『ママは小学二年生』






〜17〜



「パパ、ママ、おめでとうございます」

「ああ、おめでとう、すず」

「おめでとう、すず」

除夜の鐘を聞くと頑張ったものの、やはり途中で力尽きて眠ってしまったすずは、
それでもいつもよりも遅く寝た事もあってか、まだ眠そうな目を擦った後、ぺこりと頭を下げる。
その愛らしい愛娘の様子に頬を緩めながら、恭也となのはも新年の挨拶を返す。

「んにゅ〜、まだ少し眠たい……」

再び目を擦りつつ席に着くと、すずは桃子たちにも挨拶をする。
それぞれにすずに返した所で、美由希がすずに手を出すように言う。
すずは何かおやつでももらえるのかと期待に満ちた目で嬉々として手を差し出せば、そこへ美由希はビー玉を一つ落とす。

「美由希、まさかとは思うが……」

「お姉ちゃん、お年玉なんてベタな事は言わないよね」

「いや〜ね、二人とも。幾ら美由希だってそんなベタな事はしないわよ。
 どうせ、大掃除した時に見つかったから、すずちゃんにと思ったんでしょう」

「そうですよね、幾ら美由希ちゃんでもそんなベタな事しませんよね」

「いやー、実はうちはもしかしたらって思ってしまいましたわ。
 ごめんな、美由希ちゃん」

あげた本人である美由希が何か言うよりも早く、家族たちが口々にそう言ってくるのを聞き、
美由希は居心地悪そうな思いを隠し、少し焦ったように笑顔を見せる。

「あ、あははは、やだな、そんなベタな事する訳ないじゃない。
 偶々、大掃除の時に見つけたから、あげようと思っただけだよ。まあ、ちょっと忘れていて今になっただけで」

美由希の発言を聞き、恭也たちは何ともいえない顔で揃って肩を竦める。
更に居心地の悪い思いをする美由希であったが、貰ったすずが嬉しそうにビー玉を頭上に翳して喜んでいるのを見て頬を弛める。
それを見て、恭也たちもそれ以上は何も言わずにおいたのだった。



朝食を済まし、少し休憩した所で揃って神社へ参拝する事となったのだが、恭也は一人リビングでお茶を啜っていた。
女性陣の支度が終わるのを待っているのである。
暫くして、一斉にリビングに着物姿となった美由希たちが姿を見せる。

「どう、恭ちゃん」

「ほう、似合っているじゃないか。可愛いぞ、すず、なのは」

「えへへへ」

「ありがとう、お兄ちゃん。
 可愛いだって。良かったね、すず」

「うぅぅ、今年も私の扱いはこんな感じなんでしょうか……」

話しかけてきた美由希を無視するかのように、真っ先にすずとなのはを褒める恭也。
美由希は人差し指を合わせ、いじける様に肩を落とす。
その隣で桃子は苦笑を漏らして、恭也の名を呼ぶ。
恭也は仕方ないと尤もらしく溜め息なんぞを吐きつつ、

「美由希も中々様になっているぞ」

仕方なくと言った風を装いながらも、思った事を口にしてやる。
それが分かっているからか、美由希はその言葉一つで機嫌を直すのだが、続いて自然に桃子や晶、レンを褒める恭也を見て、
自分の場合も素直に褒めて欲しいと愚痴を零すのだった。



