『とらハ学園』






第50話





外での一騒動の後、かなり動転していた女子たちをアルシェラに任せて先に帰し、
恭也と真一郎は旅館から着替えを持って来て二人へと渡す。
それに身を包むと、二人は旅館へと戻る道を歩く。

【恭也】
「で、何で二人はあんな所に、しかもあんな姿で居たんだ?」

【耕介】
「頼む、聞かないでくれ。さっきの出来事は、最早俺の中ではトラウマとして残るだろう…」

遠い目をしながら呟く耕介だったが、そんな耕介に対し真一郎が思わず呟く。

【真一郎】
「まさか、趣味とは言わないよな」

【恭也】
「幾ら何でも、それはないだろう。父さんだけならまだしも…」

【士郎】
「おい、こら。今、聞き捨てならない事を耳にしたぞ」

【恭也】
「気のせいだろう」

【士郎】
「何だ、気のせいか。……って、そんな訳ないだろう。
はっきりと聞いたぞ」

喚く士郎を一瞥すると、恭也は言う。

【恭也】
「それじゃあ、何であんな所にあんな格好でいたんだ?
しかも、簀巻きにされていたという事は、誰かにやられたという事だよな」

【士郎】
「は…はっはっはっは。まあ、良いじゃないか。
それよりも腹が減ったなー」

【恭也】
「夕飯は終ったぞ」

【士郎】
「……くぅ〜」

がっかりと肩を落とす士郎を見て、流石の恭也もそれ以上の追求は止めておくのだった。





  ◇ ◇ ◇





翌日、離れになっている大広間で朝食を食べ終え、ゆっくりとしながら今後の予定を話し合っている一同の元へ、
数人の男たちが襖を乱暴に開けて乱入してくる。
その手にはそれぞれ銃を持っていた。
六人の男たちは部屋の中を見渡すと、その顔に安堵を浮かべる。

【男A】
「女と子供ばっかりか。助かったぜ。
おい、お前ら、騒ぐんじゃねーぞ。大人しくしてたら、何もしねーからな」

リーダー格と思われる男が声を上げ、その手にもった銃を威嚇するかのように見せつける。

【小鳥】
「真くん…」

そんな男たちを見て、小鳥は小さく震えながら横に座る真一郎を見る。
真一郎は安心させるように微笑むと、そっと小鳥の手を握る。

【真一郎】
「大丈夫だから」

真一郎の言葉に小鳥は小さく頷く。
それだけの事で、まだ恐怖はあるものの震えは何とか治まる。
同じように、なのはも桃子に手を握ってもらっていた。

【男A】
「とりあえず、飯だ!飯を用意しろ!」

最も近い距離にいた美影へと銃を向け、命令をする男。
そんな男に向って、刺激をしないようにそっと美沙斗が話し掛ける。

【美沙斗】
「あなた方は…」

その問い掛けに別の男、この中で最も大柄な男が応じる。

【男B】
「俺たちが何者かって?ただの通りすがりの者だよ。別に怪しくはないぜー」

ニヤニヤと形容するに相応しい笑みを貼り付け、男は美沙斗の全身を舐めるよう見ながら答える。
その視線に粘りつくような視線に嫌悪しつつ、美沙斗は少しだけ身じろぐ。
それを恐怖と受け取ったのか、男の顔に益々笑みが張り付く。
そんな男にさらに別の男が笑いながら声を掛ける。

