『ポッチーの日』






1が並ぶ事からポッチーの日という訳で、11月11日はそのお菓子の日とされていたりする。
かと言って、絶対に食べなければいけないという訳ではないのだが、最近ではマスコミなどでも取り上げたりする事があるようで。



1.晶とレンの場合

「思わず買ってしまったんだが……」

言って晶は今しがた買い物をしたコンビニの前で手に握った袋の中を見る。

「このまま持って帰ったら、レンにまた何か言われそうだな」

晶はほんまに単純やなとからかってくるレンの顔が浮かび、知らず晶は拳を握る。
実際、そんな事はないのだろうが一度浮かんでしまった想像は消えてくれず、
かと言って、買ってしまったのだから当然捨てるなんて選択肢はなく、うん、偶々食べたいと思っただけだと言い聞かせる。
と、そこへ、

「お、晶やんか。どないしたんや、こんな所で」

今しがた想像していたレンが声を掛けて来る。
思わず身を固くする晶であったが、咄嗟に袋を後ろへと隠す。

「べ、別にどうもしてない。それより、お前こそどうしたんだ」

「どうしたも何もうちは買い物の帰りや」

「そうか」

そう返しつつ、晶は緊張からか少々ぎこちない動きを見せるのだが、よく見ればレンも似たような動きを見せている。
が、晶はそれを見る余裕もなく、ゆっくりとレンから遠ざかる。

「それじゃあ、俺はそろそろ行くわ」

「そうか。まあ、今日はうちの当番やから、ゆっくりとしてきたら良い」

「ああ、そうする」

口論に特に発展もせず、二人はそのまま別れようとして、晶はレンの態度に違和感を抱く。
それに気付けば注意深く相手を見ようとし、レンの片手が後ろに回されている事に気付く。

「レン、どうかしたのか」

「ど、どうかって、何が? うちはどうもしとらんよ」

言ってイッチニサンシーと屈伸して見せるも、右手――正確には右手に握った買い物袋は後ろのままである。
その事を不審に感じて問い質そうとするも、今度はレンが晶の後ろ手に隠した買い物袋に気付く。

「晶こそ、どうかしたんか? 確か、今日はうちの当番やったと思うけれど」

「っ、これは、あれだ。ちょっと家で必要な物があってな」

「そうか」

互いに相手の態度を不思議に思いつつ、知られたくない事があるのかややぎこちない笑みを交わして以降、沈黙が降りる。

「それじゃあ、うちは夕飯の支度があるから行くわ」

「あ、ああ。俺もこれを家に置いてこないといけないから行くわ」

そう言い合うと互いに別の道を進む。
共に暫く進んだ後、袋の中にあるお菓子を見て、知られずに済んで良かったと胸を撫で下ろすのだった。



2.那美の場合

「えへへ、そういう訳で今朝、思わず買ってしまったんですよ」

少し恥ずかしそうに那美は鞄から通学途中に買ったポッチーを取り出す。

「へー、そう言えば何か言ってた気がしますね。そっか、そんな日があるんだ」

昼食も終えた昼休み、中庭で那美と話していた美由希は納得したような、感心したような声を漏らす。
冷え込み始めたこの時期でありながら、今日は陽射しも温かく日が出ている日中は小春日和と言った感じである。
それでも冬服の存在が必要以上に寒さを感じさせなくもないが、凍えるほどでもない。
という訳で、二人はベンチの一つに腰掛け、那美が取り出したポッチーをデザート代わりに頂こうとしていた。

「えっと、確かこうやって開けるんですよね」

数回指を滑らせるも、何とか口を開けて中身を取り出したところで那美は動きを止める。
そして、ばつが悪そうな顔と情けない顔の半々といった様子で美由希を見詰め、

「うぅぅ、綺麗に全部折れてます……。やっぱり来る途中に転んだのが原因でしょうか」

「だ、大丈夫ですよ、那美さん。折れてても味は変わりませんから」

「でも、何箇所も折れてます」

「大丈夫ですって。ほら、早く食べましょう。楽しみだな〜」

那美を元気付けるために少し大げさに声を出し、折れたポッチーを口に運ぶと美味しいと告げる。
そんな美由希の気遣いに感謝しつつ、那美は粉々になったポッチーを掌に出し、

