『とらハ学園』






第34話






【士郎】
「恭也〜!」

叫び声と同時に、部屋の扉が開けられる。
そして、飛び込んできた男、士郎に恭也は視線を向け、

【恭也】
「いきなり何だ」

【士郎】
「そんな事はどうでも良いから」

【恭也】
「どうでも良いのか?」

【士郎】
「良いから、睨まずに俺の話を聞け」

【恭也】
「とりあえず、何だ」

【士郎】
「よし!今日から春休みだな」

【恭也】
「ああ」

【士郎】
「勿論、毎日、修行をするだろ」

【恭也】
「ああ」

【士郎】
「そこでだ、修行の旅に出るぞ」

【恭也】
「一人で行け」

【士郎】
「ぬぐぁ。そうじゃないだろう。ここは一緒に行くとか」

【恭也】
「夏休みにはやってるだろうが」

【士郎】
「気にするな。それよりも、ほら行くぞ」

【恭也】
「今からか」

【士郎】
「当たり前だろう」

【恭也】
「因みに、場所は?」

【士郎】
「北海道だ!」

【恭也】
「………。なあ、確か昨日グルメ番組みてたよな」

【士郎】
「ああ、見てたぞ」

【恭也】
「どうだった?」

【士郎】
「いや〜、美味そうな食べ物ばっかりだったぞ〜。
特に、北海道の新鮮な野菜や海鮮はたまらなく美味そうだった。
その中でも俺は、札幌ラーメンに一番惹かれたね。あれは食べなければいかんと思うほどに」

