『とらハ学園』






第41話






【士郎】
「アルシェラ、不知火の狙いはあくまでも恭也だ。そっちは任せたぞ」

【アルシェラ】
「うむ、任せるが良い。ただ、今の余は恭也との契約により全力を出せん。
恭也が解いてくれれば良いのじゃが、それすら忘れているようだしの」

【士郎】
「それでも、お前なら充分恭也を守れるだろ」

【アルシェラ】
「うむ、勿論じゃ。と、言いたい所じゃが、不知火の力が分からぬから、何とも言えんの。
余の力は、マスターである恭也に左右される所があるからの。早い話、恭也が弱くなった分、余の力も弱くなっておる」

【士郎】
「つ、使えない奴」

【アルシェラ】
「仕方なかろう!そういう契約をしたのは恭也なのだから。
最も、余の力が恭也に左右されるとは、恭也がこんな事になって初めて気付いたのじゃが。
いや、恭也の力というよりも、恭也の記憶の方に問題があるのかもしれん。
余をアルシェラとして固定したのが恭也じゃから、その記憶がなくなった今、余を固定していたものがなくなったのじゃろう。
だから、余の力が一気に落ちたと考える方が正しいのかもしれん」

士郎の呟きに、アルシェラは苦々しく答える。

【士郎】
「だー、そんな難しい話は良い。因みに、お前の今の力は?」

【アルシェラ】
「全力を100とするなら、封印された状態で30。今の状態はその半分よりずっと下の10といった所じゃ」

【士郎】
「マジで使えねー奴だな!」

【アルシェラ】
「仕方があるまい!それでも、恭也を守るぐらいはしてみせるわ!」

【士郎】
「頼んだぞ」

士郎はアルシェラにそう告げると、目の前に置かれた妖刀を見る。

【士郎】
「さて、そろそろ時間かな?」

士郎の呟きに、今まで黙っていた義久が口を開く。

【義久】
「はい。そろそろですね」

その義久の言葉を肯定するかのように、地面に置かれた妖刀から黒い靄は立ち上る。
その靄は徐々に人の形を取ると、その手に妖刀不知火を持ち、士郎たちに対して構える。
それに対し、士郎も自らの小太刀、閻を構える。
その後方で義久が弓に矢を番える。

【義久】
「来ますよ」

【士郎】
「ああ」

義久の警告に一つ頷いて答える士郎。

【義久】
「それと、何度も言いますが、絶対に消滅させないでください」

【士郎】
「分かってる。最後の止めは恭也に、だろ」

【義久】
「はい。では、行きます!」

言うや速いか、義久は矢に霊力を込め、不知火目掛けて射掛ける。
不知火は、迫り来る矢を妖刀で薙ぎ払う。
その隙に距離を詰めた士郎が、不知火に斬りかかる。
それを後方に跳んでやり過ごすと、着地と同時に士郎へと迫る。
着地の瞬間を狙っていた義久は、士郎の陰に隠れるように懐に飛び込んだ不知火に、矢を放つ事ができなかった。
舌打ち一つ残し、義久は角度を変えるために移動を始める。
それに気付いているのか、不知火は士郎の陰になるように上手いこと体を動かす。

【士郎】
「くそっ!このやろ!」

士郎は不知火の腹目掛け、霊力を込めた蹴りを放つ。
それを再び後ろへと跳躍して躱す。
それと同時に、士郎は義久との射線上から体を退けながら、不知火へと迫る。
義久は不知火の姿を見るなり矢を放つ。
その矢を妖刀で再度弾く。先程と同じ様に士郎が斬りかかる。
それを不知火は返す刀で受け止める。
同時に、士郎目掛けて蹴りを放つ。
これを足を上げ、受け止めると八景を抜き斬りつける。
それを上体を逸らし、紙一重で避ける。
そこへ義久の矢が再び飛来する。
避けられない、そう思った義久だったが、不知火は妖刀を握る手とは逆の手で鞘を掴み、それで矢を弾く。
驚きに目を見張る義久を余所に、士郎は不知火の注意が逸れた瞬間に閻を手元に引き寄せ、八景に重ねるように放つ。

──御神流奥義之五 雷徹

士郎の放った技を横に転がり何とか躱す。
いや、躱したはずだったが、ドサッという音を立て、右腕に当たる部分の肘から先が落ちる。
それを見ることもせず、士郎は更に距離を縮め追撃の手を休めない。
その間も、義久による弓での牽制が行われ、不知火は逃げ場を無くす。

【士郎】
(もらった)

