『ママは小学二年生』






〜25〜



その日、高町家は朝からちょっとした騒ぎとなっていた。
冬休みに突入して数日、学生組みが皆揃って休みに入っている故に騒がしいという感じではなく、
何やら大掛かりな作業をしている雰囲気であった。
高町家の庭、それも縁側よりも少し奥、道場の前辺りに恭也と美由希二人の姿があった。
二人は冬だというのに流れ出た汗を手で拭い、ずっと作業を続けてきた為に固まったのか、軽く背を伸ばす。
足元には何やらスコップやレンガなどが置かれている。
それらを見下ろし、改めて作業の大変さを思いつつ、美由希は疲れた声を上げる。

「恭ちゃん、今更なんだけれどどうして私たちはこんな事をしているんだろう」

「本当に今更だな。昨日の時点で聞けと言いたい所だが、理由は至って簡単だ」

美由希へと真顔で返事をして、恭也は疲れて項垂れる美由希へと言葉を投げる。

「すずがサンタは煙突から来ると思っているんだ。
 なければ来ないと涙目で訴えられては、作るしかあるまい」

きっぱりと言い切った恭也に美由希は分かっていたけれど、と盛大な溜め息を吐きつつ返す。

「素朴な疑問なんだけれど、未来の家にはあるの? もしあったとするなら、私たちが作った物なのかな?」

「いや、ないみたいだな。
 そもそも去年はまだ幼すぎてサンタというのをちゃんと認識していなかったようだ。
 が、一昨日お前に読んでもらった絵本を見て、プレゼントをお願いしたまでは良かったが、煙突がないとなってな」

「うぅぅ、もしかしなくても私の不用意な行動の所為?
 この重労働をする羽目になったばかりか、私ってば局地的とはいえ未来を変えちゃった?」

「気にするな。もう少し大きくなれば、窓からも入れると教えれば良いし、お前に関しては既に手伝いという形で償わせている。
 まあ、未来云々については、そんな難しい事を考えるだけ無駄だ」

「って、やっぱり私の所為だって思ってるんだ!?
 って言うか、すずちゃんの為にサンタ様の煙突を作るんなら、ここまで本格的にしなくても良いんじゃ……」

「その点に関しては俺も同様に考えていた。はりぼてで誤魔化すつもりだったんだ。
 が、母さんに煙突を作る許しを得ようと話をしたら、一層の事、ピザが焼けるぐらいの釜戸が欲しいと言われてな」

「…………釜戸を手作りしようとする家なんて他にあるかな。
 って言うか、そこまで話が大きくなったんなら業者に頼もうよ!」

「奇遇だな。俺もまさにそう思っていた所だよ」

二人揃って作業二日目に何を言っているんだろうか。
そう突っ込む者はここには誰も居ない事は幸いなのか、不幸なのか。
二人は顔を見合わせると肩を竦め、諦めたように休憩はお終いとばかりに手を動かし出す。
が、すぐに恭也はピタリと手を止め、何かを思いついたように携帯電話を手に取る。

「忍か。物は相談なんだが、煙突を作ったりは……」

「煙突!? いやー、さすがの忍ちゃんもそっちは専門外かな」

どうやら忍に作らせようと思いついたらしいが、確かに手先は器用なのは間違いないだろう。
だが、流石に畑違いである。忍の返答も当然と思われるのだが、兄妹は顔を見合わせると落胆を隠しもせず、

「全く役に立たないな」

「忍さんにはがっくりです」

「って、何、何なの!?
 どうしてそこまで言われる――」

反論する忍の意見を封殺するように電話を切ると、恭也と美由希は再びレンガを手に煙突らしき物を組み上げていく。
最早、昨日からこの作業の所為で疲れているのか、まともな判断も若干出来ない風にも見受けられる。
それでも黙々と二人は煙突を作ろうと努力するのだが……。

