『とらハ学園』






第55話





【忍】
「はい、という事で、私たちは今、トロピカルステーションにある刀剣展示場へと来ておりま〜す」

【恭也】
「……忍、何を言ってるんだ」

【忍】
「もう、付き合い悪いわよ、恭也。私がレポーターの役になってるんだから、恭也はお笑い担当にならなきゃ」

【恭也】
「あのな」

呆れたような、疲れたような口調で言う恭也に、忍はあっけらかんと笑いながら手を上下に振る。

【忍】
「ほらほら。こんな所まで来て、仏頂面しないの」

【恭也】
「悪かったな。これは生まれつきだ」

【忍】
「あははは〜。それはそうと、忍ちゃんが美人レポーターをやったんだから……」

【恭也】
「誰も頼んでない」

【忍】
「いや〜ん、ケチ〜。お笑いが嫌なら、プロデューサーでも良いわよ。
そして、次も使ってやるからとか言って、私を深夜、ホテルの自分の部屋に呼び出すの。
何となく嫌な予感を感じつつも、恭也に逆らっては、この世界ではやっていけないと分かっている私は、深夜遅くに恭也の部屋へ。
そこで待っていたのは、やはりと言えば、やはりな展開。
やらしい笑みを浮かべた恭也は、入って来た私に対して、たった一言だけ言うの。
脱げって。そして、断わったら、どうなるか分かってるなって。
私は泣く泣く着ていたものを脱いでいく…。
でも、下着だけは自分で脱がすとか言って、そこで止めると、恭也は私に近づき、
抱え上げると、そのままベッドへと放り投げるの。
これから起こることに恐怖で声も出ず、ただ震えるだけの私に恭也は覆い被さり……。
最初は嫌がる私だったけれど、そのうち、恭也のテクニックに理性が蕩けていって……」

【恭也】
「いい加減にしておけ!」

恭也の強いチョップが忍の脳天へと直撃する。
一瞬、忍の目から星が飛び出るような衝撃が脳を揺るがし、忍は頭を押さえつつ涙目で見上げる。

【忍】
「恭也、ちょっと痛すぎるよ……」

しかし、そんな忍の声に同情する者は誰一人おらず、全員が何か言いたそうな、呆れたような目で見ていた。

【忍】
「あ、あははは〜」

とりあえず笑って誤魔化す忍だった。
ふと周りを見渡し、変に注目を浴びている事に気付いた恭也は、盛大なため息を零す。

【恭也】
「ただでさえ、皆、綺麗だから目立ってるんだ。これ以上、目立つ事はしないでくれ」

恭也の言葉に、全員が頬を染める。
自分の言った事の意味を全く理解していない恭也は、夢心地になっている皆を残し、先に中へと入ろうと歩き出す。
その両腕を、知佳と瑠璃華が慌てて掴んで、自分たちの腕と組む。

【知佳】
「今度は私たちの番なんだから」

【瑠璃華】
「先にお一人で行くのはやめて下さいね」

【恭也】
「中に入る時ぐらいは、良いんじゃないのか」

【知佳】
「駄目だよ〜」

【瑠璃華】
「駄目です」

殆ど即答する二人に、恭也はこれ以上いっても無駄だと悟り、口を閉ざす。
そんな恭也の背中に、早く中へと入りたがっている美由希と月夜が声を掛ける。

【美由希】
「それよりも、早く入ろうよ〜」

【月夜】
「そうそう。ここで時間を潰すのは勿体無いだろう」

二人の言い分も最もだったので、恭也たちは中へと向って歩き出す。

【忍】
「この後は、どうするの?」

【恭也】
「もう、後の事か」

【忍】
「別に良いじゃない。少しでも時間を省く為よ」

【恭也】
「時間的に昼前になるんじゃないか」

【忍】
「あ、そうか。だったら、お昼ね。
どうする、ファーストステーションまで戻る」

【ノエル】
「このトロピカルステーションにも食べる個所は幾つもあるみたいですが」

【瑠璃華】
「魚料理が中心でしたよね」

【知佳】
「それは後で考えれば良いんじゃないかな。
この後に行く場所を考えて、そこに近い場所で取れば」

【忍】
「そうね。じゃあ、やっぱりこの後どこに行くかよね。
このトロピカルステーションは、別名、マリンステーションとも呼ばれていて、海水を引いている場所とかもあるみたいよ。
夏だったら、海水浴が楽しめたんだけどね。
そうしたら、忍ちゃんのナイスバディな水着姿で恭也を悩殺できたのにね。
恭也も、私の水着姿が見れなくて残念でしょう」

