『ママは小学二年生』
〜24〜
のどかな昼下がり。
とは言え、流石に寒さを感じるからか、いつものように縁側に出るのではなく家の中で恭也は寛いでいる。
その視線の先にはニコニコと笑みを絶やさないすずがおり、恭也も知らず頬を緩ませる。
そんな恭也の正面に座り、美由希は呆れたような口調で言う。
「恭ちゃん、顔がだらしなくにやけているよ。本当に親ばかなんだから」
「……中々に失礼な物言いだな。そういうお前もにやけているぞ。
この場合、叔母バカとでも言えば良いのか?」
何気にさらりと言い返す恭也に対し、美由希は言葉を詰まらせるもすぐに相好を崩してすずを見遣る。
「流石にその発言には文句を述べたいけれど、すずを見ていると自然と和むんだよ」
美由希の言葉に恭也は口には出さないながらも満足そうな雰囲気な顔になる。
それを眺めながら、もう一度親ばかだと今度は心の内で思うに留め、もう一度すずへと視線を向ける。
二人が見詰める先で、すずは仰向けに転がりそのお腹の上には一匹の猫がすずに抱かれて大人しくしていた。
猫の喉元を撫で、ごろごろと抱いたまま数回転がり、両手を掲げて高い高いとするように猫を持ち上げる。
その間も猫は暴れる事無く大人しくされるがまま、寧ろすずに甘えるように喉を鳴らし、一緒に転がり、空中で嬉しそうに鳴く。
そんな猫に満面の笑みを向け、すずもまた楽しそうに鳴く。
「にゃ〜にゃ〜、猫さん、にゃ〜」
高町家の半飼い猫である小飛も、それに合わせるように鳴き声を上げる。
それを微笑ましく見守る二人。そこへなのはがやって来て、すずの様子を見てやはり口元を綻ばす。
見守るのが三人に増える中、すずは小飛と暫く戯れる。
数分後、すずはようやく小飛を解放すると恭也の元へとトテトテと近寄り、その膝に飛び込む。
恭也に膝枕をせがむように頭をぐりぐりと押し付け、それに応えるように恭也も足を動かす。
「にゃ〜、にゃ〜、ごろごろ」
猫の鳴き声を真似しながら、すずは甘えるように恭也の足の上をごろごろと転がる。
そんなすずの喉元をくすぐる様に指先でこちょこちょとすれば、やはりくすぐったいのかすずは身を捩る。
それでも恭也から離れようとせず、寧ろ更に甘えるように頬をすりすりと擦り付ける。
「すず猫は膝が気に入ったのか?」
「にゃ〜ごろごろにゃ〜ん」
肯定するように返事を返し、今度は恭也の手に頬擦りする。
その手ですずの頭を撫でてやれば、先程よりも気持ち良さそうに鳴いて抱き付いてくる。
「ふにゃ〜ん」
そんな親子のスキンシップが羨ましかったのか、じっと黙ってみていたなのはも甘えるように恭也の背中から抱き付く。
「にゃ〜ん」
不意に抱きついてきたなのはへと恭也はもう一方の手を伸ばして頭を撫でてやれば、こちらも嬉しそうに声を上げる。
「ふにゃ〜ん」
「にゃ〜ん」
母娘揃って顔を見合し、気持ち良さそうな声を上げて恭也に纏わり付く。
そんな二人の頭や喉などを撫でながら、恭也も満更でもないとばかりに微笑を浮かべる。
母猫が小猫にするように、なのはがすずを撫でれば、すずもなのはを撫で、その度ににゃーにゃーと鳴く。
互いに撫で合いながら、恭也に撫でられていた二人は、不意に恭也の頭を二人揃って撫でる。
「……まさかとは思うが、俺にも鳴けと」
反応を返さない恭也を無言で見詰めてくる二対の瞳に対し、恭也は勘弁してくれと目で訴えるのだが、
二人はじっと見詰めたまま視線を逸らさない。
興味深そうに見詰めてくる美由希の視線を受けながら、恭也は困ったように天井を仰ぐも事態は好転する兆しもなく、
「にゃ……にゃー。…………な、何たる屈辱だ」
諦めて小さくそう呟くのであった。
勿論、楽しそうに見て来る美由希へと口封じの意味を含めた殺気混じりの視線で釘を刺すのを忘れず。
ともあれ、恭也の反応にすずは嬉しそうに、なのはは何処か楽しげな笑みを見せて再び手を伸ばしてくるのだが、
「さっきの一度だけだ。もうしないぞ。これ以上求めるのなら、今すぐに俺は切腹する」
そんな兄の言葉になのはは苦笑を浮かべて仕方ないな、という目で諦めたように手を引っ込める。
すずも切腹の意味は分からないものの、とりあえずといった感じで頷き、それよりも、ともっと撫でてくれる事を求める。
その事に安堵の吐息をこっそりと零しつつ、恭也はまた二人と戯れるように指を動かすのだが、
なのはに対しては仕返しとばかりに脇腹へと手を持って行き、そこをくすぐる。
「にゃっ、にゃはははは〜、お、お兄ちゃん、そこは止めて」
「猫じゃなくなったのか?」
「にゃにゃにゃって、無理無理、あっははは、あははは」
流石にやりすぎると怒るだろうから、すぐに解放してやったのだが、それでもなのはは怒ったように恭也を睨んでくると、
「ふにゃー!」
そう言って恭也の耳たぶに軽く噛み付く。
「はむっ、はむ、少しは反省してください」
「分かった、分かった。反省したから噛むのを止めてくれ」
「……本当に反省しましたか?」
なのはの問い掛けに恭也が素直に頷くと、なのはは耳たぶから口を離し、すずがしたようにもっと撫でろと強請る。
それに苦笑を零しつつ、噛まれている間もずっとすずにしていたようになのはにも今度は普通に撫でてやる。
それらのやり取りをずっと見ていた美由希は、解放された小飛をいつの間にか膝に抱っこし、
こちょこちょとお腹や喉を撫でてやっていた。
「……小飛、一緒に遊ぼうね〜」
「にゃ〜」
忘れられたかのように放置されていた美由希を慰めるように、小飛が小さく鳴くのだった。
おわり
<あとがき>
という訳で、猫と戯れるすず。特に他にはない!
美姫 「いつものごとく、のほほんとしたお話ね」
それが基本ですから。
こんな調子でどこまでいけるのか。
美姫 「次も気張りなさいよ」
イエッサー。
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」
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