【恭也】
「そうか。頑張って行ってくれ」

【士郎】
「待て待て待て。お前が一緒じゃないと、修行の旅じゃなくなるだろうが」

【恭也】
「本当に修行なのか?」

【士郎】
「当たり前だろうが」

少し視線を逸らしながらも、はっきりと言い放つ士郎をじっと見詰める。

【恭也】
「じゃあ、北海道でなくても良いな」

【士郎】
「いや、北海道だ。誰がなんと言おうが北海道だ」

【恭也】
「………。旅費は?」

【士郎】
「心配するな。母さんから貰ってある」

【恭也】
「………それで、修行と言ったのか」

【士郎】
「ち、違うぞ。別に修行を建前に、旅費をせびった訳じゃない。
ただ、俺は恭也も最近は腕が上がってきているから、他流の奴とも打ち合わせたいとだな」

【恭也】
「で、美影さんにもそう言って旅費を出してもらったんだな」

【士郎】
「……そうだ。母さんの奴、俺だけだと旅費を出さないくせに、恭也も一緒と言った途端、あっさりと出しやがる」

恭也の鋭い視線にたじろぎながらも、士郎は言葉を続ける。

【士郎】
「だ、だけど、他流の奴というのも本当だぞ。ほ、ほら、恭也も知っているだろ。
火影の奴が使う流派」

【恭也】
「火影さんの?」

【士郎】
「そ、そうだ。蔡雅御剣流だ」

【恭也】
「確か、旭川だったな」

【士郎】
「ああ。どうだ?」

【恭也】
「そうだな。行ってみるのも悪くないか」

恭也の言葉に士郎は会心の笑みを浮かべると、恭也に支度を急かす。
そして、数時間後、二人は空の人となっていた。





  ◇ ◇ ◇





北海道は札幌。

【恭也】
「何故、旭川じゃなく札幌にいるんだ」

【士郎】
「うーん、いい天気だ」

【恭也】
「おい!」

士郎に詰め寄ろうとする恭也に、アルシェラが声を掛ける。

【アルシェラ】
「ここが北海道か」

【恭也】
「ああ。アルシェラは初めてだったか?」

【アルシェラ】
「ああ。初めてじゃ」

【士郎】
「ほら、二人ともぼーっとしてないで、早く来いよ」

士郎の言葉に、二人は士郎の後を追う。

【士郎】
「まずは、あの店だな」

士郎は呟くと、タクシーの助手席へと乗り込むと、目的地を告げる。
恭也はアルシェラと後部座席に乗り込みながら、

【恭也】
「店って何だ。それに、まずとは」

【士郎】
「何を言ってる。もう昼だろうが。先に腹ごしらえだ。その後、何件か店を周る」

【恭也】
「旭川へは?」

【士郎】
「明日だ、明日。それよりも、折角来たんだから、少しは楽しまないとな」

【恭也】
「…それもそうだな」

【士郎】
「分かったか。なら、行くぞ」

【アルシェラ】
「うむ。余も楽しみじゃ」

こうして、三人の北海道ラーメン巡りツアーが幕を開けたのだった。
翌日、悲劇が起こる事を、この時の三人はまだ知らない。





【士郎】
「あっ!あぁぁ〜」

翌日、朝の早い時間から部屋一杯に響き渡った士郎の声で、恭也とアルシェラは目を覚ます。

【恭也】
「どうした、父さん」

恭也の呼びかけに、士郎はあまり優れない顔色をして、振り向くと、笑みを浮かべる。

【士郎】
「ははは。ナ、ナンデモナイ」

【恭也】
「何か、カタカナになっている気がするんだが」

【士郎】
「気のせいだ」

恭也は半ば寝惚け眼で、抱きついてくるアルシェラを軽くあしらいながら士郎を睨む。
しばらく無言で黙り込んでいた両者は、やがて士郎の方が先に根を上げる形で終焉を迎える。

【士郎】
「だー。分かった、分かった。素直に教えるから、そう睨むな。ただし、絶対に怒るなよ」

【恭也】
「それは保証できん」

【士郎】
「なら、話さん」

【恭也】
「はぁー、アンタは子供か」

【士郎】
「何とでも言え。さあ、約束するのか、しないのか」

【恭也】
「……そう言うということは、怒られることをしたと判断する」

微かに殺気すら放つ恭也に、士郎は慌てて両手を振りながら、少し距離を空ける。

【士郎】
「は、話すから落ち着け。実は………、金を落とした」

【恭也】
「はい!?何ですと?」

【士郎】
「だから、金を落とした。マネーがない。マネー、イズ、ロスト。金銭的危機アルヨ」

【恭也】
「何故、英語。いや、それよりも最後のは怪しいぞ。
いやいや、それよりも、ここの支払いはどうするんだ!」

【士郎】
「あ、それは先に払ってあるから大丈夫だ。問題は、これからどうするかだ。
当然ながら、旭川へ向う金もない。勿論、家に帰る金もな」

【恭也】
「………ちょっと、待て。ここの支払いは済ませてあると言ったよな」

【士郎】
「ああ」

【恭也】
「だったら、落としたのはこのホテル内という事だな」

希望を見つけたかのように顔を上げる恭也を、士郎は鼻で笑う。

【士郎】
「ふん。それだから、まだまだと言うんだ」

【恭也】
「どういう事だ?」

【士郎】
「何故、落としたのがホテル内だと思う」

【恭也】
「だから、支払いを先に済ませたんだろう。だったら、少なくともこのホテルまでは、金があったという事だろ」

【士郎】
「だから、甘いと言うんだ。あの後、お前が寝た後に、俺が何処にも行かないとでも思ったのか!」

【恭也】
「………な、」

【士郎】
「な?」

【恭也】
「何を偉そうに自慢してる!!言え!さあ、言え!全て言え!昨日、何処で何をした!!」

恭也は士郎の襟首を掴むと、前後左右に揺さぶる。

【士郎】
「ふぁ、ふぁららるれろ〜」

【恭也】
「何を言ってるか分からんぞ!はっきり喋れ!」

【アルシェラ】
「恭也、揺さぶりすぎて喋れないんじゃないのか?」

アルシェラの言葉に、士郎は頷く。
いや、本人は頷いたつもりだったが、恭也に揺すられている為、実際には傍から見ていると分からない。
恭也はアルシェラの言葉を聞き、とりあえず揺さぶるのをやめる。

