『とらハ学園』






第28話






恭也たちが教室でそんな風に騒いでいた頃、高等部1年A組に二人の生徒が入り込って行く。
当然、このクラスでも一限目が始まっており、
偶然にも恭也たちと同様に教壇では、このクラスの担任でもある水瀬名雪が教鞭を執っていた。
その途中、教室の扉が開き、生徒が入ってくる。

【那美】
「す、すいません、遅れました」

【美由希】
「ごめんなさい」

教室に入るなり、頭を下げる二人に名雪はおっとりと笑いかけながら、

【名雪】
「おはよう、二人とも早く席に着いてね」

【美由希&那美】
「は、はい」

二人はほっと胸を撫で下ろすと席へと着こうとする。
そんな二人に名雪は遅れてきた理由を尋ねる。

【那美】
「す、すいません。寝過ごしてしまいました……」

【美由希】
「右に同じです」

流石に理由が理由だけに、何か言われるかと身構えた二人だったが、名雪からは意外な声が出る。

【名雪】
「そうなんだ。寝坊なら仕方ないよね。どんなに頑張っても起きれない時ってあるし」

始めは冗談かとも思っていた二人だったが、どうやら本気らしいと分かると、どう対処して良いのか困り出す。
素直に頷いて良いものかどうか、お互いに目を見合わせるが、はっきりとした答えは出ない。
そんな二人を余所に、名雪は一人で話し始める。

【名雪】
「大体、私だって起きようと努力はしてるんだよ。でも、朝起きるのは難しいんだよね。
なのに、祐一ってば……。ねえ、聞いてる?」

【美由希】
「は、はい聞いてます」

【那美】
「わ、私も聞いてます。あ、朝起きるのは辛いですもんね」

那美の言葉に味方を得たと言わんばかりに笑みを浮かべ、

【名雪】
「だよね。好きで起きない訳じゃないんだもんね。起きようと努力はしてるけど、それに体が付いていかないって言うか」

【那美】
「あ、分かります。そうなんですよ。起きなければいけない事は分かってるんですよ。
でも、頭が働いてくれないんですよね」

那美の言葉にうんうんと頷く名雪。それに気を良くしたのか、那美はさらに喋る。

【那美】
「決してわざとじゃないのに、薫ちゃんなんか、私がいっつも寝過ごしているみたいな事を言うんですよ」

【名雪】
「分かる、分かるよ〜。祐一も同じ様な事を言うんだよ。
最近なんか、ちゃんと起きてるのに、すぐに昔の事を持ち出して来るんだよ〜」

【那美】
「そ、それは酷いですね。過去は過去じゃないですか」

【名雪】
「だよね〜。なのに祐一ったら、すぐに昔の事で虐めるんだよ〜」

【那美】
「先生!」

【名雪】
「えーと、……あっ、神咲さん」

二人は訳の分からない事で意気投合し、お互いの手を握り合う。
一人蚊帳の外にされた美由希は、大人しく席へと着いたのだった。
その後も、那美と名雪二人による『朝は眠いのは仕方がないことだ』という話は盛り上がり、授業にならなかったとか。





