『とらハ学園』






第45話





【士郎】
「と、まあ、そんな訳だ」

話し終えた士郎は、一息つこうと酒に手を伸ばす。
その手を横から伸びた手がきつく打ち据える。

【士郎】
「ってぇ!何しやがる」

士郎は、自分の手を打ち据えた人物、美影を睨むように見る。
しかし、その何倍もの眼光で睨まれ、尻込みする。
そんな士郎に向け、美影が視線だけで周りを見るように促がす。
その視線を受け、士郎が周りを見渡すと、複数の女性陣から凄まじいまでの殺気を向けられていた。
あの時、もし恭也を見捨てていたら、確実に手が出ていただろう。
もっとも、見捨てていなかったからといって、制裁されずに済ますなんて事が出来ない人物もいたが。
士郎は、その人物──美影、桃子によってその場で正座をさせられる。

【士郎】
「恭也、よくも話したな。あの事は秘密だって言ったのに!」

士郎の八つ当たりとも言う言葉に、恭也は溜め息を吐きながら答える。

【恭也】
「は〜。父よ、俺は何も話してないぞ。
俺は不知火で小さくなったとは言ったが、それ以外は話してなかっただろうが」

恭也の言葉に、士郎は思い返してみる。
確かに、恭也は一言も士郎が何をしたのかを言ってなかった。

【士郎】
「じゃあ、誰が」

と言っても、当時の事を知る人間は、恭也、士郎以外には後一人しかいない。
士郎はそちらを見るが、見られた当人であるアルシェラは、澄ました顔でグラスを傾けていた。
その視線に気付いたアルシェラは、憐れむような視線を向ける。

【アルシェラ】
「ほんに物忘れの激しい奴じゃの。今さっき、お主が自分で話したんではないか」

アルシェラの言葉に、記憶を辿る。
と、確かに妖刀不知火事件に関しては、ずっと自分が話していた。
その時、言わなくても良い事まで話してしまったようだ。

【士郎】
「は、はははははは。ついつい勢いってやつで、話してしまったな。はははは」

【美影】
「笑ってないで、あなたはそこで暫らく反省してなさい!」

美影の鋭い声に、士郎は正座したまま素直に頷く。
そんな士郎たちをよそに、沙夜は恭也の背後からそっと前に手を回し、抱きつくと、首筋に鼻をこすりつける。

【アルシェラ】
「何をしておる!」

【沙夜】
「マーキングですわ。昔話をしていたら、急に懐かしくなりまして。
あの時、恭也様が沙夜に見惚れてくださった事を思い出して、つい。
思い出すだけで、とても嬉しいですわ」

笑みを貼り付けながら、恭也の横に座るアルシェラを見る。

【アルシェラ】
「ち、違うぞ。恭也は沙夜に会う前に余にも見惚れておった。
そうじゃ、恭也の初恋の相手は余じゃ」

【沙夜】
「それは、それで結構ですよ。初恋は叶わないといいますし」

【アルシェラ】
「なっ!恭也、余の前に好きになった者はいないのか!」

何故か焦ったような声で、アルシェラは恭也の襟元を掴む。

【恭也】
「ア、アルシェラ落ち着け」

何とかアルシェラの手を取り、襟元から手を離させる。
恭也の膝の上で、なのはは興味深そうな顔をして、恭也を見上げる。
その視線を感じつつも、恭也はそっぽを向く。
それを見ていた士郎が、にやりと笑うと一言言う。

【士郎】
「恭也の初恋なら、知ってるぞ」

そんな士郎を睨むが、士郎はどこ吹く風で受け流す。
士郎に掴みかかろうにも、なのはがいては立ち上がることも出来ない。
そんな恭也に気付いているのか、いないのか、全員が興味津々で士郎へと視線を向ける。
その視線を受けつつ、士郎が口を開く。

【士郎】
「確か、美沙斗、琴絵さん、雪乃さんの順だったよな」

士郎が昔を懐かしむようにしみじみと呟く。
それを聞き、美沙斗と琴絵はああと短く呟く。
全員がそちらを見ると、美沙斗が嬉しそうに話し始める。

【美沙斗】
「あれはまだ恭也が四歳ぐらいの時だと思う。
兄さんがいない時に、私が恭也の相手をしていたら、恭也が言ったんだ。
大きくなったら美沙斗お姉さんを守れるぐらいに強くなって、結婚するってね。
懐かしい思い出だよ」