「うぅぅ、やっぱり三回転んだ内、一回は鞄の上に転んだのが悪かったんでしょうね」

涙こそ流さなかったものの、物悲しそうに告げられた内容に、美由希は三回もという言葉をポッチーと共に飲み込むのであった。



3.忍の場合

「まあ、そんな訳で今日はポッチーの日という訳よ。
 という事で、お一つどうぞ、恭也」

教室の後ろの座席、窓際に近い事もあって多少の陽射しも差し込む忍の席で、恭也はポッチーを差し出される。
目の前に差し出されたポッチーを目を細めて見詰め、恭也は別にいらないと断るのだが、んと更に突き出される。
とは言え、それを口にする訳にもいかず恭也は口を開こうともしない。
別に学校内だからという理由などでもなく、

「何がという事なのかは知らないが、くれるのなら普通にくれ」

と呆れたように、ポッチーを咥えて顔を近づけてくる忍へと注意する。
恭也に食べる意志がないのを知ると、と言うか初めから分かっているのだが、忍は自分でそれを食べ、

「だって、それだと面白くないじゃない」

「お前は面白くないと言う理由だけであんな事をするのか?」

「日常生活において楽しく過ごすって言うのは大事な事だと思うのよ。
 それに恭也以外にはしないから安心して」

「何を安心するのかは兎も角、できれば俺にもしないで欲しいのだが」

「はい、お一つどうぞ」

恭也の言葉を綺麗に聞き流し、忍は再びポッチーを咥えると、んと恭也の前に差し出す。

「だから、人の話を聞いてくれ」

疲れたような恭也の声を聞き、忍は満足そうに咥えていたソレを食べるのであった。



4.なのはの場合

「ポッチーではなく、あえてプリッチを選んでみました」

「くぅ〜ん」

「はい、くーちゃん」

高町家の縁側でなのはは久遠相手にそう言うと、プリッチを久遠に与える。
狐に与えても良いのかどうか、そう思うも久遠本人が欲しいと言ったので大丈夫なのだろうと。
ブラブラと足を縁側から伸ばし、久遠と二人仲良くおやつを食べる。
何とも穏やかな午後であった。



5.フィアッセの場合

「ポッチーの日って知ってた?」

「ああ、忍に教えられたからな。それよりも、何故、帰宅して早々に俺はこんな状態になっているのかを聞きたいんだが」

「ん〜、何でだろうね♪」

楽しそうに告げるフィアッセであったが、長い付き合いの恭也にははっきりと分かった。
これは満足するまで解放する気はないな、と。
帰宅し、着替えてリビングに顔を出すなり抱きつかれ、それを無視して冷蔵庫を開けて乾いた喉を潤したのが悪かったのだろうか。
フィアッセは離れず、そのまま恭也に引っ付いたまま、今もソファーに座る恭也の後ろから抱き付いている。

「それより、店は大丈夫なのか?」

「うん、今日は私はもうあがりだから。それよりも、はい恭也」

言って目の前にポッチーが差し出される。
流石に忍みたいに口に咥えて、という事はないが差し出されたそれに思わず首を傾げてしまう。

「はい、あ〜ん」

そんな恭也に構わず、フィアッセはそう言うと恭也に口を開けることを無言で催促する。
仕方ないか、と恭也が大人しく口を開けるとフィアッセはポッチーを食べさせる。

「どう、美味しい?」

「ああ」

楽しそうに聞いてくるフィアッセにそう返し、そろそろ離してくれないかと頼んでみるのだが、
返事の代わりにまたしても差し出されるポッチー。それを観念したように口に含み、また頼もうとした所で、今度は箱ごと差し出される。
流石に箱ごとは食べれないと返すと、フィアッセは少し剥れたように頬を膨らませ、

「今度は恭也が私に食べさせる番だよ」

何とも難しい注文を出してくる。
悩み、何と諦めさせようとする恭也だがフィアッセに引く様子もなく、寧ろ抱き付く腕に力が篭ってくる。
最後にはそろそろ誰か帰って来るか、縁側に居るなのはたちが引っ込んでくるかと口にするに辺り、

