『とらハ学園』






第37話






士郎たちの刀探しも二日目に入り、何の成果もないまま夕方過ぎになっていた。

【士郎】
「くそー。何の手掛かりもないのは痛すぎるな」

【恭也】
「ああ。普通の刀なら、何本かあったんだがな」

恭也と士郎はベンチに座ると、一息つく。

【士郎】
「この調子じゃ、いつになるやら」

【恭也】
「そもそも、探していると言ったんだよな。だとしたら、道端に落ちている可能性もあるんじゃないのか?」

【士郎】
「まあな。だから、誰かが拾って売ったかとも考えたんだが」

【恭也】
「誰も拾ってない場合も考えた方が良いかもな」

【士郎】
「だな。とりあえず、この近辺の店は探したからな。次は裏路地から当たるか」

そう言うと二人は立ち上がる。
恭也は少し離れた所で、鳩に餌を与えていたアルシェラを呼ぶ。
恭也に呼ばれたアルシェラは、持っていた餌全てをばら撒くと、恭也の元に駆けて来ると、腕を絡める。
これに対し、恭也は何も言わずにされるがままになる。

【士郎】
「じゃあ、ホテルを中心に、裏路地など人通りの少ない所から探すか」

士郎の言葉に頷くと、恭也たちは路地裏へと向った。
そして、日が沈む頃、恭也たちは何かの建物の裏側へと来ていた。
そこは、四方を囲まれ、昼でも日が射すことがないと思わせるような所だった。

【士郎】
「ここにもないか」

そう呟き、その場を後にしようとした時、恭也は何気なく上を見る。
すると、建物の一つの非常階段から黒いものが見えているのに気付く。

【恭也】
「父さん、あれ」

恭也の言葉に振り返り、指差す先を見る。

【士郎】
「おっ!何かそれっぽいな」

言うや否や、士郎は駆け出す。その後を恭也たちも追う。

やがて、その場所に辿り着くと士郎はそれを拾い上げる。

【士郎】
「どうやら、正解のようだな」

【恭也】
「それは、魔剣か?」

【士郎】
「多分な。普通の刀ではないだろうな。まあ、これで探し物は終った訳だ。
後は、あの爺さんにこれを渡すだけだからな。のんびりと、爺さんの帰りを待つとするか」

士郎は恭也に刀を渡すと、階段を降りて行く。
その後に続きながら、恭也はその背に問い掛ける。

【恭也】
「そうだな。しかし、本当にこれなのか?」

【士郎】
「まあ、間違いないだろ。ただの刀じゃねえって言ってたしな。
念のため、抜いて確認するか?」

一旦、下まで降りてから恭也は慎重に刀を鞘から抜いていく。

【士郎】
「恭也、念のため、用心しろよ。多分、妖刀の類ではないとは思うが、嫌な予感がしやがる」

【恭也】
「奇遇だな。俺も感じてる」

一旦手を止め、士郎と目を合わすと頷き、完全に鞘から抜き放つ。
その刀身は思わず目を見張る程美しかった。
だが、それも束の間、抜いた瞬間に辺りを嫌な気が覆う。

【恭也】
「なっ!」

【士郎】
「まさか、妖刀だったのか。しかし、そんな気配はしなかったぞ!恭也、急いで鞘へ戻せ!」

士郎が怒鳴る中、すぐに変な気配は消え、元の路地裏独特の雰囲気へと戻る。

【アルシェラ】
「恭也!何ともないか」

すぐ傍にいたアルシェラがそう尋ねる。
それに頷きながら、

【恭也】
「ああ、何ともないな」

【士郎】
「恭也、ちょっとそいつを貸せ」

士郎は恭也から刀を受け取ると、その刀身をじっくりと眺める。

【士郎】
「ふむ。やっぱり、ただの魔剣だな。なら、あの時のアレは何だったんだ?
気のせいにしては、やけにはっきりと感じた気がするが。
恭也、本当に何ともないのか」

士郎の問い掛けにも頷く恭也。
そんな恭也の様子をじっくりと見るが、特に可笑しな所があるようには見えなかった。

【アルシェラ】
「もしかして、これの所為ではないのか?」

そう言って、アルシェラは地面に落ちている破た一枚の符を拾い上げる。

【アルシェラ】
「この符から、何らかの力を感じる。恐らく、その刀を抜いた時に、この符の力が解放されたからではないかの?」

【士郎】
「だとすると、符で封じるような刀だったという事にならねえか?」

【恭也】
「しかし、あのお爺さんの探し物だったんだよな」

【アルシェラ】
「だとしたら、盗難防止用だったのかもな。
もし盗人がこれを盗んで売り飛ばすにしても、買う方は刀身を確認するじゃろうからな。
その時、あれが起これば何か曰くつきと考えるかもしれんじゃろう。
それに、近くにおれば、居場所を感じられるだろうて」

