『とらハ学園』






第9話





閑静な朝の住宅街。
そこにこの雰囲気にそぐわない音が響き渡る。
何かが地面を転がるような音に混じり、怒鳴りあうような声も聞こえてくる。
その声や音は砂煙と共に徐々に住宅街から商店街へと向って行く。

【レ ン】 「もっとはよー走らんかい、このおサル」

【 晶 】 「だぁー、うるさいぞこのドン亀が!そんな事を言うんだったら、自分の足で走り去らせこのアホ」

晶の言葉の通り、レンは自分で走っておらず、晶の引っ張るスケボーに乗っている。

【レ ン】 「何を言うとるんや!勝負に負けたんやから、今日から一週間はうちの足として頑張らんかい、このボケ!」

【 晶 】 「〜〜〜!っこの野郎。言わせておけば言いたい放題言いやがって」

【レ ン】 「ほ〜、言わせておけば、ね〜。じゃあ、さっきまで散々捲くし立ててたのは何や!」

【 晶 】 「っく。口の減らねえ奴だな」

【レ ン】 「ほれ、喋ってる暇があったらきりきり走らんかい」

【 晶 】 「このガキィ、あとで覚えてろよ〜」

【レ ン】 「いちいち覚えてられるかいな、そないな事。それとも晶ちゃんはうちに覚えておいて欲しいんか〜」

【 晶 】 「ふっふっふふ。このーカメがぁー。今日こそは泣かせてやる。そして、目上に対する態度ってもんを教えてやるぜ!」

【レ ン】 「おもろい事ゆうな、この猿が!それに、うちはアンタ以外の目上の人にはちゃんと敬意を払ってるわ」

晶は立ち止まると後ろを振り返る。

【 晶 】 「この鈍亀がぁーーーー!」

【レ ン】 「あ、アホ!急に止まったら……」

走っていた晶はすぐに止まれるが、スケボー、
それも晶に引っ張らせていたレンは当然ながら、すぐに止まることが出来ずにそのまま晶に突っ込む。
レンはぶつかる前にスケボーからジャンプすると、そのまま晶へと跳び蹴りを食らわす。
晶は咄嗟に両腕を上げるとクロスさせ、顔面へと迫りつつあったレンの足を受け止める。
レンは晶の両腕を踏み台にし、後ろへと一回転し何事もなかったかのように静かに着地する。と、

【 晶 】 「いってー」

レンの蹴りを受け止めた筈の晶から声が上がる。
晶は蹲ると足の脛を押さえる。

【 晶 】 「うぅ〜、流石に勢いのついたスケボーは当たると痛い……」

晶の言葉が示すように、晶の足元には先程までレンが乗っていたスケボーがあった。

【レ ン】 「ドンくさい奴やな〜。うちの蹴りを受け止めといて、スケボーは避けれんとは」

【 晶 】 「う、うっせー。大体、何であそこで蹴りを出すんだお前は」

【レ ン】 「急に立ち止まったあんたの所為やろ?」

【 晶 】 「だぁー。蹴りを出す必要はないだろうが!」

【レ ン】 「アンタ、その前に、目上に対する態度ってもんを教えてやる、とか言ってなかったか」

【 晶 】 「うっ」

【レ ン】 「まあ、言うなら自業自得っちゅうやつやね」

【 晶 】 「ぐぐぐぐぐ」

【レ ン】 「ほれ、それよりもはよせんと遅れてしまう。
       普段から素行の悪いアンタはともかく、うちは良い子ちゃんで通ってるんやからな。遅刻なんか出来るかいな。
       それに、入学式早々、遅刻する気もないしな」

言うとレンはスケボーの上に再び乗り、晶へと紐を渡す。
それを受け取りながら晶も負けじと言い返す。

【 晶 】 「あのなー、俺だって遅刻はゴメンだっての!ほら、しっかり掴まってろよ。飛ばすからな」

言うや否や、晶は走り出す。

【 晶 】 「うおおぉぉぉぉぉ」

【レ ン】 「よっしゃー、このペースで学校まで行ったれ〜」

【 晶 】 「任せておけ!」

本当は仲が良いのか悪いのか、よく分からない二人だった。





  ◇ ◇ ◇





【レ ン】 「よっしゃー晶、門が見えてきたでー。ラストスパートやー」

【 晶 】 「どぉりゃあぁぁぁぁぁ」

レンの声に応えるかのように晶が速度を少しだけ上げる。

【 晶 】 「と・う・ちゃ・く〜〜!」

門の前で晶は立ち止まる。

【レ ン】 「アホ!また同じ事を……」

レンは言葉を途中で飲み込み、真剣な眼差しになる。
それは、立ち止まった晶がほぼ同時に後ろ回し蹴りを放ってきたからだった。

【 晶 】 「今度はこっちの番だー!」

【レ ン】 「甘いわー!」

レンはスケボーから跳びながら、迫ってくる晶の足に両手を着きそのままの勢いで逆立ちをする。
そして、晶の足が振りぬかれる前に手を放し、空中で態勢を整えると蹴りを出す。
それを晶は不完全な体勢ながらも片手で受け止めると、両足を地に着け体勢を整え拳を繰り出す。
レンは蹴りを受け止めている晶の腕を軸にして身体を回すと晶の後ろへと降り立つ。

