『ママは小学二年生』






〜31〜



小さな子供のいる家の休日なら、多少騒がしいのも当然であろう。
そして、それはここ高町家にも言える事で――尤も、子供がいなくとも賑やかではあるが。
ともあれ、普段は大人しい方に入るであろうすずも、元気に体を動かすのは嫌いではなく、
今もまた元気に家の中で走り回っていたりする。
美由希や晶にレンまで巻き込み、実に楽しそうに笑うすず。
そんな様子を眺めながら、恭也は今更ながらになのはに尋ねる。

「しかし、また何でヒーローごっこなんて?」

「ほら、今朝テレビで」

「ああ、そういう事か」

「お兄ちゃんも小さい頃はしなかったの?」

「ふむ。……記憶にないな」

少し思い返すも、そんな事をした記憶はなくそう返す。
それを聞いてなのはもよくよく考えてみれば、この兄は幼少時からヒーローごっこ以上の事を遊びとしてやっていたなと思う。
当然、その当時なのはが生まれていた訳ではないが、恭也や美由希の話を聞いて知っているだけである。
その聞いた話からも簡単に想像でき、なのはは苦笑を見せる。
そんな二人の前に美由希が立ち塞がり、手を斜めに持ち上げて、

「正義の味方、参上!」

ポーズを決めて恭也の冷たい視線に晒される。

「美由希まで一緒になって何をやっているんだ」

「そんな事を言われても、すずちゃんにお願いされたらそう簡単には断れないよ」

その割には結構ノリノリであったとは口には出さず、そうかとだけ返しておく。
美由希の背中では、何故か味方同士であるはずのブルーとグリーンが高度なバトルを繰り広げていたりするのだが、
それは見なかった事にして、美由希は困ったように恭也を見る。

「すずちゃんに頼まれて私がブラックをやっているんだけれど、ちょっと困った事があってね」

「ブルーとグリーンの仲が悪いと言う、子供たちには決して知られてはいけない裏設定が明るみに出てきたからか?」

「そんな裏設定ないってば! そうじゃなくて、配役はすずちゃんが決めたんだけれど、悪役が誰もいないのよ」

そんな訳で、とこちらを見てくる美由希の視線から目を逸らし、恭也は盆栽の手入れは午前中にやってしまったし、
読みかけの本もないなー、とこれからの予定を考えるも見事に何もない。
見れば、喧嘩を仲裁したなのはがピンクに決まり、五人となったヒーローはこちらをじっと見詰めてくる。
恭也は零れそうになる溜め息を飲み込み、

「……まあ、良いが。つまり、俺が悪という事か?」

「うん、お願い」

「俺はその番組を知らないんだが、大丈夫か」

「その辺は問題ないよ。普段の恭ちゃんは充分悪……というのは冗談です、はい」

何かを言いかけた美由希は何故か言葉を尻すぼみにし、恭也は呆れたように肩を竦めるも気を取り直す。

「ふむ、この場合は人質でも取れば良いのか?」

「えっと、どうなんだろう。まあ、その辺りは恭ちゃんの思うようにやれば良いんじゃないかな?
 悪役らしい事をすれば」

「そうか。なら……ふはははは、よく来たな正義の味方共!」

少し考えた後、恭也はソファーに座ったまま尊大に胸を反らして言い放つ。
その言葉に構えるすずに合わせ、美由希たちもそれぞれに構えを取る前で、恭也は続ける。

「だが、下手に動かない方が良いぞ。
 この周辺にはあちこちに爆薬を仕掛け、尚且つ2キロ先からは狙撃者がお前たちの額に照準を合わせている。
 因みに、狙撃者たちは発覚した場合なども考慮し、都合3ヶ所に分かれている。
 ついでにお前たちの事も調べ上げ、入念に計画を練ったからな。
 今頃、お前たちの大事な人や家族の周囲には我が手下が忍び寄り、いつでもそいつらをどうこう出来るようになっている」

