『想い出』






土曜の午後、学校から帰宅した恭也は着替えて道場へと向う途中、庭に面した廊下に何かが落ちているのを見つける。
それを屈んで拾い上げると、眼前へと持ち上げる。

「…リボンか」

それは恭也が呟いた通り、髪を纏めたりするのに使用するリボンだった。
ただ、元々は青色だったらしいそれは、かなりの年月を経て少し色褪せていた。
何処かで見た事のあるようなソレを手にしたまま立ち尽くす恭也の前から、美由希が現われて、その手の中のものを見て声を上げる。

「あ、それ! 良かった、恭ちゃんが拾ってくれてたんだね」

「あ、ああ。ここに落ちていたからな。これは、美由希のか」

そう言ってリボンを差し出す恭也の手からソレを受け取りつつ、美由希は何かを窺うかのように恭也を見詰める。

「恭ちゃん、これ覚えてないの」

「いや、何処かで見た記憶はあったんだが、まあ、美由希のなら、見覚えがあっても可笑しくはないだろう。
 それにしても、かなり傷んでいるように見えるんだが。新しいのを幾つも持っているんだから、いい加減に捨てたらどうだ」

恭也がそう言った瞬間、美由希の顔が悲しげに歪み、瞳が揺れる。
珍しい美由希のそんな表情に焦る恭也を無視して、美由希は小さく呟く。

「そっか。覚えてないんだね。これは、捨てられないんだよ。
 とても大事なものだから。本当に大事な、お守りだから」

美由希の言葉を証明するかのように、色褪せたそのリボンは本当に大事にされてきたであろう、
所々解れては修復されたであろう跡からも、それが分かる。
そんな美由希の様子に、恭也は必死で記憶を辿り、ようやく思い至る。

「そうか、思い出した。それは、あの時の…」

「そうだよ。これは、恭ちゃんが私にくれた一番最初のプレゼント。
 あれ以来、ずっとこうして持っているんだから。それこそ、肌身離さず」

そう言ってはにかむ美由希から視線を逸らしつつ、恭也は少しぶっきらぼうに答える。

「物持ちの良い奴だな」

その言葉に、美由希は膨れて見せつつも、それが照れ隠しと分かっているのか、最後には笑みを見せる。

「そんなに大事なら、もう落とすなよ」

「分かってるよ」

恭也の言葉に頷くと、そのリボンを大事そうに折り畳み、両手で包み込むように持つ。

「恭ちゃんは、今から鍛練?」

「ああ、少し身体を動かそうと思ってな」

「そうか。じゃあ、私も準備してくるから…」

「そうだな。軽く動くか」

「うん」

「じゃあ、先に道場へと行っているから」

「分かった。すぐに行くよ」

言いながら駆け去る美由希を見送り、恭也は道場へと向うために足を再び動かし始める。





    §§





あれから一週間程経った日曜日。
恭也たちが朝食を取っていると、ふらふらとした足取りで美由希が顔を出す。
桃子たちが朝の挨拶を投げる中、美由希は青い顔をしたままろくに返事もせずに立ち尽くす。
そんな尋常ならざる美由希の様子を見て、桃子が慌てて美由希に声を掛けるが、それすらも聞こえていないのか、
美由希は恭也へと声を投げる。

「ど、どうしよう、恭ちゃん」

「何がだ。一体、どうした」

事情を聞くべく、冷静に返す恭也に、美由希は力のない声のまま続ける。

「アレがないんだよ」

殆ど涙声になりつつ告げた美由希の言葉に、桃子は自身が落ち着く為に口に含んだコーヒーを思わず噴き出し、そのまま咽る。
恭也は、そんな桃子を横目に眺めつつ、

「かーさん、汚い」

「ごほっ、ごほ、だ、、ごほっ、だって、そんな事を言われても……」

まだ小さく咳き込む自分の背中を擦るなのはに礼を言いつつ、落ち着いた桃子は美由希と恭也を驚いた顔で見遣る。

「あんたたち、一体、いつの間にそんな関係に!?」

「はぁ!? 何を言ってるんだ、かーさん」

桃子の言葉に怪訝な顔付きになる恭也と、そんなやり取りが聞こえていないのか、未だに不安そうな顔の美由希。
そんな二人をもう一度見遣りつつ、桃子は恭也へと真剣な表情を向ける。