  ◇ ◇ ◇





その日の昼休み。
この時間になると一気に賑やかになる食堂に、恭也たちはいた。

【恭也】
「うー。大分、楽になったな」

【忍】
「私もー」

【恭也】
「嘘を吐くな。お前は元々二日酔いなんかじゃなかっただろうが」

【忍】
「それはそれ。これはこれよ」

【恭也】
「ったく、調子の良い事を」

【勇吾】
「俺はどっちもどっちだと思うがな」

【恭也】
「さて、何を食べるかな」

誤魔化すように呟く恭也だったが、改めて食堂を見てウンザリしたような顔をする。

【恭也】
「しかし、混んでるな」

【勇吾】
「まあ、確かに他の学校とかの食堂に比べたら、はるかに大きいとは言っても、中等部の生徒も来てるからな」

【恭也】
「とりあえず、さっさと食券を買うか」

恭也の言葉にそれぞれに食券を買う。

【忍】
「じゃあ、恭也これお願い。私と薫は席を確保して来るから」

【恭也】
「分かった」

【耕介】
「じゃあ、さっさと食料を手に入れますか」

耕介たちは人並を掻き分けながら、前へと進んでいく。
その途中、どこかで聞いたような声がしたので、そちらの方を見ると、

【那美】
「きゃっ」

【美由希】
「わっわわわ」

【那美】
「み、美由希〜」

【美由希】
「な、那美〜。わ、わわわ」

【恭也】
「一体、何をしてるんだか」

【耕介】
「まあ、簡単に言えば、人波に流されて思った所にいけないどころか、はぐれたって所だろうな」

【恭也】
「冷静な分析ありがとう」

【耕介】
「いえいえ。それよりも、良いのか?」

【恭也】
「はぁー。耕介、これ頼む」

【耕介】
「分かった」

恭也は耕介に食券を渡すと、人並を避けながら那美の元へと向う。

【那美】
「わっわわ、きゃあ」

転びそうになった所を何とか抱きとめる形で助ける。

【那美】
「す、すいません。って、恭也さん」

【恭也】
「ああ。大丈夫か、那美」

【那美】
「は、ははははい。で、でもどうして、こんな所に?」

【恭也】
「俺たちも昼食に来ていたんだ。そしたら、那美と美由希の声が聞こえたから」

【那美】
「あううう。すいません」

【恭也】
「気にするな。それよりも、那美は何を買うんだ?」

【那美】
「食券はもう買ったんです」

【恭也】
「美由希も?」

【那美】
「はい」

【恭也】
「だったら、列が違う。ここは食券を買うための列だ」

【那美】
「わ、分かってはいるんですけど、思うように動けなくて……」

【美由希】
「はーはー。な、那美ぃぃ」

そんな事を話している間に、美由希が二人に合流する。

【美由希】
「って、恭ちゃん?」

【恭也】
「ああ。相変わらずだな」

【美由希】
「は、はははは。って、二人して何で抱き合ってるの?」

美由希の言葉どおり、恭也は那美を助けた状態のままで、那美は恭也の胸の中にいた。

【恭也】
「こ、これは転びそうになった那美を助けようとして…」

【那美】
「そ、そうなんだよ。それで、こんな形になっちゃったの」

【美由希】
「じゃあ、なんでまだ抱き合ったままなの」

【恭也】
「これは、周りに人が多くて大きな身動きが出来なかったからだ」

恭也の言葉に那美も頷くが、美由希の目は疑わしそうに恭也を見ていた。

【恭也】
「別にわざとじゃないんだが…。まあ、確かに美由希の気持ちも分からなくはないが」

【美由希&那美】
「えっ!」

恭也の言葉に驚きの声を上げる二人。

【恭也】
「確かに親友がこんな状況になって怒る気持ちも分かるが……」

続く言葉に溜め息を吐く二人。

【恭也】
「どうしたんだ」

【美由希】
「何でもないよ。それよりも、早く行かないと」

【那美】
「ああ、そうでした」

【恭也】
「ほら、二人とも掴まれ」

言うなり恭也は二人の手を取り、人並を掻き分け進む。
最初こそ驚いていた二人だったが、すぐに顔を見合わせ微笑み合う。
そんなこんなで何とか食事にありつけた二人は、恭也たちと一緒の席に座る。

【薫】
「那美ももうちょっとしっかりしてくれんと」

【那美】
「うぅ、反省してます」

【美由希】
「そ、そう言えば真一郎さんは?」

美由希が話を変えるため、薫たちに尋ねる。
それに対し、那美はこっそりと美由希に礼を言う。

【恭也】
「ああ、あいつなら何も食べる気がしないって、教室で寝てる」

【忍】
「結構、飲んでたもんね。まあ、さくらの相手してたんだし、仕方がないかも」

【薫】
「楓の姿も見えんという事は……」

【勇吾】
「多分、そうだろうな」

薫はざっと周囲を見渡し、従兄妹の姿がない事を確認する。

【耕介】
「後は、北斗君と御剣さん、いずみさんだな」

【勇吾】
「後のメンバーは逃げたか、酒に強いかだからな」

【耕介】
「で、無理矢理飲ました張本人は、今頃きっと…」

【恭也】
「夢の中だな」

恭也の一言に全員が頷く。
その後、食べ終えた恭也たちは席を立つ。

【恭也】
「さて、腹ごしらえもしたし、午後からは……」

【忍】
「ゆっくり眠ろうっと♪」

【耕介】
「二人とも午前中も寝てただろう」

【恭也】
「俺は午後から寝るとは言ってないぞ」

【勇吾】
「起きてるのか?」

【恭也】
「当たり前だろう。学生の本分は勉強だぞ」

【耕介】
「全然、説得力がない言葉だな」

【恭也】
「放っておけ」

【美由希】
「やっぱり、寝るんだよね」

【恭也】
「お前まで…。まあ、否定はできないと言うか、しないと言うか」

【薫】
「忍は既に寝る気じゃろ?」

【忍】
「うん♪だって、午後は理系の授業ないし」

【耕介】
「二限目の物理は思いっきり寝てたよな」

【忍】
「良いの、良いの。だって、今日は初日で大した事やってないでしょ」

【薫】
「はぁー」

【忍】
「何よ薫」

【薫】
「別に何でもなか」

【忍】
「むー。ちょっとぐらい良いじゃない」

【薫】
「ちょっとって、午前中全部はちょっととは言わんよ」

【忍】
「えへへへへへ」

【恭也】
「まあ、俺たちの事はとりあえず置いておくとして、まず確実に真一郎は……」

【耕介】
「ああ。午後も寝ているだろうな」

【勇吾】
「あいつ、無理してくる必要なかったんじゃ……」

勇吾の零した呟きに、全員が同意しつつも口に出しては何も言わなかった。






つづく




<あとがき>

ふうー。出来上がりっと。
美姫 「で、次は?」
もう次の話しかよ!
美姫 「だって……」
次は、ちょっとした日常だな。
一応、恭也メインの予定。
美姫 「へー」
で、その次が耕介、真一郎と来て、再び過去編へ。
美姫 「ほうほう。一応、ちゃんと考えてはいるんだ」
当たり前だ!
美姫 「はははは。冗談よ、冗談」
嘘つけ!目がマジだったぞ。
美姫 「ほほほほほ。では、次回!」
ったく、もう。








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