『とらハ学園』
第29話
朝も早い時間の御神不破家。
この家の道場では今日も恭也と士郎の鍛練が行われていた。
【恭也】
「はぁぁぁぁっ!」
気合一閃、士郎に斬りかかる恭也だが、その斬撃を軽く躱す士郎。
次々と繰り出す攻撃も、士郎に弾かれ、躱される。
【士郎】
「どうした、全然当たらないぞ」
士郎の言葉には答えず、ただ斬撃を繰り出していく。
始めは様々な角度や強弱のついていた斬撃が徐々に単調になっていく。
【一臣】
「当たらない事に焦ったのか?攻撃が単調になってきている」
【美沙斗】
「確かに単純な攻撃で、コンビネーションも崩れてるね。でも…」
【静馬】
「ああ。恭也があの程度でああなるとは思えんな」
【月夜】
「それはどうかな?だって、恭也だし。それに、相手は士郎さんなんだから」
【一臣】
「いや、静馬さんの言う通りだ。でも、だとすれば…」
【静馬】
「ああ、何か考えがあるんだろうな」
【美沙斗】
「そして、それを兄さんも待っている」
美沙斗の言う通り、士郎の顔には笑みが浮かんでおり、恭也が仕掛けてくる事を楽しみにしている様子が伺える。
【恭也】
(そろそろか?)
恭也は何度目かになる袈裟斬りを出す。
それを士郎が今までと同じ様に躱す。
が、恭也はその振り下ろした右手に飛針を握っており、それを同時に投げていた。
士郎はそれを半身になって避けると、そのまま恭也に攻撃をしに行く。
しかし、恭也はそれを見ても動かず、ただ右手を左腰の方へと勢いよく振るう。
【士郎】
「ちっ」
士郎は舌打ち一つすると、左の小太刀で首の辺りの空間を薙ぐ。
士郎が薙いだ所から、細い糸──鋼糸が見える。
恭也は士郎との距離を詰めると、先程とはうって変わって強弱のある変幻多彩な攻撃を繰り出す。
【士郎】
「くっ」
士郎は恭也の攻撃を何とか捌きながら、一端距離を取る。
そして、二刀を鞘に納める。それを見た恭也も全く同じ構えを取る。
しばしそのままの状態で時が流れる。
やがて、恭也が先に動く。
それに半瞬遅く士郎も動く。
お互いに抜刀の動作に入る。
──御神流奥義之六、薙旋
後から技に入った士郎のほうが先に4撃目を放つ。
恭也も少し送れて4撃目を出すが、士郎の小太刀が先に恭也の首元で止まる。
【恭也】
「くっ」
【士郎】
「へっ。まだまだ甘い、恭也。薙旋で俺に勝つなんて100年早いぜ」
恭也は士郎の言葉に顔を歪めて黙る。
【士郎】
「さて、そろそろ飯の時間だな。今日はここまでにしておくか」
【恭也】
「そうだな。そう言えば、静馬さん。今日は美由希がいないみたいですが?」
【静馬】
「ああ。何か用があるとかで、朝の鍛練が終ってすぐに部屋に戻ってたが」
【月夜】
「美由希の事だから、読みかけの本があるとか、宿題を忘れてたとか、そんな所じゃない」
月夜の言葉に苦笑しながら、道場を後にする恭也たちだった。
そして、朝食時。
ニコニコと笑みを浮かべる美由希を怪訝に見ながら、恭也たちは朝食を食べていた。
美由希とは対照的に、静恵はどこか疲れたような顔をしていたが。
一足先に食べ終えた美由希は、箸を置くなり立ち上がり台所へと行く。
【恭也】
「早いな、美由希」
【美由希】
「えへへへ。ちょっとね。それよりも、楽しみにしててね♪」
どこか楽しそうにそんな事を言いながら、美由希は台所へと食器を片付ける。
が、なかなか戻ってこず、台所からは美由希の鼻歌まで聞こえてくる。
【恭也】
「あいつは一体何を………、まさか!」
恭也の言葉に、なのは、月夜、瑠璃華が静恵の方を見る。
【恭也】
「し、静恵さん、美由希は一体何をしてるんですか?」
【静恵】
「多分、恭也君が考えている事よ」
【恭也】
「ま、まさか料理…」
恭也の言葉に静恵は重々しく頷く。
【静恵】
「何でも、全員のお弁当を作るんだって、張りきってるわ」
静恵の言葉に全員が言葉をなくす。
【士郎】
「あー、ちなみに俺たちの昼は…」
【静恵】
「あ、それは私が作ります」
【士郎】
「そ、そうか。いやー、良かったな恭也。手作り弁当が食べれるなんて」
【恭也】
「だったら、父さんにやろう」
【士郎】
「そ、そんな事出来ないだろ。美由希ちゃんは恭也のために作ってるんだから」
【恭也】
「なら、父さんが欲しいと言ってたと伝えてやろう。喜んで作ってくれるぞ」
【士郎】
「え、遠慮しておこう。俺には桃子の料理が何よりだからな」
【月夜】
「あ、私今日、日直だったんだ」
【恭也】
「待て月夜。名前の順番でいくはずの日直の番がそんなに早く周ってくるはずないだろう」
【月夜】
「え、えーと、校庭の花壇に水を…」
【恭也】
「それは用務員さんの仕事だ」
【月夜】
「えーと、えーと……」
必死で言葉を探す月夜に溜め息を吐き、恭也はぼそっと喋る。
【恭也】
「最近、遅刻ばかりだったから、たまには早く行かないとな」
恭也の言葉に、なのは、月夜、瑠璃華は一も二もなく頷くと、両手を合わせる。
【恭也&なのは&月夜&瑠璃華】
「ごちそうさま」
【恭也】
「俺たちは美由希が何かをしてるなんて知らなかった」
【月夜】
「うんうん。たまたま早く行かないといけないような気がする」
【瑠璃華】
「美由希ちゃんにも声を掛けたんだけど…」
【なのは】
「何故か返事がなかったので、先に行くことになりました」
【恭也】
「と、いう事で……」
恭也の一言で4人は鞄を掴むと、
【恭也&なのは&月夜&瑠璃華】
「いってきまーす!」
足音と気配を出来る限り消し、玄関まで向う。
そして、靴を履き、玄関を開けた瞬間、全力で走り出す。
一秒でも早く、家から遠ざかるように。
恭也たちが出かけた後の居間では、
【美由希】
「お待たせ!へへへ。今日は私がお弁当を作ってみたんだ。
………って、あれ?皆は?」
居間には誰もいなかった。
恭也たちのとばっちりを喰うのを恐れた士郎たちは、既に外へと出かけていた。
テーブルの上に一枚のメモを残して。
それを見つけた美由希はそれを拾い上げ、目を通す。
そこには……、
『美由希へ
皆、用事があるとかで先に行きました。
声を掛けたんだけど、返事がなかったので。
私たちも翠屋の手伝いへと行きますので、戸締りだけはしっかりとね。
美影』
美由希の横を一陣の風が舞った。
つづく
<あとがき>
美姫 「恭也メイン?」
それは次に分かる。
美姫 「そうなの?」
ああ。美由希の手料理、それはこれから起こる恐ろしい事件の幕開けでしかなかった……。
真相は次回、明らかに!…………なったら良いな〜。
美姫 「アホか!」
うぎゃ〜〜〜〜〜!!
美姫 「ふぅ〜。では、次回で」