『とらハ学園』






第56話






【アルシェラ】
「恭也、どういう事だと思う」

【恭也】
「さあな、全く分からん。でも、確かにあの時に不知火は折れたはずだ」

【アルシェラ】
「ああ、それは余も見ておったから間違いない。
義久という奴が、持って帰ったはずだぞ」

【沙夜】
「と、なりますと、また盗み出され、しかもそれが復元したという事ですか」

【恭也】
「しかし、それだったら、俺は兎も角、薫たちに何か連絡があると思うんだが」

【アルシェラ】
「とりあえず、詳しい事は聞けば分かるじゃろう」

館内を走りつつ、恭也たちは入り口へと向う。
そのままの勢いで、受付にいた女性へと声を掛けようとして、それよりも先に女性の方から話し掛けてくる。

【女性】
「お客様、申し訳御座いませんが、館内では走り回らないで……」

【アルシェラ】
「そんな事はどうでも良い!
それよりも、ここに展示している刀剣に関して、ちょっとばかり尋ねたい事があるんじゃが」

少しきつい口調で遮るアルシェラに、女性が僅かに怯む。
それを見て、恭也はアルシェラを制すると、変わって話し始める。

【恭也】
「館内を走った事に関しては、お詫びします。
ですが、かなり大事な事なんです。是非とも、ここの責任者の方とお話させて頂けませんか」

丁寧な口調で告げる恭也に、女性もほっと肩の力を抜くが、次いで顔を微かに曇らせる。

【女性】
「どういったご用件でしょうか。
ご用件次第では、取り次ぎの方も考えさせて頂きますけれど」

【アルシェラ】
「だから、ここに展示している刀剣に関してと言っておろう」

【女性】
「もっと具体的にお願いします」

【恭也】
「そうですね。……では、その責任者の方に不知火の件で、と伝えてもらえませんか」

【女性】
「…分かりました。暫らくお待ちください」

恭也たちにそう告げると、女性は受話器を持ち上げ、番号をプッシュする。
何処かへと連絡している女性から少し離れ、恭也たちは小声で会話を交わす。

【アルシェラ】
「どうする気じゃ、恭也」

【恭也】
「ここの責任者が、不知火がどういう刀か知っていれば、何らかの反応があるはずだ」

【沙夜】
「もし、知らずに集められてた場合は、どうなさいます」

【アルシェラ】
「もしくは、知っていても無視する可能性も、な」

【恭也】
「そうだな。その場合は、その時に考えるしかないだろうな」

【アルシェラ】
「恭也、お主ももう少し考えてから行動した方が良いぞ」

呆れたように言うアルシェラに、恭也は顰めっ面で応じる。

【恭也】
「仕方がないだろう。あの場合は、他に手が思い浮ばなかったんだ。
第一、責任者に合わせろと切り出した時点で、下手な理由なんか言えるはずもないだろう」

【沙夜】
「とりあえず、今は先方の出方を待ちましょう」

それからすぐに、受付の女性が恭也たちへと声を掛ける。

【女性】
「今からお会いするそうです」

【恭也】
「そうですか。ありがとうございます」

【女性】
「いえ。では、あちらの方でお待ち頂けますか。すぐに代わりの者が参りますので」

女性の言葉に頷き、恭也たちは受付から少し離れた一角にて待つ。
それから数分ほどした頃、一人の老人が現われる。

【男】
「あなた方が、連絡を下さった方ですね」

【恭也】
「はい。自分は不破恭也と申します。こっちが…」

【アルシェラ】
「アルシェラじゃ」

【沙夜】
「沙夜と申します」

【男】
「これはご丁寧にどうも。私は寿と申します。
このテーマパークのグランドオーナーをやらさせて頂いてます」

この言葉に驚く恭也だったが、他の二人は大して驚いた様子もなく、すぐにでも用件を切り出そうとする。
それを寿が手を上げて制し、

【寿】
「ここから少し行った所に、喫茶店がありますので、そこでお話しましょう。
勿論、お代は私が持ちますよ」

【アルシェラ】
「そうか、それでは遠慮なく頂くとしよう」

【沙夜】
「そうですわね。恭也様、行きましょう」

【恭也】
「お前らな。すいません、そこまでして頂く訳には。
自分たちは、少しお話を伺いたいだけですので」

【寿】
「なーに、気にする必要はありませんよ。
たまには、若い子たちとも話してみたいですしね。
それが、こんなに綺麗なお嬢さんたちとなれば、更にいう事はないですよ」

そう冗談めかして言う寿に、恭也は素直に言葉に甘え、場所をその喫茶店へと移す。
遠慮せずに好きなものを、と言った寿の言葉通り、アルシェラと沙夜は遠慮なしに注文する。
それに恐縮しつつ、恭也はコーヒーだけを頼む。
それぞれが注文した商品が届くと、寿は話を切り出す。

