『とらハ学園』






アンティークステーションの一角に、少し落ち着いた感じの店がある。
その店は、落ち着いたデザインが中心のアクセサリーを扱っており、どちらかと言えば、大人向けの店だった。
その中に、士郎たちの姿があった。

「これなんかはどうだ」

「うーん、それも良いわね。でも、あっちのも…」

士郎が指差す先のを見た後、桃子は少し離れた所にある別のものを指差す。

「確かに、あっちのも良いな。一層の事、両方買うか?」

「流石に二つは悪いわよ」

士郎の言葉に、桃子は遠慮するような言葉を返すが、士郎は気にせず、店員を呼ぶと、その二つを取ってもらう。
そんな二人から離れた場所では、静馬と美沙斗が同じように、ケースに飾られているイヤリングを眺めていた。

「イヤリングなら、剣を振るうのにそんなに邪魔にならないだろう」

「でも、私にはそういったのは、似合わないし…」

静馬の言葉に、そんな事を言う美沙斗。
それに対し、静馬は至って真面目な顔で、頭を振る。

「そんな事はないよ。絶対に似合うって。美沙斗は、もう少し自分の容姿に自信を持った方が良い」

「そ、そんな事…」

何か言いかける美沙斗を制し、静馬も店員を呼ぶと、美沙斗がじっと眺めていたイヤリングをケースから出してもらう。
同じように、店内で琴絵や静恵もそれぞれに孝之や一臣と一緒にアクセサリーを見て周っていた。
そんな士郎たちとは別れ、美影は一人で骨董品を扱う店を見て周っていた。





  ◇ ◇ ◇





「あらあら、この掛け軸は良いわね」

幾つかある掛け軸を見て周っていた足が、一つの掛け軸の前で止まる。
美影は足を止めた先にある掛け軸をじっと見詰める。
その掛け軸は、幾人もの人間が助けを求めて逃げ惑い、それを数匹の鬼が追いかているというものだった。
あまりにもリアルに描写された鬼もそうだが、逃げ惑う者たち以外にも、血の池で溺れている者。
そこから這い上がろうとした者を、金棒のような物で押し返す鬼。
針の山で身体を串刺しにされている者。その針の山へと人間を放り投げる鬼や、串刺しになった人間へと、
更に大きな針を突き刺す鬼といった、まさに地獄絵図とも言えるような禍々しい掛け軸だった。
良い出来なのだろうが、そのリアルさ故に、買い手が付かず、値段は他のものと比べても、格段に安い値段となっていた。
この店の店員も、この掛け軸を早く手放したいのか、足を止めた美影に、揉み手をせんばかりに手を擦り合わせ、
満面の営業スマイルを浮かべると、まるで逃がさないとばかりにその行く手を阻む様に正面から近づいて来る。

「お客様、こちらの掛け軸をお求めですか」

「いえ、ただ見ていただけですよ」

「そ、そうでございますか。しかしながら、この掛け軸の出来は大変…」

尚も薦めてくる店員の言葉を聞き流し、美影はただじっと目の前の掛け軸を見詰め続ける。
やがて、懐へと手を忍ばさせて、あるものをその手に掴むと…。





  ◇ ◇ ◇





ネイチャーステーションにある様々な植物を観賞できる植物園を回りながら、真一郎は手を腹へと持っていくと、軽く撫でる。

「そういえば、そろそろお腹がすいてきたな」

「そろそろお昼の時間ですからね」

その言葉に、真っ先に雪が反応を見せる。
そんな雪の後ろから顔を出しつつ、七瀬も賛成するように言う。

「じゃあ、ここから出たら、何処かでお昼にしようよ」

この言葉に、特に反対もなく、一向はここを出たら食事を取る事に決める。

「お昼はどこで取ります?
このネイチャーステーションにある食堂では、フルーツなんかを使った料理も楽しめるみたいですけど。
ただ、食べ物関係なら、ファーストステーションの方が充実はしていますし…」

