『想い寄せて』
3.ニヤニヤと笑っている忍だった。
「何がそんなに可笑しいんだ忍」
「いや、だって・・・ねぇ。学校では無表情な恭也がなのはちゃんが傍にいると優しい表情になるから、ついね」
「そんな事はない」
「そんな事、あるある。自分では自覚していないみたいだけどね」
まだ口元に笑みを浮かべ、そう言い放つ忍に恭也は憮然としながらも聞き返す。
「で、今日は何の用だ?」
「あ、そうそう。じゃっじゃーん。これ、なんだと思う〜?」
「ん?チケットか」
「そうそう。所が、ただのチケットじゃないんだな〜これが」
恭也は忍の手から2枚あるうちの1枚を取るとじっくりと確かめるように裏表ともに見る。
結局、何も変わった所を見つけられず忍にそれを返すと訊ねる。
「すまんが何が違うのかが分からない。俺にはどう見てもただのチケットにしか見えんのだが・・・」
「そうよ。普通のコンサートのチケットだもん」
忍の返答に恭也は脱力するが、忍は構わずに続ける。
「ただし、それを私が2枚持っていることによって、こんないに可愛い忍ちゃんとのデート券に変わるのよ」
「・・・それで?」
忍の言いたいことがよく分からない恭也は首を傾げ、真顔で忍に聞き返す。
これには今度は忍が脱力する。
「どうせ私は可愛くないわよ〜だ」
そう言って忍は論点のずれた事を言う。
「そうだな」
それに首肯する恭也に忍はその場に崩れ落ちそうになるが、続く恭也の台詞に顔を真っ赤にして嬉しそうに笑う。
「忍はどちらかというと綺麗だからな。勿論、可愛くもあるが」
言ってから恭也も自分の台詞に驚き、照れ隠しのためかあらぬ方向を向く。
が、忍の目には恭也が耳まで真っ赤にしているのが見え、笑みを零す。
「じゃあ、綺麗なお姉さんが暇を持て余している可愛そうな学生さんとデートをしてあげましょう。
と、言う訳でなのはちゃん、恭也借りるわね」
そう言うと、忍は恭也の腕を取り、外へと連れ出す。
「はい、どうぞ」
「いや、なのはを一人にする訳には」
「大丈夫だよお兄ちゃん。もうすぐ晶ちゃんやレンちゃんも帰ってくるし、お姉ちゃんも帰ってくるから」
「だって。じゃあ行こうか恭也」
「分かった。行くから腕を離してくれ」
「嫌!」
忍はきっぱりと断わるとそのまま腕を組み、駅へと向った。
◇ ◇ ◇
コンサート終了後、二人はそのまま帰らずに海鳴臨海公園に来ていた。
星空が煌く夜空の下を二人は歩いている。
いつからか会話はなくなり、ただ黙って寄り添って歩く二人。
だが、それは気まずい感じのものではなく、柔らかい雰囲気であった。
どちらもお互いを近くに感じ必要としているのを感じるぐらいに。
やがて、どちらともなくその場に立ち止まるとそっと見詰め合う。
「こんなに静かな夜は、あの時の事を思い出すよね」
「ああ」
頷く恭也に優しい微笑みを返すと忍はそっと手を差し出す。
「踊ろうか、恭也」
「ここでか?」
「そう、ここで。月明かりと星の煌きでライトアップされたこの誰もいない場所で、月と星を観客にして」
そう言って手を差し出す忍に恭也は苦笑しながらも手を取りエスコートする。
二人の影がやがて重なり、ゆっくりとステップを刻んでいく。
「ここで初めて出会ったんだよね」
「そうだったな」
「何かいろいろあったから恭也と長くいたように感じるけど、まだまだ短いね」
「そうだな。でも、これからもずっと一緒にいるんだから」
「そうだね。約束した事、後悔してない?」
「してないよ。忍との思い出がなくなる方が俺には辛いからな。だから、忍もそんなに不安そうにしないでくれ」
「うん・・・・・・ありがとう」
二人はどちらともなくステップを止め、お互いの瞳に自分が映っている事が分かるほどの距離で見詰め合う。
そのままゆっくりと瞼が閉じていき、お互いの柔らかい感触を唇に感じる。
「・・・・・・ずっと一緒だよね」
「ああ、ずっと一緒さ」
月明かりの下、二人はお互いの気持ちを確認するように再び誓い合うとそっと唇を重ねた。
おわり