『とらハ学園』






第53話





士郎たちと同じアンティークステーションの一角。
ここを歩く数人の男女がいた。
その集団の先頭に立っているのは、普段ならだるそうに後を歩いているような人物だった。

【真雪】
「ほら、もたもたしてると酒がなくなっちまうぞ」

そんな真雪の言葉に、苦笑を零しつつ、耕介が宥めるように言う。

【耕介】
「まあまあ、真雪さん。かなりの量を用意しているみたいだから、そう簡単にはなくなりませんって」

【真雪】
「んなの分からんだろうが。良い酒はすぐになくなるかもしれねーんだぞ」

【愛】
「くすくす。それじゃあ、少し急ぎましょうか」

【真雪】
「さすが、愛。何処かの誰かさんとは大違いだ」

【耕介】
「悪かったですね」

【真雪】
「誰も耕介の事だなんて言ってないだろう」

真雪はにやりと笑みを見せると、とっとと歩き出す。
そんな背中を見遣りつつ、愛と目を合わせて苦笑する。
そこへ、ゆうひが声を掛ける。

【ゆうひ】
「そこには、お酒以外には何もないん?」

その言葉に、パンフレットを読みつつ、耕介が答える。

【耕介】
「えーっと。……いや、ノンアルコールの飲み物も少しあるみたいだな」

【ゆうひ】
「うーん、お酒の味自体が苦手やしなー」

【耕介】
「あ、他にも変わったドリンクがあるみたいだぞ。
ソフトドリンク・カクテルだってさ」

【ゆうひ】
「ほうほう。それはどんなんなん?」

ゆうひは横から耕介の覗いているパンフレットを覗き込み、耕介が指差す個所にざっと目を通す。

【ゆうひ】
「ははー、何か面白そうやね」

【愛】
「私もこっちにしておこうかしら」

そんな風に楽しそうに会話をして歩く三人の少し後から、暗い空気を纏った者が付いて行く。
そのうちの一人が、隣を歩く友人に怨めしそうな目と声で告げる。

【薫】
「瞳、なしてうちがこげん所に……」

【瞳】
「あ、あははは、ごめん、ごめんってば。
でも、真雪さんが酔ったら、私だけじゃ止められないじゃない。
だから、さ」

瞳のその言葉に薫は「仕方なか」とため息混じりに零すと、少し目を細める。

【薫】
「でも、本当は真雪さんの事をうちに任せて、耕介さんと一緒に何処か行こうとか考えとらんか」

【瞳】
「ま、まさか。ほら、愛さんもゆうひさんもいるんだし」

何処か焦ったような親友に対し、再度ため息を吐き出しつつ薫は力なく項垂れる。

【薫】
(今頃、忍たちは恭也と……)

それを考えると、肩が重くなる薫。
そして、その横では、同じように項垂れている一人の少女の姿があった。

【那美】
「どうして、私まで…」

瞳に強制的に連れてこられた薫は、咄嗟に近くにいた那美の腕を引っ張って来ていたのだった。
流石に那美に対しては、薫のように言う訳にはいかず、瞳はただひたすら謝る。

【瞳】
「本当にごめんね、那美ちゃん」

何度も謝られては、那美もこれ以上は何もいう事が出来ず、渋々だが口を噤む。

【那美】
(うぅ〜、美由希たち、今頃、恭也さんと何してるんだろう)

姉と似たような事を考えつつ、その足を前へと進めるのだった。





  ◇ ◇ ◇





自然をふんだんに取り込んだ、七つのエリアの一つ、ネイチャーステーション。
このエリア内では、大きなものでは、アマゾンを思わせるような樹木が聳えていたり、大きな川が流れていたり、
小さなものでは、ちょっとした公園の散歩道のようなものまでがあり、まさに自然溢れるエリアとなっている。
その場所、場所にあった動物の鳴き声なども聞こえてきたり、場所によっては本物そっくりの動物ロボットがいたりする。
このエリアのアトラクションの一つに、ジャングル探検というものがあり、
これはその名の通り、乗り物に乗って、ジャングルを回るといったものだった。
その他にも、徒歩で自由に歩き回れるジャングルエリアなどもあり、真一郎はそういった場所を歩いていた。