【男C】
「おいおい。お前は充分に怪しいって。ほら見ろよ。皆、お前を怖がって一言も喋らないじゃないか」

【男D】
「違いない。お前以上に怪しい奴なんざ、滅多にいないぜ」

男Cの言葉に他の男たちからも笑い声が上がる。

【男B】
「おいおい。それはないぜ。これでも俺は紳士だぜ」

【男E】
「お前が紳士ってんなら、俺たちはさしずめ聖人か」

何が可笑しいのか、また笑い声を上げる男たち。
そんな男たちに向って、静馬が静かに話し出す。

【静馬】
「そう言えば、この山を降りて少し行った所にある街で昨日銀行強盗があったな」

【恭也】
「そういえば、そんなニュースをしていましたね」

【勇吾】
「そう言えば、夕食後のニュースでやってたな。確か犯人は未だに捕まらずに逃亡中だって」

静馬の言葉に恭也、勇吾が答える。
その言葉を肯定すべく、男の一人が頷く。

【男F】
「その通りだよ、坊やたち。その犯人が俺たちって訳だ」

【男A】
「何も気付かなければ、命は助かったかもしれないものを」

【士郎】
「けっ!どうせ元から見逃す気なんかねえくせに、よく言いやがるぜ」

【男C】
「てめー、あんまりふざけた事言ってるぞ、真っ先に撃つぞ!」

【士郎】
「出来るもんなら、やってみな」

笑みさえ浮かべ、男を挑発する士郎。
その言葉に、男は顔を真っ赤にするとその銃口を士郎へと向ける。
しかし、男が発砲する事はなかった。

【男A】
「良いから落ち着け!そんなくだらない挑発に乗るんじゃねえ。
あんたも、大人しくしてろ。そうすれば、命までは取らねえよ。
こちとら、夜通し山道を歩いて腹が減ってるんだ。とりあえず、腹ごしらえが目的だ」

【士郎】
「で、それが終ったら、次は女だとかぬかすんだろうが。
ここには綺麗どころがいっぱいだしな」

【男A】
「さあな。そこまでは否定しないさ。尤も、そちらが否定できるかどうかは別だがな」

これみよがしに銃を見せ付け、卑下た笑みを見せる。

【男A】
「だが、命までは取らねえぜ」

【男B】
「ぐへへへ。そうそう。ちょっと味見をさせてもらうだけだ。
あまり逆らうと、嫁にいけない身体になるかもしれないから、大人しくした方が身のためだぜ」

【男A】
「とりあえずは、飯だ!飯!ひょっとしたら、気が変わってそれで引き上げるかもしれないぜ」

ここにいる誰もがそれは絶対にないと確信している事をわざとらしく口にすると、男はもう一度周りを見渡す。
そんな男たちをつまらなさそうに見た後、アルシェラが恭也に話し掛ける。

【アルシェラ】
「で、恭也。いつまでこうしておれば良いんじゃ?余は退屈じゃぞ。
さっさと何処かへ行こうではないか。時間の無駄じゃ」

銃を見せられても怖がらず、堂々と話をするアルシェラに男の一人が銃を向ける。
そして、改めてその姿を見て、我を忘れてアルシェラに見惚れる。
しかし、すぐに頭を何度か振って気を取り直すと、アルシェラに向って言葉を放つ。

【男D】
「姉ちゃん、くだらない事を言ってないで、大人しくしてな。飯を食った後でなら、たっぷりと可愛がってやるからよ。
その時は、好きなだけ声をだしな」

何を想像しているのか、男はいやらしい笑みを貼り付けながら言う。
しかし、当のアルシェラは自分に銃口が向けられても態度を全く変えず、それどころか男に噛み付く。

【アルシェラ】
「無礼者が!お主など余に触れる事すら許さぬわ。
余に触れても良いのは恭也だけじゃ。分かったのなら、さっさとここから去ね」

あくまでも淡々と告げるアルシェラに、男は怒りの表情を浮かべる。
その男だけでなく、他の男たちも同じようにその顔に怒りを浮かべる。

【彩】
「あの人たちも可哀想と言えば、可哀相よね」

男たちに聞こえないようにこっそりと彩が和真へと囁く。

【和真】
「そうですね。逃げた先がここじゃなかったら、あるいは上手くいったかもしれませんからね」

【北斗】
「でも、犯罪者相手にそこまで心配してあげる必要もないですよ」

北斗の言葉に和真と彩も頷く。
その言葉が聞こえた訳ではないのだろうが、先程から半数以上の者が誰も怖がっていない事に気付き、
それが彼らの怒りに拍車を掛ける。

【男F】
「お前ら、いい加減に自分たちの立場を理解しろよ!」

【一臣】
「それは、あなたたちの方ではないですか。例え、ここを逃げたとしても警察はそんなに甘くないですよ。
いずれ捕まりますよ。そうなる前に、自首した方が…」

一臣の言葉を遮るぎるように、リーダーの声が響く。

【男A】
「お前ら、まだ自分の立場が分かっていないみたいだな。
俺たちは別に説教を聞く為にここにやって来たわけじゃないんだ。
さっさと言う事を聞け!もし、俺たちが撃てないと思っているんなら、それは大間違いだからな。
俺たちはここに来る前に一人既に撃ってるんだぞ。今更、自首なんぞ出来るか!
一人やるのも、二人やるのも大して変わらないんだぜ。
何だったら一層の事、誰か見せしめに殺してやろうか?ああー!」

