『うちのポチ知りませんか?』






休みの午後、恭也と美由希はと共にランニングをしていた。
現在は家へと向かって走っている途中で、帰れば道場で打ち合う予定であったのだが、そうすんなりとはいきそうもなかった。
と言うのも、

「うぅ、ポチ〜」

二人の前で泣いている女の子がいたからである。
なのはよりも幼い少女を見て、迷子かと思って声を掛けてみれば違ったらしく、ペットが逃げ出したので探していたらしい。
流石にここまで関わってしまってはいさようなら、で済ますには美由希は優しく、恭也もまたそこまで鬼ではなかった。
故に二人はゆうなと名乗った少女と共にペット探しをする事にしたのであった。

「ポチが何処か立ち寄りそうな所はないかな?」

探す事を決めた美由希が真っ先にゆうなに尋ねたのがその事であった。
が、ゆうなはよく分からないのか首を傾げている。

「えーっと、ポチの好きな場所とか」

「こっち」

質問の仕方を変えてもう一度尋ねれば、今度はすぐさま返事が返ってくる。
そればかりか既にゆうなは駆け出しており、恭也と美由希はその後を追う。
出遅れたと言っても幼い少女と普段から鍛えている恭也たちである。
すぐさま追い付きゆうなの後に付いていくと、ゆうなはそのまま公園の中へと入って行く。

「あー、確かにこの公園は連れて散歩しても良かったね」

「だな。臨海公園ほど広くはないが、そこそこの広さがある上に少し行けば池もあるしな」

そんな事を話しながらゆうなの後に続けば、今話に出た池へと向かっているようである。
池のほとり、小さな子が近付きすぎないようにするために設けられた木製の柵。
恭也たちからすれば腰にも届かない高さだが、ゆうなからすれば自らの身長にも匹敵する柵の元にしゃがみ込み、ゆうなは辺りを見る。
時折、ポチと名前を呼んで探す後ろ姿を視界に入れつつ、恭也と美由希も周辺を探して歩く。
が、それらしき影も見えない。
と、そこへゆうなの大きな声が響く。

「ポチ〜」

どうやら見落としていたのか、ゆうなが先にポチを見つけたらしく嬉しそうな声で呼んでいた。
恭也と美由希はゆうなの元へと向かえば、ゆうなは柵の下から池の方へと身を乗り出していた。
流石に危ないから止めようとしたが、すぐに二人の下へと戻ってくる。

「危ないからあんな真似はしたら駄目だぞ」

出来る限り優しい注意すると、ゆうなは返事をして謝る。
が、ポチが見つかって嬉しいのかその顔は笑顔であった。
流石にその事を起こるつもりはない恭也と、肝心のポチの姿が見えない事に首を傾げる美由希。

「ゆうなちゃん、ポチは何処にいるの?」

「ここだよ、お姉ちゃん」

言ってゆうなは閉じていた手を広げると、そこには……。

「って、カエル!?」

美由希の言うとおり、そこには一匹のピンク色のリボンを体に着けたカエルが居た。
結構大きな声が出た為か、ゆうなが一瞬ビクリと身を振るわせるも恭也は逆に平然と美由希を冷めた目で見遣り、

「何をカエルぐらいで驚いているんだ。いつものお前なら肉が確保できたと喜んでいるだろう」

「って変な事言わないでよ!」

「お姉ちゃん、ポチを食べちゃうの?」

恭也の言葉に泣きそうになるゆうなに恭也へと突っ込んでから、美由希は必死で宥めるように言う。

「食べない、食べないよ」

「本当に?」

「本当だよ」

「安心して。余所様のペットを食べないようにちゃんと餌は与えているから」

「って、私がペット扱い!? あ、でも恭ちゃんに飼われるのも……」

とんでもない事を言う恭也に対し、美由希もまた少しずれた事を口にする。
それを聞いていたゆうなは、

「お兄ちゃん、このお姉ちゃんの飼い主なの?」

純粋な目でそう聞くのだが、その内容はとんでもないものであった。
恭也は美由希のバカな反応で疲れたような表情を浮かべつつも否定しようとするのだが、
既に妄想に入り込んでいた美由希の言葉が先に呟かれる。

「駄目だよ、恭ちゃん。その縄でどうするの。でも、変態でも恭ちゃんは恭ちゃんだよ」

「お兄ちゃんは変態さんなの?」

またしても純粋な、言葉の意味もよく理解していないであろう問い掛けに恭也は強く否定したいのを堪え、やんわりと諭すように言う。

「今、このお姉ちゃんは立ったまま眠っていて夢を見ているんだ。
 きっと変な夢でも見ているんだよ」

「うーん、そっか。ポチを探すのを手伝ってくれて疲れたんだね。
 わたし、ここから一人で帰れるからもう大丈夫だよ。お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう」

きちんと礼を言って去っていくゆうなに恭也も手を振る。
その後、まだ怪しげな事を呟いている美由希を痛覚を使って現実に呼び戻し、文句を言う美由希を無視して駅方面へと向かう。

「どうしたの、恭ちゃん」

家とは違う方向へと歩き出した恭也に疑問を口にすると、

「ちょっと買う物を思い出してな」

「もしかして私にプレゼントとか?」

「そうだ」

「えっ!?」

冗談で言った言葉に予想外の返答を返されて驚くも、すぐに顔をへにゃりと緩めて不気味な笑みを漏らす。

「なに、何を買ってくれるの?」

「首輪と鎖だな」

「……い、いきなりアブノーマルな!?
 でも恭ちゃんが望むなら」

「後は庭に犬小屋ならぬ美由希小屋を建てて、餌は晶とレンが作ってくれる同じ物で良いだろう。
 ああ、でもペット用の皿がいるな」

「って、完全にペット扱い!?」

「さっきお前が言ったんだろうが」

「もしかして、あの子に変態呼ばわりされた事を怒っている?」

妄想に浸りつつもちゃっかりとそのやり取りは聞いていたらしい。
が、それが更に恭也の怒りに油を注ぐ。

「そうそう、後はトイレも用意しないとな。紙と砂があるみたいだがどちらが良い?
 せめてもの情けに選ばせてやろう」

「そんな、そこまでマニアックなプレイは流石に……」

「鎖と首輪は絶対に切れない特注の物を頼もう。餌も同じ物では勿体無いからドッグフードで良いか」

「あ、あははは。恭ちゃん、ごめんなさい!」

その後、必死の謝りにより何とか事なきを得た美由希は、口は災いの元という言葉を深く深く痛感したのである。
その事を教訓として夕食時に家族へと話した美由希であったが、家族たちの美由希を見る目は一様に揃って、

『ああ、それでもすぐにまた似たような事をするんだろうな』

といった生暖かいものであったとか。






おわり




<あとがき>

美由希の災難という感じだな。
美姫 「ある意味、うちではよくある事」
決して、決して美由希が嫌いな訳じゃないんです。
美姫 「これもまたよくある事」
まあ、恒例行事はこのぐらいにして。
美姫 「と言っても特に語る事ももうないけれど」
ですね。それじゃあ、この辺で。
美姫 「まったね〜」







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