『天に星 風に歌 そして天使は舞い降りる 19』






その日、少女は一人モヤモヤと悩みを抱えていた。
さっぱりとした所のある少女にしては珍しく、うじうじと一人考え込みながら、布団の中で背中を丸める。
思い出されるのは、他の女性と親しく、それも楽しそうに、時に照れを見せる一人の少年の姿。
自分といる時には、兄のような保護者のような顔付きが多く、あまり見せない顔。

(あー、もう、全く訳が分からないのだ! もう考えるのはやめにするのだ!
 さっさと寝よう)

ベッドの中で何度も寝返りを打ちながら、美緒は考えるのを放棄して眠る事にする。
だが、すぐに眠気はやって来ず、知らず考えるのはさっきまでと同じような事。
胸に何とも言えない苦しみを抱きながら、美緒はようやく訪れた眠気に身を任せようとする。
何も考えたくないとばかりに。
殆ど眠りの中へと落ちていきながらも少女は、

「…わたしがもっと大人だったら……」

だからか、その口からそっと漏れた言葉は、美緒自身にも聞こえていなかった。



  ◆ ◆ ◆



翌朝、鍛錬を終え、シャワーも浴びた恭也は耕介の手伝いをしていた。

「悪いね、恭也くん」

「いえ。これぐらいの事でしたら」

急に大きくなった身体の感覚を、昨日一日掛けて掴んだ恭也は腕を伸ばして棚の上の方にある食器を取る。
それを耕介を渡しながら、片手で卵を割ると、それを箸でかき混ぜる。
耕介は受け取った皿を一旦置くと、そこへ今切ったばかりの野菜を盛り付けていく。
本当の兄弟のように仲良く朝食を作る二人へと、薫と知佳が声を掛けてくる。
それに挨拶を返しながら、朝食は順調に出来上がっていく。
真雪と美緒を除く者がリビングへと顔を出した頃、手伝いを終えた恭也はふと時計を見遣る。
まだ朝食を作っている耕介へと、恭也はリビングから声をかける。

「耕介さん、美緒がまだ起きてきてないみたいですけど」

「うーん、日曜日とは言え、そろそろ起こした方が良いかな。恭也くん、悪いけれどお願いできる」

「はい。部屋の外から声を掛けてみます」

応えて恭也が立ち上がると同時、寮内に悲鳴じみた声が上がる。
それに反応して、声の上がった場所へと真っ先に駆け出す恭也と薫。
二人に続くように知佳たちも二階へと登っていく。
一番最後に、火を消したのを確認してから向かった耕介が。
知佳たちが二階に上がると、美緒の部屋の前で呆然と立ち尽くす恭也と薫の姿が。
そこへ、先程の大声で眠りを邪魔されて不機嫌そうな真雪が現れる。
が、恭也と薫の様子に気付き、何があったのかとその後ろへと周り、珍しく、
真雪もまた部屋の中をぼんやりと見詰める。
これを見ていた寮生たちが大人しく待っているはずもなく、続くように薫たちの後ろから部屋の中を見る。
と、そこには見慣れない一人の女性がベッドの上にペタンと座り込み、呆然と自分の掌を見詰めていた。
見れば、その女性が身に着けているのは、あまりにもサイズの合わない子供用のパジャマで、
その身体に納まりきれず、上の方のボタンは弾け飛んでいる。
そして、何よりも特徴的なのは、その頭に生えた猫の耳とお尻から生えている二本の尻尾だった。
その顔立ちも良く見れば、美緒の面影が残っている。
一同の考えを口にするように、恭也が部屋の中にいる女性へと声を掛ける。

「まさか、美緒なのか」

「……恭也。わたし、大きくなってる」

「やっぱり、美緒なんだな」

「えっ!? なんで、どうしてだ? わたし、大きくなってるのだ!」

美緒は不思議そうに立ち上がって自分の身体を見下ろす。

「って、美緒! 身体を隠せ!」

恭也は顔を赤くすると背中を向け、耕介も慌てて同じように背中を向ける。
それもそのはずで、大きく成長した美緒の下は既に脱げており、下着は着けているものの、サイズが小さすぎる。
だが、そんな恭也の反応を見て、美緒は少しだけ悲しそうな顔になると、恭也の背中に飛びつく。