その美沙斗の言葉に、恭也が顔が赤くなるのを感じる。
昔の事を明らかにされるというのは、何とも居心地が悪いものである。
それに追い討ちを掛けるように、琴絵も言う。

【琴絵】
「そうだったんだ。私は恭也ちゃんが五歳ぐらいの時だったかな?
風邪で寝ていた私の所に来てね。まあ、これ以上は秘密って約束だから言えないけどね。
とりあえず、美沙斗ちゃんと同じ様な事を言ってくれたのよ」

琴絵も嬉しそうに言う。
その言葉を聞きながら、士郎が言う。

【士郎】
「その少し後ぐらいに、神咲の本家に行って雪乃さんに会ったんだよな」

士郎が面白そうに語る。そして、ふと考え込むと、

【士郎】
「恭也、お前は何で人のものを欲しがるんだ?」

不思議そうに尋ねるのだった。
それらの話を聞いていた者たちの中で、美由希が真っ先に口を開く。

【美由希】
「恭ちゃんって、年上好きだったの!?」

その美由希の台詞に、色めき立つ者たち。
それに対し、恭也は疲れたような、呆れたような声で、

【恭也】
「何でそうなる」

その横から、真一郎が笑いながら口を挟む。

【真一郎】
「話を聞く限りじゃ、年上というよりも人妻好き……。
いえ、冗談です。ダカラサッキヲムケナイデクダサイ」

引き攣った顔のまま、半ば涙目になって懇願する真一郎。
それらを少し離れた所から眺めていた真雪が、煙草を咥えながら呟く。

【真雪】
「そりゃあ、恋する乙女は綺麗に輝いているからな。まあ、仕方がないだろ」

【恭也】
「ま、真雪さん」

【真雪】
「まあまあ、そんなに照れなさんな」

【恭也】
「いえ、そうじゃなくて。
よく、そんな恥ずかしい台詞を臆面もなく言えますね。さすが、漫画家」

【真雪】
「て、てめー」

恭也の言葉に顔を赤く染め、恭也に掴みかからんとする真雪を余所に、恭也に想いを寄せる乙女たちは、
先ほどの真雪の言葉に胸の内で叫び声を上げる。

(私たちだって恋してるのに!!)

勿論、恭也がそんな想いに気付くはずもなく、夜は更けていく。
恭也もやられっぱなしが癪に障ったのか、それとも単に士郎に腹を立てたのかは分からないが、
多分、後者だろうが口を開く。

【恭也】
「俺にお姉さんたちの相手をさせた父さんに言われたくない。
そう言えば、不知火の時以外にも、何度かさせられたな。
ああ、そう言えば、危うくどこかに連れて行かれようとして、父さんの姿を探したけど何処にもいなかったなんて事も。
確か、あの時の父さんはその金でどっかの店に入って、一人でご飯を食べてたんだったよな。
あの時、俺は必死でもがいて逃げようとしたんだった」

恭也は遠い目で淡々と語る。
そんな恭也に向け、士郎は汗を掻きながら人差し指を口に当てる。

【士郎】
「シー、シー。恭也、そ、それは…」

必死で訴えかけてくる士郎を無視し、恭也は続ける。

【恭也】
「別に恨んでないよ父さん。あの時のお姉さんから必死で逃げようとした時に、貫の片鱗を見た気がするからな。
多分、あの経験で人の死角というものを大いに学んだ気がするしな。
その後、暫らくして貫が打てるようになったんだった。
そういえば、あの時お姉さんを振りほどいて逃げるときに神速の片鱗を見たのかもしれないな。
最も、神速だけは、すぐに使えなかったけどな。
でも、あの経験のお陰か、神速の領域に入ったときも、それ程の驚きはなかったな。
いやー、懐かしい。
流石に、あのお姉さんに連れて行かれた先に、あんなに大勢のお姉さんたちがいるなんて予想外だったからな。
別に、俺の事を忘れて、一人飯を食べていた事を恨んでいる訳じゃないぞ。
ましてや、その金が俺を差し出して手に入れた金だったり、俺が這々の態で逃げた時には、
一人満足げな顔で全ての金を使い果たしていた事なんて、これっぽちも恨んでないさ」

