『サンタが高町家にやって来た』






イヴの夜。
ここ高町家では、深夜の鍛練を中止した恭也と、その母親である桃子がこっそりと恭也の部屋にいた。
皆が寝静まった深夜。二人は神妙な顔をして、向かい合っている。

「覚悟は良い、恭也」

「ああ」

そう答えると、恭也は服に手を掛け、着ているものを脱ぎ出す。
上半身だけ全部脱ぎ終えると、恭也はそっと桃子の方へと手を伸ばす。
そして、その手が服を掴み、そっと引き寄せるように持ち上げる。
それから少しして、

「かーさん、こんなもんか」

「うん、ばっちりよ。それなら、何処から見てもサンタクロースだわ」

全身を普段の黒い服ではなく、真っ赤な衣装に包み込んだ恭也はサンタに扮装していた。

「しかし、プレゼントを渡すのなら、普通に渡せば良いのでは」

「それじゃあ、面白くないでしょう。今年は、ちょっと変わった趣向を凝らして、皆が寝ている間に配ろうと思ったのよ」

「いや、その考え自体には異論はないのだが、皆が寝静まった今、この格好をする意味はあるのか」

「それを気にしたら駄目よ」

「駄目なのか」

「ええ」

釈然としないまでも、こうきっぱりと言い切られ、恭也はとりあえず納得する事にする。
まあ、言っても無駄だと思ったのが半分、既にこの格好をした今となっては、言っても意味がないというのが半分だったが。

「それでは、行って来る」

「ええ。くれぐれも起こさないようにね」

「分かっている」

「じゃあ、私は明日も早いから、先に休ませてもらうわ」

桃子はそう言うと、恭也の部屋を出て行く。
それを見送った後、恭也もそっと部屋を抜け出し、二階へと向う。

(まずは、なのはからだな)

尤も眠りが深いであろうなのはの部屋に辿り着くと、恭也はそっと扉を開けて中へと入る。

(ふむ。よく眠っているな)

恭也は大きな袋からなのはのプレゼントを取り出すと、そっとその枕元へと置く。
ついでに、少しだけ布団から出てた手を布団へと戻し、最後に軽く頭を撫でる。
起きていないのを確認すると、恭也はそっと部屋を後にするのだった。
次に、晶、レンの部屋に同様にプレゼントを置き、残るは美由希となった。
ここで、恭也は暫し考え込む。

(うーん、気配を察して起きられると困るな。
 しかし、気付かずに寝ているようでは、修行不足も甚だしい)

常人では分からない苦悩を数瞬した後、意を決して美由希の部屋の前へと立つ。
そっと耳を立て、中の様子を伺う。
聞こえてくるのは、規則正しい寝息だった。
それに気付くと、ほっとしつつも、ここまで接近したのに気付かないとはと頭を抱えるといった、
複雑かつ、面倒な気持ちを振り払うように頭を軽く振る。

(まあ、俺も気配を消しているしな)

珍しく美由希の弁護らしきものを思いつつ、恭也は部屋の中へと踏み込む。
よく寝ているのを確認すると、恭也はプレゼントを取り出して、そっと頭元へと置く。
プレゼントを置くのと同時に、突然、美由希が飛び起き、枕の下にでも隠していたのだろう小太刀を抜き放つ。

「誰!?」

言いつつ、美由希は恭也へと小太刀を振るう。
咄嗟に、美由希の手首を押さえ、そのままベッドへと突き飛ばそうとするが、そこへ美由希の蹴りが来る。
それを掻い潜って躱しつつ、恭也は未だに空に浮んでいる美由希の右足を肩に掛けると、そのまま立ち上がる。
後へと倒れながら、美由希は左足で地を蹴り、恭也へと蹴りを放つ。
普段なら避けれたかもしれないその攻撃は、
しかし、咄嗟に反撃してしまった事に焦っている状態では、綺麗に喰らってしまう結果となった。
顎先を見事に捉えた蹴りを喰らいつつ、恭也は攻撃を喰らった事に、反射的に反撃をしてしまっていた。
美由希の無防備となった背中に、思わず拳を打ち出してしまった。
しまったと思いつつ、恭也はそのまま意識を手放すのだった。
一方、蹴りが決まった美由希は、受身を取って起き上がりざま、すぐに反撃をする事を考えていた。
相手が何者かは分からないが、自分の部屋まで侵入するとは。
さらに、奇襲に近い状態の一撃を受け止められた事により、相手が只者ではないと悟っていた。
しかし、相手に一瞬とはいえ、無防備な背中を晒してしまった事を、美由希は後悔する事になる。
背中に決まった一撃は、思いのほか重く、一瞬、呼吸が止まる。
と、受身を取り損ね、そのまま頭からベッドに落ちる。