「ここからファーストステーションまでは、少し遠いわね」

ななかの言葉に、さくらがパンフレットを開き、そう忠告する。

「うーん、どうしようかな。小鳥は、何かある?」

それまで、一人会話に加わらず、ただ植物を観賞していた小鳥へと真一郎が問い掛ける。
その問い掛けに、小鳥は少しだけ考えると、

「アンティークショップに、洋食で有名なシェフのお店があるみたいなんだけど…」

「そういえば、ありましたね。だったら、お昼はそこにしませんか、真一郎さん。
アンティークショップなら、すぐ隣ですし」

さくらが小鳥に同意するように言った後、真一郎へと尋ねてみる。
真一郎自身は、別に何処で良かったので、他の意見がないかだけ確認し、反対がなかったので、そこへと向かう事に決めた。





  ◇ ◇ ◇





「次はどれに乗ろうか?」

これまでにたくさんの絶叫系マシーンを乗ったにも係わらず、元気一杯に告げるなのはに、美緒は元気に返す。

「次は、アレなんかが良いと思う」

そう言って美緒が指差した先では、地上、数百メートルという高さから、一気に地上へと落ちて、
いや、自由落下してくる乗り物だった。
丁度、美緒が指差した瞬間にそれが自由落下へと入り、あっという間に地上へと落ちて行く。
その中で上がる悲鳴を聞きながら、望は首を激しく振る。

「い、いい、いい。わ、私はいい!」

「むー、つまらない。じゃあ、あたしとなのはで行って来る」

「私も行くわよ」

美緒の言葉に、アリサだけでなくリスティや楓も名乗りをあげる。
それらを見ながら、葉弓が口を開く。

「それじゃあ、私は望ちゃんと一緒に待ってるわね。
それで、戻ってきたら、一度、休憩も兼ねてお昼にしましょう」

葉弓の言葉に返事を返した後、なのはが声を上げる。

「お昼の後、行きたい所があるんですけど…」

「何処かしら?」

「チャイルドステーションです! そこで、ショーをやるんです」

「あー、あの子供を相手にしたショーでしょう。
なに、なのははあんなのが見たいの? 子供ね」

アリサはそう言うものの、アリサ自身も見たいという事が、その顔から微かに覗いていたりする。
それに気付かない振りをしつつ、なのはは大きく頷く。

「うん。だって、かなり凄い仕掛けがあるらしいって話しだし」

「久遠も見たい」

「だったら、仕方ないわね。わたしも付き合ってあげるわ」

さも仕方がないという風に言うアリサに、なのはと久遠は笑顔で礼を述べる。
そんな三人のやり取りを微笑ましく見ていた葉弓が、話に区切りが着いたのを見て、口を挟む。

「とりあえずは、お昼が先ね」

「その前に、アレに乗ってからだけどね」

葉弓の言葉に付け足すように言った美緒の言葉に、なのはたちは頷くと、そのアトラクションの乗り口まで走り出す。
それを見て、美緒もその後を追いかけるように走り出す。

「そうだったわ。わたしが一番乗り〜」

「あ、アリサちゃん、ずるいよ、待って」

「久遠、久遠も〜」

「って、あたしを置いて行くなー!」

走って行く四人の後ろをゆっくりと追いつつ、リスティは肩を竦めて見せる。

「やれやれ、あんなに慌てなくても、逃げないってのに。
子供は元気だね」

「言いながら、リスティも結構、早足やね」

「楓、それは違うよ。早く行かないと、あいつらとはぐれる」

「まあ、確かにそれもあるけどね。まあ、そういう事にしとこう」

そんな二人も見送りつつ、葉弓と望は近くのベンチに腰掛けて休憩に入るのだった。





  ◇ ◇ ◇





ファーストステーションのケーキバイキングを開催していた店では、未だに唯子たち四人、
いや、正確に言うのなら、唯子とみなみによるケーキの食べ放題は続いていた。
空になったケーキを新たに作り、補充をするのだが、それと同じぐらいか、やや早いペースでケーキを食べて行く二人に、
ケーキの数がゆっくりとだが、確実に減っていく。
このまま、全てのケーキを食べ尽くすかと思われたが、二人は皿に残っていた最後の一欠けらを口へと放り込むと、
ようやくフォークをその手から離す。
やっと、二人も食べ終えたのかと、店内をケーキの補充で忙しく走り回っていたウェイトレスたちもほっと胸を撫で下ろす。
はぁ〜、と息を吐き出し、満足そうな笑みを見せる二人へと、期せずして店中、いや、店の外からも拍手が飛び交う。
何で、突然、拍手が巻き起こったのか分からないまま、二人も合わせるように拍手をする。
どうやら、この拍手が自分たちへと送られているという事には気付いていないようだった。
そんな二人を眺めつつ、いづみと弓華は顔を見合わせると苦笑を浮かべる。
ようやく拍手も落ち着いて来たところで、いづみは二人へと話し掛ける。

