『とらハ学園』






第11話





【恭也】
「はぁー、何とか間に合ったな」

【美由希】
「本当だよ。これで入学式そうそうに遅刻なんて事にならずにすんだ」

【瑠璃華】
「それよりも私たちのクラスはどこでしょうかね」

【那美】
「皆、一緒だと良いんですけどね」

【月夜】
「まあ、さすがにそれは難しいだろうなー」

そんな事を言いながら張り出されているクラス分けの一覧を眺める。

【那美】
「あ、ありました。私はA組ですね。皆さんはどうですか」

【美由希】
「ちょ、ちょっと待って。え〜と、み、み、み……。あ、私も那美と同じAだ!」

【那美】
「えっ、本当?」

【美由希】
「うん。ほら!」

【那美】
「良かった〜美由希と一緒だ〜」

手を取り合い大喜びをする二人を微笑ましく見ながら、自分たちのクラスを探す。

【瑠璃華】
「私はG組ですね」

【月夜】
「私はI組だな」

【和真】
「俺も同じくIだな」

【北斗】
「俺はFだった」

【葉弓】
「私はCでした。楓ちゃんは?」

【楓】
「ちょっと待って。まだ見つからない」

【美由希】
「楓はJ組みたいだよ。ほら、あそこ」

【楓】
「あ、ほんまや」

【那美】
「薫ちゃんはどこだったの?」

【薫】
「うちはG組だったよ」

【恭也】
「ほう、じゃあ俺と一緒だな」

【薫】
「恭也もG組?」

【恭也】
「ああ」

【那美】
「薫ちゃんだけずるい」

【薫】
「な、何を言うとる那美。別にずるいとか、そんなの関係ないじゃろうが」

【那美】
「でもでも」

【薫】
「それに那美とは学年かて違うじゃろ」

そんなやり取りをする薫と那美をよそに美由希たちは話を進める。

【美由希】
「ねえ恭ちゃん。今年も剣道部って演舞するのかな?」

【恭也】
「ああ、するぞ。あれは恒例にもなってるしな」

【月夜】
「恭也は出るのか?」

【恭也】
「いや、俺は出ない。目立つのは苦手だしな。それに俺が出るよりも勇吾が出る方が部員も集まるだろうし」

【瑠璃華】
「では、赤星さんが出られるんですか?」

【恭也】
「ああ。勇吾と主将、女子からは薫や藤代が出る」

【和真】
「ふ〜ん、面白そうですね」

【恭也】
「和真と北斗は剣道部に入るんだろ」

【北斗】
「はい、そのつもりです」

【恭也】
「これで藤代も喜ぶな」

【和真】
「藤代さんがですか?何でですか?」

【北斗】
(か、和兄ぃ。まさか気付いてないのか?恭也さんですら気付いてるみたいなのに)

そう思い、北斗は恭也が何と言うのか気になり恭也を見る。

【恭也】
「そりゃ、優秀な部員が来るからな。藤代の夢は男女共に団体戦の全国大会だからな」

恭也の答えに和真は納得し、北斗はあきれかえる。

【北斗】
(気付いていなかったのか……。やっぱり、恭也さんは恭也さんという事か)

一人溜め息を吐く北斗に恭也と和真は揃って首を傾げる。

【和真】
「どうかしたのか、北斗?」

【北斗】
「なんでもないです……」

【月夜】
「北斗、諦めなよ。和真も自分の事になると恭也と同じで鈍いんだから」

【恭也】
「月夜、俺のどこが鈍いと言うんだ」

【瑠璃華】
「恭也さんはもう少し自覚した方がよろしいかと思います」

【恭也】
「瑠璃華まで」

恭也は他の者に助けてもらおうと見渡すが、全員頷き月夜や瑠璃華に賛成している。
それに対し恭也は少し憮然とするが、和真は北斗たちに反論していた。

【和真】
「ちょっと待て北斗、月夜。俺のどこが鈍いんだ。よしんば、百歩譲ってそうだとしても、恭也さんと同じという事はないだろ。
俺はあそこまで酷くはないと思うぞ」

