『ママは小学二年生』






〜2〜



すずが来た翌日、どうにか授業も終えて校門を出た所でそれまで黙っていた忍が焦れたように聞いてくる。

「それでどうして親戚の子が恭也をパパと呼んでいるの?
 まさかそこまで倒錯した趣味が……」

「ちなみに昨日、美由希も似たような事をほざいた。
 その結果、あいつは今も筋肉痛で苦しんでいる事だろう。昨夜と早朝の鍛錬は流石に堪えたようだったぞ」

「あははは、いや〜ね〜、可愛い冗談じゃない。
 もう忍ちゃんってばお茶目♪」

そう言って頬に人差し指を当てて可愛らしく首を傾げ、非常に分かりやすくぶりっ子を装う忍へ、
恭也は心底疲れたような溜め息を吐いた後、はっと鼻で笑い、赤星はその一連の出来事をなかった事としたのか、
何も言わずにただ笑顔を見せる。ただし、その笑みが少し引きつっているのはまあ、仕方ないだろう。
おかしな空気が流れる前にと話を戻すように赤星が恭也へと疑問を投げる。

「それでどういう事なんだ。お前にこんな小さな親戚の子が居るなんて今まで知らなかったけれど。
 そもそもよく学園側も連れてくるのを了承したな」

「その辺りはかあさんが上手く説明してくれてな。
 説明事態は朝にしたのと変わらないがな。預かっているけれど、俺以外に懐かないのでとか何とか言ってたな。
 まあ実際それだけで了承が得られたのかは知らないが、とりあえず許可も出たので考えても仕方ないしな」

それで良いのかと突っ込みそうになるも、まあ恭也自身が納得しているのなら良いかと赤星も納得する事にする。
実にこの辺りが恭也の親友と言えるかもしれない。
それに今はそれ以上に聞きたかった事があるのだ。

「それでパパと呼ばれているのは?
 それぐらい懐かれたということか?」

赤星の言葉に少しだけ考え、結局は素直に話すことにする。
当然ながら絶対に秘密だという約束を交わして。
それに赤星と忍は真剣な顔で頷く。
元よりちょっと複雑な家系なのを知っているからこそ、ちょっとやそっとでは驚かないし、
絶対に口外しないとわざわざ口にして。
二人の言葉に軽く感謝を述べ、恭也はすずの説明を始める。

「俺の娘……らしい」

「あ、相手は誰なの!? あっ! すずちゃんが朝言ってたけれど、学生なの!?」

「月村さん、ちょっと落ち着いて。
 それに高町、らしいってのはどういう事だ?」

行き成り慌てだす忍を宥め、恭也の言葉におかしな箇所を見つけて尋ねる。
だが、その質問が余計に忍を慌てさせる事となる。

「ま、まさか、ゆきずりの女性と?
 それとも酔った勢いで覚えてなくて、昨日いきなり家の前に捨てられていたとか!?」

「……とりあえず忍は話を聞く気がないみたいだから、赤星には後で説明する」

「ああ、ちょっと待って! と、とりあえず黙って聞くから。ね、ね!」

恭也の言葉に何とか恭也を引き止め、忍は真面目な顔を作ってみせる。
それを思いっきり訝しげに見遣るも恭也は結局は話す。
が、その前に少し退屈そうにしているすずに声を掛ければ、嬉しそうに笑ってくる。
繋いだ手を大きく振り本当に楽しそうに笑うすずにもう少し大人しくしてくれるように言い、
それに頷いたのを見て恭也はすずの繋いだ手を上へと引っ張り上げ、そのまま抱っこしてあげる。
すると先程以上に嬉しそうに顔を綻ばせ、すずは恭也に抱きつく。
すずの頭を撫でてやりながら、ようやく恭也は話の続きを口にする。

「どうも未来から来たらしい。
 言っておくが正気だからな」

何か言いたそうにしている二人へと先制するかのようにそう口にし、根拠として昨日見た手紙の事を口にする。

「あれは間違いなく俺自身の字だった。だが、俺にはそんな手紙を書いた覚えもない」

「つまりは本当に未来からって事か」

驚きつつもその事実を受け入れる二人に恭也は思わず苦笑を漏らす。
自分の周りは何故、こうもすんなりと異常な事態を受け入れるのだろうかと。
自分自身もそこに含まれている事に気付かずに。