「それじゃあ、次は何処に行く?」

「アトラクションなんかは、このステーションにはありませんから、違うステーションに行かないといけませんしね」

「ん〜、アトラクションも良いけど、唯子は時間的にも先にお昼を食べたいな」

「ですよね。このステーションは色んなお店がありますから、何を食べるか迷いそうですけど」

この言葉に、いづみと弓華だけでなく、店内全員の視線が唯子とみなみへと向かう。
そんな中、その全員の声を代表するように、いづみが二人へと恐々といった感じで尋ねる。

「おまえら、まだ食べるつもりなのか?」

いづみは二人に尋ねながら、店中の人間が自分の意見に同意するように頷いているような錯覚へと陥る。
そんな中、当の二人はまるで当たり前の事を聞かれたように、あっさりと返してくる。

「それはそうだよ。だって、まだお昼は食べてないんだもん」

「今、ケーキを食べたばかりですよ」

「弓華さん、日本にはこんな言葉があるんですよ…」

一旦、言葉を区切った後、発したみなみの言葉に、唯子の声が重なる。

「「甘いものは別腹!」」

「いや、確かにそうは言うが、実際は同じ所なんだが……」

このいづみの言葉に、このやり取りを遠巻きに見ていた者たちもいっせいに頷くのだが、唯子とみなみは首を傾げる。

「やだな、いづみ。そんなのは知ってるよ。
今のは、例えだよ、例え」

「そうですよ。ちゃんと、お昼の事も考えて、ケーキを食べるのを止めたんですから。
耕介さんもよく言ってますから。食べる時は、ちゃんと栄養のバランスを考えて食べないといけないって。
だから、ちゃんとケーキを控え目にしたんじゃないですか」

「だよね〜。他にも、美味しそうなお店があるのに、ここでお腹一杯に出来ないもんね」

「はい、そうです!」

「…………あ〜、それで控えてたんだ、二人は……」

呆れ返って絶句する弓華の横で、いづみもまた呆れつつもそう零すのだった。





  ◇ ◇ ◇





酒の量が増えていき、徐々に宴会場へと姿を変えていく一角を眺めながら、
瞳はこっそりと溜め息を吐くと、恨めしそうに耕介を見遣る。

(耕ちゃんの馬鹿、馬鹿、馬鹿〜! どうして、こんな所まで来て、お酒なんか飲むのよ〜。
 他にも色々とやる事があるでしょうに〜)

胸中で思いっきり悪態をつきつつ、瞳はグラスに入っていたオレンジジュースを一気に呷る。
そんな瞳に気付かず、耕介は楽しそうにグラスを傾けている。
その横では、既にどれぐらいの量を飲んだのか、頬を微かに上気させた真雪が、冗談半分で耕介へとしな垂れかかる。
とろんとした目で、下から耕介を覗き込むと、その首筋にふーっと息を吐き掛ける。
それに顔を少し赤くして、慌てる耕介を肴に、可笑しそうに笑い飛ばしながら、真雪はグラスを傾ける。
その耕介を挟んで、真雪と反対側には愛がいて、いつの間にかお酒を飲んでいた。
ただし、こちらはそんなに飲んでおらず、ほんの少量といった所だが、それでも、微かに上気した顔は、
普段の幼ささえ感じさせる愛とは異なり、同性の瞳から見てもかなり色っぽいものだった。
当然、それを真横で見ている耕介は、その愛の様子に、照れたように視線をそらすものの、
すぐさま吸い付けられるように、愛へと視線を向ける。
そんな耕介と視線が合うと、愛は首を傾げながら笑みを見せる。
それにまたしても照れる耕介。
そんな耕介を見ながら、瞳は拳を握り締める。

(何よ、あんなにデレデレしちゃって。全く、みっともないわね!)

