『とらハ学園』






第42話






妖刀不知火との一戦から明けた翌日。
士郎はゆっくりと目を覚ます。
そして、昨日からベッドで眠っているはずの恭也を覗き見て、驚いた顔で固まる。

【士郎】
「なっ!」

士郎の声に、アルシェラが目を覚ます。

【アルシェラ】
「全く五月蝿い奴じゃの。一体どうしたというのじゃ」

そんなアルシェラを一睨みし、士郎は喚く。

【士郎】
「この馬鹿!何で、また恭也のベッドで寝てるんだ。しかも裸で!」

【アルシェラ】
「お主、余の裸を見たのか!」

アルシェラの剣幕に、士郎は少したじろぎながらも気丈に答える。

【士郎】
「アホ!誰が見るか!ただ、肩が見えただけだ。それよりも、どういう事だこれは」

【アルシェラ】
「どうとは?」

【士郎】
「これだよ、これ」

そう言って士郎が差した先には、裸の恭也が眠っていた。
それも子供の姿ではなく。

【士郎】
「お、お前ら、まさか。いや、別にそれがいけないとは言わん。
ただ、横でそんな事があったのに、目を覚まさなかった俺自身を悔やんでいるだけで」

そんな事を言っていると、不意に声が掛けられる。

【恭也】
「で、目を覚ましたらどうするつもりだったんだ?」

【士郎】
「それは、それをネタに恭也をからかったり、少し脅したり……って、目が覚めたのか」

【恭也】
「あれだけ騒がしければ目も覚める。で、アルシェラ。何故、俺のベッドにいて、服を着ていないんだ」

なるべくそちらを見ないようにしながら、しかしながら顔を赤くして恭也は尋ねる。
それに対し、アルシェラはシーツで体を包みながら答える。

【アルシェラ】
「うむ。恭也が元に戻ると言う事だったんで、子供のサイズの服など着せておけんだろう。
かと言って、子供の恭也に大きな服を着せる訳にもいかんからの。
そうなると、幾ら室内で春とは言え、この地はまだまだ冷え込む。
そういった場合、裸で抱き合うと温かいと聞いてな。そういう訳じゃ」

どこか誇らしげに語るアルシェラに対し、恭也は望んでいるであろう言葉をかけてやる。

【恭也】
「そうか。それはありがとうな」

【アルシェラ】
「うむ。気にせずとも良い。余と恭也の仲ではないか」

恭也は笑みを浮かべながら頷く。
そんな恭也に、士郎が声を掛ける。

【士郎】
「元に戻ったか。良かった、良かった。
俺も苦労した甲斐があったというもんだ。お前は覚えてないだろうが、大変だったんだぞ。
分かったら、俺に感謝しろよ」

そう言って踏ん反り返る士郎に、恭也は冷たい眼差しで答える。

【恭也】
「因みに、その時の記憶はあるぞ」

この台詞に、士郎の動きが見事に止まる。
胸を踏ん反り返らした姿勢のまま、それはもう見事に。
やがて、士郎は錆びたブリキの玩具のように、ギギギと音が立ちそうな程ぎこちない動きで恭也を見る。

【士郎】
「全部か?」

【恭也】
「ああ。第一、おかしいと思わなかったのか。
さっきのアルシェラとの会話で、俺が不思議に思っていなかった事に。
記憶がなかったら、アルシェラの言った子供の俺という所に何らかの反応があるだろう」

恭也の言葉に納得するも、士郎は嫌な汗が流れ出るのを押さえられなかった。

【恭也】
「よくもまあ、散々好き勝手してくれて」

【士郎】
「ま、待て恭也。俺の言い訳を聞いてくれ」

士郎は恭也へと言葉を紡ぐ。
それを受け、言い分だけならと頷く。

【士郎】
「つまり、あれだ。あの時のお前の態度や口調に俺は鳥肌が立ったんだ」

【恭也】
「それはよく分かる。記憶がある分、今思い出しても、俺も鳥肌が立つ」

【士郎】
「だろだろ。そのストレスみたいなもんを解消した……、というのは駄目か」

【恭也】
「少し苦しい言い訳だな」

【士郎】
「じゃ、じゃあ…」

【恭也】
「じゃあ、と言うのは何だ」

【士郎】
「まあ、聞け。
そう、妖刀不知火との決戦を前に、緊張を解そうとしたってのはどうだ」

恭也は半眼になると、士郎に尋ね返す。

【恭也】
「それが通じると思うか?」

【士郎】
「思ってない」

二人の間に、妙な沈黙が下りる。
その沈黙を破るように、アルシェラが後ろから恭也に抱き付く。
突然の事に驚く恭也だったが、シーツ一枚だけを隔て、伝わってくる弾力に顔を赤くする。

