『とらハ学園』






第40話






【士郎】
「さーて、3日後には不知火との戦いが待っている訳だが……」

そう言って、まだ眠っている恭也を見る。

【士郎】
「どうしたもんかね」

片手で頭を掻きながら、士郎は悩む。
やがて、悩む事に飽きたのか、

【士郎】
「だー、いちいち考えていても仕方がないな。恭也、起きろ!」

無造作に恭也の布団を剥ぎ、その体を揺さぶろうとして手を止める。

【アルシェラ】
「士郎、朝食はいらんから、もう少し寝かせろ」

そう言うと、未だ寝惚け眼のまま、ぬいぐるみのように恭也を抱きしめ、再び眠りにつくアルシェラ。

【士郎】
「な、何でお前がそこにいるんだ!お前のベッドはあっちだろうが!」

士郎はアルシェラのベッドを指差し喚くが、肝心のアルシェラは五月蝿そうに顔を顰めるだけだった。

【士郎】
「こら、寝るな!起きろ!恭也もいい加減、目を覚ましやがれ。
そんな羨ましいじゃなかった、そんな事してる場合じゃないんだぞ」

【アルシェラ】
「士郎、五月蝿いぞ」

【士郎】
「アルシェラ、お前もさっさと起きろ」

【アルシェラ】
「だから、もう少しと言っておろうに」

【士郎】
「恭也がどうなっても良いのか?」

この一言はかなり効いたらしく、アルシェラはすぐさま起き上がる。

【士郎】
「よし、起きたな。次は恭也だ」

士郎は恭也の体を揺さぶり、起こし始める。
そんな士郎を眺めながら、アルシェラは問い掛ける。

【アルシェラ】
「どういう意味じゃ」

【士郎】
「どうもこうもないだろ。お前も昨日の話は聞いたんだろ?」

【アルシェラ】
「恭也が元に戻る条件か?」

【士郎】
「ああ。だから、今のうちにどれぐらい記憶が残っているのか確かめておかないとな」

その後、士郎は恭也を起こし、一通りの支度を整えるさせると、人気のいない山林へと来る。

【士郎】
「さて、恭也。これが何だか分かるか?」

そう言って士郎は、恭也に恭也の小太刀を見せる。

【恭也】
「刀?」

【士郎】
「そうだ、刀だ。正確には小太刀って言うんだが。まず、持ってみろ」

士郎に渡された、その無銘の小太刀を恭也は持つ。

【士郎】
「そうだ、それで良い。で、それの使い方は分かるか?」

士郎の問い掛けに、恭也は首を横に振って答える。

【士郎】
「分からないか……。くそっ!不知火は何処まで記憶を奪いやったんだ!」

士郎は腹立だしげにはき捨てる。
その様子に少し怯える恭也だったが、士郎が何に怒っているのか分からずにおろおろとする。

【アルシェラ】
「士郎、とりあえず落ち着け。恭也が怖がっておる」

【士郎】
「あ、ああ」

士郎は深呼吸を繰り返し、高まる感情を押さえる。

【士郎】
「ふー。さて、どうしたもんかね。とりあえず、俺が不知火とやる事になるのは間違いないな。
後は、弱らせた所を恭也に斬らせるしかないか。
よし!恭也、とりあえず訓練だ。何も難しい事を覚えろとは言わない。
ただ、動かないものぐらいは斬れるようになれ。いいな」

