『リリカル恭也&なのはTA』
番外2 「年末の戯言」(※注 本編には関係しませんよ)
年の瀬も迫った十二月の末。
クリスマス前ぐらいから急に冷え込み出した気温に本格的な冬の到来を感じてから数日。
寒さも体感では日に日に増していると思いつつ、そこに年末らしさをも感じてしまうそんな日。
外吹く風はやや強く、実際の気温よりも寒く感じられるかもしれない。
そんな事を他人事のようにぼんやりと思いつつ、恭也はお茶を一口。
少々、熱めに淹れられたお茶が体の内側を僅かに温めてくれるような気がしなくもなく、しらずほぅと小さな呟きを零す。
すっかり寛いでいる感の恭也の様子に、同じく炬燵に座るフェイトは小さく微笑を零してこちらもお茶を一口。
僅かに感じられる苦味にも大分慣れてきて、美味しいと感じられる程度には飲み慣れてきた。
湯飲みを両手で包み込むように握り、その温かさにこちらも知らずほぅと呟く。
その間にもう一口お茶を口にした恭也がしみじみといった感じで窓の外を眺めながら言う。
「今年ももうすぐ終わりだな」
「そうですね。あっという間でしたね」
「ああ、本当に早いものだ。まあ、それだけ慌しい一年だったという事だろうがな」
「色々ありましたからね」
二人揃ってこの一年を振り返り、本当に色々あった、あり過ぎたと実感を込めて頷く。
何となくその肩に哀愁や疲れが滲み浮かびそうな空気を振り払い、恭也はもう一度口を開く。
「せめて年越しを含め年始ぐらいはゆっくりとしたいものだな」
が、出てきた言葉は先程までの空気を見事なまでに受け継いだ内容だったが。
それに対するフェイトの方も、しみじみと同意する空気を醸し出しながら返す。
「そうですね。こうしてのんびり過ごせるのが一番ですよね」
「ああ」
揃って湯飲みを傾ける二人を見ながら、さっきまで黙々とみかんを口に運んでいたなのはは何とも言えない表情を見せる。
「何か二人とも隠居した夫婦みたいだね」
思わず出たなのはの言葉に失礼なと顔を顰める恭也と、何処にそんな反応を見せる箇所があったのか、何故か少し嬉しそうなフェイト。
互いに違う反応を見せる二人に苦笑を浮かべて、なのはは改めて一年を振り返る。
「うん、色々あったね」
「全て最後は力押しというお前にとっては、どれも同じような物じゃないのか」
「むぅ、お兄ちゃんは失礼すぎます!」
ポカポカと兄の腕を叩きつつ頬を膨らませるなのはを軽く宥めながら、自分の正面でずっと黙っている美由希へと視線を移す。
ちまちまとみかんの白い筋を取る事に集中している美由希に知らず溜め息を零しそうになる。
と、そんな視線に気付いたのか、ようやく作業を終えた美由希が顔を上げる。
「どうかした、恭ちゃん」
「いや、お前がこの一年を振り返っても進歩しないドジな場面しか浮かびそうにもないな、とか。
特番のハプニング映像を一人で垂れ流す感じの一年の思い出になるだろうなとか、微塵も思ってなんかないぞ」
「それ思ってるって事だよね」
流石にここまで言われてジト目になる美由希の視線を気にする風もなく受け止め、恭也は手を伸ばしてみかんを取る。
炬燵の中央に置かれた籠に入っているものではなく、立った今、長い時間を掛けて綺麗に筋まで取られた美由希の前のみかんを。
「って、ああ! 何自然に持って行ってるの!