【恭也】
「別に」

【忍】
「うわ〜、今のは流石に傷付いたわよ。
何よ、そんなに魅力がないっていうの」

【恭也】
「そうは言ってないだろう」

【忍】
「本当に?」

【恭也】
「あ、ああ」

恭也の言葉ににんまりと笑みを見せる忍。

【忍】
「そうか、そんなに私の水着姿が見たいのね」

【恭也】
「どこをどうしたら、そうなるんだ?」

【忍】
「照れない、照れない」

手を振る忍とは対照的に、知佳と瑠璃華は恨めしそうに恭也を見上げる。
何か言いたそうなその顔に、恭也はどうかしたのか尋ねるが、二人はそっぽを向く。

【知佳】
「別に〜」

【瑠璃華】
「ええ、何にもありません。
ですから、恭也さんは忍さんの水着姿でも想像して、好きなだけ鼻の下を伸ばしていてください」

【恭也】
「ちょっと待て。いつ、誰が鼻の下なんか伸ばした」

【忍】
「まあまあ、二人とも拗ねない、拗ねない。
二人の水着姿も可愛いに決まってるんだから。ね、恭也」

【恭也】
「ああ、そうだな」

【知佳】
「本当にそう思う」

頷いて答える恭也に、ノエルが控えめに進言する。

【ノエル】
「忍お嬢さま。どうやら、ここには室内プールがあるようですが」

【忍】
「本当に?」

【ノエル】
「はい。室内は一定の温度に保たれており、水温も気温に応じて適度に変えているので、年中利用できるようですが」

【沙夜】
「くすくす。皆さん、そんなに慌てて決める事はないではないですか。
とりあえず、次はどこへ行くのかは、皆さんで決める事にしましょう。
早く行かないと、美由希さんと月夜さんはとっくに中へと入ってしまいましたよ」

【アルシェラ】
「そうじゃ。さっさと行かんと、またあの小娘共に何を言われることか」

【恭也】
「そうだな。とりあえず、さっさと行こう」

そう恭也が決断を下し歩き始めると、腕を組んでいる知佳と瑠璃華も一緒に進む。
その後ろに忍たちも続きつつ、恭也たちは刀剣の展示所へ入って行った。
中へと入り、入り口で待っていた美由希たちと合流する。
合流するなり、二人は不満そうな声を上げる。

【月夜】
「遅いぞ、恭也。何をモタモタしてたんだ」

【美由希】
「本当だよ。早くしてよね」

二人の予想していた通りの態度に、恭也たちは顔を見合わせて苦笑する。
それに首を傾げつつも、一刻でも早く見て周りたいのか、追求もせずに歩き始める。

【美由希】
「うわぁ〜」

目の前に刀剣が見えてくるなり、目を輝かせてそれらに見入る美由希と月夜。
忍とノエルもキョロキョロと見渡しつつ、時折、剣の銘やちょっとした説明が書かれた個所を読んだりと、意外と楽しそうだ。
恭也はゆっくりと歩きながら、それらを眺める。