【寿】
「で、用件は妖刀不知火の事でしたな」

その言葉に、目の前の食べ物に目を奪われていたアルシェラたちの表情が一変する。

【恭也】
「はい、そうです。失礼ですが、寿さんは、あれを何処で手に入れられたんですか」

【寿】
「入出先は残念ながら、お教えできませんね」

【恭也】
「では、質問を変えます。あの妖刀がどういったものかご存知なんですか」

【寿】
「どんな、とは?」

【恭也】
「あの不知火は、使用者の記憶と成長を力に変える刀です。
しかも、ただ力を引き出すのではなく、妖刀自身が妖魔へと進化するんです。
つまり、あれはかなり危険なものなんです」

【寿】
「ほー、あの刀は、そういったものだったんですか」

いまいち危機感のない声で、寿は感心したように言う。

【寿】
「しかし、あれは大丈夫ですよ。
それよりも、何故、あなた方がそのような事を知っているのかという方が気になりますね」

寿の目が、鋭くなり恭也たちを順に見詰める。
しかし、それに気圧される事無く、恭也は続ける。

【恭也】
「何故、大丈夫と言うのかは分かりませんが、俺たちはあの不知火をよく知っているんです。
そして、あれがあそこにあるはずがないという事も。
何せ、妖刀不知火は、既に折れたはずなんですから」

【寿】
「なっ、そ、それは本当ですか」

驚く寿に、アルシェラが我が事のように胸を張りながら自慢げに答える。

【アルシェラ】
「間違いなぞないわ。何せ、この恭也が自身の手で折ったのじゃからのう」

【寿】
「そ、そういう事ですか。それで、あそこに不知火があって驚かれたと」

その台詞に頷く恭也に、寿は暫し考え込み、やがてその口を開く。

【寿】
「そうですね。あなた方は悪い人には見えませんし、全てをお話しましょう。
まず、あそこに展示されている不知火ですが、あれは偽者です」

【恭也】
「にせ…」

【アルシェラ】
「もの…」

【沙夜】
「ですか?」

今度は逆に驚く恭也たちに、寿ははっきりと頷く。

【寿】
「ええ、そうですよ。あの不知火は、不知火を真似て作った偽者です。
私も昔、不知火を見たことがありましてね。
それで作りあげた偽者ですよ」

【恭也】
「しかし、偽者とはいえ、あそこまでそっくりに作られるとは」

【寿】
「実は、私の知り合いの知り合いに頼み込んで、実物を見せてもらった事があるんですよ」

【アルシェラ】
「なる程のぉ。大体の事情は分かった。
しかし、何故、わざわざ偽者などを」

【寿】
「……まあ、良いでしょう。ここまで話したのですから」

寿はそう言い置くと、一口だけコーヒーを啜り、再度口を開く。

【寿】
「あの不知火は妖刀ですが、同時に七領護法刀の一つであるというのはご存知ですか」

この言葉に揃って頷いたのを見ると、寿はそのまま言葉を続ける。

【寿】
「七領護法刀とは、七つの刀剣を霊的に繋げて、その中心部分に邪なるモノを封じる力があるんです。
その力をこのパークに用いているんですよ。
ここからはあまり詳しくは教えれませんが、要は封印代わりに七領護法刀を用いた結界を張っているんです。
ただ、本物の七領護法刀は手に入りませんでしたから、そのレプリカを作ってね」

【沙夜】
「レプリカとはいえ、七領護法刀による結果術は既に無くなった秘術。
一体、どうやって」

【寿】
「そんなに難しい事はしてませんよ。
ただ、七領護法刀のレプリカを作り、その際、多少の霊力と護符を埋め込んだんです。
後は、古より代々伝わる秘術を変わりに用いて、七領護法刀による結果術に似たような結界を作りあげたんです」

【アルシェラ】
「という事は、他の七領護法刀もあるという事か」

【寿】
「ええ、そのとおりですよ。ただ、あそこに展示しているのは、不知火だけですけどね。
他の六つは、それぞれ他のエリアにあります。
今回、このエリアで刀剣の展示会をする事になったので、アレも展示しただけです。
それが、まさかこのような事になるとは思ってもみませんでしたが」

納得していただけたかと、寿は恭也を見る。
最終的な決定権が誰にあるのか、この短い間に理解したからこそである。
それに対し、恭也は暫し考え込むと、沙夜へと視線を向ける。