「恭也、美由希が不安になってるんだから、安心させてあげなさい。
 美由希も安心して。大丈夫よ、かーさんは二人の事に反対はしないから」

ようやく美由希も桃子の言葉を聞き、不思議そうな顔を見せる。

「えっ! だって、アレがないんでしょう」

「うん、無いんだよ」

桃子の言葉に、美由希は再び悲しそうな顔になる。
話がすれ違っているような印象を抱きつつ、恭也は一先ず桃子のことはおいて、美由希へと話し掛ける。

「で、何がないんだ、美由希」

この子は何でここまで鈍いの、と呟く桃子を尻目に、恭也は美由希が話し出すのをじっと待つ。
そんなに長いこと待つ事も無く、美由希が口を開く。

「あのリボンが…」

「ああ、あのリボンか」

「へっ!? リボン?」

その言葉に納得する恭也と、素っ頓狂な声を出す桃子と、それぞれに違う反応を返す。

「あ、あははははは〜。桃子さんったら、とんだ勘違い」

笑いながら舌を出して誤魔化す桃子を完全にスルーして、恭也は美由希へと声を掛ける。
向こうで、いじけた桃子が目に入ったような気もしないでもないが、それは気のせいだろう。

「で、いつ気付いた」

「さっき。鍛練から帰ってきて、着替えた時にはもう無かった。
 鍛練前にはちゃんとあったから、鍛練の行き帰りで落としたのか、鍛練中に落としたのか」

「鍛練の時も持っていたのか」

「うん、言ったじゃない。肌身離さずに持っているって」

「…だとしたら、行きか帰りに落としたんだろう。
 鍛練の時に落としたのなら、気付くはずだからな」

そう言うと、恭也は立ち上がる。
それを眺めながら、動かない美由希へと、

「ほら、さっさとしろ。探しに行くんだろう」

「あ、うん」

恭也の言葉に、美由希は先程までの不安そうな顔から一転して、嬉しそうな表情を見せる。

「そういう訳で、俺と美由希は少し出てくるから」

「行ってらっしゃい、師匠」

「行ってらっしゃい、お師匠、美由希ちゃん」

晶とレンに頷きで返すと、恭也と美由希は連れ立って出て行く。
家から神社までの道のりをゆっくりと歩きながら、恭也と美由希の二人はリボンが落ちていないか注意深く見て行く。

「ないな」

「……」

恭也の言葉に落ち込む美由希に、慌ててフォローを入れる。

「まだ、半分しかみてないからな。
 神社までは後、半分あるんだ」

「うん」

そう答える声もどこか力なく、恭也はふと昔を思い出す。
いつも自分の後に付いて周っていた小さな女の子。
服の裾を弱々しく掴み、縋るような、こちらの機嫌を伺うような眼差しで見つめてくる女の子。

(何処へ行くのも一緒だったな)

懐かしい思い出に浸りつつ記憶を遡ると、不意に件のリボンの事を思い出す。
詳しくは覚えていないが、泣いていた美由希を慰めようと色々と言葉を掛け、
しかし、それでも泣き止まない美由希に、ほとほと困り果てていたのを覚えている。
そうだ、確か、あの時に、元々美由希の誕生日プレゼントにと買っていたリボンをあげたんだった。
包装も何もしていない剥き出しのままのソレを見て、美由希は泣くのを止めて笑ったんだった。
かれこれ、十年以上昔の出来事をつい最近のように思い出しつつ、知らず笑みを浮かべる。
そんな恭也を、首を傾げて見てくる美由希に首を軽く振りつつ答える。

「いや、大した事じゃない。ただ、お前にあのリボンをあげた時のことをちょっと思い出していただけだ」

「恭ちゃんったら、何も言わずにリボンだけを差し出すんだもの。
 最初、それが何なのか分からなかったよ」

「悪かったな。それにしても、ワンワンと泣いていたお前を必死に宥めるのは苦労したな」

「もう、何でそんな事ばっかり覚えてるかな」

「そう拗ねるな。良い思い出じゃないか」

「う〜、私は恥ずかしいだけだよ」

拗ねたように見上げてくる美由希の頭を軽くポンポンと叩きつつ、恭也は注意深く辺りを見渡す。
しかし、この周辺にはリボンは見当たらず、二人はゆっくりと歩を進める。

「ねえ、恭ちゃん。リボンをくれた時の事、ちゃんと覚えてる?」

「どういう事だ?」

「んー、覚えてないんなら良いや。別に大した事じゃないし」

そう言う割には悲しそうな顔を見せる美由希を見て、恭也は必死で記憶を辿るが、はっきりと思い出すことが出来ない。
それっきり無言のまま、二人はリボンが落ちてないかを探す。
結局、いつもの鍛練の場に来るまでの道のりに、リボンは落ちていなかった。
明らかに気落ちする美由希に、下手な慰めの言葉も掛けられぬまま、恭也は美由希を見詰める。
その悲しそうな瞳で立ち尽くす美由希と、昔の美由希の姿が重なって見え、恭也は当時の事を鮮明に思い出す。

