない。
それでも彼が提供した情報はかなり高く、今頃は本部も忙しく動き回っている事だろう。

「まあ、ざっとこんな所かな」

美沙斗がそう話を締め括ると、恭也をじっと見る。
気付いたかどうか問いかけるようなその目に、恭也は小さく頷く。
見れば、エリスも同じように頷いており、美沙斗が何故話してくれたのかを理解する。
一方で美由希はそんな三人の様子から何かあるのだろうとは検討がついてもその意味までは分からずに首を傾げるばかり。
見かねた美沙斗が娘に優しく説明してやる。
もう少し遅ければ、恭也の体罰付きの説明になった可能性もあり、美由希は二つの意味で美沙斗に感謝の言葉を投げる。

「今回の龍の動きが、ただコンサートツアーの邪魔をするという計画に乗っただけなのか、それとも利用したのかという事だよ」

「えっと、乗っただけなら依頼者が失敗した以上はもう何もしないって事?」

「恐らくはな。単に前回の日本での襲撃計画の失敗の意趣返しみたいな物だったとも考えられるしな」

「けれど、問題は利用したという場合だね。
 その場合、連中の目的が達成できていないのなら、また何か仕出かすかもしれない。
 尤もその時はコンサート襲撃ではなく、違う事をするかもしれないけれどね」

「それってまたフィアッセたちが狙われるかもしれないって事!?」

恭也、エリスが付け加えた話に美由希は思わず声を荒げてしまうも、すぐに落ち着くように言われる。

「あくまでも可能性の話だ。
 ハイノの話によると、目的は前回の襲撃でそれまで利用してきた美沙斗さんを失う切欠となった人物を探していた節があるそうだ」

「それって恭ちゃんの事だよね」

「私を一対一で破った人物の確認、及び報復が最終目的といった所だね。
 散々、私を利用してきたんだ、下位組織の一つや二つで済んで良かったと思えば良いのにね」

「一つや二つではないと聞いてますけれどね」

美沙斗と恭也のやり取りを黙って聞きながら、美由希はこれからどうなるのかと尋ねる。

「特に何も変わらないだろうな。今回もまた邪魔をされたが、それが同一人物かまでは分からないだろうし。
 何せ、今回はマクガーレンセキュリティに警防隊までが護衛に付いていた訳だしな」

「まあ、あくまでも予想の一つと言う事だよ。実際に何を考えていたのかなんて分からないしね」

不安になる事を言うだけ言っといてと口を尖らせる美由希に、恭也は至って真面目な表情になる。

「そんな訳で俺はもう少しだけフィアッセに付いて行く事にした」

「え、じゃあ、私も一緒に……」

「いや、お前は先に帰れ。普通に学校もあるし、こちらは万が一だからな。
 一、二ヶ月程何もなければ戻るから」

「いや、学校なら恭ちゃ……」

「それと、なのはの基礎鍛錬を見てやってくれ」

美由希が反論する言葉をやや強引に遮ってそう言う。
むーとまた口を尖らせるのだが、恭也はポンポンと珍しく美由希の頭を優しく撫でる。

「確証もない上に、さっきも言ったように殆どもう可能性もないんだ。
 だったら、お前は本業である学生を全うしろ」

「そうだよ、美由希。学生時代って言うのは意外と貴重な物だよ」

「うー、お父さんと結婚する為に中退した母さんに言われても説得力がないよ」

「……私だって一応、少しの期間とは言え学生だったんだ。その経験から言っているんだよ。
 それに、私にとってはそれだけ静馬さんとの……って、それは良いから」

自分で言ってて顔を赤くする母を見て、思わず可愛いと思いながらも美由希は渋々と納得する。

「分かったけれど、恭ちゃんもエリスもあまり無茶はしないでね」

美由希の言葉に二人揃って頷く。
こうして、美由希は帰宅の準備を、恭也はエリスと共に今後の警備に関しての準備をする為に席を立つ。
そんな中、既に準備を終えている美沙斗だけが結構騒々しかったにも関わらずに未だに眠る日和を呆れたように眺めるのだった。



