『とらハ学園』






第47話





アルシェラと出掛けた日の夜。
食後に居間で寛いでいた恭也へと、美由希が話し掛ける。

【美由希】
「恭ちゃん、何でアルシェラさんとだけ出掛けたのよ」

この美由希の言葉に、月夜たちもうんうんと頷き、恭也の説明を待つ。
そんな美由希たちを不思議そうに眺めた後、恭也は口を開く。

【恭也】
「何でと言われても、お前たちは今日予定があって家にいなかったじゃないか」

恭也の正論に言葉を詰まらせる美由希たちだったが、月夜が真っ先に口を開く。

【月夜】
「でも、恭也は今日、予定が無いから一日中、家でゆっくりしているって言ってたじゃないか!」

この言葉に怯んでいた美由希も力強く頷く。

【美由希】
「そうだよ。月夜の言うとおりだよ。何処かに行くなら行くで、ちゃんと言ってくれれば……」

【恭也】
「そんな事を言われてもな。始めは本当に予定がなかったんだから、仕方がないだろう。
 アルシェラに急かされて、急に出掛ける事になったんだから」

全員の視線がアルシェラへと向う中、アルシェラ本人はそんな視線を感じていないのか笑みを浮かべつつ、
掌でぬいぐるみを弄っていた。

【月夜】
「アルシェラがぬいぐるみねー」

半ば八つ当たり気味に鼻で笑いつつ言う月夜に、アルシェラは余裕の笑みを返す。

【アルシェラ】
「これは特別じゃからな。何せ、恭也がどうしても余に貰ってくれと申した品じゃからな」

この言葉に月夜たちは物凄い形相で恭也を見る。
そんな美由希たちに少し怖いものを感じつつ、恭也は考えていた。

【恭也】
(瑠璃華は兎も角、月夜や美由希はぬいぐるみなんか興味ないんじゃないのか)

『ぬいぐるみ』ではなく『恭也のあげた』という所に反応しているのだが、当然気付くはずもなく、
何となく恭也の考えている事が分かったのか、美由希たちは揃ってため息を吐くのだった。
そして、珍しく何も言わない沙夜へと視線が移る。
その視線に気付いたのか、口を付けていた湯呑みを引き離し、沙夜は首を傾げる。

