『ママは小学二年生』






〜13〜



「ふぁぁ〜んにゅにゅ」

「ふふふ、大きなあくびだね、すず」

大きく口を開けてあくびをした後、猫のように目元を擦るすずを見てなのはは楽しそうに笑う。
その声にすずは頷くも、既に夢うつつなのか呂律は回っておらず首がこっくりこっくりと上下に揺れる。

「むにゅ、おねみゅ……」

「お昼寝しようか」

優しく語り掛けるなのはの言葉にも、やはりすずはちゃんと答える事はない。
既に半分寝ているような状態で、なのははそのままソファーにすずを横たわらせ、何か掛けるものを立ち上がる。
毛布を手に戻ってきたなのはを迎えたのはすずの可愛らしい寝顔ではなく、困ったような顔をした恭也と、
何故かソファーから下に下りて恭也の膝を枕にしているすずであった。

「あれ、お兄ちゃん帰ってきてたの?」

「ああ、さっきな。で、すずがソファーで寝ていたが落ちそうになってな。
 何故かこういう体勢になってしまってな」

「あ、すぐにどけるね」

「いや、折角だから寝かせてやれ」

「お兄ちゃんが良いなら」

言ってなのははすずに毛布を掛けてやると、その寝顔を覗き込む。

「はぁ、やっぱり可愛いね」

なのはの横顔に思わず大人びた一面を垣間見て、またそれに見惚れてしまった事を誤魔化すように恭也は相槌を打つ。
が、次の瞬間に小さく欠伸がこぼれる。

「お兄ちゃんも眠たいの?」

「そういう訳でもないんだがな。すずがあまりにも気持ち良さそうに寝ているからかもな」

恭也の言葉を聞き、なのはは良い事を思いついたと小さく手を叩くと早速それを実行するために動き出す。
すずの頭に手を入れ、恭也の足を抜けるようにすると、

「お兄ちゃんはすずの隣に寝て、膝じゃなくて腕を枕にしてあげて」

すずが起きてはいけないと素直になのはの言葉に従い、すずの隣に寝転がるとすずの頭の下に腕を置く。
それを見届けるとなのはは次に恭也の頭を持ち上げ、自分の膝の上に置く。

「待て、なのは」

「あ、動いたらすずが起きちゃうよ」

「くっ、謀ったな!」

「そんな大げさな」

恭也の物言いに苦笑を見せつつ、なのはは恭也にも毛布を掛けてやる。
何とか抵抗しようと思うものの、片腕を枕として眠るすずを起こさないですむ方法が浮かばず、渋々とだが大人しくする。
それに満足そうな顔をすると、なのはは恭也とすずの頭に手を置いて優しく撫でる。

「んふふ、ふぃにゅ〜ママ〜、パパ〜」

「何のつもりだ、なのは」

今にも切腹する侍のような深刻な顔を見せる恭也にやはり笑みを零しつつ、なのはは何でもない事のように事実を述べる。

「お兄ちゃんの頭を撫でているだけだよ」

「くっ、よもやこのような屈辱を味わう日がこようとは……」

「本当に大げさなんだから。それにあまり騒いでいると、すずが目を覚ましちゃうよ」

「仕方あるまい。今日の所はあえてこの屈辱にも耐えてみせよう」

「もう、またそんな事を言う。偶にはなのはもこうしてみたかっただけなのに」

「分かった、分かった。とりあえず、このまま少し眠らせてもらうが良いんだな」

「うん。重くなったら勝手に足を抜くから」

「それだと、俺の頭が落ちてしまうではないか」

「にゃははは、その時はごめんね」

実際にはちゃんと頭を持って抜くだろうぐらいは分かるものの、やはり少し恥ずかしいからかそんな事を口にする。
対するなのはも同様に笑ってそう言うと、最後におやすみと言って恭也の額にキスをする。
これには流石の恭也も驚くも、これまたすずの枕となっている身ゆえに起き上がる事も出来ず、
ただ恥ずかしそうに顔を若干赤らめるなのはを見上げるしかできない。
だからこそ、唯一自由になる口を使って思わず皮肉めいた事を言う。

「照れるなら初めからするな」

「にゃにゃ。お兄ちゃんはデリカシーがちょっと足りないと思います。
 そういう事は思っても口にしないもんだよ。本当に乙女心が分かってませんね。
 まあ、その方がなのはとしては安心ですが……」

「む、それはすまなかったな。とりあえず、兄はもう寝る」

「うん、お休みなさい」

なのはの物言いに苦笑しつつ、恭也は再び小さく欠伸をすると目を閉じる。

「……さっきの言葉は照れなければやっても良いって事だよね」

眠りに落ちる直前、なのはが何か言っていたような気もするがそれを聞く事はなかった。
暫くは二人の頭を撫でていたなのはであったが、二人の規則正しい寝息を聞いている内に自分も眠くなってきたのか、
瞼が時折落ちそうになっている。
それを数回繰り返した後、素直に眠る事にし、小声で恭也に謝ると恭也の頭から足を引き抜き、すずとは逆側に潜り込む。
起こさないように恭也の腕を取り、恭也へと身体を寄せるとそれを枕代わりに睡魔に身を委ねる。
誰も居ない静かなリビングに、親子三人の規則正しい寝息だけが響く、そんな休日の午後であった。





おわり




<あとがき>

今回はちょっと恭也となのはメインで。
美姫 「後は親子で川の字ね」
だね。知らず知らずに続いてついに13話。
美姫 「一話一話が短いからこそね」
かもしれないな。ともあれ、また次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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