【アルシェラ】
「分からんのぉ。刀剣は使うてこそのもの。
それをこのように展示して見るだけとは」

【恭也】
「まあ、それだけ今の時代が平和になったという事だろう」

【沙夜】
「確かに、それは言えてますね」

【恭也】
「尤も、それだけではなく、刀剣類が最早使われなくなった、時代錯誤の武器というのも大きいだろうが」

恭也の言葉に、しかしアルシェラは不思議そうに言う。

【アルシェラ】
「しかし、銃などとは違い、弾切れとかがなくて便利じゃと思うがの」

【沙夜】
「そうですよね。それに、銃弾を刀で弾く人たちもいますし」

二人の言葉に苦笑しつつ、

【恭也】
「刀だって何かを斬れば、切れ味が鈍り、やがて使い物にならなくなるだろう」

【アルシェラ】
「そんななまくらを使うからじゃ」

【沙夜】
「そうですよ。魔剣とかの類ならば…」

【恭也】
「そんなにたくさんある訳じゃないだろう。そういった刀は。
まあ、そんな希少な刀を二本も持っている俺がいう事ではないだろうけど」

【アルシェラ】
「そういう事じゃ。恭也、もっと余を大事にせんといかんぞ」

【沙夜】
「あら、それでしたら、沙夜の事もですよ」

【恭也】
「はいはい、分かってる」

二人に軽く答えつつ、恭也は自分の両隣へと話し掛ける。

【恭也】
「やっぱり、二人には退屈か?」

【知佳】
「う、ううん、そんな事はないよ。確かに、美由希ちゃんや月夜ちゃん程ではないけれど、それでも結構、面白いよ」

【瑠璃華】
「ええ、知佳ちゃんの言う通りですね。
あのお二人とまではいかないですけれど、見ていて結構、楽しいですよ。
装飾の施された剣などもたくさんありますし」

【知佳】
「そうそう。それに、剣の説明で面白いのがあったりするしね」

二人の言葉に頷きつつ、恭也は足を進めていく。
と、先を歩いていたはずの美由希が、とある場所で足を止める。
恭也たちもそこへと辿り着き、美由希が見ている剣を見る。
そこには、鍔や柄などに宝石などが適度に散りばめられ、見るものの目を引く一本の剣があった。
その抜き身の剣の横に、その剣の鞘も展示されており、そちらも宝石などで装飾が施されている。
派手な事は派手だが、きちんとデザインされており、悪趣味な印象を全く受けない。
まるで、一つの芸術作品のような仕上がりを見せていた。

【美由希】
「この剣、とても綺麗」

【月夜】
「実戦なんかで使う剣じゃなくて、儀式なんかで王族が使った儀礼用の剣だって」

【瑠璃華】
「本当に綺麗ですね」

【忍】
「本当ね。剣に興味の無い私でも見惚れるわ」

不意に、忍が意地の悪い笑みを見せて恭也へと振り返る。

【忍】
「恭也も綺麗だと思うでしょう。
普段、恭也が使っている剣とは全然違うもんね」

忍の言葉に、アルシェラと沙夜が軽く忍を睨みつけるが、忍は何処吹く風といった感じで顔を背ける。
そんな様子にも気付かず、恭也はそれに答える。

【恭也】
「確かに、装飾などが施されていて綺麗だとは思うがな。
だが、俺はアルシェラや沙夜の方が綺麗だと思う」

恭也の言葉に、アルシェラと沙夜が嬉しそうな顔をし、逆に忍たちは不満そうな顔になる。
それをどう捉えたのか、恭也は苦笑しつつ続ける。

【恭也】
「勿論、美由希の刹那や月夜の朧月も綺麗だぞ。
装飾を施された儀式用の剣にはない、実戦用の美しさと言うか、そういったものがあるからな。
俺はその剣よりもアルシェラや沙夜の方が良いな」

恭也の言葉に、忍は少し呆れたような顔を見せつつ、
自分が振ったのは剣の話だったのだから、恭也のこの反応は予想しておくべきだったと少し反省する。
そんな忍たちの反応とは別に、アルシェラと沙夜はご機嫌だったが。
暫らくそれを眺めていたが、やがて歩を進める。
順に見ていく中、とある刀の前で、恭也とアルシェラ、沙夜は立ち止まる。
それにつられ、恭也と腕を組んでいた知佳と瑠璃華も足を止め、その刀を見詰める。
特に目を引くような装飾は施されていないが、恭也が止まったので二人はその刀を眺める。
そんな二人も気に止まらず、その剣をゆっくりと見渡しながら、恭也の目つきが段々と鋭くなっていく。

