『想い寄せて』






2.何かを決意したかのような美由希だった。



「どうしたんだ?美由希」

「あ、あのね恭ちゃん。・・・・・・こ、これ」

そう言うと美由希は後ろ手に隠し持っていた何かのチケットを恭也の眼前に差し出す。
そのチケットに書かれている言葉を何となしに見る恭也。

「ん?これは、遊園地のチケットか?」

「うん、そうなの。丁度2枚あるし一緒に行かない?」

「だったら、なのはと行って来たらどうだ?丁度、なのはも暇を持て余していたみたいだからな」

「そ、そうじゃなくて・・・」

あまりといえばあまりな恭也の言葉に、美由希は傍で見ていても分かるほどがっくりと肩を落とす。

「うぅー。な、なのは一緒に行こうか」

美由希は目の幅と同じぐらいの涙を流して見えるぐらいに落ち込みながら、なのはの方を見て言ってくる。

「あ、え、えーと。わ、私はお兄ちゃんとお姉ちゃんと三人で行きたいな〜。だ、だからお兄ちゃんも行こうよ」

なのはのこの言葉に美由希の顔は急に輝き出す。
なのはのおねだり光線が出た以上、恭也が無下に断わる事はまずないからだ。
実際、恭也はしばらく考えるがなのはに負けて頷いている。

「じ、じゃあ早速行こうよ」

急に元気になった美由希を不信に思いながらも恭也たちは駅まで向った。



  ◇ ◇ ◇



遊園地に着くなり、美由希やなのはに付き合いあちこちへと走り回る。
普段の鍛練とは違う疲れを恭也は感じながらも、嬉しそうにしている妹たちを見るとついつい頬が緩んでくるのを必死で誤魔化す。
やがて日も落ち始め、そろそろ帰ろうかと話をした時、美由希が最後にどうしても乗りたいと言うので恭也たちはその場所へと向った。
しばらくして、恭也たちの番が回ってきたので三人はその空間の中へと入る。
美由希が最後に乗りたいと言ったのは観覧車だった。



夕日が射し込んでくる観覧車の中で恭也と美由希は隣り合って座っていた。
と、いうのもその向かいの席でなのはが横になって寝ているためである。
始めははしゃいでいたなのはだったが、ゆっくりと上昇していくうちに昼間の疲れも手伝って眠気を催し、
ついには睡魔に負けてしまったという訳である。
そんななのはを二人は優しい眼差しで見詰めている。
ふと、美由希が何かに気付き、外を見る。

「恭ちゃん、見て。すごく綺麗だよ」

美由希の指差す方を見て恭也も感嘆の声をもらす。

「ああ、確かに綺麗だな」

そう言って外を見詰める恭也の夕日に染まった横顔を美由希はボーと眺める。
しばらく、そうしていると不意に視線を戻した恭也と目が合う。
慌てて視線を逸らそうとするが、恭也の瞳を見た瞬間に射竦められたかのように動けなくなる。
そのままその瞳に吸い込まれていくような錯覚を覚える中、恭也の瞳に映った自分の緊張した顔が見える。

「美由希・・・?」

じっと動かない美由希を不信に思い恭也が声をかける。その声を聞きながら、美由希はゆっくりと目を閉じていく。

(わっわわわわ。私ってば、な、何をやってるのー!突然こんな事したら、恭ちゃんだって不信に思うよー!)

心では冷静に判断を下すのに、身体がそれについていかず、見当違いな事をする。
それに慌てて身体に力を込め動かそうとするが、意に反して全く動こうとしない。

(ど、どうしよー。恭ちゃんに変な子って思われてるかも・・・)

半ばパニックになりかけた時、唇に柔らかい感触を感じ、驚いて目を開ける。
今度はすんなりと思い通りに動いた体に安堵しつつも、
目の前一杯に広がる恭也の顔といまだに感じる唇に何かが触れる感触に更に驚く。
しばらくして、唇から感触がなくなり、ゆっくりと恭也の顔が離れていくと、美由希は今起こった事を理解し真っ赤になって俯く。
恭也の方も顔を赤くしながら、外の景色を見るふりをする。
お互いに何か言わないといけないと思うのだが、かける言葉が見つからないというもどかしい思いを感じる。
しばらく沈黙が包み、重苦しくなりそうな時に恭也が声をあげる。

「美由希・・・」

「な、なに恭ちゃん」

「そ、その、さっきの事なんだが。俺の勘違いだったらすまん」

「え、え?さっきの事って・・・・・・!」

恭也の言わんとする事が分かり、再び顔を赤くする。

「ひょっとしたら、お前も俺と同じ気持ちなのかと思ってしたんだが・・・違ったか?」

「恭ちゃんと同じ気持ちって!え、え。き、恭ちゃんひょっとして」

「間違っていなかったか?」

少し混乱している美由希とは逆に落ち着いて訊ねる恭也に、美由希はただコクコクと首を縦に振るだけであった。
やがて、意を決するように口を開く。

「わ、私は恭ちゃんの事が好きだよ」

「ああ、俺もだ」

恭也からの返答に美由希の頬に涙が一筋伝う。そして、そのまま恭也の胸へと飛びつく。
そんな美由希の頭を優しく撫ぜ、恭也は美由希が落ち着くまでずっとそうしていた。
やがて、美由希が落ち着いた頃を見計らって恭也は口を開く。

「美由希・・・、もう一度良いか?」

それが何をさしているのか分かり、美由希はただ黙って頷く事で了承の意を示す。
美由希が頷いたのを確認してから恭也はゆっくりと美由希に顔を近づけていく。
夕日に照らされ、赤一色に染まる観覧車の中でそこだけは闇色に映る二つの影が一つになる。
やがて、二つに分かれた影は下に着くまでの短い時間、ずっと寄り添っていた。



  ◇ ◇ ◇



帰り道、美由希と恭也の手をそれぞれ繋ぎ、二人の間を歩くなのはは二人を見て訊ねる。

「お兄ちゃんもお姉ちゃんも何か良いことがあったの?」

「なんでだ?」

「なんで?」

「んー、何となくなんだけど二人とも嬉しそうに見えたから」

「そうか?」

「そう?」

「うん!」

嬉しそうな笑みを浮かべながら歩く三人を見て、今しがたすれ違った人が若い親子と勘違いをする。
そして、それが聞こえてしまった恭也と美由希は真っ赤になりながらもお互いに微笑み合う。

「いつかそう遠くない未来(さき)にそうなったら良いな」

「うん」

ただ一人、間に挟まれているなのはは訳が分からずに疑問を浮かべている。

「さて、早いとこ帰るとするか」

「そうだね」

「うん」

手を繋ぎ家路へと向う三人の姿は本当にそう遠くない未来の話かもしれない。





おわり




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