『ママは小学二年生』






〜15〜



それは最初、何処にでもある平穏な風景であった。
休日の昼食を桃子の代わりに準備するレン。
最早、手馴れたものでその動作に無駄はなく、使い慣れていると分かるほどに食器や器具の位置を把握して動く身体。
鼻歌などを歌いつつも、その手だけは別物のように素早く動き調理を進めていく。
程なくして、キッチンから良い匂いが漂い始め、それにつられる様にこの家の住人が集まってくる。
とは言っても、初めからキッチンにいた恭也とすずは料理が出来るのを既に座って待っていたりするのだが。
恭也の膝の上に座り、漂ってくる匂いにお腹を押さえるすず。

「う〜、まだかな」

「もう少し待ってような」

「うん」

「今日はレンの当番だったんだ。ああ、匂いを嗅いだらお腹が空いてきたよ」

「まったく匂いにつられてやってくるなど、いやしい奴だ」

美由希がお腹を押さえつつ席に座るのを横目で見遣り、ぽつりと呟く。
それを聞きとがめた美由希が目を細め、

「それを言うのなら、なのはだって同じじゃない」

「なのはは朝から色々と家事をしていたからな。その分、お腹が空くのが早くなっても仕方ないだろう。
 それに、レンが作り始めたのを知っていたから問題もない」

「いや、それを言うなら私だって朝から鍛錬で身体を動かしていたんだけれど。
 確かに、レンが作り始めたのはしらなかったけれどさ。と言うか、いい加減にもっと妹を平等に……あ、ごめん。
 なのはは妹じゃなくて、愛しい奥様だものね〜」

からかう気満々といった感じで笑みを浮かべ、そんな事をのたまう。
いつまでもからかわれてばかりではないとばかりに。
その言葉になのはは顔を真っ赤にし、恭也も少し照れつつも、こちらは当然ながら報復とばかりにデコピンを放つ。

「あうっ! すぐにそうやって暴力に訴えるのはどうかと思うよ」

赤くなった額を押さえつつ、美由希は恨めしげに見遣り、次いでキッチンの方へと顔を向ける。

「でも、いつもより少し早くない?」

「ああ、すずのお腹の虫がなってな」

「そうなの。くー、ってなってお腹がペコペコだったの。
 そしたら、レンお姉ちゃんが」

「ああ、そういうことね。それにしても、本当に良い匂い」

呟くと同時に美由希の腹も音を立てる。
お揃いだねと笑うすずに応じつつも、恭也がからかおうと口を開こうとしていたのは見逃していなかったらしく、
何も言わないけれど、笑みを貼り付けて意味ありげに恭也を見る。

「何か用か」

「べっつに〜」

優越感に浸るようにそう返してくる弟子に、どうやって師匠を敬うことを覚えさせようかと思案していると、
外出していた晶が戻ってきたのか、キッチンへと顔を見せる。

「あー! テメー、何してやがる!」

見せるなり、キッチンで料理するレンを見て晶もまたキッチンへと入っていく。

「おお、おかえり晶」

「おかえりじゃねぇよ! 今日の昼は俺の当番だっただろうが」

「そないな事を言うたかて、すずちゃんがお腹を空かせとったんやからしょうがないやろう」

怒鳴る晶にレンは涼しい顔で受け流す。
レンの言葉に少し反論に詰まるが、それはそれ。
レンの態度に晶はすぐに怒りを浮かべて問答無用とばかりに拳を繰り出す。
が、既にそんな行動は予想済みだったレンは綺礼にそれをを受け流すと余裕の笑みを向ける。
それを正確に挑発と受け取った晶は拳を強く握り締め、腰を落とす。
対するレンも調理の手を止め、こちらも軽く構える。
まさに一触即発の状態になる二人を眺め、恭也と美由希は期せずして揃って嘆息する。
二人とも熱くなっているのか、この場になのはが居る事を完全に忘れている。
案の定、二人に向かってなのはが席を立った所で、意外な人物が声を上げる。

「レンお姉ちゃんも晶お姉ちゃんも喧嘩したらめー、ですよ」

すずの言葉に、晶とレンも思わずすずへと顔を向ける。
すずは恭也の膝の上に抱っこされた状態のまま、人差し指を立てて胸を張っている。

「仲良くしないとおやつ抜きにしちゃいますよ」

「いや、別に俺たちは喧嘩しているとかじゃ……」

「そうそう。えっとこれは鍛錬というか」

「本当に?」

二人の言葉に純粋な顔で聞き返すすず。
その顔を直視できず、少しずらしつつも二人は互いの肩を組んで笑い合う。

「そうそう。今日はうちが当番を取ってしまったから、次は晶に譲るつもりやったし」

「おう、そういう事で話は済んでいたんだよ。という訳で、さっきのは喧嘩じゃないよ」

その言葉に意味まではよく理解していないが、二人が喧嘩していないというのは理解して満足そうに頷く。
が、なのはは目を細めて二人を見遣り、それを見た二人はさっきまでの喧嘩が嘘のように、

「なのはちゃん、本当だって。確かにさっきはちょっと熱くなってたけれど、もう仲直りというか、なぁ」

「そやそや。だから、そんな目でうちらを見んといて。そ、それよりも早く食べてしまおう」

「そうだな。折角の料理が冷めちまう」

「その通りや」

息を合わせてなのはへと弁解する。
そんな様を見て、仕方ないとなのはも席へと戻ると、すずに対してさっき二人の喧嘩を止めた事を褒めて上がる。

「えへへ、よくママがやっているから。
 ママがね、いつもこうやって言うと、大人しくなるの」

それで覚えたんだよと照れながらも嬉しそうな顔をするすず。
おやつ云々は流石になのはが言っている台詞ではなく、自分流にアレンジとイッタ所ではあったが。
対して、なのはを見て覚えたというすずの行動に、未来でも変わらず喧嘩しているんだと呆れるなのは。
なのは同様に、二人の喧嘩を止めたすずを褒めるように撫でながら、恭也は今しがたの行動を思い返し、
未来でもなのはに頭の上がらない二人を簡単に想像でき、美由希ともども苦笑を見せる。
同じような想像をしたのか、当の本人である晶とレンはがっくりと肩を落として項垂れていた。





おわり




<あとがき>

高町さん家のとある休日。
美姫 「晶とレンは未来でもなのはに頭が上がらないと判明してしまったのね」
だな。しかも、この調子ならすずにも上がらなくなるかもな。
美姫 「親子揃って晶とレンの上に君臨ね」
あははは。ともあれ、今回は二人の喧嘩の仲裁というような感じかな。
美姫 「それじゃあ、この辺で」
また次回で。







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