『とらハ学園』






第19話





ここはとある女子寮のリビング。
今、ここには幾人もが屍の如く横たわっている。
そして、この部屋には強烈な臭気が漂っていた。
そう、酒の匂いが。それもちょっと匂うというような物ではない。
酒に極端に弱い者なら、ここに充満している匂いだけで気分を悪くしそうな程である。
横たわっている者たちの合間に見え隠れする酒瓶の数がそれを物語っている。
そんな中、もぞもぞと動き出す一つの影があった。

【恭也】
「うぅぅ〜。頭が……」

恭也は起き上がると周りを見渡す。

【恭也】
「はぁー、皆まだ寝ているのか」

恭也はこめかみを押さえ、軽く頭を左右に振る。

【恭也】
「少しガンガンするな。今日は大人しくしているか…………。って、時間は!」

恭也は時間を確認するべく、時計を見る。
時計の針は無情にも8時前を差していた。
恭也は慌てて起き上がり、痛む頭に顔を顰めながらも周囲で寝ている(倒れている?)者たちを起こす。

【恭也】
「耕介、真一郎、勇吾!起きろ!て、和真に北斗も」

恭也が奥を見ると、そこには他にも数名が寝ていた。

【恭也】
「忍、楓、雪さん、いづみ」

恭也の声に次々と起き出してくる。
すると、上の階からも数人が降りてくる。

【薫】
「恭也、どげんしたと?」

【恭也】
「薫か。丁度良かった。起こすのを手伝ってくれ」

恭也が指差す時計を見て、薫も驚き急いでその場で寝ている者たちを起こし始める。

【恭也】
「ここはもう良いだろう。薫、後は俺がやるから上でまだ寝ている人たちを起こして来てくれないか」

恭也の言葉に頷くと薫は2階へと向った。
そして、恭也はまだ起きない者を起こしにかかる。

【恭也】
「真一郎、楓いい加減に起きろ」

【耕介】
「おはよう、恭也」

【恭也】
「ああ、おはよう。それよりも、まだそこで寝ている勇吾を起こしてくれ」

【耕介】
「別に構わないけど、どうしたんだそんなに慌てて」

【恭也】
「時間を見ろ、時間を」

【耕介】
「ああっ、もうこんな時間なのか」

【恭也】
「分かったら、さっさと起こしてくれ」

【耕介】
「朝食の準備が出来てない!」

【恭也】
「………驚く所はそこだけか?」

【耕介】
「他にあるのか?」

【恭也】
「学校があるだろうが」

恭也の言葉に耕介はさも今思い出したと言わんばかりに軽く手を叩く。

【耕介】
「おおー、そう言えば。って、冗談だから、そんなに睨むなよ。ほら、勇吾起きろ」

耕介はそう言うと、寝ている勇吾の頭に軽く蹴りを入れる。
流石にそれが効いたのか、勇吾は目を覚ます。

【勇吾】
「うぅぅぅ、一体何だ」

【耕介】
「ほら、早く起きろよ」

勇吾はだるそうに身体を起こすと、不思議そうな顔をして頭を擦る。

【勇吾】
「何か頭が痛い……」

【耕介】
「それは二日酔いだ、良いから起きろ。そして、他の奴を起こしてくれ。俺は朝食の準備があるから」

【勇吾】
「確かに二日酔いみたいな頭痛もあるが、物理的な痛みも感じるんだが……」

【耕介】
「寝ている間にどこかでぶつけたんだろ。それより頼んだからな」

平然とした顔でそう流すと耕介はキッチンへと入って行った。
勇吾はそれを見ながら、納得すると近くにいる者たちを起こしていく。

【恭也】
「勇吾、父さんたちは後で構わないから、まずは和真たちから起こしてくれ」

【勇吾】
「ああ、分かった」

恭也は頭痛による痛みに顔を顰めながら、勇吾にそう告げる。
勇吾もそれに応じ、学生達から起こし始める。
やがて全員が目覚めた頃、上から制服を着た薫たちが降りてくる。
恭也たち男性は耕介の部屋で制服に着替えていく。