お酒の飲めないゆうひと那美は、そんな瞳の様子に多少、驚きつつ、触らぬ神に祟りなしとばかりに、
少し離れた所で、静かにジュースを飲みながら談笑していた。
薫は未だに目を覚ましておらず、横たわっている。
そんな親友へと視線を向けると、

(薫も薫よ。アレぐらいでダウンするなんて。
 早く起きて、これ以上、真雪さんにお酒を飲まさないように注意しなければいけないでしょう)

勝手な事を言いつつ、瞳は再び視線を耕介を戻す。
そんな瞳を遠巻きに見ていたゆうひと那美の二人が、小声で話している。

「瞳さん、何か怖いんですけれど…」

「あかん、那美ちゃん。それ以上は、ゆーたらあかん。
うちらは何も見てないんや」

「は、はい。そうですね。私たちは何も見てません」

「そうやで、うちらは何も見とらん」

この二人の話の内容は、幸い、瞳の耳に届く事はなかった。
各々の思いが行き交う中、酒宴はまだまだ終わりそうになかった。





  ◇ ◇ ◇





水族館へと入った恭也たち一向は、特に問題もなく、見て周る。
美由希と月夜に挟まれながら、恭也は新しいフロアへと足を踏み入れえる。

「ここは、太平洋のフロアか」

「恭ちゃん、あの魚は何?」

「知らん。その辺に説明書きがあるんじゃないか」

恭也に言われ、美由希が水槽に近づくと、確かに写真と一緒に名前や簡単な説明が付いている。
それを月夜が声に出して読み上げる。

「えっと、ギンガメアジ。死滅回遊魚で、最大1メートル以上になる。
一部、温排水などの地域で…」

「後、小さくても中々いい味がする」

「って、そんな事は書いてないよ」

「ん? そうか、すまん、すまん。暗くてよく見えなかった」

「嘘吐け、嘘を!」

「ま、まあまあ、月夜ちゃん落ち着いて。
あ、ほら、ジンベイザメだよ。うわー、おっきいね〜。
私、初めて見たよ」

月夜を押さえるように、知佳が苦笑しつつ、間に割って入る。
その知佳の言葉を聞きながら、恭也も知佳の視線の先へと向き直る。

「ジンベイザメか。
その背中に白い斑点があり、その模様が「甚兵衛羽織」に似ていることから、その名が付いたと言われるサメだな」

「そうなんですか」

「ああ」

恭也の説明に、瑠璃華が感心したような声を出す。
それを聞き、恭也は更に続ける。

「サメだが、プランクトンを食べる大人しいサメで、世界最大の魚類だな。
後、身が締まっていて上手く、煮て良し、焼いて良しだ。
お勧めは、シャブシャブだな」

「って、それは嘘だろう!」

「嘘ではない」

「嘘!?」

恭也の説明に突っ込んだ月夜だったが、真顔で返され、驚いたように聞き返す。
それに対し、恭也は至って真剣な表情のまま告げる。

「今のは、嘘ではなく、冗談だ」

「……恭也、一発殴らせろ」

「激しく断わる!」

恭也の言葉に、拳を握り締めて振るわせる月夜を、瑠璃華と知佳が何とか落ち着かせる。
そんな感じで、概ね問題なく見て周った恭也たちは、この水族館内にあったレストランで昼食を済ませると、再び、中を見て周る。
と、その時、恭也の携帯電話が鳴り響く。
恭也はポケットからそれを取り出し、ディスプレイに映し出された相手先を見て、微かに不思議そうな顔をするが、
すぐさま、通話のボタンを押して、電話へと出る。
掛かってきた相手は、恭也の祖母、美影からのものだった。






つづく




<あとがき>

はぁ〜。本当に〜申し訳御座いません。
美姫 「じと〜」
すいません。
遅く、遅くなりました。
久し振りの更新です、はい。
美姫 「じ〜」
すいません、すいません、すいません。
美姫 「……馬鹿」
うぅ。い、言い返せない…。
美姫 「アホ」
うぐぬぬぬぅぅぅ。
美姫 「間抜け」
うぅぅぅ。反省してるです、はい。
だから、許して。
美姫 「次は、もっと早くあげるのよ!」
が、頑張りますです! はい!
美姫 「それじゃあ、この馬鹿も反省しているようだし、また次回で」
この反省が、次に繋がるかどうかは不明だがな。
美姫 「って、威張って言うな!」
うげろっぴょのみょ〜〜!!








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