「って、何気にえげつないというか、用意周到過ぎるよ!」

「何を言っている。こっちは一人に対し、そっちは五人。
 普通はこれぐらい練ってから喧嘩を売るもんだろう。無計画に事を起こすバカがどこにいる」

美由希の突込みに対し、あくまでも冷静に返す恭也に何とも言えない表情を覗かせる。

「いや、師匠、あくまでも遊びですから……」

晶がやや引き攣った顔で告げる中、すずは一人よく分かってないのかビシッとポーズを決めたまま恭也に指を付き付ける。

「お前たちの目的は何だ」

「ふむ、こうも俺の計画をスルーされるとかえって気持ちが良いもんだな。
 しかし、目的か。やはりここはありきたりに世界征服としておくのが良いか?」

「私たちが居る限り、そんな事はさせない!
 お前たちの悪事もここまでよ!」

ノリノリで叫ぶ美由希に恭也は冷静な声で返す。

「そうは言うが、俺たち悪が根絶してしまったら、お前たち正義のヒーローは明日から無職だぞ?」

「さ、最近のヒーローは職を持っていたりするから大丈夫!」

「だとしても、俺たちが居るからこそ正義の味方と言う需要がある訳で、
 そう考えると俺たちはお前たちから褒められるのではないか?」

「いや、美由希ちゃんの反論もどうかと思いますけれど、お師匠……」

恭也の言葉に何も反論できなくなった美由希の隣で、これまた顔を引き攣らせたレンが何か言いたげに見てくる。
が、それに構わず恭也は続ける。

「そもそも征服しようとする世界を壊してしまうと意味がないからな。
 やはり一番良いのは経済を把握する事か。その上でやはり正体を知られないと言うのが一番だろうな。
 最近はコンピュータも発達しているし、やはりそういったハッキング技術を磨く方が世界征服へは近道か?
 いや、何も俺がしなくても仲間にやらせるというのも手か。やはり、この場合も黒幕として存在を出す事はせず……」

「えっと、お兄ちゃん?」

何処まで本気か分からない恭也の呟きに、なのはまでもが顔を引き攣らせる中、すずは一人恭也に言い放つ。

「いくぞ!」

見事なまでに恭也の言葉を無視し、いや、意味が分かっていないのだろうが、恭也へと向かって駆け出す。

「よし、来い正義の味方ども!」

「って、全然話が繋がってないし!」

恭也に向かって走り出すすずと、それを迎え撃たんとする恭也。
この場合、美由希の突っ込みの方が無視される形となり、なのはたちもすずに続く。

「って、私も行くよ! って、何故に私に対する反撃だけ、結構本気め!?」

「すまん、すまん、つい鍛錬と勘違いしてな」

「って、貫に徹!? 可笑しい、可笑しいから、それ!」

「はっはっは、正義の味方が泣き言を言うな」

「いやいやいや!」

「覚悟、悪の統領〜」

「ぐわっ、やるなレッド!」

「よし、私も!」

「甘いわ、ブラック! 喰らえ!」

「って、無手で虎乱!?」

「たぁぁっ!」

「ぬぅ、ピンクもやるではないか」

「師匠、じゃなくて悪の統領、覚悟!」

「覚悟です〜」

「うむ、見事な連携だ、ブルー、グリーン」

「私も今度こそ!」

「甘いわ、ブラック!」

「ぶっ! あ、頭が潰れる!」

休日の午後、いつにも増して賑やかな声がする高町家は今日も平和である。





おわり




<あとがき>

今回は子供らしく遊んでみましたよ。
美姫 「ままごととかじゃなくて、ヒーローごっこの方なのね」
ままごとネタもいつかやってみたいかも。
美姫 「そう言えば、今回は没ネタがあったのよね」
ああ、久しぶりに没ネタがな。
美姫 「そのネタはこの後で」
それじゃあ、今回はこの辺で。
美姫 「また次回でね〜」



――没ネタ――

「しかし、また何でヒーローごっこなんて?」

「ほら、今朝テレビで」

「ああ、そういう事か。
 しかし、偏見かもしれないがこういうのは男の子がするもんだと」

「最近は魔法少女ものとか色々あるからね」

「バカスカ魔砲を使ったりとかか」

「あいたたた、何でか胸が痛いよお兄ちゃん」







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