【恭也】
「ア、アルシェラ。何を…」

【アルシェラ】
「子供の頃の恭也も可愛かったが、やっぱり恭也は今の方が良い」

アルシェラは甘えるように恭也にじゃれつく。
元々、魔神として恐れられ、人の温もりを知らなかったアルシェラは、それを教えた恭也に必要以上に抱き付く傾向があった。
そして、子供になった恭也はアルシェラの事を忘れていた為、口や顔には出さなかったが、少し寂しく感じていたのだろう。
それを理解した恭也は、少しだけ大人しく抱き付かれることにする。
珍しく抵抗してこない恭也に気を良くしたのか、アルシェラは恭也の首に手を回すと、その首筋に甘えるように頬を摺り寄せる。
恭也はくすぐったいのを堪えながら、士郎へと向き直る。

【恭也】
「で、他に言い分は?」

【士郎】
「………………」

【恭也】
「ないんだな。はー」

呆れたように溜め息を吐く恭也を見ながら、士郎は笑みを浮かべつつ言う。

【士郎】
「ふっ、恭也。偉そうな事を言っておきながら、そんな格好では説得力に欠けるわ!
これに懲りたら、俺に逆らわない事だな。今の状況を美由希たちに知られたくはないだろう。くはははははは」

何故か高らかに笑い声を上げつつ、士郎は勝ち誇ったように言う。
それを見ながら、恭也は確かに知られたら、理由は分からないが不機嫌になる美由希たちを思い出す。
そんな恭也に気付かず、アルシェラは恭也に抱きついたままだった。

【恭也】
「アルシェラ、そろそろ離してほしんだが」

【アルシェラ】
「後少しだけ」

普段の物言いと違う、しおらしい声に恭也も強く言う事が出来ず、

【恭也】
「いや、その。さっきから何をしてるんだ。くすぐったいのだが」

【アルシェラ】
「うむ。マーキングという奴じゃ。何でも、こうしておけば所有者が誰なのかはっきりとできるらしい」

恭也は頭を抱えながら、

【恭也】
「それは猫とかの話だろ」

【アルシェラ】
「そうなのか?でも、これはこれで気持ちが良いから、後少しだけ…」

アルシェラの言葉に、恭也は溜め息を吐きながらも、諦めたように大人しくする。
と、その視界に、にやにやと笑みを浮かべた士郎が飛び込んでくる。
それに対し、恭也は内心の怒りを押さえ込み、ゆっくりと喋り出す。

【恭也】
「そうか…。父さんは反省の色が全くなしか。
こんな手は使いたくなかったんだが、仕方がないな」

恭也の台詞を面白そうに聞きながら、士郎は不遜な態度で尋ねる。

【士郎】
「ほーう。一体、何をするつもりだ」

【恭也】
「俺は何もしないさ。俺はな」

やけに強調して言う恭也に対し、自身満々で恭也の言葉を待つ士郎だったが、
続く言葉に先程以上に固まり、恐怖に体を振るわせる。

【恭也】
「俺はただ、、美影さんやかーさんに言うだけだ。この旅行での出来事をな。
二人とも、俺の話をよく聞きたがるからな。
そう、この旅行で父さんが俺を利用しただけでなく、見ず知らずの女性と食事をしたと。
それも、自分から声をかけたとな。後、美影さんから貰った旅費を無くした事も言わないとな」

士郎は何を想像しているのか、顔にびっしりと汗を浮かべる。

【士郎】
「は、はははは。恭也、冗談だよな。な、な。
冗談だろ、冗談だと言え、言ってくれ、お願いします」

半ば取り乱したように言ってくる士郎に対し、恭也は酷く冷静に告げる。

【恭也】
「反省してるのか?」

【士郎】
「してる、してる。それは、もう。そう、海よりも深く、富士よりも高く」

【恭也】
「意味は良く分からないが、反省しているみたいだし、今回だけだからな」

【士郎】
「おお!それでこそ、俺の息子だよ。
よし、今日は好きなものを何でも食え!」

途端に上機嫌になり、そんな事を言う士郎を見ながら、恭也は早まったかもと考えていた。
因みに、その金は恭也が稼いだものだったりするし。





  ◇ ◇ ◇





士郎たちと別れた光望は、前日二人組みの男が話をしていた林へと来ていた。

【光望】
「ふむ。この辺りから感じたんじゃが……。最早、去った後か」

光望は、少し悔しさを滲ませ呟く。
そして、空の彼方を見ると、

【光望】
「それにしても、失敗したわい。
あの士郎殿たちが持っておった妖刀不知火が、まさか七領護法刀の一本じゃったとわ。
これで、全ての封が解けてしもうた。じゃが、これでアレの居場所が探り易くもなったの。
あ奴らもアレを探しておるのなら、そう遠くないうちに出会うじゃろうしの。
とりあえず、士郎殿と合流して協力してもらうかの」

口に出して考えを纏めると、光望は再び林の中を駆け始めるのだった。






つづく




<あとがき>

やっとやっと沙夜の出番が………。
美姫 「長かったわね」
うん、長かった。
しかし、ついにやっと沙夜が、沙夜が。
美姫 「次回に出るのね」
……多分。
美姫 「こっっっっっっっっっっっっっっっの、馬鹿ーーーーーー!!!!!!!」
ぐごばら〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
美姫 「ふーふー。………そう言う訳で制裁は終りました。次回を待っててくださいね」








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