【恭也】
「沙夜、このパークから結界の存在を感じられるか」

【沙夜】
「ええ、結界自体は最初から感じられました。
確かに、言われるように七領護法刀の結果術に似たようなものはありますが、そのものはありません」

【アルシェラ】
「このパークは、幾つかの結界が張られておるからの。
それの所為で分かり難くなっているという事はないのか」

【沙夜】
「確かに、アルシェラさんの仰る通り、幾つかの結界を感じますが、あの結界が張られていれば、見分けられますから」

【恭也】
「ふむ。と、いう事は、やはりあの不知火は偽者という事か」

【アルシェラ】
「そう決断するのは、少し早いかもしれんぞ。
不知火は本物で、他の六つが偽者という可能性もある」

【恭也】
「いや、それはないだろう。
七領護法刀の結界は、一本でも本物が混じっていれば、効果は弱いが発動するからな」

そうだったよな、とこちらを見る恭也に、沙夜ははっきりと頷いて見せる。
それを受け、アルシェラも納得したようだった。

【恭也】
「大変お騒がせしてしまったようで」

【寿】
「なーに、こちらこそすまなかったね。
まさか、あれの実物を見た、しかも、壊した人がいるなんて思いもしなかったから。
まあ、その辺りの詳しい話を聞いてみたいけれど、あまり話せるような事でもないだろうから、諦めるけどね」

そう言って笑う寿に、恭也たちも苦笑を浮かべる。

【寿】
「おっと、少し話し込んでしまったね。
コーヒーが冷めてしまっただろうから、新しいのでも」

恭也が遠慮するよりも先に、寿はウェイトレスを呼び止め、さっさと注文してしまう。

【寿】
「さあさあ、遠慮せずにおあがりなさい。
恭也くんだったかな。君も他に何かあれば、注文しても良いんだよ」

その好意を丁寧に断り、恭也は冷めたコーヒーを一気に飲み干す。
それから少しして、新しいコーヒーが届くと、寿は香りを楽しむようにゆっくりと口を付ける。
七領護法刀の結界を何のために張っているのかは気になったが、目の前の人物が悪いものには見えないことと、
あの結界自体を悪用して何かするといったものではないため、恭也はそのまま口を閉ざす。
恭也の両隣では、遠慮なしに注文したアルシェラと沙夜が、口元を綻ばせながら食べている。
それを見遣りつつ、恭也は脱力したように項垂れる。
それをどう勘違いしたのか、アルシェラは加えていたスプーンから口を離し、パフェのクリームを掬うと、恭也へと差し出す。

【アルシェラ】
「何じゃ、恭也。欲しいのなら、素直にそう言えば良いのに。
特別に、余のを分けてやろう」

【恭也】
「いや、別に欲しくて見ていたわけではなくて…」

最後まで言い終わる前に、口を開けたのを好機とばかりに、アルシェラがスプーンを突っ込む。

【アルシェラ】
「どうじゃ、美味いじゃろう。次は何が欲しい。言うてみい」

【沙夜】
「恭也様、沙夜のも少し差し上げますわ」

恭也がアルシェラに何か言おうとした所へ、今度は沙夜がスプーンを突き入れる。

【沙夜】
「どうでございますか」

沙夜にも何か言おうとするが、まるでそれを狙うかのようにスプーンを構えているアルシェラに気付き、恭也は口を噤む。
無念そうに顔を歪ませた後、大人しく自らの口の中へとそれを入れる。
それを見て、恭也はほっと胸を撫で下ろす。
しかし、それは甘い考えだったと、この後、思い知らされる事となる。

【アルシェラ】
「恭也、次はこれを食べさせてやろう」

そう言うと、アルシェラは手でサンドウィッチを掴み、恭也の目の前へと持っていく。
同じように、沙夜も同じ事をする。
目の前に並ぶ、二つのサンドウィッチを眺めながら、恭也は首を振るが、それはどけられる事も無く、ずっとその場に留められる。
両隣を見れば、食べるまで降ろさないという決意を秘めた目とぶつかり、恭也は仕方がなくそれに齧り付く。
ただし、これで本当に最後と念を押して。
そんなやり取りをずっと見ていた寿は、楽しそうに始終笑みを浮かべており、
すっかり寿の事を忘れていた恭也は、顔を赤くしてひたすら恐縮するのだった。






つづく




<あとがき>

不知火事件、解決〜。
美姫 「何の事件も起こらなかった〜」
あははは。まあ、今回のテーマパーク編ははドタバタほのぼのがメインだしな。
とりあえず、少しだけドタバタさせるための不知火だったと。
美姫 「不満〜、不満〜」
どうどう。そ、それよりも、次回は…。
美姫 「誰の番かな?」
また次回!
美姫 「あ、こら。自分から言い出しておいて、それはないでしょう!」
ちょ、や、やめ……。
美姫 「この馬鹿ーーー!!」
ぐげろっぴょ〜〜〜〜〜!!
美姫 「それじゃあ、また次回でね〜」








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