『ママは小学二年生』






〜8〜



「ん〜」

ぎゅっと目を瞑り、耳を両手でしっかりと押さえて俯きがちにすずはそれが来るのを身構える。
果たして、それほど待つこともなくすずの頭上からお湯がざぱぁと落ちてくる。

「ぷふぁ〜」

お湯が全て流れたのを感じ取り、目と耳はそのままに口を大きく開けて息を吐く。
そして、そのまままた息を吸って息を止めると俯きじっと待つ。
そこへ恭也が桶で汲んだお湯を再び頭へとかけてやる。
これを数回繰り返し、ようやくすずの頭にはお湯ではなくタオルが置かれ、優しく拭かれていく。
ほっとするように身体から力を抜き、すずは閉じていた目を開けて手を耳から離す。

「はぁ〜。パパ、すずちゃんと我慢できたよ。良い子?」

「ああ、良い子だな。でも、今度は一人で洗えるように挑戦してみような」

「う〜。一人だと耳が……」

「まあ、最初はちゃんと手伝ってやるから」

「うん、分かった」

恭也が手伝ってくれるとなれば話は別なのか、少し困ったような表情から一転して笑顔を見せる。
娘の笑顔に微笑を零し、恭也は拭き終わったばかりの、けれどもまだ湿っているすずの頭を撫でてやる。

「えへへ。じゃあ、今度はすずがパパの背中を洗ってあげるね」

「それじゃあ、お願いしようかな」

言って泡立てた手拭いをすずに渡し、自分は背中以外を手早く洗う。

「んしょ、んしょ」

両手だけでなく、身体全体も一緒に上下に動かしながら恭也の背中を洗うすず。

「ごしごしごし〜♪ きれいにしましょ〜♪」

ご機嫌に歌まで口ずさみながら、すずは恭也の背中を洗い終えると一仕事終えたとばかりに鼻の下を擦る。
手に泡が付いた状態であったため、すずの鼻の下には髭のように泡が付着して、鏡でそれを見てすずは笑う。

「おひげ、おひげ〜」

「ああ、確かにお髭だな」

気に入ったのか、更に髭を伸ばすように指で弄って遊ぶのだが、その内泡が目に入ったのか、目を瞑り、

「パパ、おめめが痛い」

「と、そんな泡だらけの手で触ったら駄目だ。泡が入ったんだな。
 少しじっとしてろ」

咄嗟に目を擦ろうとしたすずの手を取り、湯に漬けたタオルでそっとすずの目を拭ってやる。
痛いのを我慢して、恭也に任せてじっとするすず。
程なくして、恭也の手が頭に置かれてポンポンと叩かれる。

「もう大丈夫だ」

「……うん、もう痛くない。ありがとう、パパ」

恐る恐る開けた目に痛みを感じなくなり、すずは恭也にお礼を言う。
それに笑顔で応えつつタオルですずの髭を綺麗に拭き取る。

「おひげはまた今度な。それよりもすず、パパの背中を流してくれないか」

「あ、忘れてた。すぐに流すから待ってね」

恭也の言葉にすずは自分のする事を思い出し、その手には少し大きな湯桶に湯を汲み取り、
両手でふらふらしながらも持って恭也の背中にかける。

「んしょ、んしょ。もう一回いきますよ〜」

言いながらも既に恭也の背中へとお湯はかけられているのだが、流石にそれを突っ込むような事はしない。

「うん、綺麗になりました」

「そうか、ありがとうな。それじゃあ、そろそろ湯船に入ろう。
 風邪を引いたら、なのはに怒られるからな」

「うん」

恭也に抱っこされて湯船に入ると、親子は声を揃え、

「「はぁ〜〜」」

その事に笑顔を見せ合うのであった。

「パパ、あれやって、あれ。
 あのビューってなるやつ」

「ああ、鉄砲な」

すずの要望に応え、恭也はすずの顔の前で両手を組み、そこからお湯を飛ばす。

「すずにも、すずにも」

前に一度、お風呂に入った際に教えて以来、なのはと入っている時にやっているらしいのだが、
中々上手くいかないらしい。という訳で、もう一度恭也はすずの手を取ってやり方を教えてやる。

「じゃあ、行くよ。えいっ!」

勢い良く空気を送り込むのだが、勢いが良すぎて両手が湯の中に潜ってしまう。
その勢いで水面が跳ねるのだが、当然これは成功ではなくすずは頬を膨らませる。

「む〜、また出来なかった」

「そうだな。すず、そんなに力いっぱいしなくても良いだぞ。
 こうやって、優しく」

すずの手を包み込むように手に取り、ゆっくりとしてやる。
するとすずの手から小さく湯が打ち出される。

「わぁ、今度はすず一人でやる」

慎重に恐々といった手付きで同じようにしてやると、やはり小さいながらも湯がピュッと飛び出す。
だが、すずにとってはそれだけで満足なのか、更に数回繰り返して恭也を見上げる。

「パパ、出来たよ、ほらほら」

「ああ、出来たな。よく頑張ったぞ、すず」

「うん。パパ、撫ぜて〜」

「ああ、よしよし」

「えへへへ〜」

鉄砲が出来た時よりも嬉しそうな顔をして、恭也に撫でてもらう事を堪能する。

「さて、いつまでも入っているとのぼせるからな。十を数えたらあがろうか」

「うん。い〜ち、にぃ〜、さ〜ん……」

その後、すずが十まで数え終えて、今日のお風呂はお仕舞いとなる。

「ほら、すず、もっとちゃんと拭かないと駄目だろう」

「う〜、背中が拭けない」

「どれ、こっちにおいで」

風呂から上がり、恭也に身体を拭いてもらい、パジャマに着替えたすずは恭也が着替え終えるのをじっと待つ。
恭也が着替え終えたのを見ると、その足に抱き付く。

「パパ〜」

「本当にすずは甘えん坊だな」

言いながらも恭也は口元を緩めてすずを抱き上げる。
そのままリビングへと顔を出すと、なのはが冷蔵庫の方へと向かい、二人の為に飲み物を用意し出す。
その光景に笑みを見せながら、桃子はすずの元へと足を運ぶ。

「すずちゃん、パパに抱っこして運んでもらったんだ。
 良かったわね〜」

「うん♪」

桃子の言葉にすずは本当にご満悦といった笑みで答える。
その間になのはの方もコップを持って二人の下へとやって来る。

「喉が渇いているでしょう。はい、牛乳。テーブルに置くから、ちゃんと座ってから飲むんですよ」

「は〜い」

元気に返事するすずに促され、恭也はすずをソファーまで運ぶと座らせる。
すずを間に挟むように自然と恭也となのはも腰を下ろす。
そんな光景を桃子は嬉しそうに見守るのであった。





おわり




<あとがき>

今回はお風呂で。
美姫 「前は飛ばしたシーンね」
ああ。とは言え、今回はなのはは一緒じゃないけれどな。
美姫 「恭也とすずの二人ね」
さてさて、次はどれにしようかな〜。
そろそろ、まだ出番のない人とすずを会わせてみようかな。
それとも、先にあっちを……。
美姫 「そんな感じで、また次回でお会いしましょう」
ではでは。







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