【恭也】
「まさか、あんなに遅くまで騒ぐとは思わなかった」

【和真】
「ええ。道理でやたらと制服とかを持参させようとする訳ですよ」

【北斗】
「和兄……。俺、駄目。頭が……」

【和真】
「俺も同じだよ」

その言葉に恭也も頷く。
横を見ると真一郎も辛そうにしている。

【真一郎】
「さくらに付き合わされた……」

恭也はさくらの酒豪振りを思い出し、合掌する。

【北斗】
「薫姉たちはずるいよ。飲まされる前にゆうひさんや知佳さんたちの部屋へ逃げるなんて」

【恭也】
「それは仕方がないだろう。あんな夜中に女性の部屋に行く訳にもいくまい」

【勇吾】
「耕介は酒好きだから、耕介の部屋には逃げられないしな」

【和真】
「いえ、耕介さんの部屋に逃げる事は出来たんですが、どうせ無駄ですよ」

【恭也】
「耕介の部屋なら父さんたちも平気で入ってくるだろうからな」

【北斗】
「何で俺たちにも飲ませたがるかな……」

【和真】
「北斗は弱いからな」

【和真】
「和兄たちが強すぎるんだよ」

【恭也】
「俺はそんなに強くはないぞ」

【勇吾】
「いや、あれだけ飲めれば充分だ」

【恭也】
「でも、どうも美味く感じないからな。できれば、もう飲みたくない」

【勇吾】
「俺は適量なら全然構わないんだがな」

そこまで言うと着替え終えた恭也たちは話を打ち切り部屋を出ようとする。
そこで和真が耕介のベッドに突っ伏している真一郎を見つける。

【和真】
「真一郎さん、しっかりしてください」

【恭也】
「大丈夫か?真一郎」

【真一郎】
「……駄目。頭がぐらぐらするし、目の前が揺れてる」

【勇吾】
「おいおい、大丈夫か?」

【真一郎】
「うぅぅぅぅぅ」

【恭也】
「さくらは真一郎以上に飲んでたよな」

【和真】
「ええ。ワインばかりでしたけど」

【恭也】
「さくらは大丈夫なのか?」

【北斗】
「多分、大丈夫でしょうね。普段からワインは水と言ってますし」

【勇吾】
「確かに綺堂は飲み慣れているからな」

【恭也】
「あの歳でそれもどうかと思うがな。まあ、忍も同じ様だったしな」

【和真】
「それよりも真一郎さんをどうしましょう?」

【恭也】
「着替え終わっているみたいだし、とりあえずリビングに連れて行くか」

恭也と勇吾は真一郎の腕をそれぞれ両脇から持つと抱えるようにして引っ張って行く。
が、真一郎は力なく二人の腕にぶら下がるような形となる。
それを見た北斗が聞こえないようにぼそっと呟いた。

【北斗】
「何か、昔見たテレビでやっていた掴まった宇宙人みたいだな」

恭也たちがリビングに着く頃には既に全員が準備を整え揃っていた。

【恭也】
「父さんたちは?」

【美由希】
「家に帰って寝直すって。桃子さんは仕事に行ったけど」

【美緒】
「真雪も同じ事を言って部屋に戻ったのだ」

【恭也】
「あの人たちは……」

一番騒ぎ、周りに迷惑を掛けまくった二人が揃ってこれからゆっくりと休むという事に憤りを感じる恭也たちだった。
そこへ耕介がトレーに何かを乗せて持ってくる。

【耕介】
「皆起きたみたいだな。じゃあ、時間もない事だし、簡単な物だけど、はい」

サンドウィッチを手に掴むと学生達は寮を飛び出して行く。

【恭也】
「二日も続けて遅刻は流石にな」

【耕介】
「いや、もう無理だろ。まあ、これだけ大勢いれば問題ないだろ」

【勇吾】
「余計問題があるんじゃないのか」

【真一郎】
「駄目……。気持ち悪い」

【楓】
「うちも駄目や……」

【さくら】
「もう、真一郎さんもたったアレだけの量で」

【忍】
「本当よね」

【薫】
「うちは途中までしか知らんが、それでも結構飲んでいたかと……」

【さくら】
「何言ってるんですか薫さん。ワインなんて水と同じですよ」

そんな事を言いながら恭也たちは走る。
もっとも、二日酔いの者たちがいたため、そんなに早くは走れなかったが。
当然、全員が遅刻した事は言うまでもないだろう。
更に、恭也、真一郎、楓、いづみ、雪、北斗の六人はその日一日中机に突っ伏していたとか。






つづく




<あとがき>

うぅ、遂に19話かー。
次でいよいよ20だな〜。
美姫 「はいはい。それよりも、そろそろ何でしょ?」
何が?
美姫 「ひょっとして忘れてる?このSSの展開の事なんだけど」
ああ、過去編だな。
美姫 「そうそう。それ」
うーん。どれから書くか。
やっぱり時代順の方が良いかな。
美姫 「で、何話ぐらいから過去編に?」
それは秘密さ。ただ、近いうちとだけ言っておこう。
美姫 「とか言って、案外次回からだったりして」
…………………何を馬鹿な事を。
美姫 「今の間は何よ」
さあな。まあ、そんなに慌てなくても次回になれば分かるじゃないか。
美姫 「あっ、それもそうね。………って、そんなの当たり前でしょ!」
…………そこには既に誰もいなかった。
美姫 「っち、逃げ足だけは速いわね。まあ良いわ。じゃあ、次回でね♪」








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