『ママは小学二年生』






〜外伝 「お家にフェイにゃんがやって来た」〜



「……」

無言に静寂。
今、ここ高町家でのリビングに相応しい言葉を述べろと言われれば、殆どの者がそう答えるであろう。
何とも言えない空気が漂う中、一人我関せずを決め込んだかのように恭也はソファーで寛いでいる。
誰もが何か言いたそうに、また聞きたそうにしつつも触れられないといった空気を醸し出す中、
新聞片手にお茶を啜り、湯飲みを置くとその手を足の付け根、正確にはその上に鎮座するモノへと伸ばして一撫で。
ようやく、ここでようやく、この現状を変えるべく美由希が恭也へと近付く。
寧ろ、他の者たちの無言による視線に耐えれなくなったというべきか。
ともあれ、美由希は自分も含めた皆の気持ちを代弁するべく恭也へと当然の疑問を口にした。

「恭ちゃん、それなに?」

やや震える指で恭也の足の上に鎮座し、恭也の指に喉を鳴らすソレ。

「何とは失礼な奴だな。お前も知っているだろうが。俺の娘ですずという」

「高町すずです!」

恭也の言葉に反応して、恭也の足元に纏わり付いてじゃれていたすずが上半身を起こし、ピッと手を伸ばして美由希に言う。
よく言えたなと頭を撫でてくれる恭也に頬を緩ませ、その体に抱き付く。
高町家では最近よく見られる微笑ましい親子のスキンシップ。
だが、美由希は首を激しく横へと振り、

「そうじゃなくて! すずちゃんの事は知っているよ!
 そっちじゃなくて、そっちだよ!」

「どっちだ、このバカ弟子。はっきりと言え」

「だから、すずちゃんじゃない方!」

言って、美由希はすずと同じように恭也に撫でられて目を細めているモノを指差す。

「ああ、拾った」

「拾ったって……」

さして問題とも思っていない口調であっさりと告げる恭也に、美由希は絶句するしかなく、
まじまじと見詰める先で、話題となっているソレはふあぁぁ〜、と口を開けて欠伸を漏らし、眠そうに目を擦る。
艶やかな金色の毛並みを恭也が撫でると目を細め、甘えるように擦り寄るとその指にカプと甘噛みする。

「もふもふ」

ソレの耳をそっと触り、ご満悦の声を出すのはすずである。
すずも特に問題と思っていないのか、耳をくすぐったそうにピコピコと揺らし、
けれども構ってもらえて嬉しいのか、尻尾をユラユラと揺らして甘えてくるソレとじゃれ合う。
そんな微笑ましい光景を見下ろしながら、恭也は何を言っているとばかりに美由希を見遣る。

「すずが雨に打たれていて可哀相だと言うのでな、こうして拾って家に連れて来たんだ」

拾った理由が知りたかったのかと恭也が言えば、美由希はまたしても首を激しく振り、

「だから、ソレは何なの!?」

そう絶叫した。

「フェイにゃんと言う」

「名前を聞いているんじゃないってば!」

「ったく、煩い奴だな。何処からどう見ても猫に決まっているだろう。
 とうとう、我が妹はそこまで……」

『何処が!?』

期せずして、住人たちの声が見事に重なる。
それをキョトンとした顔で見詰める恭也とすずの親子。
二人はソレ――フェイにゃんを見詰める。
長く伸びた金髪は後ろだけでなく両サイドでもまとめられてツインテールを作り、
先程まで甘噛みしていた恭也の指をぺしぺしと叩いて遊んでいるのは前足というよりも人の手と同じく五本の指。
黒いワンピースを身に纏った姿は確かに人である。
が、その頭には猫の耳が、そしてお尻からは尻尾が生えていた。
身長は30センチ少しといった所だろうか。それをじっと見詰めた後、

「人にも見えなくもないが、明らかに小さいだろう」

「ほら、ママ、にゃんにゃんの耳〜。ふわふわ〜」

「えっと……すずは兎も角、お兄ちゃん?
 もし、このままだとすずの常識が可笑しな事になっちゃうけれど……」

「すず、猫だと言ったのは冗談だぞ」

「ふぇ、ネコさんじゃないの?」

「ああ、耳や尻尾はネコだけれど、少し小飛とは違うだろう」

あっさりと前言を撤回してすずに言い聞かせる恭也を見て、美由希はからかわれたと気付いて肩を落とし、
なのはは仕方ないなと苦笑を見せる。
そんな一同へと、恭也は改めて説明をする。

「拾ったというのは本当だ。雨の中、ダンボールの中で身を縮めて震えていたんでな」

「可哀相だったの」

思い出したのか、すずは本当に悲しそうな表情でなのはの機嫌を伺うように見上げてくる。
その瞳はこの子を飼っても良いかと聞いてきており、

「えっと……」

困ったなのはは恭也を見る。

「まあ、とりあえずは家に置いておこうと思っている。かーさんには俺から言うから心配するな。
 色々と不思議に思う部分もあるが、どうも俺たちの言葉を理解しているみたいでな。
 その上でこうして連れてきているんだ。特に問題もないだろう」

