『二年参り』






12月31日、大晦日。
日もすっかり落ちた夜の事である。
夕食を終えた恭也と美由希が出かける準備をしているのを見て、なのはは出掛けるのかと尋ねる。

「ああ。那美さんの手伝いがてら二年参りでもと思って」

「普段は人があまり来ないけれど、お正月は結構来るからね」

そんな二人へとなのはは首を傾げつつ、

「二年参りってなに、お兄ちゃん」

「二年参りというのはな、その年最もお世話になった人を人気のない所に誘い出して…」

「恭ちゃん、それはお礼参りだから」

呆れながら告げる美由希の言葉に、なのははまた嘘を教えられたと頬を膨らませる。

「お兄ちゃん、嘘はいけません!」

「そうだな。悪かった、悪かった」

言いつつなのはの髪をくしゃくしゃと掻き回し、なのはが止めようと両手を伸ばす前に手を引っ込める。
恨みがましい目で兄を見上げつつ、なのはは懸命に手で乱れた髪を直す。
もう一度謝りつつ、恭也はなのはに尋ねる。

「なのはも来るか?」

「行っても良いの?」

「ああ。ただし、俺や美由希から離れないこと」

「うん。じゃあ、準備してくる」

行って部屋に駆けて行く後ろ姿を微笑ましく見守る。
程なくして準備を終えたなのはを伴い、恭也と美由希は神社へと続く道を歩く。
恭也と美由希に挟まれながら、なのはは嬉しそうに二人の手を取る。

「屋台出てるかな」

「出ているんじゃないか。そうだな、さっきのお詫びに好きなものを買ってやろう」

「本当」

「ああ。ただし、あまり欲張るなよ」

「うん」

「恭ちゃん、私には?」

「自分の小遣いで買え」

「分かってたよ、分かってたけどさ…」

るるると涙を流す振りをする美由希。
だが、なのはは恭也の言葉が嬉しかったのか、そんな美由希を気遣う事もなく、
少し軽くなった足取りで暗い夜道を兄と姉と一緒に進む。
神社はまだ人だかりが出来ているという程ではないが、それなりに参拝客が見えているようで、
ちょっとしたものであった。
その中をはぐれないように手を繋いだまま三人の兄妹は屋台を回る。

「ほら、美由希、なのは」

「ありがとう、恭ちゃん」

「ありがとうお兄ちゃん」

何だかんだと言いながら、美由希にも買ってあげながら三人は境内に向かう。
その途中でなのはが足を止め、手を繋いでいた二人もつられて足を止める。

「どうかしたのか、なのは」

「お兄ちゃん、あれ欲しい」

「またか」

「これで最後で良いから」

なのはの真摯なお願いに、結局恭也は折れてなのはに引かれるようにその屋台の前に立つ。
ちょっとした玩具を扱っている店なのか、屋台には細々としたものが幾つか並んでいた。
その内の一つを手に取ると、なのはは屋台のおじちゃんへと。

「これください」

「あいよ。300円だよ」

「あ、代金は俺が」

おじちゃんに代金を渡した恭也へ、なのはが買ったものを差し出す。

「ん? これはもうなのはの物だぞ」

「うん。お兄ちゃんにつけて欲しいな」

言って左手を恭也へと出すなのは。
何の事かと渡された物を見れば、玩具の指輪が一つ。
楽しそうに眺めるおっちゃんの視線に照れつつも、子供のお遊びだと自分に言い聞かせて、
なのはの人さし指に嵌めようとするが、

「お兄ちゃん、この指につけて」

そうおねだりされ、恭也は仕方なくなのはの薬指に付けてやる。
小さく笑うなのはに、照れくさい恭也ではあったが、喜んでいる姿を見せられて満足する。
が、美由希は不機嫌そうに恭也となのはを交互に見遣り、恭也の袖を引く。

「恭ちゃん、私にも」

「…お前、玩具の指輪だぞ」

「それでも」

「はぁ。分かった、分かった。だから、そう睨むな」

いつにない気迫を感じ、恭也は美由希にも好きなのを選ばせて買ってやる。
と、同じようにそれを差し出してくる美由希に、流石に出来るかと断る恭也。

「うぅ、同じ妹なのにこの扱い。皆に言いふらしてやる」

「……はぁ。さっさと手を出せ」

一瞬、桃子の悪戯っぽい顔が浮かび、恭也は美由希の手から玩具の指輪を奪うと、ぶっきらぼうにそう告げる。
ぱぁと顔を輝かせて手を差し出す美由希に、さっさと済ませてしまおうと恭也は薬指にそれを付けてやる。
嬉しそうに顔を見合わせて笑いあう妹たちに、恭也はそっと溜め息を吐き出す。
それを哀れに思ったのか、屋台のおやじが恭也へと何やら差し出す。

「中々面白い物をみせてもらったからな。
 これはお礼だよ」

言って何かを手渡され、恭也は憮然としながらもその好意を受け取る。
見れば髪を止めるゴムのようで、恭也はおやじにこれでどうしろと視線を向ける。
が、おやじは相も変わらず楽しそうに笑みを見せたまま、美由希となのはを指差す。
つまりはそういう事らしく、二人も期待するように恭也を見つめる。
恭也は今年最後の厄日だとぼやきつつ、二人の既に纏まっている髪留めの上からそのゴムを付けてやる。

「ほら、さっさと行くぞ」

流石に恥ずかしさの限界に着たのか、ぶっきらぼうにさっさと屋台に背を向けて歩き出す。
それでもはぐれないようにと、その手はしっかりとなのはと美由希の手を握っている。
恭也に引き摺られるように屋台を離れる二人は、顔だけをおやじに向けて頭を下げると、すぐに恭也の隣に並ぶ。
あと少しで年が変わるという今この瞬間、その時間を大事にしまい込むように、恭也の手を強く握る。
何も言わなくとも伝わったのか、恭也もまた二人の手を握り返す。
言葉はなくともそこに恭也が自分たちと同じように感じているのを察し、自然と美由希となのはの顔に笑みが浮かぶ。
来年もまたいい年でありますように、そう願いながら。






おわり




<あとがき>

新年あけましておめでとうございます!
美姫 「おめでとうございます」
やってきました2007年。
美姫 「まあ、普通はやってくるけれどね」
新年一発目は、予告どおりに短編を!
美姫 「今年一年もビシバシやります」
…出来る限り頑張ります。
美姫 「それでは、今年も宜しくお願い致します」
お願いします。



おまけ

年が変わるよりも少し前に境内へと辿り着いた恭也たちは、そこで待っていた那美や忍と合流をする。
いよいよ年が変わるという瞬間、忍が二人の指輪に、那美がゴムに気付いて何気なく尋ねたところ、
恭也からの贈り物だと二人揃って嬉しそうに言う。
当然の如く、忍と那美の二人に詰め寄られる恭也。
その間にも秒針は着実に進み、恭也の年越しはとても騒々しく始まるのだった。







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