『リリカル恭也&なのはTA』






番外 「ありきたりな感じのロストロギア発見」(※注 本編には関係しませんよ)





世界は一つだけではない。
割とよく聞く言葉だが、それを口にする者の中で果たしてどれ程の物がそれが事実だと認識しているだろうか。
当然ながら、他の世界と言うものを見た事がない以上、絵空事と言われればそれまでである。
が、事実として世界は一つではなく幾つも存在し、それを認識している人々も確かに存在しているのである。
悲しいかな、幾つもの世界があれど人の性というものは変らないのか、世界が変れど犯罪は存在する。
となれば、当然の帰結としてそれを取り締まる組織も出てくるのだが、当然のように一つでも広い世界が多数。
その人手不足は押して知るべしであろう。
故にという訳でもないが、優先される事態と言うものが弥が上にも存在する。
その一つに既に滅びた世界の発明品、それもただの品ではなくとてつもない力を秘めていたり、
使い方を誤るだけで簡単に世界を滅ぼしかねないような物まで存在しており、
それらを総じてロストロギアと名付けられた物が絡む場合などがある。
秘めたる力を測れても、その使い方や制御方法、果ては効果などは不明という物も存在しており、
管理局でも扱いには慎重の上に慎重を重ねても足りないぐらいに……。

「説明はもう良いです、エイミィさん」

管理局が所持する世界と世界と繋ぐ次元空間を渡る艦の一つ、巡航L級8番艦アースラの艦内。
そのブリッジにおいて行われたオペレータの言葉を恭也は遮るように口を挟み、その眉間に寄った皺に指を当てて軽く揉む。

「ロストロギアの危険性はよく理解しているつもりです。
 それよりも今、問題なのはそれではないと思いますが?」

いつも通りの仏頂面にも見えるが、親しい人にはやや不機嫌さが分かる程度に表情を顰めて、恭也はエイミィの方を、
正確にはその足元にしがみ付くようにしているクロノを見遣る。
恭也の顔が怖かったのか、視線に気付いたクロノはビクリと身を震わせてエイミィの背後へと隠れる。

「ああ、もう可愛いな〜」

そんな仕草が更にツボに嵌ったのか、エイミィはとうとう我慢できずにクロノに抱き付くとそのまま抱き上げる。
そう抱き上げたのだ。
幾らクロノがその年の平均から見ても小柄な方だとしても、エイミィが軽々と抱き上げる事など普通は出来ない。
それ以前に本人が激しく抵抗もするだろうし。にも関わらず、恭也の見ている前で抱きかかえられるクロノ。
尤も本人としては抵抗しているのか、ジタバタと手足を暴れさせてはいるが。
恭也はその事には触れず、さっさと用件だけを言ってくれとばかりに口を開こうとして、先に聞こえてきた女性の声に閉ざす。

「エイミィ執務官補佐」

静かな落ち着き払った声の主、この艦における最高責任者でもありクロノの実母、リンディの声にエイミィも思わず身を強張らせる。
流石に任務中、それも説明途中にこれは失敗だったと後悔しても遅い。
幾ら非常時以外は比較的に寛容なリンディと言えども、今は非常時とも言える状況下なのだ。
エイミィは何を言われるかと覚悟を決めてリンディへと振り返り、そこで伸びてきた手にあっさりとクロノを奪われる。

「私が先でしょう。この子ったら、あまり抱っこさせてくれなかったんだから、こんなチャンスを逃す手はないわ」

言ってエイミィから取り上げたクロノをその腕の中に抱き締め、嬉しそうに頬擦りまで始める。
それを見てエイミィはさっきまでの緊張感さえ忘れ、リンディに近付くと、

「ずるいですよ艦長。次、次は私の番ですからね」

次に抱っこさせてくれるように頼み込む。
エイミィ相手では抵抗していたクロノも、母親では違うのか大人しくされるがままで、寧ろ自分から甘えるように抱き付いている。
普段ならありえない光景を目の前にして、恭也はこっそりと左腕で待機状態となっている相棒に話し掛ける。

