『とらハ学園』






第10話





三角学園、校門前。
今ここに一人の少女が佇んでいた。
誰かが来るたびに顔を上げ、待ち人かどうか確認してはまた俯く。
そんな少女に一人の男子生徒が声をかける。

【勇吾】
「あれ?アリサちゃん。どうしたのこんな所で」

【アリサ】
「あ、赤星先輩。おはようございます」

【勇吾】
「ああ、おはよう。ひょっとして恭也の奴を待ってるとか?」

【アリサ】
「あ、いえ、その……はい」

【勇吾】
「うーん、という事はまだ来てないのか」

【アリサ】
「私が来る前に来られていたら分かりませんけど」

【勇吾】
「まあ、あいつがそんなに早く来るとは思えないしな。しかし…」

赤星はそこまで言うと腕時計に目を落とす。

【勇吾】
「そろそろ俺たちも教室に行かないとな」

【アリサ】
「そうですね」

少し残念そうにアリサは言う。

【勇吾】
「まあ、恭也には放課後にでも会えるだろ」

【アリサ】
「ですね。じゃあ、クラス分けを見に行きましょう」

【勇吾】
「だな」

そんな二人に後ろから声をかける人がいた。

【彩】
「赤星君、何してるの?」

【勇吾】
「ああ、藤代か」

【彩】
「あら、こんなに可愛い子をナンパしてるのかしら」

【勇吾】
「ったく、何を言ってるんだか」

【朱美】
「その情報貰ったー!剣道部次期主将赤星勇吾、年下の女の子を校門前dナンパ!ってね」

【勇吾】
「緋川先輩まで何を言ってるんですか」

【朱美】
「はははは、冗談よ冗談。それよりも何してるのよ、こんな所で」

【勇吾】
「別に何もしてませんよ。今からクラス分けを見に行くところです」

【朱美】
「私たちも一緒していい?」

【勇吾】
「別に構いませんよ」

【アリサ】
「はい、一緒に行きましょう」

【朱美】
「そういえば、今年も剣道部はあれやるの?」

【彩】
「もちろんですよ。本当は不破くんにも出て欲しいんですけどね」

【朱美】
「はははは、彼そういう目立つことって嫌がるしね」

【勇吾】
「でも、あいつが出てくれたら、もっと新入生も入部してくると思うんだけどな」

【朱美】
「でも、そうなると彼目当ての女子部員ばかりになるわよ。人数ばかり多くても困るでしょ」

赤星は何も言わずに苦笑で応える。

【彩】
「今年も良い人材が来ることを祈るわ」

【勇吾】
「今年もって、去年も良かったみたいだな」

【彩】
「当たり前じゃない。去年の女子剣道部は当たり年よ。なんせ、薫にこの私、藤代彩が入部したんだからね」

【勇吾】
「自分で言うか、普通」

4人はそう言って笑いあう。
と、彩は少しだけ真面目な顔をすると、

【彩】
「でも、まあ今年も結構当たり年になるかもね」

【朱美】
「ほーう。それは、なぜかな、彩ちゃん?」

【彩】
「だって、薫の弟たちが入ってくるからね」

【勇吾】
「ああ、和真くんに北斗くんだな」

【アリサ】
「和真さんに北斗さんって言うのは、確か那美さんのお兄さんと弟さんでしたよね」

【勇吾】
「ああ。あれ、アリサちゃんは会った事なかったっけ?」

【アリサ】
「はい。お話は何度か聞いたことあるけど…。実際に会ったことはないです。結構、強いんですか?」

【勇吾】
「そうだな。それなりに良い腕をしてるよ。特に和真の方はかなり強いよ」

【彩】
「そ、そうなのよ。和真くんならすぐにレギュラー入り出来るんじゃないかな。あ、後は、女子にどれぐらいの子がいるかね」

【勇吾】
「何を慌てているんだ?」

【彩】
「べ、別に慌ててなんかないわよ」

【朱美】
「はっは〜ん。あ〜や〜ちゃ〜ん」

朱美の声に彩は傍から見ても分かるぐらい焦った態度で上擦った声をあげる。

【彩】
「な、何?朱美さん」

【朱美】
「ふっふふ〜♪そういうことなのね♪」

【彩】
「な、何がですか」

【朱美】
「行っても良いの?じゃあ、言うわよ。つまり、彩ちゃんが………」

【彩】
「わ〜わ〜きゃ〜きゃ〜!あ、朱美さん!」

【朱美】
「そうそう、私ちょうど欲しいカメラがあるのよね〜」

【彩】
「カ、カメラですか?」

【朱美】
「冗談よ、冗談。でも、甘〜いものぐらいは食べたいかな〜。具体的に言うと、翠屋のシュークリームとか」

【彩】
「〜〜っわ、わかりました」

【朱美】
「いや〜ん、ありがと〜!だから、彩ちゃんって好きよ」

【彩】
「私は嫌いになりそうです」

【朱美】
「あ、そんな事言うんだ。あのね〜彩ちゃんはー……」

【彩】
「わ〜わ〜!う、嘘です。私も朱美さん好きだな〜」

【アリサ】
「彩さん、ちょっと声が大きすぎます」

アリサが注意するが時既に遅く、彩の予想外に大きな声にその場にいた全員がこちらを見ていた。
また運悪く、クラス分けを見るために生徒が多くいる方へと向かっていた事も災いした。
思った以上に多くの生徒たちが自分を見ていることに気付いた彩は顔を真っ赤にする。

【朱美】
「はははは。タイミングが悪かったわね」

【彩】
「あ〜け〜み〜さ〜ん」

まるで地獄の底から響いてくるような声に朱美は寒気を覚え、思わずその場から2、3歩跳び退る。

【朱美】
「そ、そんなに怒っちゃいや〜ん」

【彩】
「言う事はそれだけですか」

真剣に怒る彩に朱美は肩を竦め、

【朱美】
「大丈夫よ、誰も本気だと思ってないから。ほら」

そう言って、周りを見るように促す。
言われて周りを見ると、誰もがまたいつもの悪ふざけといった感じで気にも留めずにいる。
その様子に少し拍子抜けしながらも、ほっと胸を撫で下ろす。