【士郎】
「なる程な。まあ、異常はないみたいだし、これ以上ここにいる必要もあるまい。ホテルに戻るか」

士郎は刀を鞘に戻し、袋に入れると歩き出す。
その後を追いながら、恭也は話しかける。

【恭也】
「これで、あのお爺さんが戻ってくれば、旅費が手に入るな」

【士郎】
「ああ。これで、途中で中断した北海道グルメ巡りが出来る」

士郎の言葉に、恭也は眉を動かすと、

【恭也】
「次は旭川に行くんだよな」

【士郎】
「まあまあ、そう急ぐな。急がなくても、旭川は逃げんぞ」

【恭也】
「確か、修行の旅だったよな」

【士郎】
「勿論だ。修行の合間に美味い物を食べてるだけだ。お前も折角来たんだから、美味い物を食べたいだろう?」

【恭也】
「まあ、それは否定しない。
だが、どうも俺には、美味い物を食べるついでに、修行をしているという感じに見えるんだが?
いや、そもそも、今回はまだ何も修行らしい事をしていない気がするんだが」

【士郎】
「ったく。細かい事を一々」

【恭也】
「細かくはないと思うぞ」

【士郎】
「わーた、わーた。修行だな。じゃあ、ホテルに戻ったら滝に打たれる代わりに、頭からシャワーでも浴びてろ」

【恭也】
「はー」

【士郎】
「まあ、そんなに心配するな。明日からちゃんと稽古をつけてやるからな」

【恭也】
「期待してる」

少しだけ嬉しそうな顔を見せる恭也を無視し、士郎は先に歩いて行く。
そして、その日ホテルに戻ると、のんびりと過ごすのだった。





  ◇ ◇ ◇





【男A】
「はい」

突然、鳴った携帯電話を取り出し、男が電話に出る。

【男B】
「義久(よしひさ)さん、今、アレが抜かれた気配が…」

【義久】
「場所は?」

【男B】
「アレの場所は分かりませんが、私たちがいるのは……」

男は今自分たちのいる場所を教える。

【義久】
「分かった。すぐに行く。お前たちは、その近くを探してみてくれ。ただし、深追いはするなよ」

【男B】
「了解です」

そう言うと、電話を切り、自分に付いてきている者たちにその事を伝える。

【義久】
「そう言うわけだ。急いでいくぞ」

そう言うと、義久は走り出す。そして、男と女たちもその後に続くのだった。





  ◇ ◇ ◇





【アルシェラ】
「可愛いぞー」

【恭也】
「ちょっ、やめ」

翌日、騒がしい声に目が覚めた士郎は、ゆっくりと伸びをしながら、隣のベッドを見る。

【士郎】
「五月蝿いぞ、二人とも……、って、何をしてるんだ朝っぱらから」

横を見ると、恭也のベッドにアルシェラが潜り込み、ごそごそと蠢いている。
恭也は布団に包まれている為、見えないがモゾモゾと動く布団を見る限り間違いなくいるのだろう。
それを見ながら、士郎は嘆息する。

【士郎】
「アルシェラ、夜這いなら夜にしてくれ。それと、俺のいないときにな」

【アルシェラ】
「そんなんではないわ。士郎、これを見るのじゃ!」

何処か恍惚とした顔を向け、言ってくる。

【士郎】
「これ?」

士郎の言葉に頷くと、アルシェラは布団の両端を掴み力任せに引いた。
そして、アルシェラの言ったコレを見て、士郎は茫然とすると、すぐに、

【士郎】
「な、何だこれはっ!!!!!」

士郎の叫び声が、狭い室内に響き渡った。






つづく




<あとがき>

次回予告〜。
ついに士郎の前に姿を現した謎の組織。
そのあまりの恐ろしさに、士郎はただただ立ち尽くす。
だが、悲しいかな、日頃の行いの所為か、助ける者は……。
負けるな士郎!お前には桃子となのはが付いてるぞ!なのははちょっと怪しいけど…。
まあ、そんな訳で、次回、第5478話 大帝国からの使者。乞うご期……。
美姫 「いつまでやってるのよー!」
ぐがっ!
美姫 「そんな事したら、私の出番が少なくなるじゃない!」
ゴボッ!
美姫 「大体、嘘ばっかり並べて!」
がはっ!
美姫 「この馬鹿!」
ぐえぇぇ!
美姫 「詫びなさい!」
ごっ!……ごめん、な、さ、いぃぃぃ。きゅう〜、ばたん。
美姫 「ふーふー。そう言うわけで、この馬鹿は眠らしましたので。
    次回予告は嘘です。勿論、皆、分かってるわよね。うん、安心、安心。
じゃあ、今回はここまでね♪ばいばーい。あっ!生ゴミって明日だったけ?」
美姫、浩を引き摺りながら退場……。








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