【真一郎】
「それにしても、よく出来てるな、このロボット」

感心したように呟きながら、真一郎は目の前で唸り声を上げながら、威嚇の姿勢をとっているジャガーを眺める。

【七瀬】
「本当に凄いわね。何も知らなければ、本物と間違えるかもね」

【ななか】
「ええ、本当に」

感心する三人とは別に、さくらと雪はじっとそのロボットを見詰める。

【さくら】
「雪さんも気付いたの?」

【雪】
「ええ。少しですけれど、霊力を感じます」

雪の言葉に頷きつつ、さくらも小声で返す。

【さくら】
「かなりの技術力よ、これは。
工学に霊力を利用してるわ」

感心する二人に気付かず、真一郎たちは未だに目の前のロボットを眺めている。
と、そんな真一郎の袖を掴む者がいた。
真一郎がそちらを見れば、そこには微かに怯えた小鳥がいた。

【真一郎】
「小鳥、これはロボットだぞ」

【小鳥】
「う、うん。それは分かってるんだけれど、あんまりにそっくりだし、動きもリアルだから」

言いつつも掴んだ手はそのままに、小鳥はおっかなびっくり、ロボットへと目を向ける。
七瀬は、そんな小鳥の後ろへとそっと回り込み、その肩をガシッと掴む。
突然、肩を掴まれた小鳥は、思わず小さな悲鳴を上げる。

【小鳥】
「きゃっ!」

【七瀬】
「あははは、ごめんごめん」

【小鳥】
「な、七瀬さん〜〜。止めてくださいよ〜。ほ、本当にビックリしたんだから……」

半ば腰砕けになりつつ、精一杯睨みつける小鳥の姿に、笑みが出そうになるのを堪えつつ、七瀬は顔の前で両手を合わせる。

【七瀬】
「本っっ当に、ごめん! まさか、そんなに驚くなんて思わなかったから」

【真一郎】
「まあまあ、小鳥。七瀬も反省してるみたいだし」

【七瀬】
「そうそう。もし、私がやらなかったら、真一郎がやってただろうし」

七瀬の言葉に、小鳥が真一郎を怨めしそうに見る。
それに対し、真一郎は慌てて首を横に振りつつ、七瀬に文句を言う。

【真一郎】
「しない、しない。って、七瀬、勝手な事を言うなよな!」

【七瀬】
「本当に〜? 絶対にしなかったって言える?」

【真一郎】
「う、そ、それは……」

思わず言葉に詰まる真一郎へと、きつくなった視線が向う。
それにやや圧されつつも、真一郎は誤魔化すように声を上げる。

【真一郎】
「さ、さて、そろそろ次に行こうか」

そう言って、逃げるようにその場を立ち去る真一郎の背中を見詰めつつ、小鳥は「仕方がないな」と小さく呟くと、
その横に並ぶ為に、少し早足で追い付く。
真一郎の横に並び、楽しそうに話し始めた小鳥を見て、七瀬もほっと胸を撫で下ろすと、二人の元へと向う。
そんな三人を眺めつつ、さくらと雪、ななかは苦笑とも取れる笑みを交し合うと、置いていかれないように、
こちらも少し早足で、真一郎たちの下へと向うのだった。






つづく




<あとがき>

ふ〜、やれやれ。
美姫 「寛ぐな! たったこれだけの容量で、そんなに寛げると思わないことね!」
いや、そうは言われてもな。
結構、苦労したんだぞ。
超巨大テーマパークという事もあって、書きにくいんだ。
美姫 「言い訳無用! ほら、さっさと続きを書け〜」
わ、分かってるって。
とりあえず、短いのにはそれなりの理由が……。
美姫 「理由なんかいらないわよ!」
そ、そんな〜。
美姫 「……とりあえず、言ってみなさい」
よし!
とりあえず、全員がどんな風に別れて、どこにいるのかだけ書こうと思ったんだ。
で、全員を一気に書こうかと思ったんだが、二回に分ける事にしたと。
美姫 「何で、そこで分けるかな?」
あははは。いや、一応、誰が何処に行ったのかとかは決めてるんだぞ。
決して、未定とかじゃないから。
美姫 「怪しいわね」
嘘じゃないって!
ほらほら。
美姫 「へ〜、本当ね。って、誰がどこに居るかしかないじゃない」
えへへへへ〜。
美姫 「えへへ、じゃないわよ!」
そ、それでは次回で!
美姫 「逃がす訳ないでしょうが!」
ぐげろぉぉぉぉぉぉぉぉ!
……ピクピク。
美姫 「は〜、ふ〜。とりあえず、また次回でね♪」








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