「ラキア、今の状況を……」

「勿論、最初から全てしっかりと記録していますわ、主様」

「流石だ」

「恐悦至極」

「くくく、元に戻った時に見せたらどんな反応をするのか楽しみだな」

「主様、お顔が悪くなってますよ」

「おっと、気を付けねばな。ただでさえ、怖い顔をしているんだから」

「いえいえ、そんなお顔も素敵ですよ」

「一応、礼を言っておこう」

ぼそぼそと短く言葉を躱し、恭也は暫く様子を見守る。
一方でさっきから何とも言えずにおろおろとしているなのはとフェイトは困ったように恭也とクロノを見ている。
やがてリンディが満足する頃にはクロノはその腕の中でぐっすりと眠りについており、
リンディは愛しそうに数度撫でるとエイミィへとクロノを渡す。そして、改めて恭也へと真剣な顔を見せ、

「もう大よそは察してもらえている思うけれど……」

言ってリンディは言葉を区切る。数秒待つもそこには沈黙がただ横たわるだけ。
いつもなら、ここでエイミィが補足を入れたり、必要な資料を目の前に表示させるのだが、
今はクロノの頬をツンツンと突付く事に夢中になっており、完全に職務を忘れている。
わざとらしくリンディが咳き込み、ようやくエイミィは自分のすべき事を行う。
恭也たちの目の前に一つの映像が映し出される。大きさは掌に収まる程度で、直径二十センチにも満たない球形。
色はややくすんだ赤い色をしており、他に特に特徴と言う特徴も見受けられない品。
それを眺めながら、リンディは説明を再開させる。

「正式名称は不明。管理局では作業する上で便宜上、赤の球と命名。
 正直、その名前はどうかと思ったのはここだけの話だけれど、ロストロギアだと認定され回収任務に我々が就きました。
 ここまでは恭也くんも知っての通りです。現場にはクロノ執務官が赴き、指揮に当たりました」

そこでクロノを含めた数人が赤の球を運び出している映像に切り替わる。
次々と映し出される映像の中で、クロノを含めて誰もが慎重に事に当たっているのが見受けられる。

「アースラに収容するまでは順調に進みました。が、問題はそこからです。
 艦長、ちょっとクロノ君をお願いします」

リンディから引き続き説明をしたエイミィがクロノをリンディへと返し、コンソールをカタカタと叩く。
程なくして、別のウインドウが開き、そこに恭也となのは、そしてフェイトの姿が映し出される。

「同時刻、訓練を終えたなのはちゃんとフェイトちゃんをお家に帰すために転送ゲートを発動。
 迎えに来た恭也さんも含め、三人を転送しようとしたその時、急に赤の球が起動を開始。
 すぐさまクロノ君を含め、魔導師五人による結界が発動。しかし、赤の球の発する魔力が増大を始め、なのはちゃんたちに協力要請。
 その際、現地人である恭也さんにも協力を要請し、承諾の後現場へ急行してもらいました。
 五人に加えて更に三人による結界の発動が行われようとしたその時、赤の球から魔力波が結界を破って放出。
 魔導師を庇ったクロノ君、及び、なのはちゃんたちを庇った恭也さんがこれに直撃」

エイミィの声に合わせて映像がその場面を流していく。
結界を突き破った赤い光が恭也とクロノの体に触れ、しかしそれだけであった。
二人は吹き飛ぶ事も、何らかの痛みを覚える事無く不思議そうにその場に立っている。
またあれだけ溢れ出ていた魔力も既に収まり、赤の球はただ床に転がっていた。
ただし、不思議そうにしている二人と違い、周りは信じられないと言う顔を見せており、やがてクロノが泣き出す。
それを見て恭也も慌てたように自身を見下ろし、次いでリンディに状況の説明を要請した所で画面が消える。

