『新婚生活』






ミッドチルダ中央区画より少し郊外へと行けば、のどかな風景も未だに残っている。
そんな区域の一つに建つ比較的新しい一軒の家。
日も暮れて大半の人が帰路につくであろうその時間、この家の主も例外なく帰宅した。

「ただいま」

玄関の扉を開け、恭也がそう言いながら家の中へと入れば、
廊下の向こうからパタパタと軽い足音を立てて玄関まで出迎えに来る一人の女性。
腰よりも長い髪を首の後ろで一つに纏め、エプロン姿で現れた女性は恭也へと笑いかける。

「お帰りなさい、あなた」

「ああ、ただいまギンガ」

挨拶を受けてもギンガは暫くその場に立ち尽くし、何かをねだるように僅かに頬を桃色にして恭也を見上げる。
期待するように見てくるギンガが求めているものに気付きつつ、恭也は素知らぬ顔を通せば、
案の定、ギンガは拗ねたように恭也の袖をクイクイと引っ張る。
その顔は分かっているくせにと責めていながらも、してくれないのかと悲しそうな一面も見せる。
言葉にして言わせて見たいという欲求も湧き上がるがそれを押さえ込み、
むしろ恭也自身が我慢できずといった感じで、ギンガの求めている事をするために僅かに屈むと頬に手を添え、
軽く触れるぐらいのキスをする。
ギンガはようやく満足したのか満面の笑みを再び浮かべ、恭也の腕に抱き付く。
まるでデートするかのような感じでそのままリビングへと向かい、名残惜しそうに恭也の腕を離すとキッチンに。
恭也が部屋に戻って着替えを終える頃には、すっかり夕飯の支度が整っている。
ぴったりと隣り合って座りながら、二人は今日あった事などを話しながら食事を続けていく。

「そうだ、デザートも作ったの。食べてくれる」

「ああ、もらうよ」

全て食べ終えた後に聞かされた言葉に恭也は笑顔でそう答える。
それを聞き嬉しそうに席を立つと、すぐにデザートを手に戻ってくるギンガ。

「はい、あ〜ん」

ギンガが差し出すスプーンを前に恭也は素直に口を開ける。
それを待ち、やけに手馴れた様子でギンガは恭也にデザートを食べさせる。

「……うん、美味しい」

「良かった」

「今度はギンガの番だな」

流石にあーんと口にするのは恥ずかしいのか、恭也は無言のままでスプーンをギンガの前に差し出す。
ギンガもそれを分かっているのか、特にその事については文句も言わずに口を開けて食べさせてもらう。

「あなたに食べさせてもらっているからかしら。
 味見した時よりも美味しい気がする」

そう言って微笑むギンガは本当に可愛らしく、恭也は思わずといった感じで肩に手を回して抱き寄せていた。
突然の行為に流石に少し驚くも、すぐに笑みを取り戻すと甘えるように恭也に寄りかかる。
そんなギンガの髪を手で梳いたり、頬や首筋をくすぐったりと手を動かしながら、
食べさせてもらうデザートを味わう。

「今日はお風呂どうしますか?」

「そうだな、久しぶりに一緒に入るか」

「久しぶりって、一昨日一緒に入ったのに」

「嫌か?」

「ううん、一緒に入りましょう」

更に甘えるように身体を預けてくるギンガの頬に啄ばむようにキスを降らせ、
今度は交代とばかりに恭也がギンガにデザートを食べさせる。
するとこちらも交代とばかりに、今度はギンガが恭也の頭を撫でたり、その胸にじゃれ付くように抱き付く。
ゆっくりと時間を掛けて食べ終えると、甘えるようにギンガは恭也の足の上に乗ってくる。

「しかし、仕事をしている時のギンガとは本当に違うな。
 他の人が見たら驚くだろうな」

存分に甘やかしている恭也もまた同じような事が言えるのだが自分の事は棚に上げる。
恭也の指を甘噛みしながら、ギンガははっきりと言い返す。

「だって仕事は仕事でしょう。それに、私がこういう所を見せるのはあなたにだけだもの」

「そうだな。と言うより、そうでないと困る。
 こんなギンガを他の人に見せたくはないからな。見れるのは俺だけでいい」

ギンガの手を取り、その指に口付ける。
恭也の言葉に嬉しそうに小さく笑い声を上げると、更に甘えてみせるように恭也の首へと腕を回す。
互いに仕事が忙しい二人にとって、この時間はとても大事なもの。
だからこそ、互いの温もりを感じ合える密着した状態のまま、二人きりの今を存分に堪能する。
何処にでもある、けれどそれだけにとても大事な、愛しい幸せを。





おわり




<あとがき>

長らくお待たせしました!
750万ヒットで銀さんのリクエストです!
美姫 「本当に長かったわね」
いや、本当に。でも、DVDが全巻出てから書くという事だったので。
美姫 「はいはい。そんな訳で、恭也とギンガの新婚生活でお送りしました」
程良い甘さになっていれば良いですが。
美姫 「ちょっと短いですが、楽しんで頂ければ」
それでは、この辺で。リクエストありがとうございました。
美姫 「最後に、ラストのオチとして没にしたネタをおまけでアップしておきますので」
こちらもよければどうぞ〜。



恭也もギンガも完全にお互いの事しか目に入らなくなっており、
いちゃつく二人の一部始終を、部屋の片隅で居心地が悪そうに見ている一人の少女がいる事など完全に忘れていた。
帰宅した時に恭也は挨拶を交わしたし、ギンガに至っては恭也が帰ってくるまで話をしていた相手だというのに。
それどころか、先程までの食事だって三人でちゃんと取っていたはずだったのに、
完全に忘れらている少女――スバルは困ったような顔で目の前の光景を見詰め、少し遠慮がちに声を上げる。

「キョウ兄、ギン姉、あたしがいる事忘れてない? 新婚って何処でもこんな感じなのかな。
 やっぱりティアの言う通り、お邪魔するのはもう少し経ってからにした方が良かったかも……」

勿論、そんなぼやき混じりの声が届くはずもなかったが。







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