『想い寄せて』






4.何故か頬を赤くしている那美だった。



「おはようございます、那美さん。こんな時間にどうしたんですか?」

「あ、おはようございます恭也さん。え、えーと、ですね」

「ああ、美由希ですか?あいにくと今、図書館に行ってるんで。
 すぐに帰ってくると思うので、ちょっと待っててもらえますか」

「い、いえ、そうじゃないんです。き、今日は美由希さんじゃなくて・・・、そ、その恭也さんに用があって」

「俺に、ですか?」

「は、はい。こ、ここここ、これなんですけど」

そう言うと那美は震える手で何かを取り出し、恭也に見せる。

「えーと、遊園地のチケットですか?」

「は、はははははい。
 薫ちゃんが仕事先の人に貰った物なんですが、期限が今日までで薫ちゃんは行けないからって私にくれたんです。
 そ、それで、そのよかったら・・・」

なかなか言い出せずにいる那美に恭也は言いたいことが分からず、ただ首を捻る。
そんな二人を見て、なのはは二人に気付かれずに溜め息を吐くと、いつまで経っても先へ進みそうにない二人の変わりに口をはさむ。

「お兄ちゃん、那美さんはお兄ちゃんを誘いに来たんだよ」

「そ、そうなんですか?」

「あ、あ、はい!そ、そそそうなんです。も、もし良かったら、い、一緒に行きませんか・・・」

全てを言い切った那美は不安そうに恭也を見る。

「ええ、俺で良かったら付き合いますよ」

「ほ、本当ですか!あ、ありがとうございます」

「じゃあ、早速行きましょうか」

「は、は、はい!」

恭也と玄関へと向う途中、なのはにだけ聞こえるような小さい声で那美は礼を言う。
なのはは、それに笑って手を振り答える。

「じゃあ、なのは行ってくるからしばらくの間、留守を頼むぞ。もうすぐ美由希も戻ってくるだろうし」

「はーい。いってらっしゃーい」

なのはに見送られて二人は駅へと向った。



  ◇ ◇ ◇



遊園地に着いた二人はゆっくりと園内を回っていた。
恭也と一緒に来れた事がよっぽど嬉しいのか、那美は始終にこにことしている。

「恭也さん、早く次に行きましょう」

那美は歩きながら恭也の方を振り向き話し掛ける。

「那美さん、前を見ないと・・・」

恭也が最後まで言い終わる前にお約束というか、那美は転びそうになる。

「えっ!あ、きゃぁ」

「危ない!」

恭也は那美の腕を引っ張り、自分の方へと引き寄せる。が、力がつき過ぎて、そのまま恭也の方へと倒れてくる。
更にタイミングの悪い事に二人の身体の間に恭也の残る手が丁度、突き出る形であった。
で、結局、恭也は片手で那美の腕を引き、残る一方の手がまた那美の胸を掴みながら受け止める形になる。

「す、すいません。また、救助が至らなくて」

「い、いえ。気にしないで下さい。た、助けてもらった訳ですから」

お互い気まずい思いをしながら離れると、顔を伏せる。

(うぅー。私ってば、なんでこんなにドジばっかりなんだろう。恥ずかしいよ〜。
 せめて、もう少し大きかったら恭也さんにも喜んでもらえるのに・・・。
 って、違うでしょ!な、何を考えてるの!そうじゃなくて、このドジを直さないと)

(那美さんの身体、柔らかくて受け止めた時、いい匂いがしたな・・・。って、俺は何を考えてる)

二人して自分の考えに照れ、顔を赤くする。
そんな状況を何とかしようと那美は適当な場所を指差し、

「き、恭也さん、次はここにしましょう」

「そ、そうですね。ここに入りましょうか。・・・って、本当にここで良いんですか?」

「はい。早く行きましょう・・・・・・」

そう言って、恭也を引っ張っていく那美。そして入り口で動きを止める。
そこにはおどろおどろしい文字で、ホラーハウスと書かれていた。
二人は仕方がなく、そのまま中へと入っていく。
しばらく進んだ所で恭也が話し掛ける。

「でも、那美さんは本職の方ですからこういうのはあまり楽しめないんじゃ?本当に良かったんですか?」

「え、ええ。そ、それよりも恭也さんは怖くないですか?」

「俺ですか?そうですね、人が隠れている位置が気配で何となく分かりますし。夜目も多少ききますから。
 それに、これは作り物と分かっていますからね。流石に本物には刀が通じないから闘うとなるとかなり厄介ですけど。
 そもそも闘うことができるのかさえ分かりませんから」

と、少しずれた答えを返す恭也。
那美はそんな恭也の言葉に曖昧に頷きながら、ゆっくりとした歩調で歩いて行く。
と、少し開けて空間に出た時、前方の物陰からお化けが飛び出してくる。
恭也は隠れている事に気付いていたため、さして驚く事もなかったが、
那美が突然現われたその影に驚きの悲鳴をあげ、恭也の腕にしがみ付く。

「ち、ちょっと那美さん。落ち着いてください」

「え、え、あ、恭也さん。す、すいません!」

恭也の声に我に返った那美は慌てて離れようとする。が、それを恭也は那美の手を取り制する。

「那美さん、落ち着いて離れてください」

「は、はい」

恭也に言われて先程の事を思い出し、ゆっくりつ恭也の腕から離れる。

「ふぅー。は、はははははは。ご迷惑をおかけしました」

「いえ、そんな事はありませんよ」

「「あっ」」

まだ、手が握られたままである事に気付き、お互いに声を上げる。
恭也が急いで離そうとした時、那美が話し掛ける。

「あのー、恭也さん。ここを出るまでの間、このままでも良いですか?」

「・・・はい、構いませんよ」

二人は手を繋いだまま、先へと進む事にする。
暗闇でお互いの顔が良く見れないが、もし見る事が出来たら二人とも赤くなっている事に気付いただろう。
恭也は照れを誤魔化そうと那美に話し掛ける。

