『恭也と守護霊さま 3』






休日の昼過ぎ、恭也は織葉と連れ立って駅前を歩いている。
まあ、守護霊である彼女が恭也から離れる事はまずないのだが。
腕を組む織葉に、恭也もいい加減慣れたのか何も言わずにされるがままに付き添う。
と、そんな二人の様子に驚いたように声を掛けてくる人物がいた。

「ちょっとどうしたのよ、高町くん。そっちの可愛い女の子は誰?
 ああー、まさかあれだけ回りに可愛い子が居ながら誰にも靡かないと思っていたら、
 まさか他に彼女がいたなんて。忍が知ったら…面白いかもね」

てっきり可哀想と続くと思っていたその少女の連れ、赤星は苦笑を見せながら律儀にも突っ込んでおく。

「そこは可哀想じゃないのか」

「いや、まあ本気ではないよ、うん」

「いや、藤代の事だから充分本気に聞こえたんだが」

思わず呟いた赤星の足を踵で踏み付け、藤代彩は改めて恭也へと顔を向ける。

「それにしても、休日は優雅にデートですか。羨ましいわね」

「そういう藤代も赤星とデートなんじゃないのか」

これ以上からかわれる前にと先手と打つが、彩は豪快に笑い飛ばす。

「ないない、それはない。私たちは部活の帰りだって。
 後輩に指導してくれって泣き付かれちゃってね。で、ちょっとお腹が空いたから駅前に出てきたのよ。
 で、そっちはどういった関係なの?」

好奇心丸出しで尋ねてくる彩に、疲れを滲ませながら恭也が説明しようとするよりも早く織葉が口を開く。

「恭也のお友達の方ですか。初めまして。私、織葉と申します」

「初めまして。私は藤代彩。こっちは赤星」

「初めまして」

彩に紹介されて赤星も挨拶をする。
無難に互いに名前を言い合う三人を眺めながら、織葉の隣で恭也は小さな驚きを覚えていた。
織葉が丁寧に話している。
それを感じ取った織葉の鋭い視線が一瞬だけ恭也に飛ぶが、恭也以外はそれに気付かずに話は進んで行く。

「ところで、織葉さんは高町くんとはどういった…」

「お、おい藤代」

初対面で行き成り失礼な事を、と止める赤星に対し、織葉は良いんですよと笑みを見せるとおずおずと口にする。

「一言で言うと、切っても切れない関係ですね。
 私は恭也から離れられないんです」

織葉の言葉に確かにと頷く恭也。
だが、二人は小さくどよめく。
予想以上の言葉が聞けた事に、彩は楽しそうに恭也と織葉を見比べる。
一方の織葉も、そんな彩の性格をずっと見ていてよく知っており、内心では楽しそうにしつつ、
顔には出さないまま言葉を続ける。

「私はもう、恭也なしではいられない身体なんです。
 恭也に触れられたあの時から、そんな風にされてしまったの」

「おお、これは予想以上の言葉! やるね、高町くん。
 いやー、鈍感だの朴念仁だの、とーへんぼくだの、甲斐性なしだのと言った事は取り消すわ」

「お前までそんな事を言ってたのか」

彩から初めて聞いた言葉にげんなりする恭也を余所に、
織葉は恥ずかしげに顔を俯けて口元に握りしめた手をそっと添える。

「私はもう恭也のもの…」

「ちょっ、織葉!」

流石に可笑しいと思って止めようとする恭也だったが、彩はニヤリと笑みを見せるとくるりと踵を返す。

「これはもう明日は高町くんの噂で持ちきりだね。
 高町恭也、恋人を調教! とか」

「待て藤代! その噂をお前が流す気だろう。その前に調教って何だ!」

「いや、今の言葉を聞いてそう判断したんだけど。織葉さん、間違ってる?」

「そんな…。私の知らないうちにそんな風に変えられていたなんて…」

「わー、高町くんって結構、鬼畜だったのね」

「ち、違う! あれはそういう意味じゃなくて…」

さっきまで織葉が言っていた言葉を思い出して否定する恭也であるが、彩は全く聞こうとする気もなく遠ざかる。

「ファンクラブの子たちはショックだろうな〜。
 まあ、調教云々は流石に止めておいてあげるけれど、恋人が居るってだけでもね。
 高町恭也、休日に優雅に彼女とデートとか、高町恭也の爛れた日々とか。
 いやー、明日が楽しみだね〜」