【 晶 】 「ちぃ」

晶は慌てて振り返るが、その時には既にレンは懐にいて振り返った晶の胸に軽く右手を置く。

【レ ン】 「ぶっ飛べー、オサル。そして、人間ぶっ飛び最長記録の記録更新やぁー!」

寸掌

【 晶 】 「だぁぁぁぁーー」

まともに喰らった晶は後方へと吹っ飛んでいく。

【レ ン】 「ふぅ〜」

吹っ飛ばされた先で晶はガバッと立ち上がると、早足でレンの元へと戻ってくる。

【 晶 】 「てめぇーは何しやがる」

【レ ン】 「アンタから先に仕掛けてきたんやろがっ!」

【 晶 】 「ぐるるるるるる」

【レ ン】 「むむむむむむ」

お互いに校門の前で睨み合う二人を遠巻きにしながら、他の生徒たちは足早に通り過ぎていく。
そこへ一台の車が横付けされる。
二人は同時にそちらを振り向き、降りてきた人物に目をやる。

【レ ン】 「あ、忍さん。おはよーございます」

【 晶 】 「おはようございます忍さん」

【 忍 】 「やっ、おはよー晶、レン。二人とも相変わらず仲が良いね」

【晶&レ】 「どこがですか!」

【 忍 】 「そういう所よ。ねえ、ノエルもそう思うでしょ」

【ノエル】 「はい」

【晶&レ】 「ノエルさんまで〜」

【ノエル】 「ふふふ。では、お嬢様。また、放課後お迎えに来ます」

【 忍 】 「うん、お願いね。ほら、晶もレンもそろそろ行くわよ」

【 晶 】 「はい」

【レ ン】 「はーい。っと、そうや忍さん。このスケボーにブレーキって付けれます?」

【 忍 】 「ん?これに」

【 晶 】 「おお、それはいい考えだ」

事情を聞く忍に晶とレンは朝の事を話して聞かせる。

【 忍 】 「ああ、そういう事ね。う〜ん、できなくはないわね。一層の事、エンジンも付けましょうか。
       後は翼も付けて……」

【レ ン】 「ブレーキだけで良いんです。エンジンはこの猿ですから」

【 晶 】 「んだとー!でも、まあこの亀の言う通りです忍さん。来週はこの馬鹿に引っ張らせる予定なんで」

【レ ン】 「ふっふーん、まあ無理やと思うけど、夢見るんは自由やしな」

【 晶 】 「このやろー!」

【レ ン】 「なんや、やるっちゅうんか?」

【 忍 】 「あっ、なのはちゃん」

【 晶 】 「ん、なのちゃん、これは違うんだ」

【レ ン】 「そや、これはちゃうねん」

なのはの名が出た途端、二人は言い訳しながら後ろへと振り向く。
が、そこには誰もいなかった。

【 忍 】 「あははは。ごめん、ごめん。今のは嘘よ」

【 晶 】 「忍さん〜」

【レ ン】 「勘弁してください」

【 忍 】 「まあまあ。私じゃ二人を止められないからね」

【 晶 】 「それにしても……なあ」

【レ ン】 「そうです。ちょっとビックリしてしまいましたわ」

【 忍 】 「はははは。ごめんごめん。その代わりっていうのも変だけど、ちゃんとそれにブレーキを付けてあげるわよ」

【レ ン】 「あ、お願いします」

【 忍 】 「忍ちゃんに任せておいてよ♪じゃあ、クラス分けでも見に行こうか」

忍たち三人はクラス分けが張り出されている中庭へと向った。







つづく




<あとがき>

これで、ほとんどのキャラが出揃った訳だが……。
美姫 「まだ登場してないキャラがいるのよね」
うむ。前にも言った通り、次回で全員登場だ!
美姫 「おお!長かったわね」
ああ、長かった。なんせ、登場人物60人ちょいだからな。
美姫 「へぇ〜、そうなんだ」
うん。後、オリキャラが少なくとも二人は出る予定。
美姫 「何故、オリキャラ?」
う〜ん、詳しくは言えないが、過去編をする時に必要に……。
美姫 「そのキャラも次回出るの?」
いや、このキャラについては出番はまだです。
よって、設定にもまだ出てきていない。
美姫 「ふ〜ん。登場人物を増やして、自分で自分の首を絞めるのね」
………それを言うなよ。とりあえず、次回!
美姫 「まったね〜」







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