『ママは小学二年生』






〜27〜



まだまだ寒さが際立つ一月一日。
高町家の面々は庭に集まって何やらやっていた。
縁側に座り、じっと庭の様子を見ているのはなのはとすず、そして桃子の三人であった。
高町家三代で見守る先では、恭也と美由希が向かい合っており、恭也は手にした杵を臼へと打ち下ろす。
すぐさま上げられた隙に美由希が手を伸ばして中に入っている餅をひっくり返す。
そう、今ここで餅つきが行われているのである。

「師匠〜、七輪の方もいい感じですよ」

「お師匠、きなこに餡子、醤油もばっちりです」

恭也たちから少し離れた所では、晶が七輪で火を起こしており、
これまた少し離れた所に用意されたテーブルの上にはレンが他にも海苔などを用意している。

「そうか、こっちはもう少しといった所だな」

少し手を止めてそう返す恭也に、晶が袖を捲くりながら近付く。

「師匠、変わりましょうか」

「じゃあ、美由希ちゃんはうちと交代っちゅう事で」

こうして付き手が変わり、餅つきが再開されるかと思いきや、二人の目が怪しげに輝く。
またかと小さく溜め息を吐き、流石に杵を手にしている状況では危ないので止めようとするが、
二人の喧嘩を仲裁する事数え切れず、高町家の仲裁人、なのはの方が僅かに早かった。

「晶ちゃん、レンちゃん、お正月から喧嘩なんてしないよね?」

笑顔で尋ねられているはずなのに、二人は引き攣った笑みを浮かべて思わず後退る。
が、がっしりと肩を組み合い、仲の良さをアピールするように声を上げて笑う。

「あ、当たり前じゃないか、なのちゃん。俺たちは仲良しなんだから!」

「そうやで。ほら、今年もこないに仲よ〜しとるやろう」

「そう、それなら良かった。お餅楽しみにしているからね」

晶とレンの少し不自然な態度には気づいていないのか一切触れず、なのははただ笑みを浮かべたままそう告げる。
肩を組み合っていた二人は無言で視線を交わし合い、普通に餅をつき始める。
暫く二人でつき、恭也たちがまた変わろうとした頃、じっと興味深そうに見ていたすずが恭也を見上げる。
が言葉にはせず、ただもじもじと言いたい事を言っていいのかどうか悩むように、視線を恭也と胸の前で組んだ指との間を往復させる。
それに気付いた恭也はすずに微笑を見せ、

「すずもやってみるか?」

そう尋ねると、いいのと聞き返しながらも嬉しそうな目で恭也を見上げ、恭也が頷くと次いでなのはを見る。

「危ないから気を付けてやるんだよ」

なのはにも許可を貰ったすずは、急ぐように靴を履き庭へと降り立つ。
すずの身体には大きい杵をその小さな手に握らせ、片手ですずを抱き上げ、もう一方で一緒に杵を握る。
臼の傍らに屈みこんだ美由希に、

「一応、俺もフォローするが気をつけろよ」

そう言うとすずに始めても良いと告げる。
その言葉に嬉々としてすずが杵を振り被り、見様見真似で打ち下ろす。
勿論、恭也が力を貸してはいるが、すずは満足そうにそれを見ると、うんしょと掛け声を上げて杵を振り被る。
そこへ美由希が手を伸ばして餅を返し、またすずは杵を振り下ろす。
それを何度か繰り返すと、すずはふ〜と一息吐いて額を手で拭う。
満足そうな顔とその仕草に桃子やなのはは笑顔を見せて拍手してやると、すずは照れたように頬を押さえながら縁側へと戻ってくる。

「お疲れ様、すず」

「えへへへ。ねぇ、すず上手だった?」

「うんうん、上手だったわよ〜」

すずの問い掛けに桃子が頭を撫でて褒めてやると、なのはも同じようにすずに褒め言葉を向ける。
二人の言葉にご満悦といった様子で縁側に座ったすずは、最後の仕上げとばかりに杵を打ち下ろす恭也と美由希を見るのだった。



