『リリカル恭也&なのはTA』






番外3 「フェイトがこんなに可愛……くないわけがない」





日本家屋といった趣の強い高町家の中で、意外と少ない和室である恭也の部屋。
そこは今、静寂と緊張という二つの空気が張り巡らされていた。
静寂なのは声を発する者が誰もいないからである。
あまりの静寂さに呼吸する音さえも聞こえるのではと思う程である。
そんな中で緊張しているのは一人の少女であった。
流れる綺麗な金色の髪をリボンで軽く二箇所を括り、他は背中へと流した少女、フェイトは今、正座という中々慣れない姿勢でいた。
普段ならそう長く経たない内に止めてしまうであろう態勢も、今回ばかりは止める素振りはない。
それ程に緊張しているのだが、当人にその認識があるかまでは分からない。
ともあれ、足の上にちょこんと置かれた手は強く握り締められている。
そして、この部屋に居るもう一人、この部屋の住人たる恭也は、こちらは自室という事もあってか緊張の欠片もない。
まあ、それもそのはずであろう。何せ、恭也の目は閉じられているのだから。
つまり、今、恭也は寝ているのである。
では、何故にフェイトがここまで緊張しているのかという話になるのだが。
それは当人も自覚しているか怪しい以上、分かるはずもないのである。
ともあれ、現状は部屋に来たフェイトが寝ている恭也を見つけ、起こすでもなく居続けているという事である。
寧ろ、部屋に入って寝ている恭也を見た瞬間、フェイトは開けた時の数倍の時間を使って静かに扉を閉め、
これまた同じだけの時間を掛けて恭也の傍に正座して以降、じっと動かないのであった。

「起きてないよね?」

起こす気はないのだろう、聞こえるかどうかといった小声でようやく部屋の空気を打ち破る。
対する返答は沈黙であり、つまりはまだ寝ている事を示していた。
自分で話し掛けておきながら、恭也が寝ていると分かって安堵の吐息を零す。
とは言え、それも無理ないのかもしれない。
寝ているとはいえ、いや、寧ろ寝ているからこそ、ここまで人が近付いても起きないというのは。
基本、寝ていても周囲の動きを何となく感じているらしいのだが。
極偶に深く眠って疲れを取る事もあるようだが、偶々、その珍しい機会に遭遇したのかもしれない。
前に恭也や美由希が教えてくれた事を思い出してそう納得すると、フェイトはゆっくりと立ち上がる。
流石に正座で足が若干、痺れた感じがするが動くのに大して問題はないと判断すると、押入れから薄手の毛布を取り出す。
希少な現場に出くわして思わず動きを止めてしまったが、起きないのなら風邪なんかを引かないようにとの想いから。
起こさないように慎重に恭也に毛布を掛けてやり、ふぅと一息吐く。
そして、本当に起きていない恭也をまじまじと見下ろし、本当に珍しいと思わず携帯電話を取り出していた。

「うー、勝手に撮るのは。でも、もうこんな機会はないかも。でもでも……」

暫く葛藤を繰り返したのち、フルフルと震える手で遂にシャッターを切る。
が、手が震えていた為か、撮れた画像はあまりよいものではなく、ぶれている上にピンとも微妙にずれていた。
それを見てフェイトは肩を落とすものの、すぐに気を取り直したのか、再び恭也にレンズを向ける。
今度はピンとも合わせ、ぶれないように腕を固定してパシャリと一枚。
まだ起きていないと悟り、さっきよりも近い距離で解像度も上げてもう一枚。
撮れた画像を確認して満足げに頷くと大事にポケットに携帯電話を仕舞う。
そこで自分の行動を鑑みて、思わず反省して小さくごめんなさいと恭也に謝るものの、データを消す気は全くないようだ。

「でも、本当に珍しい。ううん、私は初めて」

珍しく深く眠っている恭也の傍に再びちょこんと正座し、またしても恭也を見詰める。
そして、自身の発した言葉に少し考え、滅多にない機会だからと言い聞かせて起きないかおっかなびっくり手を伸ばす。

「うん……」

と、唐突に恭也の口から小さな声が漏れ、ビクリと伸ばしていた手の動きを止める。
その状態で目だけを動かして恐る恐る恭也の様子を窺えば、特に起きた様子もなく、僅かに寝返りを打っただけ。
何度目かの安堵の吐息を零し、もう一度手を伸ばす。
ゆっくりゆっくりと恭也の頭へと伸ばされた手は、ようやく目的地へと到達すると、優しい手付きで撫で出す。

「えへへへ。いつも撫でてくれるお礼です。
 起きている時は絶対にさせてくれないでしょうけれど。どうですか、気持ちよいですか?
 私は恭也さんに撫でられるの、嫌いじゃないです。だから、恭也さんも喜んでくれたら嬉しいです」

起こさないように小声で話しかけながら、フェイトは少しの間恭也の頭を撫でる。
やがて、満足したのか手を離し、起こしても悪いからと部屋を後にしようとする。
が、不意に欠伸が零れる。

「……暖かそうだな」

ぽつりと呟くと、既に眠気が相当襲ってきているのか、フェイトは目を半分閉じつつ、じっと恭也と毛布を見る。

「少しだけ、少しだけお邪魔しますね」

恭也が起きる前に起きて出て行けば大丈夫だと自分を説得し、布団の魔力には勝てないと自身を弁護して、ゆっくりと毛布を持ち上げる。
そして、そのまま潜り込むと、温もりを求めるように恭也の方へと身体をすり寄せて行く。

「恭也さん、暖かいです」

胸に顔を埋め、恭也の腕を枕にフェイトは仮眠を取るべくゆっくりと睡魔に身を委ねるのだった。



「……どういう状況だ」

目を開け、最初に飛び込んできたのは金色の海。
温かさを腕の中に感じつつも、僅かに痺れる腕の感覚と自分とは違う香に意識が次第にはっきりとしていく。
そして、頭が冴えた時に最初に出た言葉がそれである。
寝て起きたら何故かフェイトが一緒に寝ていた。
恭也にして見れば確かに驚きであろう。尤も、寝る前にはなかった毛布が掛かっている事から推測は出来るが。

「寝ているのを見たフェイトが掛けてくれたという所だろうな。
 で、そのままフェイトも寝てしまったのか」

やはりまだ子供なんだなと優しげな笑みを浮かべ、恭也はフェイト起こさないように腕を引き抜こうとするのだが。

「こうもしっかりと握られていると無理か」

両手で服の胸部と腕を掴まれているようで抜け出すのは無理そうだと判断する。
今日は特に何も予定もないから良いかと恭也はフェイトが起きるまで待ってやる事にする。
とは言え、特に出来る事があるでもなく、恭也は何とはなしにフェイトの髪を優しく手で梳いてやる。

「甘えなれていない子が珍しく甘えているんだしな。
 起きている時にももう少し甘えられるようになれば良いんだがな」

しっかりし過ぎて少し寂しいと桃子に愚痴っていたリンディを思い出しそう呟く。
せめて今だけでもと恭也はフェイトを優しく見守るようにその髪を暫く撫でてやるのだった。





おわり、なの







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