(あ、まずいかも……。意識が……)

こうして、美由希も意識を失うのだった。







翌日。
普段よりも少し早く起きた桃子は、昨夜の成果を聞こうと恭也の部屋を訪れる。
しかし、何度呼びかけても、恭也が部屋から出てくる気配がなく、不審に思った桃子は恭也の部屋へと踏み入る。
しかし、そこはもぬけの殻で、恭也はおろか、誰もいなかった。
桃子が首を傾げつつ、仕方がないので念のために子供たちの部屋を覗き、ちゃんとプレゼントが置かれているのか確かめる事にした。
なのは、晶、レンと確認し終えた後、美由希の部屋の前に来る。
そっと扉を開けて中を見た桃子は、驚いたような顔になる。
ベッドに横たわる美由希の上に、恭也が横たわっていたのだ。
驚きで上げそうになった声を、両手で口を塞いで押し込める。
それからじっくりと状況を確認すると、大体の察しがついたように頷く。

「美由希も成長したって事よね。恭也の接近に気付くなんて」

思えば、自分も昔、小さい恭也と美由希の枕元にプレゼントを置こうとして、恭也に攻撃されそうになった事があったっけ。
少し懐かしそうに昔を思いながら、その時の恐怖を少し思い出す。

「そうだわ。あの時の仕返しをしちゃおーう♪」

桃子は悪魔のような笑みを浮かべると、一旦、その準備をするべく一階へと降りるのだった。



それから少しして、美由希が目覚めた時、その枕元には恭也が昨日置いたプレゼントとは別のプレゼントが用意されていた。

「うそー! 本当に良いの!」

「……何が良いのか、説明してくれるとありがたいのだが」

美由希の視線の先から、どこか不機嫌な恭也の声がする。
恭也は、美由希のベットの脇に、手足を拘束された形で横たわっていた。
ただ、それだけなく、首から全身に掛けて、色とりどりのリボンでラッピングされているのだ。

「あ、あはははー。だって、ほら、これ」

そう言って美由希は、恭也の胸に刺さっていた一枚のカードを抜いて恭也へと見せる。
そこには、

『メリークリスマス! 可愛い美由希ちゃんには、この朴念仁をプレゼント〜。
 もしいらないのなら、そのまま廊下にでも出しといてね。
 サンタクロースより』

と書かれていた。

「いらないならって、俺は生ゴミか何かか」

「突っ込む所はそこなの? って、どうして恭ちゃんがここにいるの!?
 って言うか、そうだ、恭ちゃん、昨日、私の部屋に不審者が」

「今頃、何を言ってるんだ、お前は」

「……ま、まさか、本物のサンタクロースが!」

「んな訳あるか! それよりも、さっさとコレを解いてくれ!」

「でも、これって私へのプレゼントだし」

「……何が望みだ」

美由希の言葉に恭也は半眼になりつつ、そう聞く。
それを見て、美由希は優越の笑みを見せると、

「ふふふ〜。何をしてもらおうかな〜♪」

それはそれは、とても楽しそうに言うのだった。






おわり




<あとがき>
はい、一日遅れで、イヴSSです。
美姫 「この馬鹿! 何で、遅れるのよ!」
誰の所為だろうな〜。
美姫 「さあ、何の事かしら。そ、それじゃあ、またね〜」
強引だな、おい。






おまけ

その日の深夜、八束神社で不気味な呻き声が聞こえてきたとか、いないとか。
ただ、あまりにも深夜だった為、それを聞いた者がいたのかどうか。

「うぅ〜、酷すぎるよ、恭ちゃん……」







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