『とらハ学園』






第33話






4月22日の夜8時過ぎ。
さざなみ寮ではレンと晶、二人の誕生会が行われていた。
二人の友人たちが集まって、今日の夕方翠屋でも行われており、プレゼントなどはその時点で渡し終えていた。
つまり、今さざなみで行われているのは、二人の誕生会をだしにした宴会といっても差し支えがなかった。
その為、ここには毎度のメンバーが集まっており、それぞれに楽しんでいる。
そんな中、なのはが何かを思いついたのか、恭也の元に行く。

【恭也】
「どうかしたのか、なのは」

【なのは】
「えへへへ」

なのはは笑うと、恭也の膝に座る。

【恭也】
「なのは、ちゃんと自分で座りなさい」

【なのは】
「うぅ〜、お願い」

なのはのお願い攻撃に晒され、たじろぐ恭也を周りは楽しそうに見ている。
その結果を誰もが予想しており、実際に恭也は頷く所だった。
そこへ、

【士郎】
「なのは、俺がしてやるぞ。ほら」

士郎が自分の足を指差しなのはを見る。
それに恭也は安堵するが、なのはは一度士郎を見ると、

【なのは】
「お兄ちゃんにしてもらいたい」

そう言って恭也の顔を下から覗き込む。
恭也は何も言わず、そのままなのはの頭を撫でる。
なのははそれを了承の意味と取り、そのまま恭也の足に座るとジュースを飲む。
一方、なのはに否定された士郎は、涙目になって桃子に抱き付いていた。

【士郎】
「桃子〜。な、なのはが、なのはが…。きょ、恭也にぃぃ」

【桃子】
「はいはい。士郎さん、落ち着いて」

【士郎】
「ぐぅぅぅ。こうなったら、恭也をこの手で……」

【美影】
「何馬鹿な事を言ってるんですか」

恐ろしい事を口走る士郎の頭を美影が殴りつける。

【士郎】
「がっ。ツッツツツゥゥゥ。息子に娘を取られ、母親には殴られる。俺はなんて不幸な男なんだ。
桃子、俺の味方はお前だけだ。俺を慰めてくれ〜」

そのまま桃子に抱きつくと、桃子を押し倒す。

【桃子】
「駄目よ士郎さん。こんな所じゃ」

そう言いつつもどこか嬉しそうな桃子に、恭也は溜め息を吐く。

【恭也】
「ったく、あの万年新婚夫婦は……」

恭也の呟きを聞き、耕介も苦笑を浮かべる。

【耕介】
「ははは。あの調子だと、もう一人弟か妹が出来そうだな」

【真一郎】
「ありえそうだな」

そう言って三人が見つめる視線の先では……、

【士郎】
「そうだな。ここでは、あれだし。じゃあ、家に帰って…」

そう言って桃子を抱き上げようとする。
その士郎を再び、美影が殴りつける。

【美影】
「馬鹿な事ばかりしないの」

【士郎】
「ぐぅ。じょ、冗談じゃないか」

【美影】
「ええ。だから、ツッコミをしてあげたのよ。それとも、何か文句でもあるのかしら」

ニッコリと笑う美影を前に、士郎は引き攣った笑みを浮かべる。

【士郎】
「ははは。ある訳ないだろう。ナイスツッコミをありがとう」

【美影】
「分かってもらえて嬉しいわ」

【真一郎】
「士郎さんも相変わらず、美影さんには敵わないみたいだね」

【恭也】
「そうだな。敵わないのが分かっているのなら、大人しくしていれば良いのに」

【耕介】
「ははは。恭也は容赦ないな」

そんな話をしていた三人に声が掛けられる。

【真雪】
「おーい、そこの大中小、そんな所で話してないで、こっちに来て飲め!」

そう言われた恭也たちはお互いの顔を見合わせ、

【耕介】
「俺が大……だよな、やっぱり」

【真一郎】
「で、俺が小……」

【恭也】
「という事は、俺が中か?」

【真雪】
「んな事はどうだって良いだろ。それよりも、飲め!」

【真一郎&恭也】
「耕介、お呼びだ」

【耕介】
「お前ら、俺を差し出す気か」

【真一郎】
「そう言いながら、顔は嬉しそうだぞ」

【恭也】
「まあ、お前の好きな酒が飲めるんだ。我慢する必要はないぞ」

【真一郎】
「そうそう。俺たちの分まで飲んでも良いからな」

【耕介】
「そうか、悪いな〜」

そう言うと、耕介は笑顔で真雪の元へと行く。

【真雪】
「何だ、耕介だけか。まあ、良いや。それよりも、ほれ」

【耕介】
「ああ、ありがとうございます。とっとと」

そんな耕介を見ながら、恭也はなのはに問い掛ける。

【恭也】
「で、なのは、何か話でもあるのか?」

【なのは】
「へへへ〜。よく分かったね」

【恭也】
「まあな。で、何だ。初めに言っておくが、何かを買ってというのはなしだからな」

【なのは】
「そんな事、言わないよ。あ、くーちゃんもおいで」

なのはは久遠を呼び、呼ばれた久遠は狐の姿でなのはの足の上に乗る。

【なのは】
「よしよし」

久遠の頭を撫でながら、なのはは恭也を見上げる。

【なのは】
「あのね、この前くーちゃんに似合いそうなリボンを見つけたの。だから…」

恭也はなのはの言葉に考え込み、

【恭也】
「まあ、それぐらいなら良いか」

【なのは】
「本当!?」

【恭也】
「ああ。今度の休みにでも行くか」

【なのは】
「うん!ありがとうお兄ちゃん。くーちゃんも良かったね」

【久遠】
「くーん」

なのはの問い掛けに、久遠も嬉しそうに答える。
そんな二人を微笑ましそうに眺めながら、恭也は二人の頭をそっと撫で上げる。
笑顔を浮かべ、それを受けていると、なのはが羨ましそうに呟く。

