『とらハ学園』






第32話






耕介が園児相手に奮闘している頃、真一郎もまた、商店街で夕飯の買出しをしていた。

【真一郎】
「今日は何を作ろうかなー」

レパートリーの中から幾つか候補を上げ、考えていく。
と、その真一郎の耳に小さな悲鳴が聞こえる。
辺りを見回し、声が聞こえたと思しき場所へと目を向ける。
そこは路地裏へと続く道で、かなり狭くなっており、昼までも薄暗くあまり人が通らないような通路だった。
真一郎はそこへ足を向ける。

【ざから】
「主よ、油断はするなよ」

【真一郎】
「分かってるって。それよりも、少しの間、黙ってろよ」

【ざから】
「心得ておる」

ざからとの会話を終え、路地へと入って行く。
そこには、一人の女性を相手に3人の男が絡んでおり、うち一人は女性の腕を掴んでいた。
男たちは真一郎が入ってくるのを確認すると、一斉に睨みつけ、一人が怒鳴り声を上げる。

【男】
「見せもんじゃねえぞ、ガキ!」

怒鳴る男を一人の男が止める。

【男】
「まあ、待て。よくみりゃー、結構可愛いじゃないか」

【男】
「本当だな。丁度良いや。この子にも相手してもらおうぜ」

そう言って三人目の男が真一郎の肩を掴む。

【男】
「ん?震えているのか?大丈夫だよ、俺たちは優しいからな。はははは」

真一郎の肩を掴んだ男が笑い、それに続くかのように残る二人も笑い声を上げる。

【男】
「じゃあ、お嬢ちゃんたち、もうちょっと奥に行こうか」

そう言って、奥へと連れて行こうとした時、真一郎は顔を上げ、

【真一郎】
「俺は男だー!」

言うやいなや、男の顔目掛け蹴りを繰り出す。
警戒も何もしていない所へ、側頭部に強烈な一撃を喰らった男はそのまま倒れる。
それを見た残る二人が身構え、驚きの表情を浮かべる。

【男】
「お前、男だったのか!?」

【真一郎】
「お、驚く所はそこかぁ!」

真一郎の言葉に残る二人は顔を見合わせ、

【男】
「だって、なあ」

【男】
「ああ。どう見てもおん……わっ」

女と言おうとした男の顎先を、真一郎の足が掠め通り過ぎる。

【男】
「な、何しやがる」

【真一郎】
「それはこっちの台詞だって。彼女を放して、さっさとここから去れば?」

【男】
「ふざけるなよ」

【真一郎】
「ふざけるなんて、心外だな。俺は耕介や恭也と違って、いつも真面目だぞ」

【男】
「何、訳の分からない事を言ってやがる!」

吠えて男は真一郎へと殴りかかる。
それを冷静に見ながら、

【真一郎】
(あー、晶ちゃんの方が速いな)

真一郎は男の腕の下に腕を入れる形で、力の方向を少しだけ上へと変える。
それによって、浮いた上半身へと潜り込むように入り込むと肘を入れる。
一気に肺の中の空気を吐き出すと、男はそのまま倒れこむ。

【真一郎】
「もしもーし。こんな所で寝てると風邪ひきますよー」

倒れた男に呼びかけるが返事はなく、真一郎もそれ以上はどうでも良いのか残る一人に向き合う。

【真一郎】
「で、放してくれるとありがたいんだけどな」

男は掴んでいる女性と真一郎を交互に見て、女性を放すと真一郎に飛びかかる。

【真一郎】
「いやー、そんなに熱烈に俺の所に来られても。俺は女の子の方が好きだしなー」

軽口を叩きながらも、男の攻撃を難なく躱して行く。
焦った男が大振りになったのを見て、真一郎は男の腹部に強烈な一撃をお見舞いする。

【真一郎】
「これで、終りっと。あんなに大振りしたら、駄目だよ。躱された後にできる隙が大きくなるから。
 まあ、あの人を放してくれて助かったけど。さすがに人質とかされたら……って、聞こえてないか」