「……はい、どうぞ」

「ありがと、恭也♪」

フィアッセの要求を呑むしか術はなかった。



6.美由希の場合

「恭ちゃん、知ってた? 今日はね、ポッチーの日なんだって。
 という訳で、恭ちゃんにもお裾分け……いたっ! な、何で!?」

帰宅し、嬉々と恭也に得た知識を披露。
序に一本ばかりどうぞと差し出した美由希を待っていたのは、無言でのデコピンという仕打ちであった。

「甘いもの苦手なのは知っているけれど、一本ぐらいは大丈夫でしょう。
 と言うか、何も言わずにこの仕打ちは酷くない?」

「ああ、悪かった。いや、今日の昼休みから色々とあって、思わず反射的に手が動いた」

「何、それ」

「まあ、深く聞くな」

「聞くなと言われても、とばっちりみたいな感じでデコピンを喰らったんだけれど……」

煮え切らないといった感じでぶつくさと文句を言う美由希に対し、流石に恭也も悪いと思ったのか弾いて額にそっと触れ、

「少し赤くなっているな」

「うえっ! あ、あははは、もう気を付けてよね」

「まあ、今回は俺に非があるからな」

突然の事態にやや混乱しつつ、美由希はどうにかそう口にする。
思ったよりも近い位置にある恭也の顔に額だけでなく顔全体をやや赤く染めつつも、美由希は誤魔化すように手にしたソレを差し出す。

「それで、食べる?」

「そうだな、普通に一本だけもらおう」

「普通?」

「ああ、気にするな」

恭也の言葉を不思議に思いつつ、美由希は恭也に渡した後、自分の分を取り出し咥えるのだった。



7.桃子の場合

夕食後、食器を片付けた桃子が嬉しそうに冷蔵庫から何かを取り出してテーブルの上に置く。

「はーい、今日はポッチーの日だって皆知ってた?
 という訳で、桃子さん頑張ってデザートを作っちゃいました」

桃子の言葉に喜ぶ高町家の面々の中、恭也は一人渋面面を作る。

「何よ恭也。何か言いたそうね」

「……そうだな、確かに言いたくはあるな。
 何の嫌がらせだ、これは。殆ど生クリームじゃないか。
 俺が苦手な物だと知っておきなながら、何故?」

恭也の言うように、デザートと言って出されたものは確かにポッチーが使われてはいた。
が、どちらかと言うとアイスクリームについてくる舌の感覚を戻す事を目的としたウェハースといった感じで、メインは別であった。

「あ、あはははー。し、仕方ないじゃない。ポッチーをそのまま使おうとしたら、これが一番手軽なんだもん。
 もしかして、恭也は一口も食べてくれないの?」

うるうるとわざとらしく口にして恭也を見詰めると、なのはなどからも批難の声が飛ぶ。
仕方なく、恭也は覚悟を決めてフォークを手に取り、できる限り生クリームを取らないようにしてデザートを口に入れるのだった。



番外.すずの場合

「パパ〜、はい、あ〜ん」

差し出されたポッチーをぱくりと咥えると、恭也は今度は期待して見てくるすずにポッチーを同じように出してやる。

「ほら、すず」

「あ〜ん、……ん、美味しい〜」

両頬に手を当てて、嬉しそうに言う。
その隣から恭也の袖を引っ張る手が。

「お兄ちゃん、なのはも」

「仕方ないな」

呆れたように言いつつも、恭也はなのはにも同じようにしてやる。
それをはむと咥えて食べると、今度はすずへとあーんとしてやる。
恭也の時と同じように美味しいと口にすると、すずは同時に二本抜き取り、

「はい、パパ、ママ」

二人に向かって差し出す。
それを二人揃って口に咥えると、

「ありがとうな、すず」

「美味しいよ、すず」

二人からお礼を言われ、すずは嬉しそうに顔を綻ばすのだった。



番外2.没案

煮え切らないといった感じでぶつくさと文句を言う美由希に対し、流石に恭也も悪いと思ったのか反省の言葉を口にする。
そこで終われば良いのだが、美由希は滅多にない態度についついやってしまう。

「恭ちゃんが素直に謝るなんて、天変地異の前触れ!?
 もしかして、偽者!?」

「……なあ、美由希。そんなにポッチーが食べたいのなら、鼻でも食べさせてやろうか」

「あ、あははは、遠慮します」





おわり




<あとがき>

という訳で、今回は時事ネタ。
美姫 「それもかなり期間限定のね」
まあな。それを小編形式でお送りしました。
美姫 「今回のネタ、よくCMを見かけた影響ね」
否定はしない。ふと目に付いてな。
時事ネタならやっとこうかなと。
美姫 「で、番外編として、ママ小二からすずがゲスト出演と」
そういう事です。少しでも楽しんでいただければ。
美姫 「それじゃあ、この辺で」
ではでは。







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