士郎は、恭也の話を聞きながら、襲い来るプレッシャーに耐えていた。
そんな士郎を一瞥すると、恭也は止めの一言を放つ。

【恭也】
「そう言えば、そうやって路銀を稼いでいる時に知り合ったお姉さんの一人と父さんはどこかに行ったよな。
俺を置いて。別に置いて行かれた事は何とも思ってないぞ。
修行で全国を周っている時には、野宿なんてしょっちゅうだもんな。
別に、二日ほど何も食べていないのに、自分だけそのお姉さんの家でご馳走になっていた事や、
翌日の昼まで俺の事を忘れていた事や、自分だけお姉さんの部屋で寝たくせに、
置いて行かれた俺が秋も深まった肌寒い夜に、新聞紙に包まりながら公園で過ごした事なんて、
別に何とも思ってないからな。
………………………所で、そのお姉さんは今も元気なのか、父さん?」

そう言って士郎を見る恭也。
見られた士郎は、汗をダラダラと流していた。
やがて、再びあの二人が怒り出す。

【美影】
「アンタは、小さい恭也に何てことさせてたのよ!
おまけに、何て事をしてたの!」

【桃子】
「士郎さん!幾ら何でも酷すぎます。
まあ、士郎さんとその女性の事は、私と結婚する前の事だから、不問にするとしても、幾ら何でも酷すぎます!」

【士郎】
「は、はははは。あ、あれは、その…………。はははははは。
そんな事もあったかな〜って、思ったり思わなかったりする訳で…。あ、あはははははは」

笑って誤魔化すが、その襟首を美影が掴む。

【美影】
「愛さん、空いているお部屋を借りますね」

士郎は愛に、必死で首を横に振って貸すなと訴えるが、愛にそんなものが通じる訳なく、両手を合わせ笑顔を浮かべると、

【愛】
「はい、どうぞ。自由に使ってくださいね」

と言うのだった。
それを見ながら、大半の人間は助けを求める人選を誤ったと胸中で呟く。
美影に引き摺られながら、士郎は何かを喚くが、その口を後を付いていく桃子が塞ぐ。
そして、遠くから微かにドアの閉まる音が聞こえた。
その後、寮中に一度だけ聞こえた絶叫を、その場にいた全員は揃って気のせいとした。
例え、この後、ぼろ屑のようになった士郎が庭で発見されようとも、あの時の声は聞こえなかったのである。
尚且つ、三日程、桃子に口を聞いてもらえなかった士郎は精神的にも参り、くたびれた様子だったとか。
まあ、それは少し先の話なのだが。



今、リビングから連れて行かれた士郎を見なかった事にして、なのはが不思議そうに沙夜に尋ねる。

【なのは】
「じゃあ沙夜さんは、霊剣じゃないの?」

【沙夜】
「一応、霊剣なんですけどね。正確に言うならば、違いますけど。
簡単に説明しますと、普通、霊剣と言うのは、刀に魂を込めるんです。
でも、沙夜の場合は逆なんですよ」

【なのは】
「逆?」

なのは以外にも、沙夜の言葉に興味があるのか、神咲の者たちも耳を傾ける。
そんな中、恭也が口を開く。

【恭也】
「沙夜は元々は精霊だったんだ。いや、正確には精霊として誕生する予定だった、だな」

恭也の言葉に頷く沙夜。

【沙夜】
「沙夜が生まれようとした所に、たまたま魂の入っていない霊剣があったんですわ。
しかも、かなりの大業物の」

【恭也】
「で、その霊剣はその場で長い時間、放置されている間に、
周りのエレメンタルと呼ばれる自然のエネルギーみたいな物を、その刀身に蓄えていたんだ。
言わば、霊剣として造られながら半ば、魔剣と化していたって所だな」