【恭也】
「これは、まさか……」

【アルシェラ】
「ああ、間違いないじゃろうの。沙夜、お主はどう思う」

【沙夜】
「そうですね。私も恭也様と同じご意見ですわ」

思わず呟いた恭也の言葉に、アルシェラと沙夜も同意を返してくる。
三人は自然と顔を見合わせ、一拍置くと声を揃えてその考えを口に出す。

【恭也&アルシェラ&沙夜】
「これは妖刀」

三人の口から出た言葉に、知佳と瑠璃華が恭也を見る。
と、そこへ忍とノエルがやって来る。

【忍】
「知佳〜、瑠璃華〜、交代の時間よ〜。
次に恭也と腕を組むのは、私とノエルの番だからね」

しかし、その言葉に誰も答えず、ただ目の前の展示品を見詰めている。
初めは聞こえない振りでもしているのかと思ったが、恭也までがそれをするとは思えない。
だとしたら、本当に聞こえていないのだろうと、何に集中しているのかと恭也たちの視線の先を見る。

【忍】
「この刀がどうかしたの」

【恭也】
「あ、ああ。と、忍か」

【忍】
「そうよ、忍ちゃんよ。……って、それ所じゃなさそうね」

恭也の顔から何を読み取ったのか、冗談を言うのを止め、忍も真剣な顔つきに変わり、改めてどうしたのかを尋ねる。

【恭也】
「この刀、これは妖刀だ」

【忍】
「え、嘘。でも、何も感じられないけど…」

【恭也】
「ああ、確かに何も感じられない。恐らく、封じているとかそんな所じゃないのか。
ただ、これだけは見間違えるはずがないんだ」

【アルシェラ】
「ああ、見間違いようがない」

【沙夜】
「私の場合はかなり昔に一度見ただけですけれど、間違いはないかと」

【恭也】
「……ここに飾ってある刀剣に関して、何処に訪ねれば良い」

恭也の質問に、忍は少しだけ考えると答える。

【忍】
「よく分からないけど、従業員というか、係りの人に話を聞いたら良いんじゃないかしら。
後は、このステーションのプリンセスとか。
でも、こっちはそう簡単には見つけられないから、やっぱり係りの人じゃないかしら」

【恭也】
「そうだな。分かった」

知佳と瑠璃華の腕から、自分のそれを引き抜くと、すぐにでも駆け出そうとする恭也に、声が掛かる。

【忍】
「次は私が腕を組む番なんだけど」

【恭也】
「それは、また後でな」

そう告げる恭也に、今度は知佳が話し掛ける。

【知佳】
「一体、どうしたの」

【恭也】
「悪いが説明は後だ。ちょっと行って来る」

それに説明することもなく、恭也は走り出し、その後を、アルシェラと沙夜が続く。
その背中を見送りつつ、忍は拗ねたような声を上げる。

【忍】
「あ、恭也ってば! もう」

そんな忍の横で、何も言わなかったが、ノエルもどこか不満そうな顔をしていた。
その様子を遠くから見ていた美由希と月夜が二人に声を掛けてくる。

【美由希】
「一体、何があったの?」

【忍】
「さあ、それがさっぱり」

【知佳】
「恭也くんたちが、この刀を見て妖刀だって言って」

知佳が指差す刀を美由希と月夜も眺める。
同じように眺めていた瑠璃華が、小さな声を出し、ある所を指差す。
その先、その刀の説明書きに全員の視線が集まる。
そこに書かれていた刀の名を見て、全員が一斉に小さく声を漏らす。
そこには、『妖刀、不知火』の文字があったのだった。






つづく




<あとがき>

折れたはずの妖刀が何故、ここに。
美姫 「ただの旅行のはずだったのにね」
一体、この後何が起こるのか…。
って、実はもう決まってるんだけど。
美姫 「だったら、さっさと書きなさいよね」
あははは。
美姫 「笑って誤魔化すな!」
ぐ、ぐるじぃぃぃぃ〜。
美姫 「え? 何? 私に抱擁されて嬉しい?」
ち、ちがっ。絶対に、ちがっ。く、首ぃぃぃ。
美姫 「そんなに嬉しいなら、もっとしてあげるね♪」
ヒュゥゥ〜、ヒュ〜。
こ、こきゅう……、さ、さんそ……。ガクリ。
美姫 「もう、幸せそうな顔して眠っちゃって。
    さて、それじゃあ、今回はここまでね。まったね〜」








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