「嘘を流すな、嘘を! 後半は完全な捏造じゃないか!」

思わず叫ぶ恭也の声を背に、彩はあっという間に去って行く。
その背中を見送りながら、その場で未だに呆然としている赤星に顔を向ける。

「赤星…。幾ら藤代でも本気であんな噂を流さないよな」

「……あー、多分。
 ほ、ほら、噂を流す気ではなくて、単に知人とかに面白おかしく話すぐらいじゃないかな」

「それが噂の始まりだと思うのは俺だけか?」

恭也の言葉に赤星は引き攣った笑みを見せたまま、少し視線を逸らす。
そんな赤星の態度を見て、恭也は盛大な溜め息を零す。
明日、学校へ着いたら真っ先に彩を捕まえて言いふらさないように釘を刺す事を心に刻み込む。
織葉も流石にやりすぎたと思ったのか、慰めるようにその肩をポンポンと叩く。

「それで、本当のところはどうなんだ」

流石に親友を名乗るだけあり、赤星は恭也からの説明を聞くまでは変に誤解しないようである。
とは言え、その顔がどこか楽しげに見えるのは恭也の被害妄想だろうか。
ともあれ、恭也は織葉の事を簡単に赤星へと説明する。
さしもの赤星も最初は疑わしそうに恭也を、親友が平然と嘘を吐くのをよく知っているために、
観察するように見ていたが、どうやら本当らしいと納得したようである。
その上で赤星は恭也に尋ねる。

「だとしても、流石に藤代に本当の事を話すのもどうだろうな」

「確かに、知らない方が良い事というのはあるしな」

「それに、あいつの事だから守護霊だとしても、それはそれで騒ぎそうだぞ」

その様子が容易に想像できたのか、男二人は揃って溜め息を吐き出す。
そんな重苦しくなりそうな雰囲気を、織葉が軽く笑いながら吹き飛ばす。

「今から先の心配してもしょうがないじゃない。
 それに恭也に恋人が出来たって噂ぐらいなら、放っておいても問題ないでしょう。
 その事で問い詰めてきそうな美由希ちゃんたちは、私の事を知っているんだし。
 第一、休日にこうやって出歩いていれば、恭也の事を知っている子が目撃しているって可能性もあるんだから」

「言われてみればそうかもな。そんな噂が出た所で誰も気にしないだろうな。
 そもそも、俺の事でそこまで噂になるはずもないか」

織葉の言葉に肩の荷が下りたとばかりに軽く言う恭也に、織葉と赤星が揃って肩を竦めるのだった。



翌日、恭也の予想以上に噂が広がり、悲しむ女子生徒が結構な数出るのだが、それを恭也が知る由もなく。
また、織葉の想像通りに昼休みに美由希たちが乗り込んできて噂の究明をすべく恭也を連れ出していく姿が見られた。

また余談だが、噂の真相を聞いた美由希たちが、
これで恭也に自分たち以外の女の子が近付く事はなくなったと、恭也に見えない所で拳を握り締める。

更に余談となるが、その日の放課後、帰宅した恭也、
正確には織葉の元へと美由希たちが次々と訪れては、お礼と言いながら何やら差し入れしているのを、
恭也は一人首を捻りながら眺めていた。






おわり




<あとがき>

短編のはずが、何故か三作目
美姫 「織葉、大活躍ね」
本人は意識してやったのか、無意識なのか。
美姫 「どっちなのかは分からないわね」
さーて、今回は短いけれど後書きはここまで。
美姫 「それじゃあ、また次の作品で〜」
ではでは。







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