【朱美】
「と、いう訳でシュークリームよろしくね」

【彩】
「はぁ〜、分かりました」

彩は一際大きな溜め息を吐くと頷く。
そこへ、途中からどこかに行っていた赤星が戻ってくる。

【朱美】
「あれ、赤星君どこに行ってたの?」

【勇吾】
「長くなりそうだったんで、先にクラスを見てきました」

【彩】
「ちゃっかりしてるわね」

【勇吾】
「まあ、そう言うな。ちゃんと皆のも見てきたからさ」

【朱美】
「いや〜、悪いわね。で、私は何組だった?」

【勇吾】
「緋川先輩はJ組でしたよ。アリサちゃんはD組だったよ」

【アリサ】
「ありがとうございます」

【勇吾】
「いいえ、どういたしまして。で、藤代はAだった」

【彩】
「ありがとう。で、赤星君は?」

【勇吾】
「俺か?俺はGだったよ」

【アリサ】
「あ、あのー」

【勇吾】
「ん?どうしたの、アリサちゃん?」

【アリサ】
「なのはと恭也さんは……」

【勇吾】
「ああ、なのはちゃんも同じDだったよ。恭也は俺と同じGだったな」

【アリサ】
「あ、ありがとうございます」

再度、お礼を言うアリサに赤星は微笑む。

【勇吾】
「さて、じゃあ教室へ行くとするか」

【アリサ】
「じゃあ、私は初等部ですから、ここで」

【勇吾】
「ああ、じゃあね」

【彩&朱美】
「ばいばい」

【アリサ】
「はい。では、また」

そう挨拶すると、アリサは違う方向へと向かっていく。

【朱美】
「じゃあ私たちも行きましょうか」

二人は朱美の言葉に頷く。
この数分後、校門前で女子生徒二人の争いあう声がしたとか。





◇◇◇





三角学園大学部。
その中で、さらに別個の学園として成り立っている女の園──クリステラソングスクール、通称CSS。
その廊下を二人の生徒が歩いていた。

【フィアッセ】
「ああ〜、今日はちょっと緊張するね」

【アイリーン】
「そう?私はそんなにではないけどね」

【フィアッセ】
「ずっる〜い」

【アイリーン】
「ずるいって言われてもね」

【フィアッセ】
「ふふふ、冗談よ。確かに緊張はしてるけど、でもやっぱり楽しみの方が大きいしね」

【アイリーン】
「確かにね。でも、中等部高等部の入学式で新入生に対して歌うだけでしょ。落ち着いていけば大丈夫よ」

【フィアッセ】
「そうよね。それに、美由希たちの入学式だしね」

【アイリーン】
「そういえば、そうね。でも、フィアッセは誰かさんに歌って上げたかったんじゃないの?」

【フィアッセ】
「ア、アイリーン!今は恭也は関係ないでしょ」

【アイリーン】
「誰も恭也だなんて言ってないけど?」

【フィアッセ】
「もう、知らない!」

【アイリーン】
「あはははは。ごめんごめん」

【フィアッセ】
「そりゃ、恭也に歌ってあげたかったけど、去年は恭也入学式までに帰ってこなかったし」

【アイリーン】
「そうだったわね」

アイリーンもその時のことを思い出したのか、おかしそうに笑う。

【フィアッセ】
「それにしてもゆうひ、まだ来てないみたいね」

【アイリーン】
「ゆうひの事だから、案外忘れてたりして」

【フィアッセ】
「まさか、幾らゆうひでも……」

言葉の途中で尻すぼみになっていく。
この時、二人はあることを思って顔を見合わせる。
そして、お互いの顔を見て、お互いに同じことを考えていると悟る。

『ゆうひだからこそ……』

ただ、それを口には出さない二人。