リーダーが今までよりも低い声で脅すが、殆どの者には効果がない。
しかし、数人は確かにそれによって怖がっている。
真一郎の手を握る小鳥の手が大きく震え、それをそっと真一郎が握り返す。
なのはは桃子の腕にしがみ付き、そっと顔を逸らす。
それを見た士郎と恭也の目が険しくなり、光を放った事に男たちは全く気付いていなかった。
また、他にもなのはの様子に気づいたものが数人いたが、彼女たちは一斉に犯人のこの後に同情こそしないものの合掌する。
そして、士郎と恭也が行動を移そうとした時、美影が静かに口を開く。

【美影】
「そのぐらいにしておいた方が良いわよ。一臣の言う通り、このまま逃げ切るなんて到底無理よ。
それと、あまり大声を出して孫を怖がらせないでもらえるかしら。
大人しく自首するというのなら、ご飯ぐらいは用意しますけど」

穏やかに話し掛ける美影に対し、リーダーは一言だけ返す。

【男A】
「うるせえぞ、このクソ婆!人が下手にでていれば、調子に乗りやがって!」

男が美影に向ってそう言った瞬間、恭也たちは凍りついたように動きを止め、次いで一斉に少しだけ後退る。
それを見て男たちは、自分たちの立場をようやく理解し、今更ながらに恐怖を覚えたのだと思い込み笑みを浮かべる。

【男A】
「そうだ。最初からそうやって大人しくしていれば良いんだよ。
やっと自分たちの置かれている立場が分かったみてえだな。
尤も、少しばかり遅かったみたいだがな。今更そんな態度に出てもな。
まあ、本来なら皆殺しといく所だが、まあおまえ達の態度次第では許してやっても良いぜ。
そうだな、まずは女共は…」

気持ち良さ気に放しているリーダーへと、士郎が声を掛ける。

【士郎】
「お、おい。立場が分かっていないのはお前たちだぞ。
悪い事は言わない。今すぐ謝れ。いや、謝ったってもう遅いかもしれないが、それでも少しはまし…」

何かを言いかける士郎を黙らせようとリーダーが銃口を向け、声を発するよりも早く、
静かな、まるで波一つ立たない湖面を思わせるような本当に静かで深い声が士郎の口を止める。
その声は、決して大きい訳ではないが、全員の耳にしっかりと届き、
怒っている訳ではないのだが、何故か怒られているよりも嫌な予感を感じさせる。

【美影】
「士郎、少し黙っててくれるかしら。そこの人とは私が話があるのよ」

美影の言葉に、士郎は両手で口を塞ぎ、壊れかけた玩具のように何度も頷く。
リーダーは、それに少し圧されそうだったが、手下たちの手前何とか虚勢を張って持ちこたえる。
一瞬でも圧されそうになった事を隠すように、男は必要以上に大声を上げる。

【男A】
「悪いが、俺には話す気なんかこれっぽちもねえんだよ!良いから、お前も黙ってろ、クソ婆」

【美影】
「誰が婆なのかしら。しかも、ご丁寧にその前にクソまで付けて。
……士郎たち、分かっているわよね」

そう言われ、美影の子供、孫たちは一斉に頷く。
流れ弾から、皆を守れる位置へとそっと移動する。
そう告げながら、美影は伏していた顔をゆっくりと上げていく。
その温和そうな笑みを見て、恭也たちは更に後退る。
それを男たちは何を勘違いしたのか、笑みを更に深め優越感に浸る。

【男E】
「へへへ。ガキ共の方が、よっぽど利口だな。婆さんも素直に従った方が良いぜ」

男の言葉に美影は笑みを浮かべたまま、何も話さないし、動かない。
男たちは知らない。恭也たちが後退った本当の訳を。
男たちは知らない。恭也たちが何を恐れ、何から後退ったのかを。
男たちは知らない。恭也たちが胸中で似たような意味の思いを抱いている事を。
それは──。

(こいつら、絶対に無事ではすまない)

そんな中、全く動かなかった美影が微かに動く。
いや、動くと言っても、その顔から笑みが消えただけだったが。
美影は笑みを消し、何かが欠落したような表情を浮かべる。
人として、顔を構成するパーツが消えた訳ではない。
目、鼻、口、耳とそれは全て揃っている。
ただ、そこに感情が現われていないだけだ。
にも関わらず、何かが欠落している感を拭う事ができない。
ただの無表情とは違う何か。ある種、作りものめいてさえ見える美影のその顔。
男たちはここに来て、ようやく美影の様子がただならぬものであると気付き始める。
しかし、それが何であるのか、また、自分達にどう働くのかまでは、まだ考えつかないようだ。
男たちのプライドが、そして相手が素手で、自分たちが銃を持っているという絶対の自信が男たちの判断を狂わせる。
結論だけ言うならば、彼らはこの時点で形振り構わずに逃げるべきだった。
尤も、無事に逃げられたと言う保証は全くないが。
兎も角、事実として男たちは美影を囲むように移動した。
そんな事にお構いなく、美影はその表情の欠落した顔のまま呟くように言う。