(確か、泣いていた美由希にリボンをあげて…)

最初はきょとんと、恭也が差し出したリボンを見ていた美由希だったが、恭也が促がすようにそれを目の前に持っていくと、
恐る恐るといった感じで手を差し出し、恭也を見上げる。

「これ、貰って良いの?」

「美由希の誕生日のプレゼントだから」

今現在、自分で思い出しても素っ気無かったなと思うような口調で、恭也はそれだけを口にする。
しかし、美由希は嬉しそうな笑みを見せると、それを受け取る。

「ありがとう、お兄ちゃん。大事にするね」

「うん、大事にして。それは、呪われたリボンだから、粗末にすると呪われるんだ」

恭也の言葉に、怖がりの美由希は途端に顔を歪めるが、

「大丈夫だもん。お兄ちゃんから貰った物だから、大事にするもん」

「そう。だったら、大丈夫。美由希がそれを大事にしていたら、それはお守りになるから」

「お守りに?」

「そう。だから、大事に持ってて」

「うん、分かった。でも、お兄ちゃんも守ってくれるよね?」

幼いなりに、自分が恭也に守られていると感じていた美由希は、リボンを代わりにして、
恭也が何処かへ行くのでは、と不安になって付け足すように尋ねてくる。
その意図に気付いているのか、いないのか、恭也はその言葉に一つ頷く。

「良いよ。美由希が危ない時には、俺が守ってあげる」

そう言って美由希の頭を優しく撫でる。
撫でられた美由希は、その手の感触に嬉しそうにはにかみながら目を細めると、

「ずっと守ってくれるの?」

「うん、ずっと」

「えっとえっと、じゃあ、ずっと一緒にいてくれる?」

「うん、良いよ」

美由希の言葉に、先程まで悲しそうに泣いていた美由希を見たくなくて、恭也はそのまま返事をする。
そんな恭也の返事を聞き、美由希は嬉しそうに笑いながら更に続ける。

「じゃあ、お兄ちゃんのお嫁さんにしてくれる?」

「……」

この言葉に、咄嗟に返事できなかった恭也を見て、美由希がまた悲しそうな顔を見せる。
それを見て、恭也は慌てて口を開く。

「み、美由希、何でお嫁さんなんだ」

「だって、お兄ちゃんとずっと一緒にいたいんだもん。
 お兄ちゃんは嫌なの? 美由希がお嫁さんじゃ嫌?」

泣きそうな声と顔で聞かれ、恭也は首を横へと振る。

「嫌じゃないよ。それじゃあ、美由希が大きくなって、この約束を覚えていたら、お嫁さんにしてあげる」

「絶対に、忘れないもん。じゃあ、約束。指きり」

そう言って差し出してくる小指を、自分の小指で絡めて指切りをする。

すっかり忘れていたその約束を思い出し、
恭也は少し照れたように上を仰ぐが、俯いている美由希が視界に入り、そっと息を吐き出す。

(って、まさか、あの約束をまだ覚えていたのか)

不意に先程の美由希の言葉を思い出し、恭也はその事に気付く。
同時に、今までの美由希と過ごした記憶などが思い出され、恭也自身も自分の気持ちに気付く。

(そうか。俺も昔から美由希の事…)

士郎が亡くなってから、剣を習おうとした美由希。
そんな美由希を一人前の剣士にするため、自身に過酷な鍛練を施した過去。
そういった様々な出来事と、弟子として美由希を鍛えていく内、に自分でも分からなくなっていた気持ちを自覚する。
自分に対する苦笑を浮かべると、恭也は美由希に話し掛ける。

「美由希、ここにもないみたいだし、そろそろ戻ろう」

「…うん。……私はもう少し探してみるから、恭ちゃん先に帰って良いよ」

そう告げる美由希の手を強引に掴み、恭也は歩き出す。

「きょ、恭ちゃん」

いつになく強引な恭也に戸惑いつつ、美由希は引っ張られるままに足を動かす。

「って、恭ちゃん、そっちは家の方角じゃないよ」

「ちょっと俺の用事に付きあってくれ」

「で、でも、私はリボンを…」

尚も言い募ろうとする美由希を強引に引き摺りながら、恭也は駅前へと来る。

「ちょっとここで待ってろ。すぐに戻るから」

そう言って美由希をその場に残すと、恭也は何処かへと消える。
待たされた美由希は、あちこちで開いていく店を何となしに見遣りながら、ただ時間が流れるのを待つ。
どれぐらい待っただろうか、やがて恭也が戻ってくる。