何となく気まずく乾いた笑みを浮かべる二人だった。





◇◇◇





一方、神咲家では朋美は少し急いで洗濯をしていた。

【朋美】
「あとちょっとで終わるわ」

【十六夜】
「朋美様、何かお急ぎのようですが、何かあるのですか?」

【朋美】
「あら、十六夜さんに御架月ちゃん」

【久遠】
「くぅ〜ん」

【朋美】
「あら久遠もいたのね。今日は和真ちゃんに那美ちゃん、それに北斗ちゃんたちの入学式でしょ。
だから早く洗濯を済まして学校に行かないと」

【十六夜】
「そういえば、そうでしたね。こうして考えると月日の経つのは早いものですね」

【朋美】
「そうね」

二人はどこか懐かしそうな顔をして話をする。

【御架月】
「朋美様、でしたら早く洗濯を済ませないといけないのでは」

【朋美】
「あ、いけないいけない。そうだったわ」

【十六夜】
「あら、すいません。邪魔をしてしまったようですね」

【朋美】
「ううん、そんな事ないわよ。御架月ちゃんも教えてくれてありがとうね」

【御架月】
「いえ」

そう言うと御架月と十六は縁側に腰掛ける。
久遠はその十六夜の膝の上に飛び乗ると丸くなってうとうととしだす。
十六夜はそんな久遠を撫でながら、洗濯物を干す朋美と話をする。
やがて、洗濯を終えた朋美は出かける準備を整え、縁側にいる二人に声をかける。

【朋美】
「じゃあ、出かけてくるわ。留守をお願いね」

【十六夜】
「分かりました。気をつけて行ってください」

【御架月】
「いってらっしゃいませ」

【朋美】
「はい、いってきます」

しばらくすると玄関の戸が開き閉まる音がする。
朋美が出かけたのであろう。
そんな事とは関係なく、二人と一匹はゆったりとする。

【久遠】
「くぅ〜ん」

【十六夜】
「のどかですね〜」

【御架月】
「はい」

とても平穏な朝だった。







つづく




<あとがき>

よし、何とかなるもんだな。
美姫 「うわ〜、本当に紙に書きましたね。もっとも、後でPCで入力し直すんだろうけど」
仕方がないだろうが、戯言でも言ったようにネット環境もなければPCもないんだから。
美姫 「それでも、本当に実行するとは……。しかも、後書きまで書くなんて」
    いいじゃん。その方が美姫も出番があるだろ。
美姫 「まあね。で、やっと10話にして全キャラ登場ね」
いや、そうでもない。国見さんとかティオレ先生とか出てないし。
美姫 「あんた、10話で全員出すんじゃなかったの」
ま、まあ国見さんは後の方で出てくるキャラだから許してよ〜。
美姫 「いつ出てくるのよ」
さあ。
美姫 「殺す!」
ま、待て待て待て。今、俺が倒れたらこの用紙も無くなるんだぞ。
美姫 「仕方がないわね。後で覚えてなさいよ」
こ、怖い。
美姫 「でも、これで次からいろんなキャラが絡んでいくのね」
一応は。とりあえず、次は不破の関係者の話だから他のキャラが絡むかどうかは……。
美姫 「あんたね〜」
な、何を言う。一応、10話でキャラは出したじゃないか!
美姫 「うるさい!天誅!」
あ、用紙が。
美姫 「ここにコピーがあるのよ」
い、一体いつの間に。
美姫 「科学は日々進歩するって事よ。
そ、それは科学じゃな……。
美姫 「問答無用!」
ぐ、ぐえぇぇぇぇ〜〜〜。
美姫 「ふぅー。すっきりしたわ。じゃあね♪」







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