【恭也】
「で、昨晩、何をしたんだ」

【士郎】
「はー、はー。ちょ、ちょっと飲みに」

その答えを聞き、恭也の目が細められる。

【恭也】
「本当に落としたのか?全て、飲んだんじゃないんだろうな」

【士郎】
「お、お前は一体、俺を何だと思っているんだ」

【恭也】
「毎回、毎回、旅費を私用で使い果たす人だと思っているぞ」

【士郎】
「ぐっ。い、言い返せないじゃないか」

【恭也】
「自覚はあったのか」

【士郎】
「だ、だけどな、毎回毎回じゃないだろう」

【恭也】
「………………まあ、そうだが。それは今は関係ない。
本当に落としたんだな。使い切ったんじゃないんだな」

【士郎】
「少しは信用しろよ」

【恭也】
「事、この件で俺に信用させたければ、己の行動を悔い改めるべきでは」

【士郎】
「こ、こいつは。だぁー!まだ、初日だぞ!幾ら俺でも、アレだけの金を一気に使い切るか!」

【恭也】
「あれだけ?一体、幾ら貰ったんだ」

【士郎】
「はははは。気にするな」

【恭也】
「まあ、それはこの際、置いておくとして、全額落としたのか」

恭也の問いに士郎は一つ頷く。

【恭也】
「これから、どうするんだ」

【士郎】
「とりあえず、バイトするしかあるまい」

【恭也】
「また、そのパターンか」

【士郎】
「まあ、これもいい経験だと思って」

【恭也】
「アンタが言うな!アンタが!」

【士郎】
「貴様、親に向って」

【恭也】
「だったら、もう少ししっかりしろ!」

【士郎】
「えーい、やかましい」

士郎と恭也の、いつものと言えば、いつものやり取りをぼんやりと眺めながら、アルシェラは一つ欠伸をするのだった。

【アルシェラ】
「ふわぁ〜」





  ◇ ◇ ◇





どこかの家屋、その一室で、二つの影が蠢く。
朝の陽射しが柔らかく入り込むその部屋で、向かい合って座る人物のうち、一人が声を発する。

【?】
「厄介な事が起こったようじゃな」

少ししわがれた声に対するのは、男の声だった。

【男性】
「はい」

【?】
「して、どうする?」

【男性】
「私と他数名で追跡を」

【?】
「そうか。しかし、くれぐれも気を付けるんじゃぞ」

【男性】
「はっ」

【?】
「この件に関しては、全てをお主に任せよう。お主の思うようにやるがええ。
ただし、何としても…」

【男性】
「はい、心得ています」

声の主に対し、男は頭を垂れて答える。
その男に向って、更に声を投げる。

【?】
「して、向う先は?」

【男性】
「最後の目撃報告では、札幌と…」

【?】
「そうか……」

【男性】
「では、私はこれで」

【?】
「ああ」

男はもう一度、頭を下げると部屋を出て行く。
声の主は、男が退室しても暫くはそのまま動かず、ただ天井の一点をじっと見詰める。
やがて、微かな、本当に微かな声でそっと呟く。

【?】
「妖刀、不知火………」

その言葉は、誰も聞く者のいない部屋の壁に跳ね返り、そっと消えていった。






つづく




<あとがき>

事件がいよいよ動き出したね〜
美姫 「何を他人事みたいに」
まあまあ。
美姫 「でも、妖刀なの?妖剣じゃなくて」
ああ。それは、どっちでも良いんだよ。同じ意味だから。
まあ、分類上は妖剣という言い方なんだけど、不知火は刀だから、そう呼んでるという感じで。
美姫 「ふーん」
さて、そろそろ事件が明らかに……、なるのかな?
美姫 「いや、私に聞かないでよ」
ははは。ま、まあ、それは次回で!
美姫 「逃げたわね」
またね〜〜〜!
美姫 「ではでは〜」








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