神社で忙しそうにしている那美に挨拶だけ済ませ、高町家の一行は籤引きをする。

「……ふむ、吉か」

「パパ、すずのは?」

「ほう、すずは中吉か」

「中吉?」

「すず、ママと一緒だね」

「ママとお揃い? わーい」

親子三人で仲良く引いた籤の結果を見せ合っている隣で、晶とレンはまだ中を見ていない籤を手に睨み合う。

「行くぜ、亀」

「望むところや、おサル。今年最初の勝負もうちがもらうで」

「「いっせーの!」」

そんなに必要なのかと思うぐらいに気合を入れて籤を同時に開く。

「うちは末吉や。そっちは?」

「くそー! 同じかよ!」

二人は互いの籤を見て、引き分けたと悔しそうに地団太を踏む。
勝負じゃないだろうと呆れながらそんな二人を見遣りつつ、恭也は桃子へと視線を向ければ、

「私もレンちゃんたちと同じ末吉ね。あ、健康運は良いみたいだから良かったわ」

「だからといって、無茶をしても良いという訳ではないぞ。ここにも書いてあるだろう。
 無茶はしないようにと」

「そんなのは分かっているわよ。って言うよりも、健康に関して恭也に無茶とかは言われたくはないわね」

桃子の言葉になのはまで頷き、恭也の籤をもう一度覗き込み、健康運の書かれた所を指差す。

「お兄ちゃん、調子に乗ったら駄目、何事も程々にって書かれているでしょう」

「……確か木に結べば問題ないんだったな」

「あのね、恭也。結んだからといって無茶しても良いって訳じゃないのよ」

「そうですよ、お兄ちゃん」

桃子となのはに続き、晶やレンまでが似たような事を言ってくるのをあしらいつつ、やけに静かな一人へと声を掛ける。

「美由希、やけに大人しいがどうした? 正月早々、自分の料理した物でも口にしたか?」

何気に酷い事を言われているのだが、当の美由希は珍しく反論せず、ただ手元の籤をじっと見詰めていた。
熱心に見詰めるその様に、よほど良い事でも書いてあったのかと後ろから覗き込み、

「……流石だな、美由希。期待を裏切らない奴だ」

ポンと肩に手を置いてやる。
その言動に何か気付いたのか、なのはたちも美由希の手元を覗き込み、何とも言えない顔になる。
そんな中、一人漢字の分からないすずがなのはの手を引く。

「ママ、何て書いてあるの?」

「これは凶って読むんだよ」

「ふーん、凶って読むんだ」

すずの声に反応したのか、美由希の肩がピクリと震え、やがて全身を振るわせたかと思うと空を仰ぎ、

「うわーん、こんなお約束いらないよー!」

晴れ渡った青空に美由希の声が吸い込まれていくのであった。



中庭で新年最初の決着をつけると私服に着替えた晶とレンが、ちょっと常人では反応し辛い速さで羽子板をやり始める。
その音を聞きながら、のんびりと寛いでいた恭也であったが、そこへ忍とノエルが新年の挨拶をしながらやって来る。

「今年も宜しくね、皆〜」

「皆様、本年も宜しくお願いいたします」

対照的な挨拶をしてくる二人に返しつつ、着物姿の二人に目を細める。
特にノエルのその姿は初めて見るもので、恭也も素直に賞賛を口にする。
照れつつ礼を言うノエルの横で、忍が拗ねた顔をするも続いて褒められてすぐに相好を崩すと、
未だ着物姿のすずへと近寄り抱きしめる。

「あ〜ん、もう可愛い♪」

「あはは、忍お姉ちゃん苦しいよ〜」

苦しいと言いながらも楽しそうなすずの頬に頬擦りし、ひとしきり満足するとすずを解放する。

「可愛いすずちゃんにはお姉ちゃんが良いものをあげましょう。
 さあ、すずちゃん手を出して」

忍の言葉に素直に手を出したすずへと、忍はビー玉を落とす。

「これが本当のお年玉〜」

「……えっと、忍さん」

「ありがとう、忍お姉ちゃん。パパ、これで二つになった〜」

美由希が何か言い掛けるのだが、すずの言葉に忍が反応する。
そこへなのはが苦笑めいた顔で、朝にあった一件を話すと、

「ああ〜、二番煎じだなんて。しかも、美由希ちゃんとネタが被るなんて、何て屈辱なの……」

「忍さん、屈辱って酷くないですか?」

がっくりと膝を着く忍へとすかさず美由希が突っ込むのだが、忍は落ち込んでますとばかりに地に手を着いたままでいる。
そんな忍の様子も構いもせず、すずは二つになったビー玉を純粋に喜んでおり、それを見て忍は肩を竦める。

「うーん、あそこまで純粋に喜ばれると逆に冗談とも言えないわね」

同じ事をした美由希へと話しかければ、美由希も同感だと強く頷き返す。
そこへ恭也が意地悪そうに、

「美由希は冗談ではなく、単に見つかったビー玉をすずにあげたんではなかったのか?」

「あ、あはは、そうだった。うん、私は偶然、今日になっただけだよ、うん」

既に見抜かれているのに必死に言い繕う美由希の肩に、忍がポンと静かに手を置く。

「うぅ、忍さん。やっぱり私は今年も……」

「まあまあ、落ち込まない、落ち込まない。来年に向けて今からネタを考えましょう」

気の早い話をする忍に、流石の美由希も呆れたような溜め息を吐き出すのであった。





おわり




<あとがき>

新年一発目の『ママは〜』と言う事で、お正月ネタで。
美姫 「時系列を無視したわね」
まあ、すずがいつ来たのかは不明だからな。
そんな細かい事を気にしてはいけないよ。
美姫 「別にいいんだけれどね、私は」
あははは。そんなこんなで正月ネタでお送りしました〜。
美姫 「それじゃあ、次回は?」
次は……。どれにしようかな〜。ってな訳で、また次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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