「……さて、これを今日中に作り上げれるかどうか」

「張りぼてなら出来ているんだけれどね」

そう言って美由希は道場を見る。
正確にはその中に置かれている文字通り、張りぼての煙突を。

「でも、こんなんで出来上がるのかな」

「疑問に思った時点で負けだ。とりあえず、俺たちは黙々とレンガを積み上げる事だけを考えれば良い」

「分かったよ。すずちゃんの為にただレンガを積む為だけに生まれてきたロボットの如く、レンガを積み上げるよ!」

疲れからか、少々ハイになりながらもレンガを積み上げていく兄妹。
見た目は確かに煙突に見えなくもないのだが、二人はそれ以外にも当然ながら必要な事がある事を知らないのか、
敢えて考えないようにしているのか。
二人して黙々と積み上げていくレンガの高さは既に二メートルを超えようとしていた。
そこへ一旦、休憩の為に翠屋から戻ってきた桃子が顔を出し、

「あ、あなたたち何をしているの?」

「何をしているとは酷い言い草だな。見ての通り、煙突を作っている」

「見た目は中々のものだと自負しているんだけれど、どう?」

「いや、どうも何も、あの張りぼての煙突はどうしたの?
 すずならあの張りぼての煙突でも充分満足してくれるんじゃないの?。
 何か本格的な感じになっているんだれど、そんなものを屋根の上に置かれるのは流石に桃子さん、困るかな。
 と言うか、どうやってそんなのを持って屋根に上るつもりなの?」

桃子の言葉に兄妹は顔を見合わせ、信じられないとばかりに桃子を見遣ると、

「高町母よ、自分が口にした事をもう忘れたのか? それとも孫が出来てボケたか?」

「恭也には後で話があるけれど、私が言った事って?」

「ほら、釜戸が……」

「ああ! って、まさかあの冗談を真に受けたの!?
 普通に考えて、そんなの何の知識も技術もない素人に出来るものじゃないでしょう」

桃子の言葉に二人の兄妹はそれもそうかと笑い声を上げ、桃子は若干その声に危険な物を感じつつも引き攣った笑みで追随する。
が、二人は急に黙り込むと、光の宿らない瞳で桃子を見詰める。

「え、えっと、二人とも?」

「高町母よ、仕事で疲れているだろう。どれ、少し早いクリスマスプレゼントだ。
 特別に念入りに肩を揉んでやろうではないか」

「かーさん、私は足を揉んであげるね」

「そ、それは嬉しい申し出なんだけれど、どうして二人してそんなに指を鳴らすのかしら?」

後ずさりながら尋ねる桃子へと、二人は本当に爽やかな笑みを見せると何も答えず、ただ桃子へと近付く。
この後、高町家から桃子の悲鳴がしたとか、しないとか。
何はともあれ、張りぼての煙突を屋根に乗せて固定し、二人は重労働から解放される事となった。
因みに、他の家族が止めなかったのは張りぼてでもすずの為に凝った物を作ろうとしているのだろうと思っていたからであった。
誰も作業を覗きに来なかった為、恭也と美由希を止める者がいなかったのである。
が、無事に完成した煙突を見て満面の笑みを浮かべて喜ぶすずを見て、二人は満足そうにするのだった。





おわり




<あとがき>

クリスマスネタ〜。
美姫 「だけれど、サンタとかはなく、その前のお話ね」
こういうのも良いかな、と。今回はすずも出てきていないし。
見方を変えると重労働する兄妹の話。
美姫 「と言うか、どう見てもそれじゃないの」
まあまあ。誰が何と言おうと、これはクリスマスネタです!
美姫 「はいはい。あまりそんな雰囲気じゃないけれどね」
いやいや、話数を見てみろ。
偶然にも25話という――ぶべらっ!
美姫 「偶然のものな上に、どう聞いてもこじつけよ!」
す、すみません……
美姫 「ったく。それじゃあ、今回はこの辺で」
ではでは。







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