【恭也】
「和真……。いろいろと言いたい事はあるが、とりあえず、どういう意味か聞いておこうか」

恭也は和真の背後に立ち、両手の指を鳴らす。
その音と背後から来る重圧に冷や汗を垂らしつつ、和真はゆっくりと振り返る。

【北斗】
「べ、別に深い意味は無いんですが……」

北斗は助けを求めるが、全員巻き込まれないように遠巻きに二人を見ているだけで、視線を合わそうとはしない。

【北斗】
「……あっ!じ、時間が」

北斗がたまたま目についた時刻を見て叫ぶ。
その言葉に各々が時計を取り出し、時間を見る。

【美由希】
「わっわわ。時間がもうないよ」

【那美】
「い、一体いつの間にこんな時間に……」

【月夜】
「そういえば、周りに誰もいないし」

恭也たちが来た時にもまだ少しだけいた生徒たちも既にいなくなっていた。

【瑠璃華】
「でも、よく考えたら分かることですよね。
ただでさえ、ぎりぎりで来ていたのにこんな所で話をしていたら時間もなくなりますよ」

【恭也】
「冷静に言ってる場合じゃないと思うがな。とりあえず、皆教室の位置は分かってるな」

全員がその言葉に頷く。

【恭也】
「と、なればする事はは一つだろ」

【楓】
「教室までダッシュ」

【薫】
「やね」

【葉弓】
「え〜、私が一番遠い〜」

この学校は、学年が上になるほど、教室のある階数も上になっている。

【和真】
「そんな事、言ってる場合じゃないって」

【北斗】
「言ってる間にも走った方が」

北斗の言葉に全員が走り出そうとする。

【なのは】
「にゃぁ〜〜。葉弓さんよりも、なのはの方が遠いよ」

なのはの言葉通り、初等部がここから最も遠い位置にある。
なのはの足では間に合うかどうか、怪しかったりする。

【恭也】
「安心しろ。人間、一度や二度の遅刻ぐらいでは何とも無い。
それに朝は遅刻を一度は覚悟したじゃないか」

恭也はなのはの肩に手を置き、真剣な顔でそんな事を言う。

【なのは】
「そ、それはそうなんだけど……。折角ここまで間に合ったのに……」

しゅんとなって俯くなのは。
これを見せられた恭也は当然というか、鞄を薫に渡す。

【恭也】
「薫、すまないが…」

【薫】
「ああ、教室まで持って行っておくよ」

薫も慣れた様子で鞄を受け取る。

【薫】
「ほら、那美たちも急がんと」

そう言って走り出す。
那美たちはその後を慌てて追いかける。
恭也はなのはを抱き上げると初等部へと走り出す。

【なのは】
「お、お兄ちゃん?」

【恭也】
「喋るな。舌を噛むぞ」

【なのは】
「う、うん。ありがとう」

【恭也】
「なのはが遅刻したら、俺が父さんに殺されかねないからな。それだけだ」

それが恭也の照れ隠しだと分かっているなのはは、微笑むだけで何も言わず、大人しく運ばれていく。

【恭也】
「しかし、見事に誰もいないな」

【なのは】
「それはそうだよ。後、2分もないもん。
って、お兄ちゃんが遅刻しちゃうよ!」

【恭也】
「うむ。問題ない。今更、遅刻の1回や2回などな
そう、授業中にいきなり父さんに連れ出され、そのまま2、3日無断欠席するよりもな……」

恭也はどこか遠くを見るようにそんな事を言う。

【なのは】
「は、ははは。そんな事、あったんだ」

【恭也】
「全く我が親ながら何を考えてるんだか……」

そんな事を話しているうちに恭也は初等部の校舎へと入り、なのはのクラスへと向かう。

【恭也】