士郎は不知火の右足目掛け閻を振るう。
完全に捉えたと思った時、義久の警告の声が届く。

【義久】
「士郎さん!危ない!」

その警告よりも先に、士郎は危機を察知し、横に跳び退く。
その直後、すぐ真横を背後から襲い掛かって来た妖刀が通り過ぎて行く。
よく見ると、妖刀と不知火の左手が黒い糸のような物で繋がっている。

【士郎】
「何だと?!」

驚く士郎をよそに、飛来した妖刀を左手で掴むと、不知火は士郎へと襲い掛かる。
それを捌きながら、士郎は義久へと怒鳴る。

【士郎】
「義久!妖刀に絡まっている糸はもしかして…」

【義久】
「はい。先程切り落とされた不知火の右腕です。いや、だったと言うべきでしょうか」

【士郎】
「右腕がこのまま再生するって事はないよな」

【義久】
「恐らくそれはないと思いますが……」

【士郎】
「そう願いたいぜ」

士郎は力任せの一撃を横に弾き、それによって生じた隙を付く。
切り結びをしている間に納刀していた八景の柄に手を掛け、一気に抜き放つ。

──御神流、虎切

士郎の八景による抜刀が不知火に迫る。
完全に捉えたと思ったその攻撃は、予期せぬ方法で防がれる。
士郎の小太刀を防いだのは、不知火の眼前に突如現われた黒くて丸い固まり、盾だった。
しかも、その盾は支えられる事無く、宙に浮いていた。
不知火はその盾で士郎の攻撃を受け止める。

【士郎】
「何となく答えは分かってるが、一応聞くぞ!」

後ろに跳び、不知火の攻撃を避けつつ士郎が声を荒げる。

【士郎】
「あの宙に浮いてる黒い盾みたいなのは…」

【義久】
「元は奴の右腕で、さっきまでは糸状だったものです」

【士郎】
「って事は何か。切り落とした部分は、再生まではしないが…」

【義久】
「色々と形を変えるって事でしょうね」

【士郎】
「………そんな話聞いた事ないぞ!」

【義久】
「そんな事を言われましても、っと!」

義久は不知火に向って矢を放つが、同じ様に盾に阻まれる。

【士郎】
「この際、切り落とした部分が形を変えたのは目を瞑ろう。
しかし、何で急に硬度が増してるんだ!言うならば、素手で受け止められた事になるんだぞ」

【義久】
「それこそ知りませんよ。切り落とした時点で、腕でなくなってるという事じゃないんですか」

【士郎】
「何て厄介な。って、今度は剣の形を取ったぜ」

士郎と義久の見詰める先で、盾の形をした状態から剣の状態へと形を変える。
それだけでなく、切り落としたはずの右腕が生えてくる。

【義久】
「そんな再生した?!」

【士郎】
「いや、少し違うな。よく見てみろ。全体的に縮んでいやがる。
つまり、全体を小さくして、それで余った部分で右腕を作ったんだ」

【義久】
「再生と殆ど変わらないじゃないですか。
いや、切り落とした部分が武器になるんだったら、余計に質が悪いですよ」

義久の言葉に、士郎は首を振る。

【士郎】
「いや、そうでもないぜ。再生しないんだから、細かく切り刻めば問題ない。
それに、あれをするのはかなりの霊力を消費するみたいだからな。
つまり、何度も出来ないって事だ」

士郎の言葉に、義久は注意深く不知火の様子を伺う。
確かに、士郎の言う通りであると確認し、再び矢を構える。

【義久】
「でしたら、どんどん行きましょう」

【士郎】
「現金な奴だな。確かに何度も出来ないだろうが、前線でやりあう俺の気持ちを、少しは分かって欲しいもんだ」

【義久】
「分かってますよ。ですから、士郎さんに前線をお願いするんです。私ではあっという間にやられてしまいますから、ね」

最後の言葉を言うと同時に、弓を射る。
今度は一本だけでなく、二本同時に射掛ける。
その後、すぐさま矢を掴み、間を空けずに再び矢を射る。
絶え間なく飛来する矢を、時には避け、時には二本の剣で弾きながら不知火は義久を攻撃目標として捉える。
そんな不知火の横手から斬りかかりながら、士郎が告げる。

