『ママは小学二年生』






〜32〜



高町家の一階には普段は誰も使用していない和室の部屋がある。
リビングに面したそこを今、占拠する者たちがいた。
今朝早くからそこに居座り、夕食を終えた今も尚、そこを占拠し続けている。
そんな者たちを、何が楽しいのかすずはニコニコと笑顔で見上げていた。

「師匠、何かひな祭りに嫌な思い出でもあるんですか?」

恭也の独白――実際には声に出していた――に晶が突っ込めば、レンも隣で苦笑を見せながら流石に占拠はどうかとという顔をする。
それに冗談だと返し、恭也は占拠する者たち、つまりはひな祭りの主役とも言うべきひな飾りへと視線を向ける。
なのはがすずに楽しそうに人形を指差しながら、朝から何度目かになる名前を教えている。
それを眺めながら、恭也の隣でお茶を飲んでいた美由希が、からかうように口を開く。

「なのはとすずが構ってくれないから拗ねているだけだって――いたっ!」

そんな美由希へとすかさずデコピンを放ち、文句を言ってくる美由希の言葉を聞き流してこちらもお茶を啜る。
いつもの光景に笑みを見せつつ、桃子は着いた肘に顎を乗せてなのはたちを見ながら、恭也たちへと言う。

「まあ、大変だと思うけれど明日の片付けもお願いね」

桃子の言葉に子供たちがそれぞれに了承の声を上げる中、それが聞こえていたすずが皆の方を振り向き、

「もう片付けちゃうの?」

少し寂しそうに見てくる。
そんなすずになのはがお雛様は早く片付けないと駄目なんだよと言い聞かせるも、すずはやはり寂しそうにひな飾りを見詰める。

「どうして?」

「早く片付けないと、お嫁に行くのが遅くなるとか言われているんだったよね」

純粋に理由を尋ねてくるすずに、なのはは少し思案して答えつつ、間違っていないか桃子たちを見る。
それに桃子が頷いているのを見て、すずは寂しそうにしつつも、

「パパのお嫁さんになる〜」

違う楽しみを見つけたようにそう宣言する。
そんなすずを微笑ましく見詰める恭也となのはだが、それをぶち壊すかのように美由希が口を挟んでくる。

「でも、恭ちゃんの事だから片付けないというすずに賛成するかと思ったよ」

「お前は俺を何だと……」

「あ、すみません、お師匠。うちもちょっとだけそう思ってしまいました」

「あ、俺も」

見れば、口には出さないながらも桃子となのはも同じ意見らしいと分かり、恭也は肩を竦める。

「そんな事を言うか。ちゃんと普通に四月になったら片付けるつもりだった」

「って、おそっ! 遅いよ、恭ちゃん!」

「バカな。ひな祭りは三月の行事だろう。四月になってすぐに片付けて何が遅いんだ?」

「正確には三月三日の行事だって」

真顔で言い切る恭也に、美由希は疲れたような顔でそれでも律儀に突っ込む。

「兄の一般常識の無さにはもう嘆くしかないのです……って、痛い、痛い! おさげを引っ張らないで!
 地味に痛いから!」

「全く、師匠に対する態度がなっていない弟子だ。師匠が黒と言えば、白も黒と答えるのが弟子だろうに」

かなり理不尽な事を口にする恭也に対し、しかし未だに髪を掴まれている美由希は何も言えずに困った表情を見せるのみ。
それを救うという訳でもないだろうが、なのはが恭也へと本当に四月まで出しておくのが当たり前だと思っているのか尋ねると、
恭也は何も答えずにただ視線を背けるのである。
桃子たちが揃って溜め息を吐き出したのは言うまでも無いだろう。

「恭ちゃん……」

呆れたように見てくる美由希の視線を無視する恭也に、桃子がこちらも少し呆れたような声で言う。

「あまりバカな事ばかり言うもんじゃないわよ。すずちゃんが変な事を覚えたらどうするのよ。
 それに、そもそもそのお雛様は士郎さんが美由希に買ったものよ。
 つまりは美由希の物なのよ」

「よし、すぐに仕舞おう。くっそ、そうと分かっていれば昨日の内に仕舞ったのに」

「って、何で!? かーさんまで乗り気だし!?
 と言うか、恭ちゃん、昨日ってまだひな祭りになってないなから! 昨日の夜に出したでしょうが!
 って言うか、似たような事が前にもあった気がするのはどうして!?」

思わず突っ込みまくる美由希に、半分腰を上げていた桃子は笑いながら腰を下ろし、

「いや、私は早く片付けたいからよ」

、と目を逸らしながら言う桃子であるが、当然ながら視線には美由希も気付いており、

「どうして目を逸らすのよ〜!」

「いや、恭也となのはの孫はこうして見れたじゃない。
 だから、次は美由希の孫を見たいな〜って思って……駄目?」

恭也のように意地悪で言っているのではないと分かり、美由希は何とも言えない複雑な顔をする。
そんな美由希を置いて、恭也は一人ひな飾りの片づけを始めようとする。

「って、恭ちゃん、少しは空気を読もうよ!」

「……む、冗談だ、気にするな」

何処までが冗談か分からない兄の行動に美由希は何とも言えない表情をするのであった。





おわり




<あとがき>

ひな祭りネタ〜。ただし、ひな祭りそのものではなく、その後という形で。
美姫 「また捻くれた形でネタを出したわね」
ははは、素直にひな祭りにしないで違う形にしてみたよ。
美姫 「おまけに最後の方のネタは前のパターンとかなり近いわよね」
まあな。どうしても雛人形が美由希の物となると、このネタが出てきてしまうという。
まあ、短編連作という事で、去年は去年という事に。だって、すずたち年取ってないしね。
美姫 「そこは触れてはいけない部分ね」
そうそう。作中では一年経ってないんだよ、うん。
美姫 「という訳で、ひな祭りネタ第二弾でした〜」
それでは、また次回で。







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