「し、しかし意外でしたね。那美さんがこういうのを怖がるとは。普段の仕事を考えるとちょっと想像できませんでしたよ」

「す、すいません。本物なら霊気とかで分かるんですが、こういうのはそういうのが無いですし。
 それに、いきなり出てこられたら驚きますよー。あと、暗い所はそれだけでちょっと怖いですし・・・」

「それもそうですね」

「はい。だから、手を繋いでいてくださいね」

「はい、大丈夫ですよ」

(怖い思いしたけど、結果的にはラッキーだったかも)

那美は内心で喜びながら、恭也に手を引かれて歩いて行く。
ドキドキしながら歩いて行くと、急に強烈な光が目を射し、那美は目を細める。
どうやら外に出たらしく、暗闇に慣れた目に外の光は少しきつかったみたいだった。

「那美さん、大丈夫ですか?」

「は、はい」

「じゃあ、ちょっとそこで一休みしましょうか」

「はい」

恭也と那美は手を繋いだまま近くにあったベンチまで歩く。
そして、那美がベンチに腰を降ろそうとしたところで、まだ手を繋いだままだった事に気づき、

「す、すいません。気付きませんでした」

恭也は慌てて手を離す。それを少し寂しく思いながらも、那美は笑顔を浮かべて、

「いいえ、気にしないで下さい」

「じゃあ、何か飲むものを買ってきます」

「あ、はい、お願いしますね」

恭也はそう言うとその場を離れて行く。それを目で追いながら、未だ手に残る恭也の温もりを噛み締め、小さな笑みを零す。
それからしばらくして、一人の男が那美に声をかけてくる。

「お嬢さん、一人なの?」

「え、いえ、違いますけど」

「そうなの。じゃあ、その連れって女?それとも男?」

「あ、あのー」

「いいから、いいから」

そう言うと男は那美の横に座ると、一方的に話し出す。

「もし、その連れが女の子なら、その子も一緒に見て周ろうよ」

「い、いえ女の子では・・・」

「あぁー、男ね。でも、君を一人にしてどこかに行くような奴、ほっといて俺と遊ぼうぜ」

男はしつこく那美に付きまとう。那美がどうしていいのか迷っているうちに男は立ち上がる。

(ほっ。どうやら、諦めてくれたみたいですね)

そう思ったのも束の間、男は那美の腕を掴むと無理矢理立たせようとする。

「ほら、行こうぜ」

「や、やめて下さい」

(恭也さん!助けて!)

その時、男の後ろから低い声が届く。

「貴様、那美さんに何をしている」

「ああ!何だてめぇは」

「そこにいる那美さんの連れだ」

「連れだったら大人しくしていろよ!この子は今から俺と一緒に行くんだからな。恋人とでもないのに五月蝿いんだよ!」

「・・・俺は、その子の恋人だ。だから、お前の方がどこかに行くんだな」

いきり立つ男に恭也はあくまでも淡々と答える。その態度が男の気に触ったのか、恭也に掴みかかろうと手を伸ばす。
が、当然の事ながら恭也はそれを簡単に躱す。
男がよろめいてできた那美との隙間に恭也は身体を滑り込ませると、那美を後ろに庇い男を睨みつける。
少し殺気の篭った視線に晒され、男は見る間に汗をだらだらと流し、後退る。
そのまま後ろを向くと走り去ってしまった。
男の去った方を一瞥した後、恭也は那美の方を向き、先程とは違う優しい眼差しで見る。

「大丈夫でしたか?那美さん」

「は、はい。ありがとうございました」

「いいえ、気にしないで下さい。それよりもすいません。咄嗟の事とはいえ、恋人なんて言ってしまって」

「そ、そんな事、気にしないで下さい!わ、私は本当にそうなった方が・・・」

「えっ!」

「あ、な、何を言ってるんですかね私は。
 わ、私なんかじゃ恭也さんだって迷惑ですよね」

必死に弁解しようとする那美を見て、恭也は逆に冷静になりゆっくりと口を開く。

「俺も迷惑じゃないですよ。本当にそうなったら嬉しいですよ」

そう言うと、やはり恥ずかしいのか顔を赤くしながらあさっての方を向く。
その恭也の言葉にぽかんとした顔を浮かべた那美だったが、徐々に意味を理解すると顔を真っ赤にして俯く。

「え、あ、あの。そのー。じ、じゃあ、私と・・・」

那美が決意して顔を上げると、恭也は人差し指を那美の口に当てて続く言葉を止める。

「ちょっと待って下さい」

その一言に那美は落ち込んだ顔になる。

「俺が言いますから。・・・那美さん、俺と付き合ってください」

「!はい!喜んで」

そう言うと那美は恭也に抱きつき、恭也もそれを受け止める。
しばらく抱き合っていた二人だったが、周囲が騒がしくなってきたので周りを見てみる。
すると、そこには二人を温かく見ている人、わざとらしく視線を逸らしながらもチラチラと二人の様子を窺っている人など、
結構な人だかりになっていた。
それによって、ここがどんな場所か思い出した二人は顔を真っ赤にしながら、その場を走り去っていく。
そんな二人の顔はとても幸せに満ちていた。

「那美さ・・・、那美!行こうか」

「はい!」

駆けながら那美に手を差し伸べる恭也。そして、その手を本当に嬉しそうに掴む那美。
二人は手を握り締めあうと、笑顔を浮かべ駆けていく。
繋いだ手から伝わるお互いの温もりに、これから先もずっと変わらずに笑顔でいられる事を確信しながら。





おわり




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