こうして出来上がった餅を晶とレン、桃子で小さくちぎっていく。
やはり、ここでもすずはやりたそうにうずうずとし出し、なのはと二人でそれに参加する。

「あ、じゃあ、私も」

「お前は大人しく見ておけ」

「って、ちぎるぐらいなら出来るよ! 幾ら何でも失礼だよ、恭ちゃんは」

参加しようとして恭也に止められた美由希は当然の如く反論を口にし、そのままその作業の輪に入っていく。
それらを眺めながら、恭也は一人縁側に腰を下ろしてそれを見守る。
そうこうする内に餅は切り分けられ、後は好きに食べてくれとばかりに並べられる。
恭也も早速一つ手に取ると、醤油を付けて食べる。

「思ったよりも上手く出来たな」

「そうですね。正直、美由希ちゃんが手伝った時はどうなるかと思いましたけれど」

「晶、それは酷いよ! 普通にちぎったり、餅をついたり、返したりぐらいはできるってば」

「冗談だって、美由希ちゃん」

「あはは、まあそれを料理と言うかどうかは別問題やけれどね」

拗ねた風に見てくる美由希に晶は笑いながら返し、そんな二人の会話に笑いながら入りつつ、レンは七輪の上で餅を焼く。

「うにょ〜ん」

すずは咥えた餅が伸びるのが楽しいのか、限界まで手を伸ばしており、何故か爪先立ちでプルプルと震えている。

「こら、すず。食べ物で遊んじゃ駄目」

「は〜い、ごめんなさい」

それを注意されてなのはに謝るのを見ながら、恭也はすずに近付くと、

「すずのは餡子か」

「うん! パパのは?」

「俺は醤油だが……食べてみるか?」

「うん」

恭也の答えを聞き、じっと見詰めてくるすずに尋ねてみれば、予想通りの答えが返ってくる。

「あ〜ん」

口を開けて待っているすずに餅を近付け、すずが咥えた所で上に向かって餅が千切れないように引っ張る。

「うにゅ〜ん♪」

餅を口に咥えながらすずはそう言うのだが、

「お兄ちゃんまで何をやっているんですか!」

やはりというか、なのはが注意してくる。
が、恭也は平然と伸びた餅を切ると、

「別に遊んでいる訳ではないぞ。ただ餅が切れなかっただけだ」

「むー、そういう事を言いますか」

恭也の言い分に頬を膨らませるなのはに、これ以上はまずいと思ったのか、恭也は誤魔化すように手にあった餅を差し出し、

「なのはも食べてみるか?」

「うっ、そ、そんな事では誤魔化されません。
 でも、一口だけ頂戴」

言って差し出された餅を口にし、またまた恭也はそれをにゅーと引っ張る。

「うにょ〜ん」

ご丁寧にすずもそれに合わせるようにそんな事を口にし、なのはは視線だけで恭也に抗議するのだが、

「だから、中々切れないんだって」

言って伸びた餅を切ると小さくなった餅を自分の口に放り込み、誤魔化すようになのはの頭に手を置く。
何か言おうとするも、今度はなのはも言葉を飲み込んで呆れたような視線を向けるだけであった。
が、何を思ったのか自分の食べていた餅を恭也へと差し出し、

「はい、お礼になのはのもあげる」

「いや、俺は良いから自分で食べると良い」

たっぷりと餡子の付いた餅を前にそう告げるも、なのはは引っ込めるつもりはないらしく、じっとこちらを見詰めてくる。
仕方なく恭也は諦めてほんの少しだけ口に中に入れる。

「どう、美味しい?」

「まあ、美味しい事は美味しいが、少し餡子が多すぎないか?」

「そんな事ないよ。これぐらいが美味しいんだって」

報復は終わったとばかりに笑みを浮かべるなのはに、今度は恭也が何も言えずに言葉を飲み込む。
そんな平穏な時間から始まる一年最初の日であった。





おわり




<あとがき>

年明け最初のこのシリーズ。
美姫 「かなり過ぎたけれど正月ネタね」
まあな。今回は餅つきで。
美姫 「思ったよりも続いているわね、このシリーズ」
だな。本当なら今回、伸びた餅でポッキーゲーム、みたいなネタをしようかとも思ったんだが。
美姫 「まあ、流石に皆いるのにそれはしないでしょうね」
いなくてもしないかもな。さて、それじゃあ今回はこの辺で。
美姫 「そうね。それじゃあ、まったね〜」







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