って、食べた!?」
「みかんなんだから食べるに決まっているだろう。お手玉にでもするつもりなのか、お前は。
全く食べ物を粗末に扱うなど何を考えて……」
「って、そういう意味じゃないよ! 分かってて言ってるでしょう!」
「全く五月蝿い奴だ」
言って一切れ取ると美由希の口に投げ込む。
「むぐ……ん、甘くて美味しい。って、違うよ! 欲しかったら自分で剥けば良いじゃない」
また一切れ恭也の口に放り込まれるみかんを眺めながら、美由希が講義するが恭也は平然と返す。
「面倒くさい」
「知らないよ! それは私が丹精込めて剥いたみかんなんだから」
「フェイトも食べるか?」
「え、あ、えっと……」
急に話を降られて返事を返せないフェイトを見かね、なのはが兄を叱る。
「お兄ちゃん、フェイトちゃんを巻き込まないの」
「失礼な。親切心から出た言葉だというのに」
「もう。本当にお姉ちゃんには意地悪さんなんだから」
言ってなのはは新たに皮を剥いたみかんを美由希に渡す。
「白いのは取ってないけれど、はいお姉ちゃん」
「うぅぅ、妹の優しさが身に染みる。でも、私が欲しいのはあっちのみかんなんです!」
「全く贅沢な妹だ」
「え、私が悪いの!?」
「もう二人とも喧嘩しないの。じゃあ、なのはが剥いたのをお兄ちゃんにあげるから、そっちは返してあげて」
「仕方ないな。ほら」
「ああ、お帰り私のみかん」
なのはの剥いたみかんを受け取り、恭也は美由希から奪ったみかんを返してやる。
まあ、流石に本気で全部食べるつもりなど初めからなかったのだが。
美由希もその辺りは流石に理解しているのだろうが、返って来たみかんを愛しそうに受け取る。
「誘拐されている間に酷い事はされなかった?」
「いや、誘拐ではなく保護と言ってくれ。その子の心の声が聞こえたんだ。
助けてくれ、このままでは全て剥がれてしまうという声を」
「そんな戯言は受け付けません。この子は愛情を持って私が食べるから」
「愛情があるのに食べるのか」
「うん、食べるんです。愛が深すぎて」
「愛情と憎悪は表裏一体とは果たして誰が言ったんだろうな」
「私の場合、あくまでも愛情だよ。という訳でいただきます」
「ああー、やめてー、食べられるー。そんな声が聞こえてきそうだな」
「恭ちゃん、流石に食べる瞬間にそう言われると躊躇してしまうんだけれど」
「躊躇するけれどもしっかりと食べるんだな」
「その為に綺麗にしたんだもん」
そんな傍から聞けば何を言ってるんだと思うような会話に全く付いていけないフェイトと、
二人のコミュニケーションには物心ついた頃から見ていて慣れているなのは。
片方は戸惑いを、もう一人は呆れを抱きながら、共に完全に傍観者という立場で大人しくしている。
二人のやり取りが落ち着き、恭也は改めて来る年を思う。
「どうしたの、お兄ちゃん」
そんな恭也になのはが今度は話し掛ける。
聞いてくるなのはの口の前にみかんを一切れ運びながら、恭也は言う。
「いや、いつまでなのははお年玉をねだって来るのだろうかと、そんな詮無き事をな」
恭也の手からみかんを食べさせてもらい、それをきちんと飲み込んでからなのはは言う。
「いつまでも可愛い妹で居たいなと思うんですが」
「ねだらなくなれば、もっと可愛くなるぞ」
「お兄ちゃんの甲斐性を世間様にお見せできるチャンスを潰すのは忍びないと思うんだよ」
「いやいや、そんな甲斐性は元よりないから」
「またまた〜」
「何気に高給取りが何を言う」
「それはそれだよ。お年玉の重さは愛情に比例していると思うんだけれど」
「なら、硬貨を詰め込んでやろう」
「もしくは現物支給でも良いよ?」
「ほう大人になったな。なら、美味しい物を食べれるように――」
「お箸なんてオチはいらないよ、お兄ちゃん。なのはは最近出た……」
「なのははお年玉に家電なんて言わないよな」
「にゃはははは、言わないよ。ミッドで良い土地が出ててね」
「残念だが、向こうで通じる通貨は持ってないな」
「大丈夫、そこは自分で換金するから」
相手が美由希からなのはへと変わり、またしても可笑しな会話が始まる。
それをやはりフェイトは戸惑いつつ見詰め、美由希は微笑ましそうに見遣る。
「あ、あの美由希さん……」
「ああ、気にしなくて良いよフェイトちゃん。
最近、なのはもああやって恭ちゃんを話すのを楽しむようになっちゃってね。
恭ちゃんも楽しんでいるみたいだし、これも兄妹のコミュニケーションだよ。
まあ、正直、もう少しまともな会話や他の手段にすれば良いのにと思うけれどね」
「えっ!?」
美由希の言葉に驚いてフェイトは言った本人を見るが、どうやら本気で言っているらしい。
つまり、自分が何をしているのか自覚がないという事なのだろう。
そうなると、先ほど美由希とのやり取りに関して口にしていたなのはも……。
その考えに至り、フェイトは小さく首を振るとそれ以上は考えないようにする。
うん、きっとこれが高町家のコミュニケーションなんだと無理矢理言い聞かせて。
勿論、桃子や他の居候たちが聞けば全力で否定しただろうが、ここには居ない上に口には出していないので指摘はされないが。
更に言うならば、近い将来、フェイトもまた親友にすっかり毒される事になるのだがそれは少し先の話。
なのはとも話の区切りがついたのか、恭也は温くなった湯飲みを手に取り渇きを潤すそうに残りを飲み干す。
「ふぅ、まあ何にせよ、今年も皆無事だったのは何よりだな」
今年もまだ後数日は残っているが、恭也は心底そう思う。
常に危険と隣り合わせとも言えるなのはやフェイトの事を思い、無事を感謝する。
同時にまた来年に向けて思いを馳せ、しみじみと、本当にしみじみと口にする。
「来年こそ、平穏な日常が送れると良いんだがな。波乱万丈ではありませんように」
少し早いが思わず神頼みを口にする恭也を、三者三様の表情で見遣りながら、思う事は皆、共通していた。
恐らくそれは無理だろうな、と。そこに自分から首を突っ込むか、巻き込まれるかの違いはあれど。
そんな事をぼんやりと思う三人であった。
おわり、なの
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