「悪い、待たせたな」

「それより、恭ちゃんの用事はもう良いの」

「ああ、俺の用事は大体、終わりだ」

「じゃあ、私はもう一度探してくるから」

そう言って駆け出そうとする美由希の腕を掴み、恭也は自分と向き合わせる。

「大体と言っただろう。まだ、全部済んだ訳じゃない」

「だったら、早くしてよ。こうしている間にも、風で何処かに飛ばされてしまうかもしれないんだから」

強い口調で告げる美由希の手を取り、恭也はそっと囁くように言う。

「美由希、あのリボンの代わりのお守りだ。
 リボンの代わりにはならないかもしれないけれど、お前は俺が守ると約束しただろう」

そう言って、美由希に今しがた買ってきたばかりの指輪を見せる。

「あの時の約束を思い出した。俺は美由希の事が好きだ。
 妹としてではなく、一人の女性として。美由希、受け取ってくれるか」

「…う、うん」

恭也の言葉に、美由希は涙ぐみながら何度も頷く。
それを見て、恭也はそっと掴んでいた美由希の右手薬指へと指輪を付ける。

「ちゃんとした物は、今後という事で。
 とりあえずは、あのリボンの代わりだ」

「あ、ありがとう」

掠れた声で何を言っているのか聞き取り難かったが、恭也はしっかりとそれを理解しており、そっと美由希の頭を抱き寄せる。

「ちょっと待たせてしまったな」

「ほ、本当だよ。ずっと待ってたんだから。でも、許してあげるよ」

「そうか。でも、あの時の約束を果たすという意味では、別に遅すぎではないと思うんだがな」

「え、え、た、確かに、それは遅すぎないけど…。寧ろ、早すぎるというか。
 まだ、私も恭ちゃんも学生だし。でも、母さんも今の私と同じ頃にお父さんと……」

「とりあえず、落ち着け。その辺りは、ゆっくりと二人で考えていこう」

「う、うん、そうだね。二人で…」

お互いに背中へと回した腕に力を込め、そっと抱き合う二人。
暫らくそのままでいたが、不意に恭也が美由希の耳元で囁く。

「…所で、やけに視線を感じるんだが」

「私もだよ、恭ちゃん。よく考えてみたら、ここって駅前だよね。しかも、今日は日曜日だし」

徐々に人の集まり始めた今、二人はかなり目立っていた。
その場に立ち止まってじっくりと眺めている者はいないものの、通行人の殆どが何事かと二人を見て歩いて行く。
そんな視線に耐えつつ、恭也と美由希はお互いに頷き合うと、さっと離れ、足早にその場を後にする。
この辺りの呼吸は、長年一緒にいた者同士ならではだろう。
人目のなくなる所まで早足で歩いてきた二人は、ようやくゆっくりと歩き出す。

「あー、恥ずかしかった」

まだ火照る頬を撫でつつ、美由希はそれでも笑顔で隣を歩く恭也へと視線を向ける。
見ると、恭也も同じように顔を赤くしているものの、その顔には微笑を浮んでいた。
それを見て、訳も分からずに嬉しくなった美由希は、恭也の腕に自分の腕を絡める。
一瞬驚いた恭也だったが、特に何も言わずにされるがままにしておく。

「えへへへ。こうやって、恭ちゃんと歩いてみたかったんだ。
 これで夢が一つ叶ったよ」

「安い夢だな」

「一つって言ったでしょう。他にも、いっぱい、いっぱいしたい事があるんだから。
 勿論、全部恭ちゃんと一緒にしたい事ばかりだからね」

「まだまだ時間はあるんだ。一つ一つ叶えていけば良いさ」

「うん」

満面の笑みを見せる美由希を見て、恭也も嬉しさが込み上げてくる。
隣を歩く美由希を何となく眺めつつ、恭也は不意に未だに笑みを浮かべる美由希の唇を塞ぐ。
驚きで目を見開く美由希だったが、すぐに瞳を閉じると、唇に感じる温かさに身を任せる。
長いようで短い時間の中、お互いの唇を触れ合わせていた二人は、ゆっくりと離れる。

