『ママは小学二年生』






〜7〜



私立芽丘学園。歴史ある名門校にして、女子の制服がやたらと豊富という少し変わった学校である。
その少し変わった学園の3年G組では、これまた学園で見かける光景としては一風変わったものが見られる。

「可愛い♪ すずちゃん、こっちのクッキーも食べる?」

「ありがとう、お姉ちゃん」

無愛想な恭也を数人の女子生徒が囲み、その周辺で時折黄色い声が上がる。
勿論、恭也に向けて放たれているのではなく、恭也の足の上に座り、今も貰ったクッキーを両手で掴んで、
はむはむと啄ばんでいる少女、高町すずへと向けられたものである。
当初は物珍しさや遠慮からか遠巻きに見ているだけであったのだが、忍や赤星などが普通に接し、
またその際のすずの反応を目にした女子生徒が昼休みにおやつをあげたことが切欠となり、
今ではすっかりここG組のマスコットと化しているすずである。
尤も当の本人はそんな事を知る由もなく、親切なお姉さんたちに囲まれおやつを食べているだけという認識だろうが。
すっかり人気者となったすずを優しい眼差しで見守る恭也にも幾つかの視線が向かってはいるのだが、
当然ながら気付いていても意味までは理解しておらず、ただ嬉しそうにしているすずの様子に満足している。
ここ最近、すっかり見慣れた昼休みの光景である。

「しっかし、本当に恭也も娘には甘いわね」

「まあ仕方ないんじゃないか。すずちゃん、素直で可愛いしな」

「……まさか、赤星君ってばそっち系の人? 恭也、すずちゃんを連れて逃げて!」

「月村さん、いや本当にマジで勘弁してくれよ」

そんな二人の悪友の冗談に肩を竦めて応えつつもすずを赤星から庇うようにする恭也。
それに傷付いたという風に肩を落とす赤星をそもそもの元凶である忍が慰める。

「冗談だ、赤星」

「お前の冗談は真顔だけに時々、本気かどうかが分かり辛いんだって」

「酷い言い草だな」

憮然と言いつつも恭也は、すずのほっぺに付いた食べかすをティッシュで取ってやる。
それににぱーと笑顔を向け、すずは手に持っていた食べかけのクッキーを恭也に差し出す。

「パパも食べる? はい、あーん」

恭也の答えを聞くよりも早く、食べさせてあげるとばかりに恭也の口元へとクッキーを運ぶ。
それに微笑を浮かべつつ、クッキーを齧る。

「美味しい?」

「ああ、美味しいぞ。ありがとうな、すず」

「えへへへ。じゃあ、今度はすずが食べるから、パパ、あーん」

言って口を開けて、恭也にクッキーを渡す。
仕方ないなと言いつつ、恭也はすずの口へとクッキーを運び、すずに食べさせてやる。

「うん、美味しいね〜」

食べさせてもらった事をきゃっきゃと喜びながらクッキーを頬張る。
周りもそんな様子に頬を緩ませ、二人を見守るかのように見詰める。
G組の中に穏やかな空気が流れる中、すずは机に置かれてあるジュースに手を伸ばし、

「んくんく、ふ〜」

パックを両手に包み込むようにして持って、ストローを使ってゆっくりと飲むと、大きく息を吐き出す。
つられる様に数人が同じように息を吐き出していたりするのだが、それはまあご愛嬌だろうか。
続いてすずは両手をぱちんと合わせると、

「ごちそうさまでした」

そう口にして満足そうな笑みを零す。
ゴミとなったパックを手に取り、恭也の足の上から降りるとトテトテとやや早足でゴミ箱へと向かい、
そこにゴミを捨てると同じように恭也の元へと戻ってくる。
戻ってきたすずの頭を優しく撫でてやると、そのまま抱き上げて再び足の上にすずを座らせるのだった。




午後最初の授業ともあり、睡魔と戦う生徒も少なくない時間帯。
けれども、しっかりと起きて授業を聞いている姿勢の恭也。
流石に娘が居ては堂々と眠れないというのもあるが、
寝ている間にすずに何かあったらと言う気持ちも少なからずあるのだろう。
そんな恭也の机の上には申し訳程度に端の方で広げられたノートと、
これまた端の方で、開かれているものの立てて置かれている教科書があり、
一番面積を占めているのはすずの落書き帳であったりする。
だが、今日はすずの手は一向に動いておらず、それどころかいつの間にか握っていた鉛筆までも机の上に転がっている。
すずの頭が小さく上下し、どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。
子供だからお昼寝の時間も必要だな、と恭也はすずを起こさないようにそっと横向きに抱き直し、
すずが変な姿勢で寝て首を痛めないようにと、そっと頭を抱いて凭れさせる。
すずの寝顔を優しく見守りつつ、朗読しながら傍を通る国語教師へと向かって手を上げる。

「先生」

「何だ、高町」

「すずが起きるので、出来ればもう少し静かにお願いします」

「……あー、子を思う気持ちも分かるが、その前に授業中だと分かってるか?」

至極当然な教師の言葉に恭也が何か反応するよりも先に、女子生徒たちからも同じような嘆願が上がる。
変な所で一致団結するクラスに思わず頭を抱えそうになりつつも、教師は幾分か声のトーンを落とすのだった。
そんなこんなで滞りなく授業が進む中、恭也は不意に何を思ったのかすずの頬をツンと突っつく。
思わずといった感じの行為ではあったが、その弾力に思わず数回繰り返してしまう。
すると、すずはむずがるように手で目元を擦り、

「んん……むにゅぅ。パパ〜、ママ〜」

寝言なのか、どこか舌足らずな調子で呟いて恭也に擦り寄ってくる。
流石にこれ以上して起こしてしまうのも可哀相なので、恭也はポンポンと軽く背中を擦るようにして、
後は大人しくする。邪魔がなくなってご満悦なのか、すずの口からはすぐに寝息が零れ出す。
恭也は可愛らしいすずの寝顔を、ずっと優しい眼差しで見詰めるのだった。





おわり




<あとがき>

今回はすずのお昼寝。
美姫 「学校の授業中にお昼寝ね」
このシリーズもとうとう七話か。
美姫 「まあ、これは一話一話が短いからね」
まあな。高町親子の日常という事で、その部分、その部分という感じで。
美姫 「こんな感じで短くもゆったりとしたお話ですが、良ければお付き合いください」
そんな訳でまた次回で〜。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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