言って恭也は太ももの上で精一杯背伸びをして手を伸ばしてくるフェイにゃんの前に指をすっと出す。
と、それを待っていたように、ペシペシと両手を使って恭也の指を叩く。いや、じゃれ付く。
同じようにすずも恭也の反対の手をペシペシと真似して叩くも、それよりもと手首を掴んで軽く持ち上げると、
そのまま頬擦りする。ごつごつした固い掌だが、すずはお気に入りなのか嬉しそうに笑う。
それを見ていたフェイにゃんも真似するように、恭也の指に頬をスリスリと擦り寄せ、二人は目が合うと笑い合う。
そんな光景を目の当たりにし、また疑問を大体理解したからか、なのはが真っ先にフェイにゃんに手を伸ばす。
突然伸びてきた手に警戒心も顕にするフェイにゃんに、なのはの手が止まる。
が、そんな事に気付いていないすずはその手に抱き付き、

「ママ、すずも、すずにも〜」

甘えるようにおねだりをしてくる。
そんなすずの様子になのはは勿論とばかりに微笑むと、すずの頭を撫でてやる。
嬉しそうに、そして気持ち良さそうな顔を見せるすずを見て、
フェイにゃんも警戒心よりも好奇心の方が勝ってきたのか、じっとなのはの手を見詰める。
その視線に気付き、なのはは今度はゆっくりと手を伸ばしてやる。
初めはビクリと身を震わせるも、先ほどとは違い逃げる素振りは見せず、ただ近付いてくる手をじっと見詰めている。
やがて、なのはの手がフェイにゃんの頭へと置かれ、ゆっくりと撫でる。

「ふにゃぁぁ〜」

小さな声を漏らし、尻尾を揺するフェイにゃんを見て、なのはは胸を撫で下ろす。
と、服の裾をクイクイと引っ張られ、そちらを見ればいつの間にか止まっていた事に不満顔のすずが。

「ごめんね、すず。すずも良い子、良い子」

「えへへへ〜」

再び動き出したなのはの手に満足そうな笑みを零し、すずはフェイにゃんの目の前に指を差し出す。
が、なのはに撫でられて気持ちよいのか、フェイにゃんはその指で遊ぶのではなく、
甘えるように喉元を近付け、書いてくれとばかりに小さく鳴く。
その意味が伝わったのか、すずはフェイにゃんの喉を指を動かして撫でる。
自分の指で気持ち良さそうにするフェイにゃんを見て、すずは楽しげに言う。

「ごろごろ〜、フェイにゃん気持ちよい?」

答える様に小さく鳴くフェイにゃんにすずは更にご機嫌になり、
そうだと良い事を思いついたとばかりにもう一方の手を恭也へと伸ばし、そのまま恭也の喉を撫でる。

「むっ、くすぐったいぞ、すず」

「パパは気持ちよくないの?」

「うーん、どちらかと言うとくすぐったいかな。どれ、俺もすずにしてやろう」

言って恭也がすずの喉を撫でれば、すずは笑いながら身を捩る。

「きゅふ、くすくす、パパくすぐったい」

「すずもくすぐったいだろう」

「うん。すずは頭ナデナデの方が良い」

すずの言葉に恭也はすずの頭を撫でてやれば、フェイにゃんも自分もとばかりにじゃれ付いてくる。
そんな様子を微笑ましく見ながら、恭也はフェイにゃんにもしてやる。
と、それをじっと見詰めていたなのはに気付き、視線が合うとなのははにっこりと微笑む。
恭也は仕方ないなと小さく嘆息しつつも、甘えられるのが少し嬉しそうになのはにも手を伸ばす。

「へへへ〜」

「ママも気持ち良いの?」

「うん、お兄ちゃんにこうされるのは好きかな?」

「ママも一緒〜」

「な〜」

なのはの言葉に嬉しそうにすずとフェイにゃんが声を上げる。
そんな微笑ましい光景を目の前にして、美由希たちは自分たちもと踏み出す切欠を完全に失っていた。





おわり




<あとがき>

かつて雑記で書いたフェイにゃんとのコラボ。
美姫 「このお話事態、過去に雑記でやったやつよね」
まあな。その時に宣言した通り、ここで外伝としてお届けしました。
美姫 「にしては、遅かったわよね」
え、別に忘れていた訳じゃないんだからね!
美姫 「忘れていたのね」
あ、あははは。
美姫 「はぁ。まあ良いわ」
ほっ。そうそう、念のために……。
美姫 「このお話にかんしては、当然ながら……」
本編とは一切関係ありませんので、あしからず。
美姫 「まあ、フェイにゃんが存在しているものね」
そういう事だよ。それじゃあ、この辺で。
美姫 「本編もよろしくお願いします」
ではでは。






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