【士郎】
「お前の相手は俺だ」

その攻撃を妖刀で受けると同時に、黒剣を士郎へと伸ばす。
それを士郎のもう一刀が弾く。
士郎と不知火が斬り合いを始めると、義久は弓を撃つのを止める。
接近戦をする二人に矢を射掛けて、間違って士郎に当たるといけないためである。
こうなると、義久は見ているしか出来ない。
しかし、士郎が飛び退いた時や、援護が必要な時には、いつでも矢を射れる態勢で待つ。
そんな義久の目の前で、士郎と不知火の闘いは続いていく。
何度目かになる打ち合いの後、不意に不知火が蹴りを繰り出す。
しかし、それを軽く躱した士郎はすぐさま斬りかかろうとするが、それよりも早く不知火が士郎との距離を開ける。
蹴りをフェイントにして稼いだ距離で、不知火は妖刀を鞘に納める。
同じ様に左の黒剣を腰に差すと、両腕をそれぞれの柄に掛ける。
その構えを見て、士郎の顔に珍しく驚愕が浮かぶ。

【士郎】
「おいおい、まさか」

口ではそう言いつつも、士郎は自分の小太刀を二本とも同じ様に鞘に納める。
義久が、不知火に対し矢を射るかどうか考えていると、先に不知火が動き出す。
不知火は士郎に向って駆けながら、右手で妖刀を引き抜き士郎へと斬りかかる。
それより、半瞬ほど後に士郎も右手で閻を抜き、その一撃を受け止める。
不知火の攻撃はそこで止まらず、次いで左手で黒剣を腰から抜きながら斬りかかる。
士郎も同じ様に、左手で八景を抜く。
左右の違いはあれど、全く似たような動きを見せる二人の攻撃は、その後左右もう一撃ずつを放ち止まる。

【士郎】
「こいつ、薙旋を使いやがった」

士郎は苦々しく吐き捨てる。

【士郎】
「おい、まさかとは思うが、奪った記憶にある技を使えるなんて事ないよな」

【義久】
「流石にそれはないと思いますけど……」

【士郎】
「じゃあ、こいつは何で薙旋を使えたんだ」

【義久】
「そ、それは……」

【士郎】
「まずいな。もし、記憶にある技を使えるって事なら、アレも使えるんだよな」

【義久】
「あれ?」

【士郎】
「御神流正統奥義だ。恭也の奴一度、静馬が使った所を見てるからな。あんなもん出されたら、堪らんぞ」

【義久】
「……………。もしそうだとしたら、勝てますか?」

【士郎】
「分からん。正統奥義は静馬と美沙斗の二人しか使えねーからな。
これに真正面から対抗しようとするなら、御神不破流正統奥義か奥義之極だろうけど、俺どっちも使えないし」

【義久】
「そ、そんな。士郎さん、不破家当主なんじゃ…。だったら、不破の正統奥義は使えるんじゃないんですか?」

【士郎】
「当主は一臣だよ。だから、俺には無理だ。まあ、どういったもんかは知ってるんだが、不破の正統奥義は少々特殊でな。
その時の当主以外は絶対に使えない」

【義久】
「何故ですか?」

【士郎】
「不破の伝承刀、鳳翼と凰迅の二つを使った技だからだ。
お陰で、不破の正統奥義を使われる心配はないけどな」

そんな会話に割り込むように、不知火は士郎へと斬りかかる。
妖刀を納刀し、抜き放つ。

【士郎】
「虎切か」

士郎も同じく虎切で弾き返す。
弾かれた不知火は再び薙旋を放ってくる。
それを落ち着いて捌くと、士郎は眉を顰める。

【士郎】
(おかしい…。今の薙旋もだが、冷静になって考えてみれば、さっきの薙旋もどこかおかしいぞ)

士郎は自分の感じた違和感を確認するように、不知火との距離を詰める。

──御神流、虎乱

左右の小太刀による連撃に不知火は後ろへと跳ぶが、士郎は距離を取らせない。
更に一歩深く踏み込み、不知火の懐へと横薙ぎの一撃を繰り出す。
それを黒剣で受け止めた不知火の頭部へ、すぐさま蹴りを放つ。
それを屈み躱すと、不知火は士郎の背中側から妖刀を振り下ろす。
それを背中越しで受け止めると士郎は蹴りを放った勢いのまま、体を回転さて再び小太刀を横凪ぎに振るう。
不知火は、その攻撃を受け止めずに躱し、再び薙旋の構えに入る。
士郎はそれを待っていたかのように、同じ様に薙旋の構えを取る。
両者が全く同時に、同じ技を放つ。
しかし、結果は先程とは違い、不知火の左腕が切れ飛び、士郎は無傷だった。

