『とらハ学園』
第18話
【桃子】
「あははは。流石にこんなに大所帯だとかなり狭いわね〜」
ここ、貸切状態となっている翠屋の店内をぐるりと見渡し、桃子は笑顔でそんな事を言う。
【真雪】
「まあ、全員が立ったままなら何とか入るでしょう」
自分はちゃっかりとカウンターの席に腰掛けながら、そんな事を言う。
【士郎】
「まあ、適当に放っておけばいいだろ」
【美沙斗】
「兄さんらしいと言うか」
【静馬】
「そんな事よりも……」
【一臣】
「ええ、あれは良いんですかね?」
静馬と一臣の視線の先、そこでは、小さなバトルが起こっていた。
それも複数の場所で。
まず、店の奥だが、ここには恭也が座っている。
恭也は店に来るなり、この席に腰を降ろした。しかも、恭也の座った席は端だったため、その隣は一つしか空いていない。
その瞬間、その隣を狙い数人の少女達がお互いを牽制するという状況になった。
事の張本人は何が起こったのか分からないまま、その場の雰囲気に席を立つに立てなくなってしまっていた。
この様な事が後、2箇所で起こっていた。一つは店の中ほどの窓際の席で。
もう一つは、入り口付近で、である。
それぞれ耕介、真一郎が座った瞬間であった。
勿論、それらの輪に加わっていない者たちもおり、
そこら辺はもう慣れたもので、そういった者たちは巻き込まれないように少し離れた場所へと移動している。
【北斗】
「しかし、毎度毎度よく飽きないよな皆」
【和真】
「全くだな。それにしても、全然気付いていないあの三人も凄いよな」
和真の言葉にちゃっかり横に座った彩が頷く。
【勇吾】
「まあ、既に日常茶飯事と化しているからな」
【晶】
「仕方がないって言えば、仕方がないか」
五人の視線がそれぞれ騒ぎの起こっている個所を順に見る。
が、あえて何も言わず傍観を決め込み、それぞれ飲み物や食べ物に手を伸ばす。
それはカウンターに陣取っている大人たちも同様のようで、
こちらは恭也たちの騒動には最早目もくれず、ただ騒いでいたりする。
【恭也】
「あー、皆とりあえず座ったらどうだ?」
恭也の言葉にその場の空気が更に張り詰める。
【アリサ】
「そうですね。では、失礼して」
恭也の横に座ろうとしたアリサの肩を美由希が掴み、呼び止める。
【美由希】
「ほら、アリサちゃんはなのはと一緒の方が良いでしょ」
そう言って、少し離れた所で久遠と一緒に座っているなのはを指差す。
【アリサ】
「そんな事はないですよ。それより、美由希さんこそ那美さんと一緒の方が良いでしょ」
【美由希】
「そうね。じゃあ、那美座ろう」
美由希は那美の手を取ると、恭也と那美の間へと座ろうとする。
それを那美がその手を引き、止める。
【那美】
「美由希、何処に座る気なのかな?」
【美由希】
「あ、あはははは」
その横では、神咲の三当主たちの無言での睨み合いが水面下で行われていた。
一人が抜け駆けしようとすれば、
その時点で二人掛りで排除しようという考えがお互いに分かっているだけに、動くに動けなくなっている。
月夜と瑠璃華もお互いに笑顔で牽制をする。
【瑠璃華】
「月夜ちゃんは座らないんですか?」
【月夜】
「座るよ。ただ、ほら、皆が座らないから何となく」
【瑠璃華】
「そうでしたか。遠慮せずにどうぞ、あそこにでも座ってください」
そう言って、少し離れた席を優雅に指差す。
【月夜】
「うん、そうだな、あそこなら良いかな。
でも、皆が恭也の横に座りたがらないみたいだから、代わりに私が座ってあげようかな」
そう言って恭也の隣に座ろうとする月夜の行く手に笑顔で立ちはだかる瑠璃華。
【瑠璃華】
「月夜ちゃん、そんなに嫌なら私が喜んで代わって差し上げますから」
【忍】
「内縁の妻である忍ちゃんは当然、恭也の隣よね♪」
【唯子】
「忍!何、勝手な事を言ってるんだよ」
【レン】
「そうです、自称の人はどっか余所にでも行ってて下さい。
ここは親同士が了承している婚約者であるうちが……」
【唯子】
「そんなの関係ないもん」
【忍】
「そうよ、そうよ。大事なのは本人の気持ちよ!」
【唯子&忍&レン】
「むむむむむむっっっ」
【理恵】
「ふふふ、今のうちですわ」
【知佳】
「理恵っちゃ〜ん♪どこに行く気なのかな?」
【理恵】
「ち、知佳ちゃん。わ、私はべ、別に今のうちに恭也さまの隣に座ろうだとか、そんな事は……」
【知佳】
「ふ〜ん、そうなんだ」
【理恵】
「ち、知佳ちゃん、その笑顔が怖いです……」
一方、耕介の傍でも同じ様な事が起こっていた。
【リスティ】
「ここは姉である僕に譲ろうとかいう考えはないのかい?」
【フィリス】
「都合の良い時にだけ姉を名乗るような人は知りませんから」
【シェリー】
「同じく」
リアーフィンこそ展開していないが、その場の空気が物凄く張り詰めていくことが分かる。