【美影】
「孫たちにもお婆ちゃんと呼ばせていないのに…。
全くの見ず知らずの他人に婆と、しかもクソまで付けて呼ばれるなんて!」

最後の言葉を一息に言い放つと同時に、美影はその身体を低く落として駆け出す。
頭が地に着くのではと思うほど低く、そしてあまりの速度のため、男たちの目には一瞬美影が消えたように見える。
男たちが茫然としている間に、男の一人の懐へと辿り着くとその鳩尾に肘を入れる。
そのまま前に崩れ落ちていく男の顎に、跳躍した美影の膝が入る。
男が前から後ろへと倒れていく間に、跳躍していた美影はその肩を掴む。
そして、そのまま前へと回転する。
男の両肩をしっかりと掴んだまま。
美影は綺麗に両足から着地しつつ、男をそのまま投げる。
投げられた男は背中から壁へと叩きつけられ、頭から地面へと落ちる。
痙攣する事もなく、最初の一撃で失神していたはずの男はそのまま倒れ込む。
そちらには目もくれず、美影はあまりの出来事に驚いている男へと再度疾走する。

【士郎】
「なのは、いい子だから、少しの間目を瞑ってような」

士郎の言葉に頷き、なのはは目を閉じる。
そんなやり取りをしている中、再び男たちの中心へと戻った美影は、
同士討ちを恐れて引き金を引けない男の一人に狙いをさだめる。
狙いを決めるや否や、物凄い速さで男との距離を詰める美影。
男は反応する間も無く、手首を強く打たれ銃を取り落とす。
同時に美影はしゃがみ込み、左足を軸に右足を伸ばして一回転する。
美影の足に両足を払われた男は、そのまま倒れ込む。
男が尻を着いたと同時に立ち上がっていた美影は、遠慮も容赦もなく男の顔面に蹴りを入れる。
鼻でも折れたのか、少し横にずれた鼻から血を流しつつ後ろへと倒れた男に、止めとばかりに鳩尾に拳を打ち下ろす。
空気を漏らすような音と少しの血を吐き出し、男はそのまま倒れる。

【沙夜】
「恭也様、今の美影さんの攻撃は…」

【恭也】
「ああ。徹だな、間違いなく」

【アルシェラ】
「あの男、下手したら胃が破れたかもな」

そんな物騒な会話も、美影と男たちには届いておらず、男たちに至ってはそんな余裕すらなくなっていた。
目の前であっさりと二人の仲間を倒され、ここに来て男たちも目の前の美影が只者ではないと悟ったらしい。
美影に銃口を一斉に向けると、倒れている仲間のことなど気にせずに引き金を引こうとする。
その瞬間、美影はまるで舞うかのような動作で両腕を広げる。
そのあまりにも美しく流れるような動作に、引き金を引く指が一瞬止まる。
そして、美影にとってはその一瞬で充分だった。
美影は両腕を交差するように下ろしつつ、同時に身体を屈めていく。
左膝を着いてしゃがみ込んだ美影の左膝の前には右手が、立てた右足首の前には左手が着ており、
その指の間から、幾本もの細い糸が見える。
そして、その細い糸──鋼糸によって、男たちの持つ銃は全て地面へと落ちる。
二回の疾走の間に、美影が男たちに気付かれないように仕掛けておいた鋼糸による罠で、
男たちは腕や指を鋼糸に絡め捕らていた。
あまりの手際に美由希や月夜から感嘆の声が洩れる。
一方、銃を無くした男たちは、目に見えてうろたえ始める。
美影の最も近くいたリーダーはその顔を恐怖に引き攣らせる。
何か言葉を発しようとするが、喉はカラカラに渇ききり、その口からは何も言葉が出てこない。
美影は殊更ゆっくりと男たちへと歩みを進め、近くにいたリーダーを無視して、残る三人のうちの一人へと向う。
向いながら、足で銃を遠くに飛ばす事は忘れない。
やけになったのか、自分に向かってくる美影に対し、男はローキックを放つ。
中々鋭い蹴りを見るに、少しは何かを齧っていたのかも知れない。
だが、美影相手にそれは全く意味をなさなかった。
美影はそれを避けるどころか、向って来たそれを同じく蹴りで返す。
男の蹴りを蹴りで跳ね上げ、上へと軌道が変わった蹴りを今度は膝と肘で挟み込んで撃つ。
ボキリと部屋中に骨の折れる音が響く中、悲鳴を上げようとした男の顎を下から掌丁で撃つ。
数本の歯をまき散らしながら、悲鳴を喉の奥へと押し込められる。