【沙夜】
「何故、そのような現象が起こったのかは、分かりませんけど。
ただ、その霊剣は普通の霊剣と違っていたって事でしょうね。刀匠も不明ですし」

恭也たちの言葉に、なのはは何となく頷く。

【なのは】
「よくは分からないけど、沙夜さんの生まれようとした場所に、ちょっと変わった霊剣があったって事だよね」

【沙夜】
「ええ、その通りです。そして、その霊剣は沙夜が生まれた瞬間に、沙夜を吸収しようとしたんです。
それを逆に体内に取り込む形で、沙夜は誕生したんですよ」

【恭也】
「まあ、沙夜が普通の精霊とかとは違って、かなりの高位精霊だった事もあるんだろうがな」

恭也の言葉に、アルシェラが面白くなさそうに鼻を鳴らす。

【アルシェラ】
「ふん。ただ単に、その女を吸収して、さしもの霊剣も胃がもたれたんじゃろう。
そこを、この女が逆に喰らいついたという訳じゃ。全く意地汚い」

沙夜がアルシェラに何かを言う前に、なのはが口を開く。
それを見ながら、恭也は胸中でなのはに賞賛を送る。

【なのは】
「えっと、それから沙夜さんはどうしたんですか?」

【沙夜】
「それから、沙夜は色んな所を周りました。
そのうち、桃源郷と呼ばれるところに辿り着いたんです。
そこで、仙人の方たちが空爪を倒そうとしていたので、力を貸す事にしたんですよ。
ただ、誰も沙夜を扱う事が出来なかったんです。
多分、普通の霊剣と違う所為でしょうけど、誰も同調できませんでした。
出来たとしても、力を引き出すまでは…。そこで、沙夜の力で空爪を押さえ込んで、匣の中へと封じたんです。
ただ、その為に沙夜も一緒に匣の中で眠る事になったんですけどね」

【なのは】
「そうだったんですか。じゃあ、沙夜さんがいつも腰に差している鞘は何?
刀はないみたいだけど」

【恭也】
「これは沙夜が剣になった時の鞘だな。どうも霊剣は鞘から抜かれた状態で放置されていたらしくてな。
鞘だけは別の所にあったんだ。それを沙夜が拾ったんだそうだ」

【なのは】
「ふーん。でも、そうすると沙夜さんは霊剣じゃなくて精霊になるのかな?」

【アルシェラ】
「沙夜が精霊じゃと?」

アルシェラが可笑しそうに笑う。
そのアルシェラに笑い返しながら、沙夜が言う。

【沙夜】
「一応、沙夜は精霊とも言えますよ。誰かさんと違って、精霊として生まれながら、魔族とされた方とは違いますから」

【アルシェラ】
「余は魔族ではない!」

【沙夜】
「あら、そうでしたか?アレだけ禍々しい魔力を放つものですから、てっきり…」

沙夜の言葉に、アルシェラの目が吊り上る。
それを制するように、恭也が口を挟む。

【恭也】
「そのぐらいにしておけ。そもそも、アルシェラが魔力を持つのはある意味仕方がないんだから」

恭也の言葉に、またなのはが不思議そうな顔を向ける。
それに答えるように、恭也が話し始める。

【恭也】
「精霊が生まれてくるときには、自然界のエレメンタルを取り込んで生まれてくるんだ。
だから、火を多く取り込む性質を持ったエネルギーが固まり、精霊が生まれると、火の精霊といった具合にな。
で、この時に取り込んだエレメンタルが大きければ大きいほど、力を持つ高位精霊と言う訳だ」

【アルシェラ】
「その為、高位精霊は滅多に生まれてこん。ましてや、現代においては、皆無と言ってもいいじゃろうな」

【沙夜】
「そして、高位精霊の力は、時には魔族や神族すら凌ぐ事もあるんですよ」

三人の言葉に、なのはは頷く。

【恭也】
「で、精霊が生まれる時には、その時の場所に左右される。
例えば、水の中で生まれるような精霊なら、水の精霊である事が多かったりな。まあ、これは一例だがな。
たまに、満遍なくエレメントを吸収してそういった属性みたいなものを持たない精霊も生まれる。
殆どありえないがな。沙夜はその例外だ」

恭也の言葉に、沙夜は頷く。

【沙夜】
「そういった感じで生まれる精霊は、大概、高位精霊なんですよ。それも、かなりの力を持つ。
沙夜の場合、そうやって生まれる瞬間に、霊剣も取り込んだと言う訳です。
沙夜の力が強かったからこそ、出来たことなんですよ。
そして、アルシェラさんも、その数少ない例外の精霊なんです」