耕介はそれをただ見つめている事しか出来なかった。
そんな3人の横では、
【瞳】
「あまり手荒な事はしたくないんだけど……」
【美緒】
「言ってる事が既に物騒なのだ」
【望】
「私もそう思います」
別の3人が睨み合っていたりする。
そして、真一郎の方でも……。
【さくら】
「七瀬さん、ずっと立ちっぱなしで、いい加減疲れてきたんじゃありませんか?」
【七瀬】
「全然、そんな事ないわよ。まだまだ平気よ」
【雪】
「そうですか、私たちよりも年を取られていますから無理はなさらずに」
【七瀬】
「年って、たかが1、2歳しか違わないでしょうが!」
【さくら】
「充分です」
【七瀬】
「………。あんたたちお子様こそ、大人しくしたら?」
【雪】
「お子様なんかじゃありません!それに、七瀬さんとは1歳しか違わないです!」
【七瀬】
「充分よ。それに、去年の私の方が胸はあったわ」
【雪】
「む、胸が何の関係があるんですか!」
【七瀬】
「さあ、私は去年の自分の事を言っただけだし。何か気になる事でも?」
【雪】
「……………」
七瀬はさくらへと視線を向ける。
【さくら】
「私は雪さんと違ってまだ成長しますから」
【雪】
「わ、私とは違ってとはどういう事ですか!私だってまだ成長してるんですから!」
【七瀬】
「私から言わせれば、低レベルの争いだわ」
【さくら&雪】
「大きければ良いというもんでもありません!」
【ななか】
「………あ、あははははは」
【みなみ】
「な、何か皆さんすごいですね」
【沙恵】
「ええ。とてもじゃないですけど、あの中には入っていけませんね」
【ななか】
「じゃあ、諦めます?」
【沙恵】
「それとこれとは別ですよ」
ニッコリと微笑みながら、沙恵はななかの言葉を否定する。
そんな争いが各所で起こる中、それらを眺めながら、桃子たちは楽しそうに話をしていた。
が、何かに気付き、急ぎその場から少し離れる。
いや、正確には恭也の付近からと言うべきか。
原因は………。
【沙夜】
「アルシェラさん、そこをどいて頂けませんか」
【アルシェラ】
「もし余がここをどいたとしたら、お主は何処へ行くつもりだ?」
【沙夜】
「そんな事聞かずとも分かるではないですか。沙夜と恭也様はいつでも一緒なんですから」
【アルシェラ】
「お主とは一度じっくりと話さんとならんみたいだな」
【沙夜】
「そうみたいですね」
二人から凄まじい闘気が溢れ出す。
これに気付いた全員が二人から少しでも離れようとする。
しかし、恭也は逃げる場所がなく、ただその場で座っているしかなかった。
【アルシェラ】
「ただの剣のくせに生意気な口をききおるわ」
【沙夜】
「あら、昔は精霊だか何だか知らないですけど、魔族となった方よりもマシかと……」
【アルシェラ】
「魔族ではないわ。第一、それは人間共が勝手に余をそう呼んだだけではないか!」
【沙夜】
「あら、そうでしたっけ?沙夜の記憶では少し違ったような……」
【アルシェラ】
「お主等霊剣は死ぬとどうなるのかの?」
そう言いながらアルシェラは目の前に右手をかざす。
その右手に青白いものが纏わりつき始める。
【沙夜】
「あら、沙夜は霊剣ではありませんわ。もうお忘れになったのですか?
まあ、気の遠くなるほど生きてこられたおばあちゃんですもんね。仕方がありませんわ」
【アルシェラ】
「余に歳など関係ないわ!それにお主も年寄りではないか!」
【沙夜】
「いえいえ、アルシェラさんには敵いませんわ」
言いながら沙夜も右手を胸の前に掲げ、手の平をアルシェラへと向ける。
開いた手の平の真中に赤く光る球体が出現する。
まさに一触即発という所で恭也が声を掛ける。
【恭也】
「二人とも、いい加減にしておけ。お前らが本気でやりあったら、この店どころか、この付近が廃墟になってしまうだろうが」
恭也の言葉に大人しくなる二人。
恭也はそれを見ると、遠くにいたなのはに声を掛ける。
【恭也】
「なのは、ここに座るらないか?何故か誰も座らないみたいなんでな」
【なのは】
「う、うん」
なのははおずおずと恭也の傍まで行くと、その横に座る。
恭也が自ら呼んだ事と、なのはにまでは強く出れないという事で、誰からも文句は出なかった。
ただ、遠くの席で北斗がそっと呟いたが誰の耳にも届く事はなかった。
【北斗】
「恭也さん、それはあまりにも残酷ですよ」
結局、恭也の隣にはなのはが座り、耕介の横にはいつの間にかちゃっかりと愛が座っていた。
そして、真一郎の隣には小鳥の姿があった。
つづく
<あとがき>
アルシェラと沙夜についてちょっと分かったかな?
美姫 「この二人の設定はいつアップされるの?」
うーん、来年にでもするかな。
美姫 「今年中は?」
時間があればね。
さて、今回は短いけど、ここで。
美姫 「ではでは、ごきげんよう」