「それじゃあ、帰るか。朝食がまだだっただろう」

「あ、うん。でも、今は胸がいっぱいで食べれないかも」

そう答えた美由希だったが、直後、体は正直でお腹の音が鳴る。

「胸とお腹は別みたいだな」

「うぅぅぅ、恥ずかしい限りです」

恐縮する美由希の頭を優しく撫でると、恭也は歩き出す。
少し先を行く恭也に追いつくと、美由希は再び恭也と腕を組み、家路へと向うのだった。





    §§





「ただいま〜」

嬉しそうに帰宅の声を上げる美由希に、出迎えた晶たちは探し物が見つかったのかとほっと胸を撫で下ろす。

「美由希ちゃん、見つかったんやね」

「ううん、残念だけど、見つからなかったよ」

「えっ、だったら…」

「もう良いの。代わりのものが手に入ったから」

「もしかして、師匠から新しいリボンをプレゼントされたとか」

「えへへへ」

「流石、お師匠ですな」

「何はともあれ、良かったね、美由希ちゃん」

「うん、ありがとう。あー、安心したらお腹が空いちゃった」

「うちが今から用意します」

美由希の言葉に、レンは急いでキッチンへと向い、晶もレンの後を追うようにキッチンへと向う。
その二人の後に続く恭也と美由希の手は、こっそりと、だけどしっかりと繋がれ、
新しい二人の絆が、小さく光を反射して輝いた。






おわり




<あとがき>

久し振りの美由希メインのお話〜。
美姫 「酷い扱いの多い美由希だけど、今回は違うのね」
おう。って、前から言ってるが、美由希が嫌いな訳ではないんだぞ。
逆に好きだからこそ、出番が多い訳で、だからこそ、様々な場面が出てくると…。
美姫 「はいはい、分かった、分かった」
むぐぅ。
美姫 「今回は甘々かしら?」
う〜ん、甘々という程でもないかも。
美姫 「兎も角、今回は美由希ちゃんのお話をお届けしました〜」
それでは、また。
美姫 「ではでは〜」



おまけ

ご飯を食べた後、美由希はご機嫌なまま恭也と一緒に自分の部屋へと戻る。
特に何かある訳ではないが、何となく一緒に居たかったからだ。
恭也も同じ気持ちだったのか、美由希の提案に頷き、今こうして美由希の部屋で何をするでもなく一緒にいた。

「そうだ。恭ちゃん、ちょっと良い」

「何だ」

「良いから、良いから」

そう言って美由希は恭也の頭を両手で挟み込むと、そのまま自分の太腿へと降ろす。

「膝枕もやってみたかったんだけど、駄目かな」

「駄目も何も、既にやっているではないか」

「あははは、それもそうだね。あ、そうだ。ちょっと待っててね」

美由希はそう言うと、一旦、部屋から出て行き、少ししてから戻ってくる。
その手に、あるものを持って。

「美由希、まさかとは思うが……」

「うん。お願い」

自分は美由希にこんなに甘かっただろうかと考えつつも、恭也は大人しくもう一度、美由希の足へと頭を乗せる。
顔を横へと向け、上に向いた恭也の耳へと、美由希が持って来ていた物をそっと入れる。
一瞬だけびくりとなったものの、すぐに美由希に任せるように力を抜く。

「恭ちゃんに耳掻きをしてあげるのも夢だったんだよ」

少し照れ臭いものを感じつつ、そうか、とだけ短く答える。
そんな恭也に対して微笑を浮かべつつ、美由希は恭也の耳を掃除する。
と、恭也の視界に何かが飛び込んでくる。

「美由希」

「あ、ごめん、痛かった」

「そうじゃない。ちょっと待ってくれ」

美由希の手を遠ざけてから、恭也はゆっくりと体を起こすと、先程目に入ったものを確かめるべく、ベッドの下へと手を突っ込む。
それから、何かを掴むと、それを引っ張り出す。
出てきた物を見て、美由希が驚いた声を上げる。

「そんな所に……」

恭也が握っていたのは、ずっと探していたあのリボンだった。

「うぅ、着替えた時に落ちたんだね。全然、気が付かなかったよ……」

申し訳無さそうに言う美由希の頭に手を置くと、

「まあ、そう気にするな。そのお陰で、俺たちは今、こうしていられるんだから」

「うん。やっぱり、このリボンは私にとって、お守りみたいなもんだよ。身を守るんじゃなくて、恋愛成就の。
 恭ちゃん、好きだよ」

「ああ」

美由希の言葉に、恭也は照れて短い返事だけを返す。
そんな恭也を見て、美由希はくすくすと笑う。
やや憮然とした表情になりつつ、恭也は少し乱暴に美由希の腿へと頭を降ろす。

「笑ってないで、さっさとしろ」

「くすくす。分かったよ。痛かったりしたら、ちゃんと言ってね」

「ああ」

こうして、耳掻きは再開されたのだった。





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