【士郎】
「やっぱりか。記憶にあるだけで、そんなに簡単に使われて堪るか。
全部の技が見よう見真似みたいなメッキもんの上に、恭也の使える技しか使えねーみたいだな」

そう言って、士郎は不敵な笑みを浮かべる。

【士郎】
「しかし、多少厄介なのは厄介だな。下手に手の内を知られてるだけにな……。
まあ、それならそれで手はあるが……」

士郎は八景を鞘に戻し、閻だけを構える。

【士郎】
「これで終らせる!」

決意を口に出す士郎だったが、それに水を差すかのように声が上がる。

【アルシェラ】
「戯け!お主がケリを付けてどうする」

【士郎】
「……そうだったな」

【アルシェラ】
「お主、本当に恭也を戻す気はあるのか?」

【士郎】
「失礼な。あるに決まっているだろうが。第一、お前には分からんだろうが、俺がどれだけ恐怖した事か。
良いか、何度も言うが、恭也のガキの頃はそんなんじゃなかったんだ。
それなのに……、それなのに……。ぐわぁー、思い出しただけで鳥肌が!」

一人絶叫する士郎の横を矢が通り過ぎ、士郎に飛びかかろうとしていた不知火の動きを止める。

【義久】
「士郎さん、ふざけないでください。今ので、矢を使い果たしてしまいましたよ!」

【士郎】
「そいつは悪かった。だが、別にふざけてはなかったんだが…。まあ、良い。
アルシェラ、準備をしておけ。アイツの動きを止めるから、その間に何とかしろ」

【アルシェラ】
「分かった」

士郎の声に頷くと、アルシェラは小太刀を恭也へと差し出す。
今まで怯えてアルシェラにしがみ付くいていた恭也は、差し出されたそれを茫然と眺める。
そんな恭也にアルシェラは優しく話し掛ける。

【アルシェラ】
「良いか、恭也。これはお主がやらねばならん事だ。
お主は覚えていないが、お主は余と約束をしたのだぞ」

【恭也】
「約束…?」

【アルシェラ】
「ああ、そうじゃ。お主のあの誓い、こんな所で破るつもりか?
皆を、そして余を守ると言ったであろう」

【恭也】
「知らない」

【アルシェラ】
「そうか。なら、余があの化け物に倒されても良いのか?」

アルシェラの言葉に、恭也は小さく、だが、しっかりと首を横に振る。

【アルシェラ】
「ならば、これを取るがいい。この剣は、常にお主のためにその力を振るい、そしてお主とお主の誓いを守るであろう」

アルシェラが再びそっと差し出した小太刀を、恭也はしっかりと握る。

【アルシェラ】
「それで良い。恭也、何も難しい事を考えずともよい。
ただ、余が合図したら、思ったようにその剣を振るえば良い」

恭也が頷いたのを見て、アルシェラは恭也の握る小太刀へと入り込む。
直後、恭也の頭の中にアルシェラの声が響く。

【アルシェラ】
『恭也、落ち着け。お主なら、出来る。何せ、余のマスターなのだからな』

突如響いてくる声に驚く事もなく、恭也はそれを受け入れ、頷く。
小太刀を握る手に、力が篭る。
そんな二人のやり取りを余所に、士郎と不知火は微動だにせずに向き合っていた。
士郎は横目で恭也を見ると、唇を釣り上げて笑みを浮かべる。

【士郎】
「記憶がなくとも体は覚えてるってか……。恭也、期待してるぞ」

呟くと同時に士郎が地を蹴る。
ただ真っ直ぐに不知火へと向って行く。
それを不知火は虎切で迎え撃つ。
対し、士郎は攻撃する素振りを見せずにそのまま不知火へと迫っていく。
不知火の剣が一条の銀線となって士郎を襲う。
しかし、そこには士郎の姿はなかった。
不知火からは、まるで士郎が消えたように見えていた。
奪った記憶にある神速というものとも違うその動きに、不知火は戸惑いを覚える。
それが大きな隙を生むこととなる。
ほんの刹那の事、しかし、御神の剣士を前にして、その刹那は長すぎた。
気がついた時には、不知火の両足は切り飛ばされていた。

【士郎】
「驚いたか、不知火。これは恭也も知らない技だからな。まあ、最後だから教えといてやる。
今のは、御神不破流奥義之捌、陽炎って言う技だ。アルシェラ!」

不知火が地面に倒れる寸前に、その腕を掴み恭也に向って投げる。
同時に、切り飛ばした足が形を変える前に閻を突き立て霊力を流し込む。

【士郎】
「消えろ!」

士郎の言葉と共に、両足がその場から消える。
そして、視線を恭也へと向ける。
恭也は向かってくる不知火を真っ直ぐに見詰め、鞘に納まったままのアルシェラに手をかける。
不知火は空中にありながら、妖刀を恭也の顔目掛け突き出す。
それを少しだけ頭を傾け紙一重で躱し、そのまま不知火の下に入り込むとアルシェラを抜き放つ。