【沙夜】
「皆さん、如何しましたか?」

【瑠璃華】
「いえ、沙夜さんが何も仰らないので少し不思議だっただけです」

そんな瑠璃華に笑みを返し、沙夜は茶を一口啜る。

【沙夜】
「そんなに目くじらを立てても、済んだ事はもう仕方がありませんから」

優雅に微笑むと、沙夜は再びお茶はを飲むのだった。
そんな沙夜を不審に思いつつも、美由希たちは恭也へと視線を向け直す。

【美由希】
「恭ちゃん、私たちも何処かに連れて行ってよ!」

【月夜】
「そうだぞ、恭也。今度の連休にでも」

【瑠璃華】
「恭也さん、宜しければお願いいたします」

三人に詰め寄られ、恭也は頷く。
それを見て嬉しそうな顔を見せる美由希たちに、恭也は言う。

【恭也】
「まあ、アルシェラと沙夜とも約束したしな。
皆、同じ日で良いよな」

その言葉を聞き、美由希たちは一斉に沙夜へと視線を向ける。
口にこそ出してはいなかったが、目が如実に語っていた。

『沙夜さんが落ち着いていたのは、この約束をしていたからなんですね。自分だけずるい』

その視線の意味を理解しつつ。沙夜はあくまでも惚けるのだった。
そんな様子を見ていた美影が、恭也たちに話し掛ける。

【美影】
「私も皆と一緒に何処かに行きたいわね。そうね、泊りがけで」

【美沙斗】
「でも、かーさん。今からだと何処も取れないと思うけど」

美沙斗の言葉に、美影は士郎へと視線を向ける。

【士郎】
「な、何だよその目は」

【美影】
「何処かに行きたいわね」

【士郎】
「だから、今からじゃ無理……」

【美影】
「私は信じているわよ。きっと優しい息子が何とかしてくれるって」

そう言って美影は笑みを浮かべる。

【士郎】
「…………まあ、心当たりがない訳でもないが。一応、聞いてみるが絶対じゃないからな」

念押しすると、士郎は電話を掛けるために部屋を出て行く。
暫らくして、士郎は戻ってくる。

【士郎】
「はぁ〜。取れたと言うか、貸切だ」

【一臣】
「貸切?兄さん、一体何をしたんだ?」

【士郎】
「何だ、その言い方は。別に俺は何もしてないぞ。
たまたま、団体客が入ってたのが、キャンセルになったみたいだ。
で、その団体客以外は予約がなかったみたいでな」

【静馬】
「その割には、何箇所かに電話を掛けていたようだけど?」

【士郎】
「………細かい事は気にするな。まあ、あれだ。
その団体客がとある一団で、その代表者と俺が知り合いだったんで、誠心誠意頼んだ結果だな。
別にアイツの弱みをちらつかせて……とかはやってないぞ。
昔話をちょっとしただけだ」

そう言う士郎を静馬は冷めた目で見詰め、何かを言おうと口を開きかけるが、それよりも先に美影が声を出す。

【美影】
「士郎……」

【士郎】
「な、何だ。べ、別にまずい事はしてないぞ。
それに、アイツは馬鹿でかい別荘を持っているから、そっちに行くと言ってたし」

しどろもどろに言い放つ士郎に、美影は笑みを見せる。

【美影】
「よくやりました。貸切なら、恭也たちのお友達も呼んで上げましょう」

美影の言葉に士郎はほっと胸を撫で下ろすが、それも束の間。
美影が真剣な口調で再び話し掛けてくる。

【美影】
「所で士郎…」

【士郎】
「は、はい」

思わず姿勢を正し、士郎は美影へと向き直る。
幾分、緊張気味に美影の言葉の続きを待つ。

【美影】
「そこは温泉がありますか」

美影の言葉に、士郎は最初何を言われたのか分からないといった間の抜けた顔をする。
改めて美影に尋ねられ、士郎は頷く。

【士郎】
「あ、ああ。あるぞ。確か露天風呂が」

【美影】
「そう」

士郎の答えに満足そうに頷くと、美影は嬉しそうに立ち上がる。

【美影】
「では、準備をしないと」

【士郎】
「あっ?準備ったって、まだ日にちはあるぞ?」

【美影】
「何事も余裕を持ってしないとね」

そう言って美影が出て行くのを確認すると、士郎はほっと胸を撫で下ろすのだった。

【士郎】
「はぁー。まあ、とりあえずそういう事だから、他に呼ぶんだったら呼んどけよ。
何せ、旅館丸々貸しきり状態だからな。相当な大人数でも問題ない。おまけに、宿泊費はアイツ持ちだしな」

【恭也】
「父さん、それは…」

【士郎】
「良いんだよ。仕事料代わりなんだから」

士郎の言葉に恭也は納得する。
そんな恭也に士郎は声を掛ける。

【士郎】
「恭也。分かっているとは思うが、鍛練の用意だけは忘れるなよ」

【恭也】
「ああ、分かっている」

【士郎】
「それと、日程は5月の3日〜5日だからな」

士郎の言葉に全員頷くのだった。






つづく




<あとがき>

色んな意味でお久し振り〜!
美姫 「本当に。最近、とらハ学園書いてなかったわよね」
ははは。
とりあえず、次回は温泉編。
美姫 「ドタバタ?」
うん、ドタバタ予定。
そういう訳で、次回をお楽しみに!
美姫 「温泉……。殺人事件?」
何でじゃぁ!
美姫 「何となくかな」
……それも良いかも(ボソ)
美姫 「とりあえず、また次回でね」








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