【なのは】
「でも、くーちゃんだけ良いな〜」

恭也に聞こえるか聞こえないかという大きさで、そっと呟くなのは。

【恭也】
「………あー、なのはも何か欲しいものがあるのか」

恭也の言葉になのはは嬉しそうな顔をして見上げるが、すぐに悲しそうな顔をして俯く。

【なのは】
「ううん、何にもないよ」

【恭也】
「……言うだけ言ってみろ」

【なのは】
「……うん。あのね………。可愛い服があるんだけど………」

そう言って、恭也をそっと上目遣いで見る。
じっと見詰められ、恭也は考える素振りをする。

【恭也】
「……………………服だな」

恭也の言葉に、なのはは嬉しそうな顔を見せる。

【なのは】
「良いの!」

【恭也】
「ああ。久遠だけというのも何だしな。まあ、ついでだ。たまたま、今月はあまり物をかっていないからな」

【なのは】
「お兄ちゃん、ありがとう!」

なのはは満面の笑みを浮かべると、恭也に抱きつく。

【恭也】
「こ、こら、なのは。苦しい」

そう言いながらも、恭也の頬は僅かに緩んでいた。
そのやり取りを見ていた他の面々は、二人には聞こえないように小声で話し始める。

【レン】
「お師匠、今月は何も買っていないって、うちらが貰ったこのプレゼントは…」

【晶】
「師匠はなのちゃんに甘いからな」

【美由希】
「なのは、羨ましい」

【薫】
「まあ、恭也のアレは今に始まった事じゃないから」

【忍】
「それにしても、なのはちゃんもやるわね」

【月夜】
「ああ。いきなりおねだりしないで、」

【瑠璃華】
「久遠ちゃんの分をおねだりするなんて」

【フィアッセ】
「その後に、自分も欲しいけど我慢している所を見せる」

【那美】
「ただでさえ、恭也さんはなのはちゃんに優しいから」

【唯子】
「にはははは。完璧だね♪」

その場にいた全員が同じ事を思う。

『なのはちゃん、恐るべし』

【沙夜】
「恭也様は、なのはさんに対しては、とても優しいですね」

【恭也】
「そんな事はないぞ」

【沙夜】
「くすくす。まあ、そういう事にしておきますわね」

そう言って笑う沙夜に、恭也は憮然とした表情をする。
そんな沙夜を見ながら、なのはは沙夜に話し掛けた。

【なのは】
「沙夜さん、聞いても良いですか?」

【沙夜】
「はい、何でございますか?」

【なのは】
「前にアルシェラさんの事は聞いたけど、沙夜さんの事は聞いたことなかったなー、って。
お兄ちゃんが春休みにおとーさんと出掛けて、帰って来たら沙夜さんもいたんで」

【沙夜】
「そう言えば、詳しく話した事はありませんでしたね」

【アルシェラ】
「そんな事、どうでも良いではないか。こやつが勝手に付いて来たんじゃから」

【沙夜】
「勝手に付いて来ただなんて、失礼な。私は恭也様が必要と仰ってくださったからこそ、この身を捧げたまでです。
それをアナタにとやかく言われる筋はありません」

【アルシェラ】
「よく言いおるわ。上手い事言って、恭也を誑かしたくせに」

【沙夜】
「益々、心外な言われ様です。まあ、良いですわ。
それよりも、なのはさんが聞きたいと仰るのでしたら、お話させて頂きます」

【士郎】
「沙夜を手に入れた時って言うと……。妖刀不知火の一件だな」

沙夜の言葉に士郎も反応する。

【恭也】
「そう言えば、そうだったな」

【那美】
「妖刀……ですか?」

【士郎】
「ん?ああ。一応、薫ちゃんたちは知ってるよな」

【薫】
「一応、ばあちゃんからは簡単に聞きました。でも、詳しくは知らないです」

【士郎】
「そうか。じゃあ、まず事の始まりから話さないといけないな」

【恭也】
「あれは確か……」

恭也が話し出すと、全員が興味津々といった感じで聞き入る。

【恭也】
「俺が中二に上がる前の春休みで、確か終業式の次の日だったから、3月下旬だったな…」

そして、恭也は静かに語り出した。






つづく




<あとがき>

過去編第二弾は沙夜編です。
美姫 「なるほど。で、不知火事件って何?」
それをここで言ってどうするんだよ。
美姫 「それもそうよね」
まあ、それは過去編で明らかになるんだから、もうちょっと待って。
美姫 「分かってるわよ。この事件は恭也が中ニの時に起きたって事よね」
うん。正確には中等部一年の3学期の終業式の次の日から。
美姫 「ふ〜ん。まあ、とりあえず、さっさと続きを書いてね」
へいへい。
美姫 「では、またね」








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