沙夜がアルシェラへと視線を向ける。
その視線を受け、アルシェラが偉そうに頷く。

【アルシェラ】
「そういう事じゃ。
特に余の場合、人間たちの間にも魔法力を持つものが当たり前のように存在していた時代ゆえ、その力はとてつもないがな」

【恭也】
「で、アルシェラが生まれようとした時、かなり特殊な、そう本来なら絶対に起こらないような現象が起こったんだ。
アルシェラの生まれようとしている場所を中心として、神界、魔界、精霊界の三つの出入り口が同時に開いたんだ。
暫らくは、その状態だったらしい。で、精霊は生まれる時にその周りのエレメンタルを取り込む。
だから、アルシェラは神界、魔界、精霊界のエレメンタルまで取り込んだんだ。
そのお陰で、元々高位精霊として誕生するはずだったアルシェラは、
安定した純度の高いエレメンタルを精霊界から大量に吸収し、神界からは同じ様に神族たちの神力を、
魔界からは魔力を吸収していったんだ。だから、アルシェラはその三つの力を使い分ける事が出来るという訳だ」

恭也の言葉に、なのはが感心したような声を上げる。
それを聞きながら、アルシェラは胸を張る。

【アルシェラ】
「言うならば、神族、魔族、精霊の三つの力を取り込んだと言う事じゃ」

そう言ったアルシェラに、沙夜が皮肉のように言う。

【沙夜】
「つまり、アルシェラさんは沙夜以上に意地汚い訳ですね」

【アルシェラ】
「…お主、やる気か?」

【沙夜】
「あらあら、何の事でしょう?でも、どうしてもと仰るのでしたら…」

一触即発の二人に、恭也が拳骨を落とす。

【恭也】
「いい加減にしろ」

【アルシェラ】
「恭也、痛いぞ」

【沙夜】
「恭也様、痛いですわ」

少し涙目になる二人を見ながら、少しやり過ぎたかと思う。
しかし、口からは違う事を言う。

【恭也】
「あまり喧嘩をするなよ。二人とも、俺にとっては大事なんだから」

この言葉に、アルシェラと沙夜は嬉しそうな顔をすると、それぞれ恭也の腕に抱き付く。

【アルシェラ】
「恭也がそう言うのなら、余は喧嘩をせんぞ」

【沙夜】
「沙夜もです」

そう言って甘えるように擦り寄ってくる。
恭也は立ち上がって逃げようとするが、未だに膝に座っているなのはの所為で、立つことが出来なかった。

【恭也】
「二人とも、少し離れろ」

【アルシェラ】
「何を言う恭也。いつも余を強く握るではないか」

【沙夜】
「そうでございます恭也様。いつも沙夜に腰を押し付けるではないですか」

この二人の態度と言葉に、周囲から殺気が沸き起こる。
そんな中、恭也は大声で喚く。

【恭也】
「それは訓練の時で、しかもお前らは剣になってる時だろうが」

その言葉に、殺気混じりの視線が緩むが、なくなることはない。
二人がくっ付いている所為なのだが、恭也にそんな事を考える余裕もなかった。
何とか引き離そうとする恭也に対し、アルシェラは恭也の腕を離すと顔を伏せる。

【アルシェラ】
「うぅ。さっきの恭也の一撃は痛かったのじゃ」

【沙夜】
「沙夜も、とても痛かったです」

沙夜の言葉に、アルシェラは沙夜の殴られた所を見る。

【アルシェラ】
「おお、可哀相に、沙夜。こんなに腫れて」

今度は沙夜がアルシェラを見て、

【沙夜】
「アルシェラさんも可哀相に。こんなになってますわ」

そう言うと、二人して恭也を見る。
恭也は溜め息を吐きながら、

【恭也】
(何でこんな時ばかり、仲が良いんだ)

そう思いつつ、恭也は二人に拳骨をお見舞いした所をそっと撫でる。
その手の温もりや、気遣いに口元を緩ませる。
やがて、手を降ろした恭也の腕をお互いに取り、二人は大人しく恭也の肩に頭を乗せる。
恭也は何も言う気がせず、最早好きにさせようと思い、そのまま大人しくする。
その所為で、更に殺気が膨れ上がるのを感じながら、恭也は疲れた顔で天井を見上げる。

【恭也】
(俺にどうしろと言うんだ…)

そんな兄を見上げつつ、なのはは苦笑を浮かべていた。






つづく




<あとがき>

これで、沙夜編完!
次回は、また日常に戻ってもらいましょう。
美姫 「ドタバタ?」
その予定だよ。で、それを何話かしたら、過去編にしようかなと。
美姫 「次の過去編は誰かな?」
誰でしょうね。まだ未定。
とりあえず、ドタバタ日常へと戻ります。
美姫 「じゃあ、また次回に…」
お会いしましょう。








ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