「え〜と、4−Dで良かったんだな」

【なのは】
「うん」

恭也は四年のあるフロアまで来ると、早足でD組へと向かう。
D組の前でなのはを下ろすつもりだった恭也だったが、なのはの

【なのは】
「あ、先生」

という一言に思わず教室の扉を開け中へと入ってしまった。

【恭也】
「……俺は何で隠れるように教室に入ったんだろうか」

今更そんな事を思っても後の祭りというやつである。
丁度、そんな恭也の呟きを消すようにチャイムが鳴り響く。
恭也はなのはを下に下ろす。

【恭也】
「じゃあな、なのは」

【なのは】
「うん、ありがとうお兄ちゃん」

教室を出ようとする恭也に一人の女生徒が声をかける。

【女の子】
「あ、あのー、不破先輩ですよね。高等部の」

【恭也】
「ああ、そうだが。何か?」

【女の子】
「あ、あの、私、この前危ない所を助けてもらったんですけど……」

その女の子の言葉に恭也は記憶を手繰る。

【恭也】
「すまない。よく覚えてないんだが」

【女の子】
「そ、そうですか」

その女の子はがっくりと肩を落とす。

【恭也】
「でも、無事で良かった」

そう言って微笑みながら恭也はその子の頭を優しく撫でる。
撫でられた女の子は顔を隠しながらも嬉しそうに目を細める。
と。何かに気付いたかのように恭也に尋ねる。

【女の子】
「あ、あの、そちらの子は……。まさか、恋び……」

【恭也】
「ああ、こっちは俺の妹の」

【なのは】
「なのはといいます。よろしくね、え〜と」

妹と分かり、明らかに嬉しそうな顔をした女の子はなのはと恭也に名前を告げる。

【女の子】
「わ、私は鈴風鈴穂(すずかぜすずほ)。よろしくね」

仲良く話をし始めた二人を見て、恭也は教室から出て行こうとする。

【恭也】
「じゃあな、なのは。それと鈴原さんもなのはと仲良くしてやってくれ」

【鈴穂】
「は、はい」

その返事を聞いて、微笑む恭也に抱きつく一人の女の子がいた。

【アリサ】
「恭也さ〜ん」

【恭也】
「アリサか。アリサもこのクラスだったんだな」

【なのは】
「アリサちゃん!」

【アリサ】
「おはよう、なのは」

【なのは】
「うん、おはよう」

なのはは嬉しそうに挨拶をする。アリサも同じよう嬉しそうにしている。

【アリサ】
「恭也さんったら、朝ずっと校門のところで待ってたのに全然、来ないんだもん。
そしたら、何故かなのはと一緒に入って来るんだもん。びっくりしちゃったわ」

【恭也】
「ああ、それはすまない。今日はちょっと朝からどたばたしててな」

そのどたばたを思い出し、恭也となのはは苦笑いを浮かべる。

【アリサ】
「いいえ、そんな事気にもしてませんわ。それよりも今日の放課後なんですけど、何か予定はあります?」

【恭也】
「今日は剣道部の勧誘があるな。もっとも俺は道場の方で入部希望者の受付をするだけだが」

【アリサ】
「そうですか。それって、お昼までですよね」

【恭也】
「まあな。一応、昼には終わる予定だが」

【アリサ】
「じゃあ、放課後伺いますね」

【恭也】
「それは別に構わないが」

【アリサ】
「では、放課後に」

【鈴穂】
「なのはちゃん、あの子誰?」

【なのは】
「アリサちゃんだよ。私の親友なの」

【鈴穂】
「不破先輩とはどういう関係なの?」

【なのは】
「え〜とね、お兄ちゃんが昔危ないところを助けたんだって」

【鈴穂】
(……敵だわ!)