──御神流 虎切

恭也が不知火の体を斬るのと同時に、アルシェラから大きな力が噴き出し不知火の体内へと注がれる。
地面へと倒れた不知火は、そのまま姿を消し、後に残った妖刀が音を立てて折れる。

【士郎】
「終ったな」

それらを見届け、士郎はほっと胸を撫で下ろす。
と、恭也がその場に蹲る。

【士郎】
「お、おい、どうした?」

士郎が駆け寄るよりも早く、アルシェラが姿を現し恭也を抱える。

【アルシェラ】
「どうした、恭也」

恭也はアルシェラの腕の中で気を失う。
それを見た士郎が義久に食って掛かる。

【士郎】
「おい、これはどういう事だ!」

【義久】
「お、落ち着いてください。お、恐らく、呪いが解ける前兆ですから。
明日になれば、元に戻っているはずです」

【士郎】
「はず?」

【義久】
「ま、間違いなく解けますから」

【士郎】
「なら、明日になるまでは、様子見って事だな」

【義久】
「はい」

【士郎】
「これで元に戻ってなかったら、ただじゃすまないからな」

【義久】
「だ、大丈夫ですよ。では、私はこの不知火の回収しないといけないので」

【士郎】
「そいつ、まだ妖刀としての力が残ってるのか?」

【義久】
「多分、ないでしょうね。
幾ら妖刀とは言え、折れた上にあんな力を注ぎ込まれては」

【士郎】
「これで妖刀の件は無事に終了だな」

【義久】
「はい。私もこれを早く持って帰って、亜弓様に報告をしなければ」

【士郎】
「しかし、一体誰が何のために盗んだんだろうな」

【義久】
「それは結局、分かりませんでした。その件も含め、私たちは明日の朝一にでも発ちます」

【士郎】
「そうか、なら俺は爺さんの手伝いに戻るか」

【義久】
「ああ、あのご老人ですか。あの方は一体、何者ですか。只者ではないですよね」

【士郎】
「さあな。俺も詳しくは知らん。ただ、仕事を依頼されただけだからな。
まあ、悪い人じゃないみたいだからな」

【義久】
「まあ、士郎さんが良いなら良いですけど」

そんな二人の会話に、アルシェラが割って入る。

【アルシェラ】
「そんな事より、さっさと戻るとしようぞ」

【士郎】
「それもそうだな。じゃあ、戻るとしますか」

士郎の言葉を合図に、アルシェラたちはホテルへと戻って行った。





  ◇ ◇ ◇





士郎と不知火が戦った場所より少し離れた場所。
大きな木の根元で目を閉じていた男が、ゆっくりと目を開ける。

【男1】
「どうやら、上手いこといったみたいだな」

【男2】
「ああ。これで後は……」

【男1】
「肝心なのが今、手元にないけどな。誰かさんのせいで」

【男2】
「悪かったな……。アンタもいい加減しつこいな、呂飛」

【呂飛】
「俺がしつこい訳じゃないさ。ただ、肝心の所でしくじった馬鹿がいたのが悪いだけだ。
そう思わないか、箔人」

呂飛と呼ばれた男は、嫌味たらしく自分の名前を呼んだ男、箔人に向って同意を求める。
それに顔を顰めつつ、反撃を試みる。

【箔人】
「しかし、計画を進めたのはお前だろ」

【呂飛】
「ああ。下手にやって、何が起こるか分からないからな。だから、この判断は間違っていないさ。
ただ、出来るなら、アレをすぐに確保できる位置に置いておきたかっただけだ」

呂飛の言葉に、元々失敗したのは自分という事もあり、反論も出来ず押し黙る。
そんな箔人を睥睨し、舌打ちをすると吐き捨てるように続ける。

【呂飛】
「とりあえず、これで最終段階に入ったんだ。後は、爺よりも先に……」

【箔人】
「ああ」

そう言うと二人は立ち上がり、鬱蒼とした林の中へと姿を消した。






つづく




<あとがき>

はー、何か久し振りのような……。
美姫 「気のせいではないと思うけどね」
まあ、いろいろとあるのさ。
美姫 「単に遅いだけでしょ?」
疑問形なのに、断定しているように聞こえるのは何故?
美姫 「それは浩がそう思ってるからよ」
うぐぬぬぅぅぅぅ。言い返せないではないか。
美姫 「はいはい、馬鹿言ってないで、次、次」
へ〜いへい。








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