「パパ、ママの所にいこう」

話が終わったのが分かったのか、すずがそう口にする。
その言葉に恭也は少し困った顔になり、忍は怪しく目を光らせる。

「へぇ、誰がママかは分かってるんだ。
 それじゃあ、早速行きましょうか」

何故、お前がと恭也が言うよりも早く忍は恭也の手を掴んで逃がさないとばかりに口元に怪しい笑みを浮かべる。
助けを求める恭也の視線を受けるも、赤星は本当にすまなさそうな顔の前に手を立て、

「すまん、俺もちょっと興味ある。どうしても、と言うのなら諦めるが」

赤星の言葉に少し考え、結局はいずればれるだろうと諦めることにする。

「はぁ、付いてくるのは構わんがまずは絶対に叫ぶなよ」

「何よ、それは。それじゃあ、まるで私が可笑しな人みたいじゃない」

拗ねたように口にする忍にただ曖昧な言葉だけでその場を濁すと、恭也は母親の元へと歩き出す。
が、その足取りは商店街へと向かい、その後も非常に馴染みのある道筋を辿る。

「もしかして翠屋で待ち合わせしてるの?」

「まあな。あいつの方が先に学校が終わるからな。
 店の中だから、余計に大声はやめてくれよ」

「だから、何でそう人を可笑しな人呼ばわりするのよ」

そんな文句を聞き流しながら、歩くこと数分、目的の喫茶翠屋へとやって来る。
扉を開け、既に待っていた人物へと歩いていく。
すずが下ろしてとせがむので下ろしてやると、すずは真っ直ぐにカウンターに座っていた母親の元へと駆けて行く。

「ママ〜」

「ほら、すず。お店の中で走っちゃいけませんよ」

「は〜い。ごめんなさい」

言って謝ると小さな身体を必死に動かして高い位置にある椅子に座ろうと悪戦苦闘する。
そんな光景を見守っている恭也の隣で、固まっていた忍がようやく動き出し、

「な…………んぐぐうぅぅっ!」

口を開けた瞬間に恭也に手で塞がれる。

「大声を出すなと言っただろう」

「そ、そんな事を言ったって、驚くなって方が無理よ!」

大声を出さないと確認して手を離してやれば、いきなりそう口にしてくる。

「まあその辺りの反応は昨日、散々体験した。
 赤星も惚けてないで移動するぞ。店の入り口で固まっていたら迷惑になる」

「あ、ああ、そうだな。しかし、高町。これを驚くなと言うほうが無理だろう。
 大体、どういった経緯でお前となのはちゃんが……」

「知らん。未来の話だろう。それに何処まで真実かもまだ分かってないんだぞ。
 事情があって俺が父、もしくはなのはが母代わりとなっているのかもしれないだろう」

先の事など分からんと呟きなのはたちの元へと近づく恭也に気付き、すずは両手を挙げてせがむ。

「パパ、すずも座る〜」

「ああ、分かった。ほら」

すずを軽々と抱き上げ、カウンター席に座らせてやるとその隣に自分も腰を下ろす。
すると、奥から丁度桃子が姿を見せ、二人に気付いて近づいてくる。

「あら、お帰り恭也。すずちゃんもお帰り」

「ただいま、お婆ちゃん」

「ああ、私にこんなに早く孫が出来るなんて。
 しかも、こんなにも可愛い孫が。士郎さん、見てますか。もう私は幸せで幸せで」

トリップする桃子に嘆息しつつ、恭也はすずの前にメニューを開いてみせる。

「すずは何か欲しい物あるか」

「えっと、えっと……。これもこれも、あ、これも美味しそう」

「あははは、どれも美味しいけれど全部は無理だよ。
 すぐに晩御飯なんだからね。全部食べたら晩御飯が食べれなくなっちゃうよ。
 どれか一つだけにしようね」

「うん。…………じゃあ、これ!」

外見は兎も角、その三人の姿は確かに家族に見えるものである。
尤も、親子というよりもなのはとすずでは姉妹に見えるだろうが。
そんな光景を目の前にしながら、忍と赤星は何となく顔を見合わせどちらともなく肩を竦めるのだった。





おわり




<あとがき>

第二段をお送りしました。
美姫 「このまま続きそうな勢いね」
どうだろうか。またネタが出れば書きたい話ではあるな。
美姫 「言いつつ、ネタが既に幾つかあるみたいなんだけれど?」
まあまあ。折角の設定とキャラだ。
一回こっきりじゃ寂しいじゃないか。
もしかしたら、また書くかもな。
美姫 「まあ、私としては書く分には良いんだけれどね」
へいへい。それじゃあ、この辺りで。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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