真一郎は茫然とこちらを見ていた女性に声を掛ける。

【真一郎】
「大丈夫ですか?」

【女性】
「あ、はい。あ、ありがとうございます」

【真一郎】
「いえ、そんな大した事はしてないですから。では、これで……。
 あなたも早く立ち去った方が良いですよ。こいつらが目を覚ます前に」

真一郎はそれだけ言うと、女性が頷いたのを確認し、その場を後にした。





  ◇ ◇ ◇





翌日、登校途中に出会った真一郎と恭也たちは一緒に登校をしていた。
と、学園の前に一人の女性を見つけ、真一郎は声を上げる。

【真一郎】
「あれ、あの人…」

【恭也】
「真一郎の知り合いの方か?」

【真一郎】
「知り合いというか、ほらさっき話しただろ。その絡まれていた女性だよ」

【薫】
「だとしたら、お礼を言いに来たんじゃ?」

【真一郎】
「でも、俺は学校はおろか、名前も教えてないかったんだけど」

【小鳥】
「行ってみれば分かるよ」

小鳥の言葉に真一郎たちは門へと近づく。
と、その女性も真一郎に気付いたのか、近づいて来ると、真一郎の前で立ち止まり頭を下げる。

【女性】
「昨日はありがとうございました」

【真一郎】
「いえ。それより、どうしてここが?」

【女性】
「あ、これです」

そう言って女性は真一郎に手帳を渡す。

【真一郎】
「あ、俺の生徒手帳」

【女性】
「昨日、あの場所に落ちていたので」

【真一郎】
「わざわざありがとうございます」

【女性】
「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですから」

【真一郎】
「いえ。それとこれとは別ですよ。えっと……」

【女性】
「あ、私は西脇唯と申します」

【真一郎】
「西脇さん、ありがとうございました」

【唯】
「唯で構いません」

【真一郎】
「では、唯さんありがとうございます」

【唯】
「いえ、こちらこそありがとうございました、真一郎さん」

そう言うとニッコリと笑う唯。

【唯】
「あ、そろそろ学校に行かないと遅れちゃうから。今日はこれで。お礼はまた、後日改めて」

【真一郎】
「いえ、別に礼なんて」

【唯】
「いえ、ちゃんと伺いますから。では、電車に遅れるといけないので」

そう言うと唯は少し小走りに駅の方へと駆けて行った。

【小鳥】
「真くん、随分綺麗な人だったね」

【真一郎】
「そうだな。って、何で睨むんだよ。さくらまで」

【小鳥】
「べっつにー」

【さくら】
「何でもありません」

機嫌が悪くなった二人を宥めながら、真一郎たちは校門を潜ろうとする。
そこへ声を掛けられる。

【男性】
「ちょっと待て」

その声に振り返ると、10人程の男たちが真一郎たちを囲むように動く。

【男】
「昨日は世話になったな」

【真一郎】
「恭也、友達は選んだ方が良いぞ」

【恭也】
「何でそうなる。俺はこんな奴ら知らんぞ」

【真一郎】
「そうなのか?」

【恭也】
「当たり前だ。こんな見るからに、自分よりも弱いものに絡んで、それを邪魔されたからといって、
人数を増やしてお礼に来るような奴らを知っている訳がないだろう」