【美影】
「五月蝿いから近くで大声を出さないで頂戴」

そう呟きながら、美影は容赦の欠片もなくその男の肘を極めつつ、捻りを加えて投げる。
投げられた男は、右足に続き右肘の関節を破壊されて地面でのた打ち回る。

【美由希】
「今のは萌木割り(もえぎわり)?」

【静馬】
「違うよ。萌木割りは刃のない武器を挟み込むからね。あれは武器のない状態だっただろう」

【美由希】
「じゃあ、あれは?」

【美沙斗】
「あれは、木葉落とし(こばおとし)だよ」

美由希の疑問に答える静馬と美沙斗が見つめる先では、倒れた男に美影が未だに表情のない声で声を掛ける。

【美影】
「素直じゃない婆さんでごめんなさいね」

男が自分の言った言葉を思い出し、弱々しく許しを請うように首を振る。
そんな男に美影は無表情のまま、拳を下ろす。
アバラの折れる音と共に、男は意識を手放した。
それを見て、リーダーの男は、やっと自分の失言に気付く。
そして、さっきの男の言葉と被害を考え、自分の言葉だったらと想像し、血の気を失う。
逃げ様にも一向に力の入らなくなった両足を縋るような目で見詰める。

【男】
(あ、ああ……。お、俺の前を素通りにしたのは、単に俺を最後にゆっくりと……)

自分のそう遠くない未来を想像しつつ、男は冷や汗をこれでもかと言う位噴出す。
そんな男の前で、残る男たちも地面へと倒れ込む。
残る男はリーダーただ一人となる。
美影は何の感情も見せない瞳で男を見据え、ゆっくりと近づく。
既に力の入らない両足が、たったそれだけのことで更に動かなくなる。
まさに蛇に睨まれた蛙となった男は、それでも何とか逃げ場はないかとあちこちに視線を彷徨わせる。
例え逃げ場が見つかったとしても、今の自分ではそこまでいけないかもしれないということは考えずに。
そんな男の考えを読んだのか、美影は冷淡に告げる。

【美影】
「逃げれるとでも思っているのかしら。それにしても、もう少し張り合いがないとつまらないわね。
それと貴方。戦闘においては、もっと感情を消した方が良いかもね。
そんなに顔にはっきりと出ていたら、あっさりと考えている事が見抜かれるわよ」

まるで、これが見本だと言わんばかりに無表情のまま淡々と告げる。
恐怖に引き攣る男の顔に美影の拳が綺麗に決まる。
後ろへと倒れる男。
しかし、そこには美影がいつの間にか回りこんできており、その背中へと蹴りを入れる。
今度は後ろから前へと倒れていく。
そこには、これまたいつの間にか美影がいて、胸を掌丁で打つ。
また後ろへと倒れ、腰を蹴られ、前へと倒れては顎を下から打たれる。
倒れたくても倒れられず、男は立ったままサウンドバックと化していた。
やがて、意識の朦朧とした男の襟首を美影は掴み上げると、空中へと蹴り上げる。
空中に飛ばされつつ、痛みを感じない個所がない程あちこちに打撃を打ち込まれた男は、辛うじて声を搾り出す。

【男A】
「ゆ、許し……」

男の言葉はここで途切れる。
空中で男を追い越した美影が、男の鳩尾へと拳を打ち下ろしたためである。
そして、そのまま地面へと叩き付ける。
反動で少し跳ね上がった男の身体を、止めとばかりに蹴りつけ壁に叩き付けると、美影という名の暴風はやっと止まる。
後には、普段の顔に戻って悲しそうな顔をする美影と、男たちによる地獄絵図だけが残されていた。

【美影】
「うぅー、お婆ちゃんだなんて酷いわ」

【ALL】
(酷いのはどっちだ)


全員が同じ事を思ったが、口には決してしなかった。






つづく




<あとがき>

美影さん大爆発〜。
美姫 「ちょっとやり過ぎかも」
あ、あははは。
さて、ネタがあるうちに次を書かねば。
美姫 「と言う訳で、今回はこの辺で」
ばいばい。








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