意味は良く分からないながらも、恭也は一つ頷く。
それを確認すると、士郎は笑いかける。

【士郎】
「よし、それで良い。大丈夫だ。なんせ今までやって来たこと、それの基本なんだからな」

そう言うと、士郎は小太刀の握り方から、基本的な振り方までを教えていく。
最初はぎこちなかった動きも、一時間程もすると、

シュッ

恭也の振るう小太刀が、鋭く空気を凪いでいく。
その動きは徐々に速く激しくなっていき、斬、徹と続けて振るう。
それを見た士郎が逆に驚く。

【士郎】
「ま、待て待て」

士郎の止める声に、恭也はその腕を止める。

【士郎】
「お前、何故、徹が出来るんだ。俺はまだ、基本的な剣の振り方しか教えてないんだぞ」

【恭也】
「徹って何?」

【士郎】
「はっ?今、お前が放った斬撃の一つだが、分かってないのか?」

【恭也】
「良く分からない。体が勝ってに動いてた」

【士郎】
「どう思う?」

【アルシェラ】
「多分、何度も繰り返してやってきた基礎訓練だから、既に体の方で覚えておるのじゃろう」

【士郎】
「だとしたら、弱ってる相手なら充分斬れると考えて大丈夫か?」

【アルシェラ】
「恐らくは。ただし、その時になって、あの状態の恭也が躊躇わないという条件が必要じゃがな」

【士郎】
「確かにな。だとしたら、実戦形式での訓練に変えたほうが良いな」

【アルシェラ】
「そうじゃな」

【士郎】
「なら、夜にでもやってみるか」

【アルシェラ】
「何故、今すぐやらんのじゃ?」

【士郎】
「ん?ああ、それはな。あの状態の恭也でしか、できない技があるのに気が付いたんでな」

【アルシェラ】
「ほう、それは楽しみじゃな」

【士郎】
「まあ、そういう事で。恭也、とりあえず、今はここまでで良い。街に戻るぞ」

士郎の言葉に頷くと、恭也はトテトテと士郎の元へとやって来る。

【士郎】
「さて、恭也。今からいう事を覚えるんだ、良いな」

恭也が頷いたのを確認すると、恭也を抱き上げ、その耳元で何やら話し始める。
その言葉に、頷き返す恭也を士郎は褒めながら、街へと戻っていった。





  ◇ ◇ ◇





市街地のとある一角。
今は丁度、昼時という事もあり、会社勤めの者たちで溢れ出した場所に一つの群集があった。
その群集の特徴は、全員が女性であるという事だろう。
そして、その中心には一人の少年──恭也がいた。
恭也は知らない人たちに囲まれ、少し怯えており、それが却ってお姉さま方の心を掴んでいるようだった。

【恭也】
「うぅ〜」

知らず潤み始める瞳を見て、我慢できなくなったのか一人の女性が視線を合わせながら、声を掛ける。

【女性A】
「僕、どうしたの?ひょっとして迷子?」

恭也は小さく首を横に振る。
その小動物のような仕草が、目の前の女性、いや、周りにいる女性たちを更に魅了する。

【女性A】
「じゃあ、どうしたの?」

群集を掻き分け、その女性の背後に士郎は立つ。
士郎を見つけた恭也は、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
後ろの士郎に気付かない女性は、その笑顔が自分に向けられたと勘違いし悶える。

【女性A】
「お持ち帰りしたい……」

ぼそっと呟いた言葉に、士郎は苦笑しながら、

【士郎】
「すまんが、それだけは勘弁してくれ」

突然背後から聞こえた声に驚いた声を上げそうになるが、恭也がその脇を抜け、
士郎にお兄さんと言って飛びつくのを見て、出掛かった声を押さえる。

【女性A】
「お兄さんなんですか?」

どちらかと言えば、親子にも見える二人だと思いながら、士郎に見惚れる女性。

【士郎】
「ええ。正確には親戚なんですけどね。それよりも、お嬢さん。こいつと食事をしたくありませんか?」

【女性A】
「えっ!……是非!」

【士郎】
「では、こちらへ」

そう言って、群集に背を向け、こそこそと話をしだす。
やがて、

【士郎】
「では、契約成立という事で」

【女性A】
「はい。所で、貴方は一緒じゃないんですか?」

【士郎】
「お…私ですか?」

その女性はコクリと頷く。
それを見て士郎は、

【士郎】
(おおー。俺もまだまだやるもんだ。……桃子許してくれ。旅費の為だ。
決して浮気じゃないぞ。ただ食事するだけだからな)

自分の中で言い訳を完了させると、再び交渉に入る。

【士郎】
「私込みだと……」

そのやり取りを見て、他の女性も士郎に交渉を始める。
アルシェラはそれを少し離れた所から、呆れた顔で見ていた。
そして、無事?に集団での食事も終わり、士郎は豊かになった懐を満足そうに撫でていた。

【アルシェラ】
「さっき言っておった、今の恭也にしか出来ん技というのは……」

【士郎】
「これだ。でも、これで当分の路銀は稼げたんだし、良しとしようじゃないか」

【アルシェラ】
「ふー。余はずっと我慢したんじゃ。余との約束を忘れるなよ」

【士郎】
「分かってるって。これから恭也が元に戻るまでは、風呂に入るときも寝る時もお前に任せる」

【アルシェラ】
「ならば、良い」

アルシェラは満足げに頷くと、意味が分からず首を傾げている恭也の手を握る。
すると、恭也は嬉しそうな笑みを浮かべ、アルシェラを見上げる。

【アルシェラ】
「ぬぬぬ。普段の恭也を知っておればおるだけ、この笑顔は強烈じゃな」

【士郎】
「そんなもんかね」

【アルシェラ】
「まあ、主には分かるまい。しかし、お主もよからぬ事を考えおったな」

【士郎】
「ははは。失礼だぞ。俺はただ、お嬢さん方に有意義な一時を提供しただけだ。
始めは、財布を落としたと言わせて、周りから少しずつ貰おうとか思ってたんだが、それは流石にヤバイだろ?」

【アルシェラ】
「今のも変わらんと思うがの。しかし、後で元に戻った恭也に、何をされても知らんぞ」

【士郎】
「はははは、大丈夫だ。こういうのは、元に戻った時には、その時の記憶がないと相場が決まっているからな。
それに、万が一ばれても、何とでも誤魔化せるさ」

【アルシェラ】
「偶に、お主と恭也が親子とは信じられなくなるんだが…」

【士郎】
「ははは、言われ慣れてるよ」

恭也は、そう言って笑う士郎を不思議そうに眺めていた。







つづく




<あとがき>

そんなこんなで、次回はいよいよ士郎VS不知火!
美姫 「やっとね〜」
やっとだね〜。ほのぼの〜。
美姫 「和んでないで、さっさと書き上げなさい!」
ぐえっ!
わ、分かったよ〜。ではでは。
美姫 「ばいばい♪」








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