「結論から言うとね……」

エイミィはそう言ってリンディを見る。
既にそちらへと分析の結果は言っており、リンディの口からという事だろうとそちらを見る。

「既に分かっていると思うけれど、どうやらあのロストロギアの効果はあの光に浴びた者を子供にしてしまうみたいね」

言って、腕の中で未だに眠り続ける三歳ぐらいのクロノと、なのはと同じぐらいの外見となった恭也を見遣る。

「女性にとっては完璧に制御出切るようになれば嬉しい若返りの品なんだけれどね」

「とは言え、他にどんな効用があるのか、またどうやって発動するのかも不明ですけれどね。
 それにクロノ君みたいに小さくなり過ぎると記憶もかなりあやふやになって、本当に子供に戻ってしまうみたいですね」

言ってエイミィは再びクロノの頬を突っつく。どうもその感触を気に入ったようだ。

「そうねぇ、それに若返っても積み重ねた年月は戻らないみたいだから、不死という訳にはいかないみたいだしね。
 まあ、本当にそんな事が可能ならかなり大問題となる品になって、すぐにでも本局行きとなる所だったから、その点は良かったわ」

お蔭で解決策を見つける為に調査できるとリンディは笑う。
今の所は特に他に影響は出ていない――クロノは別として恭也にはという意味で――ので、まあ良しとしよう。
そう考えて、このままの姿で戻ったら桃子に何かされるかもしれないと今更ながらに考える。

「リンディさん、そちらの協力を了承したのは俺ですから責任どうこうは言いません。
 ですが、元に戻るまでの滞在場所の提供をお願いしたいのですが」

「まあ、それは構わないけれど。でも、別に自宅に戻っても大丈夫なんじゃないの?」

「それだけは断固断ります。そんな事をされるのでしたら、どこか適当な世界に置き去りにしてください」

あまりにも強い口調にリンディも思わず頷き、仕方ないわねと自分の家を提供する。
どうせ、赤の球の調査で家には帰れないだろうし、クロノの部屋を使ってくれと。
恭也としては知人から身を隠せれば構わないので、それに不満はないと了承する。

「そんな訳でフェイトには迷惑を掛けるが、できるだけ部屋から出ないようにするし息も潜めていよう。
 だから、居ないものとして普段どおりに過ごしてくれ。それと言うまでもないが、この事は内密に」

フェイトとなのはに向かってそう言う恭也に、フェイトは戸惑いつつも頷き、
恭也の思考を正確にトレースしたなのはは苦笑しつつもこれまた了解と返すも、

「今月、欲しい漫画があるんだけれどお小遣いが足りなくて我慢していたんだ」

「……それぐらいなら良いだろう」

ちゃっかりとおねだりするのであった。
そんな兄妹のやり取りを微笑ましく見ていたリンディだったが、改めて恭也を見つめ、

「それにしても、恭也くんは小さな頃からそんな感じだったのね」

「まあ、流石に完全にそうという訳ではないと思いますけれどね。今までの記憶があるからでしょうし。
 クロノ君の場合は戻りすぎて覚えていられない状態だからこそ、本当に子供の時に戻ったようなものですから」

二人してそんな会話をするのだが、恭也はしっかりと聞こえていて、やや憮然と返す。

「そう違いはないと思いますよ。小さい頃から父にはよく無愛想だと言われましたから」

「あ、あははは、もしかして気にしてたとか?」

「いえ、別に気にはしてません。と言うか、あの父に育てられれば似たような性格になるんじゃないでしょうか」

そんな事を言う恭也ではあったが、何処か懐かしそうな表情を見せる。
いつもならそれを下から見上げるなのはやフェイトは、自分たちよりも僅かに高いだけの位置という状況に新鮮さを感じる。
こうして、恭也の知人に見つからずに元に戻るまで居候として過ごす日々が始まるのだが、それは初日からすぐに崩れ去る事となる。
それは恭也と共にお泊りする事にしたなのはと、その家の住人であるフェイトの二人によって、
強制的に外に連れ出されるからに他ならないのだが、それはまた別のお話。





おわり、なの







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