 ∬ ∬ ∬



「……というような事があってね。
 エイミィさんも悪気があった訳じゃないんだけれどね」

フェイトがクロノが忙殺された上に肝心のリンディが休日だったという話をしながら笑うのを見て、なのはは自分も見たかったなと呟く。
が、それに対する返答はフェイトからはない。暫く口を閉ざした後、新たな話題を口にしている。
それもそのはずで、フェイトはテレビ画面の中。つまり、これは恒例となっているフェイトからのビデオレターなのだ。
いつもなら恭也も一緒に見るのだが、今は家に、いや、日本に居ない。
詳しい事までは聞いていないが、もう一人の姉を助けるべく兄と姉がイギリスへと向かった事は知っている。
それを少し寂しく思いつつも誇らしくも感じ、なのはは気持ちを切り替えてビデオの続きに見入る。
その中には映像が急に切り替わり、フェイトとクロノの模擬戦の様子が映し出されている場面があった。
先程よりも画像が悪いそれをじっとなのはは食い入るように見詰める。
と、画面の中で両者の動きがピタリと止まる。
向かい合っている訳ではなく、フェイトは刃を出したバルディッシュを振り下ろしており、明らかに戦闘の途中である。

「ここなんだけれどね」

と、そこにフェイトの声が聞こえ、画面が少し揺れてフェイトの姿が見える。
どうやら、模擬戦の様子を部屋で流して、それを撮影しているらしく、手にはリモコンも握られている。

「私、これで決まったと思ったんだけれど、この後この攻撃は当たらず、逆にクロノにカウンターを貰って負けちゃったんだ。
 うぅ、強くなった所を見せようと思ったのに。恥ずかしいけれど、特訓の様子を今度は送るって約束だったから」

言って再び再生したのか、画面の中で再びフェイトたちが動き始める。
が、フェイトの言ったとおり、その後はクロノのカウンターが決まってフェイトが吹き飛び、
そのまま近付いたクロノがデバイスを突きつけた所で映像が終わる。
そういて再び画面に私服を着たフェイトの姿が映る。

「でもでも、私も強くなっているんだよ。本当だよ、なのは」

「うん、分かるよフェイトちゃん。前に闘った時よりも早くなってる」

先程のやや移りの悪い映像を思い出しながら、なのはは画面のフェイトの言葉に頷く。
その手が首から下がるレイジグハートへと伸びている事にも気付かず。
その後はまた近況の報告で裁判の終わりなどが語られる。
そしてふと沈黙が降りたかと思えば、フェイトが前のめりになる。

「あのね! 実は近々、 アースラの巡回でなのはの世界に行けるかもしれないの。
 私も嘱託魔導師として一緒に乗れる事になっているから、えっとえっと。
 そ、その時に会いに行くね。時間があったら、なのはが話してたアリサやすずかにも会ってみたいかも。
 早く会いたいな」

珍しく少し興奮した様子で、それでもとても嬉しそうに語るフェイトを優しげな眼差しでアルフは見詰める。
本当に良かったとしみじみと数ヶ月前の事を思い出しながら。
アルフの見守る中、フェイトは更になのはへと話し掛ける。
だが、この時は思いもしなかっただろう。
確かに再会できる日は思ったよりも早く、けれど二人の再会は予想もしていない形となるという事を。
だが、それはもう少しだけ先の話である。
今はただ、魔法を持ちながらも心優しき少女たちは穏やかな日々の中に。





おわり




<あとがき>

ようやく最終話までごきつけた。
美姫 「かなり遅かったわね」
うぅぅ、すまん。一応、話自体は当初の予定通り行ったけれど。
美姫 「このTA編ではグラキアフィンの出番が少ないわね」
まあ基本、地球での事件ばかりだからな。極力デバイスの出番はないかな。
とは言え、戦闘以外ではある意味、活躍というか目立っていたと思うんだが。
美姫 「まあ、色々と改造されたというか、したわね」
まあ、自分で自分を弄れるという珍しいデバイスだからな。
美姫 「で、As編に続くような形で終わったけれど、実際に書くの」
はははは、分かりません!
とりあえず、このTAはAsまでの期間を書いてみようと思ったからだしな。
As前で終了の予定だったし、その先までは考えてなかったよ。
美姫 「まあ、ともあれこれにてTAは終わりって事ね」
おうともさ。ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。
美姫 「ありがとうね〜」
ではでは。



……ふぅー、あとがきも終わったし。
美姫 「そうね、これで久しぶりにお仕置きが出来るわね」
あれ? 今の流れで何でそうなるの?
美姫 「だって、やたらと完結するまで長かったじゃない」
そ、それは言い訳できないけれど……。
美姫 「という訳で、楽しい楽しいお仕置きタイムよ〜」
俺は楽しくないーー!







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