恭也の言葉に男たちが気色ばむ。

【真一郎】
「恭也、幾ら何でもそれは言い過ぎだぞ。せめて、少人数じゃ敵わないから、大勢集めて仕返しに来たぐらいにしとかないと」

【恭也】
「そう言うもんか?」

【真一郎】
「ああ。じゃないと、幾ら図星とは言え、気を悪くするぞ」

【恭也】
「なら、次からは気をつけよう」

【男】
「お、お前らおちょくってるのか!」

【真一郎&恭也】
「そんな事はない」

【真一郎】
「ただ、ほんのちょっと冗談を言っただけだよ」

【恭也】
「そうそう。折角、早く着いたというのに、また遅刻しそうだとか、そんな事で八つ当たりしている訳ではないぞ」

【真一郎】
「恭也、説得力がないぞ」

【恭也】
「そう言うお前もな」

【男】
「やっぱりおちょくってるんだろ!正直に言え!」

【真一郎&恭也】
「おちょくっている」

【男】
「て、てめーら……。てめーだけじゃなく、てめーも許さねー」

真一郎を指し、次いで恭也を指す。

【恭也】
「見ろ、やっぱり真一郎の客じゃないか」

【真一郎】
「招いていないのに来た者は客じゃない」

【恭也】
「確かにな。それにしても、正直に言えと言ったから、言ったのに起こるとは気の短い奴だ」

【真一郎】
「本当だな。きっとカルシウムが足りてないんだ」

【男】
「て、てめーら……」

真一郎と恭也のやり取りに周りを囲んだ男たちが怒りも顕わにする。
今まさに飛びかかろうとする男たちの後ろから、真一郎たちへと声が掛けられる。

【耕介】
「おーい、どうしたんだこんな所で」

【恭也】
「耕介か。どうも変な言いがかりを付けられてな」

【真一郎】
「そうそう、困っている所何だ」

【耕介】
「その割には余裕を感じるんだが」

【真一郎】
「気のせいだよ、耕介」

【恭也】
「そうだぞ。あまりにも恐ろしくて、言葉を出す事も出来ない」

【真一郎】
「恭也〜、怖いよ」

【恭也】
「ああ、俺も怖いぞ」

芝居っけたっぷりに言う真一郎と、全くの棒読みでいう恭也に溜め息を吐きながら、

【耕介】
「お前ら、そんな事をしてるとこいつらが怒るぞ」

【真一郎】
「それは怖〜い」

【恭也】
「怒らせるような事はしてないのにな」

【男】
「………ぜってー、殺す!」

【耕介】
「ほら、言わない事じゃない」

【真一郎】
「耕介お兄ちゃん助けて〜」

【恭也】
「救助を求む」

二人の言葉に頭を掻きながら、耕介はただ笑みを浮かべる。

【男】
「邪魔するなら、お前もただじゃおかねーぞ!」

勢いよく言い放つ男に、連れの一人がそっと耳打ちする。
途端、顔を青くさせ、耕介を震えながら指差す。

【男】
「ま、まさか……三角の黒き旋風……」

男の零した言葉に周りを囲んでいた男たちの間にも戦慄が走る。
その言葉を聞いた耕介は眉を顰め、不機嫌な顔になる。
それを勘違いした男たちは蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出した。

【恭也】
「流石だな、耕介」

【耕介】
「あまり嬉しくないけどな。それよりも、どういう事だ?」

尋ねてくる耕介に、真一郎が一通りの説明をする。
それを聞いた耕介は歩きながら、昨日の自分の出来事も聞かせ、羨ましそうな顔で真一郎を見る。
それに気付いているのかいないのか、真一郎が耕介に話し掛ける。

【真一郎】
「良いよな耕介は可愛い子に好かれて」

【耕介】
「真一郎……お前、まさか」

【真一郎】
「ち、違うぞ。そう言う意味じゃなくて。耕介を好きになるのは可愛い系の子ばっかりだから」

【恭也】
「真一郎はフリフリのヒラヒラが好きだからな」

【真一郎】
「そうそう」

【耕介】
「俺は真一郎の方が羨ましいよ。お前、綺麗なお姉さんにばっかり好かれているじゃないか」

【真一郎】
「耕介はそっちの方が好きだもんなー」

お互いに顔を合わせて項垂れる。
そのやり取りを聞いていた、さくらと小鳥は真一郎を睨みつけ、腕を抓る。
対し、耕介もリスティや美緒に何やら言われる。
それらを眺めながら、少し離れた所では、

【和真】
「二人のFCは耕介さんが年下の女の子中心で、真一郎さんが年上中心ですからね」

【恭也】
「二人の希望とはまったく逆という訳か。でも、FCがあるぐらい人気があるんだ。それはそれで良い事じゃないか」

【和真&北斗】
「えっ!」

恭也の言葉に和真と北斗は顔を合わせ驚く。

【恭也】
「どうかしたのか?」

【和真】
「いえ、別に」

【北斗】
「恭也さん、やっぱり自分のFCがある事に気付いていないみたいだね」

【和真】
「ああ。それも上下満遍なくいるんだけどな」

【忍】
「まあ、赤星くんを加えた4人は自分のFCの存在に気付いていないからね」

忍が苦笑しながら言う。
そのやり取りを聞いていた、周りの女性陣たちから一斉に溜め息が零れたのは言うまでもない事である。






つづく




<あとがき>

美姫 「浩は次の過去編に取り掛かっているので、今回の後書きはお休みです。じゃあね」








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