「どうして、そっぽを向くのだ。恭也はわたしの事を嫌いになったのか」

「いや、そうじゃなくて」

恭也も成長して体が大きくなっていたお陰か、不意に体重が掛かっても少しよろめくだけで倒れはしなかった。
だが、背中に感じる膨らみに益々顔を赤くさせる。

「だったら、どうしてこっちを向かないのだ」

「いや、だから…」

「折角、大きくなったのに…」

「お、大きくって、まさか自分の意志でか?」

「違うのだ。朝、起きたらこうなっていた」

恭也の言葉を否定しつつも、美緒はこれなら大きくなっても意味がないと小さく呟く。
それが聞こえなかったのか、それとも何か考えていて聞いていなかったのか、
恭也はふと薫へと視線を向ける。
その意味を悟り、薫は美緒の身体を調べる事にする。
恭也にくっ付き、その恭也の反応が何処か面白くなかった薫の行動は早かった。
美緒を恭也から引き離すと、その際、知佳やリスティも何故か参加したが、
文句を言う美緒に、恭也が大きくなった原因の妖怪が関係しているかもと説き伏せて。
美緒の部屋で調査する薫と美緒を残し、とりあえず寮生たちはリビングへと降りる。
その中には、眠そうな真雪の姿もあり、耕介は気を利かせてそっと話し掛ける。

「真雪さん、どうせ徹夜だったんでしょう。だったら、寝てきても良いですよ」

「何を言ってる。
 何か面白そうな事が起きそうな予感がひしひしとしているのに、ゆっくりと寝てられるか。
 とは言え、流石にちときついな。耕介、コーヒー入れてくれ」

「はいはい」

「あ、それか…」

「分かってますよ、濃い目にでしょう」

「ああ、そのとおりだ」

笑って返す耕介に、こちらも笑って返す。
そうこうしている間に、愛の服を借りた美緒と、十六夜を持った薫が降りてくる。

「で、どうでした」

二人が席に着くのを待ち、恭也がそう訪ねる。
それに対して、薫は一つ頷いてからゆっくりと口を開く。

「まず、陣内が成長しとったのは、恭也くんの件とは何も関係はありせん。
 ですから、その辺の心配はいりません。
 ただ、恐らくですが、陣内自身の何らかの力が働いたのではないかと」

「ふーん。それで、何か実害はあるのか?」

薫の言葉に真雪が尋ねるが、それに対して薫は申し訳なさそうに分からない、と返す。

「正直、これによって陣内自身にどんな影響が出るのかは分かりません。
 さっき、ばーちゃんに連絡したら、恭也くんの件と合わせて、
 送ってあるものが役に立つかもしれんとの事でした」

「恐らく、すぐにどうこうなるようなものではないと思いますし、
 和音から送られてくるものも、明日か明後日には着くでしょうから」

続く十六夜の言葉に、恭也たちは揃って頷くととりあえずは一安心と納得する。
深刻な顔を続ける一同の中、美緒はずっとニコニコと笑顔を浮かべており、
時折、自分の身体を見下ろしていた。

「にゃははは、大きくなっているのだ。どう、恭也」

「え、えっと、まあ、綺麗なんじゃないか」

「にゃはははは」

照れながら言う恭也の言葉や表情に、美緒は満更でもない、いや、はっきりとした喜びをその顔に浮かべる。
そんな美緒を見て、知佳は自分の身体を見下ろすと、

「…美緒ちゃん、油断できないね」

成長した美緒の姿にひっそりと危機感を抱いたりしていた。





  つづく




<あとがき>

久しぶり!
美姫 「って、本当よ、このバカっ!」
ぶべらぁぁぁぁぁっ!
美姫 「待たせすぎよ!」
うぅぅぅ。お、お前は俺を吹き飛ばせ……すぎだ。(ガク)
美姫 「ふん。自業自得よ」
とりあえず、恭也が成長した時から考えていたように、美緒も成長〜。
美姫 「って、今回はここでお終いなの?」
まあ、短いがここまでかな。
美姫 「久しぶりの更新なのにね」
ぐっ。と、とりあえずは、成長した恭也と美緒の話が次回の予定だ!
美姫 「どこまで予定通りになるかしらね」
あ、あははは。
美姫 「って、もう半笑い!?」
と、とりあえずは、また次回で!
美姫 「はぁ〜」







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