鈴穂は今までのアリサの態度を見て、アリサを敵として認識すると恭也の元へと行く。

【恭也】
「何か用かな、鈴風さん」

【鈴穂】
「鈴穂です」

【恭也】
「???」

【鈴穂】
「鈴穂と呼んでください」

【恭也】
「え〜と、鈴穂ちゃん?」

【鈴穂】
「はい♪」

恭也に名前を呼ばれ嬉しそうに返事をする鈴穂。
その様子を見て、アリサも鈴穂を敵と認識する。
お互いに睨み合い、間に火花を散らす。

【恭也】
「何か良く分からんが、朝の出来事を思い出させるような……」

【なのは】
「は、はははは(お兄ちゃん、その鈍さは最早犯罪です)」

【恭也】
「じゃ、じゃあなのは、俺は戻るからな」

【なのは】
「う、うん」

【鈴穂】
「あ、待ってください不破先輩。私も不破先輩の事恭也さんと呼んでもいいですか?」

【恭也】
「別に構わないが」

【鈴穂】
「ありがとうございます、恭也さん!」

【アリサ】
「むー、面白くないわね」

今までのやり取りを一部始終見ていた生徒のうち、女の子全員が恭也の所に集まり、声を揃えて話す。

『私たちも良いですか?』

【恭也】
「あ、ああ」

あまりの迫力に思わず返事をした恭也。
途端、教室中に歓喜の声が上がる。
少し引きながら、恭也はなのはに耳打ちする。

【恭也】
「一体、どうなってるんだ?」

それになのはが答える前に恭也の後ろから声が聞こえてくる。

【?】
「ほら、いい加減に席に着けー」

恭也が後ろを振り返ると、そこにはこのクラスの担任と思われる男性教師が立って、苦笑いを浮かべていた。

【恭也】
「あ、す、すいません」

【教師】
「まあ、そんなに気にするな。実際、私も来るのが遅かったしな。
それにしても久しぶりだね不破君」

【恭也】
「あ、相沢先生。お久しぶりです」

【相沢】
「しかっし、変わってないな〜君は」

【恭也】
「???」

【相沢】
「そういう所が特にな」

【なのは】
「え、え〜と」

【恭也】
「ああ、こちらは相沢先生といってな。俺が小学生の頃の担任で、それ以前にもちょっとした知り合いでな。
後、父さんの友達でもある」

【なのは】
「はや〜〜、お兄ちゃんにも小学生の頃ってあったんだね」

【恭也】
「なのは……それはどういう意味だ?」

【なのは】
「あっ、はやや。へ、変な意味じゃなくて、お、お兄ちゃんがあまりにも落ち着いているから……。
だから、想像しにくいというか。決して、美由希お姉ちゃんや月夜お姉ちゃんたちが言って訳ではなくてですね」

【恭也】
「なるほどな。あいつらか」

【相沢】
「はいはい。とりあえず、なのはちゃんだっけ?は席に着いてね」

【なのは】
「は、はい」

なのはは空いている席へと座る。

【相沢】
「で、恭也はどうするんだ?このままここで一緒に授業を受けるか?」

その教師の言葉に女子からは賛同の意が上がる。

【相沢】
「相変わらずの人気だな。選り取りみどりだぞ。それに今なら自分好みに躾けられるぞ。
源氏計画ってやつだな。うんうん、羨ましい奴め」

【恭也】
(あー、そういえばこんな先生だったな)
「突っ込みたいところは色々あるんですが、とりあえず一言だけ。奥さんに言いますよ」

その途端、相沢の顔から血の気が引いていく。

【相沢】
「おいおい。俺と恭也の仲じゃないか」

【恭也】
「どんな仲ですか。はぁ〜、とりあえず、戻ってもいいですか?」

【相沢】
「仕方ないな。折角、面白くなりそうだったのに」

【恭也】
「面白いという理由だけで俺を引き止めないで下さい」

【相沢】
「ちぇっ。折角、すぐに入らずに廊下で待ってたのに……って、しまった」

【恭也】
「先生……。今の言葉はどういう意味ですか?」

【相沢】
「べ、別にたいした意味はないぞ。そ、そう。
い、言えるわけないじゃないか、面白そうだったから廊下で全部聞いていたなんて」

【恭也】
「そのたまに考えている事が口にでる癖はまだ治っていないみたいですね」

【相沢】
「し、しまった〜」

恭也は溜め息を吐くと、

【恭也】
「もう、行ってもいいですか」

【相沢】
「ああ、また今度な」

【恭也】
「では、失礼しました」

恭也は今度こそ本当に教室から出て行った。

【恭也】
「はぁー、まだ一日終わってないんだよな」

疲れたようにそう呟くと自分のクラスへと向かうのであった。







つづく




<あとがき>

初等部でのお話だね。
美姫 「最初に絡むキャラがアリサだったとわ」
いや〜、結構予想外
美姫 「自分で言うな!自分で。で、不破家の話はどこいったのよ」
次回だね♪
美姫 「この嘘つきが〜」
みっぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜。高圧電流はやめて〜〜〜〜〜。
美姫 「ふふふ。真っ黒黒介だ〜」
じ、字がちが……。
美姫 「じゃあ、また次回ね♪」







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